とっても天使なウマ娘さん 作:レース場の散った芝
プルル……プルル……
「ん……んぁ……?」
……そうだ、東京に帰ってきたんだ。移動とかで少し疲れが溜まってるな。寝すぎてしまった気がする。……待って、ピサからの着信3回目だ。寝すぎである。
『おはようございます』
「おはようございます。すみません、今起きました」
『夏休みですから、どれだけ寝ても誰にも怒られませんよ』
「でもピサと話す時間が減ってしまったので」
『……私も、シンジさんが電話に出てくれなくて、少し寂しかったです。もしかしたら私ではなくブエナさんと話してるんじゃないかって』
「最近我儘というかなんというか……ピサの方から甘えてくれるようになりましたよね。もっとください」
『……会いたい、です。昨日会ったばかりなのに、またしばらく会えないと考えると寂しいです』
やばーい、ピザのド直球な甘え方やばーい。寝起きでこれ直撃喰らって生きてる俺凄いのでは? ピザと過ごした時間がそれなりに長いことに加え、たったの2日間とはいえ甘え上手&積極性◎のブエナによって鍛えられたのかもしれない。
俺だってピサに会いたいよ。でも研修旅行が3泊4日だったから仕方がないんだよ。ピサとずっと一緒プランとかにしてくれよ。トレーニングのサポートとか雑用とかなんでもやるからさぁ。
「ビデオ通話にしますか? 会うのは難しいけど、お互いの顔を見れば少しは寂しさもまぎれるんじゃないですかね」
『ぜひ、そうしたいです』
ピサの言葉を聞いて、すぐさまビデオ通話に切り替える。真っ赤になったピサの顔が画面に映る。可愛い。こんなに真っ赤になったピサは久し振りに見た気がする。
『……不思議ですね。ほんの数か月前まではシンジさんと会ったこともなかったのに、今となってはシンジさんに会えないだけで寂しくなってしまいます』
「恋愛ってそういうもんなんじゃないですか?」
『うふふ、そうですね。そういうものかもしれません。……シンジさんと同棲したいと言い出してしまわないか、少しだけ心配です』
「ぴぇっ」
『冗談……とは言いません。ですが、きっとまだ未来の話だと思います』
「ぴぇー……ま、まぁお互い高校を卒業してからですかね?」
『それまで、我慢できればいいですが……』
「その時はなんとかします。バイト頑張るなりして」
とは言ったものの、高校生がバイトで稼げる金額なんてたかが知れている。特にピサはアスリート、必要な食事とかを考えるとさらに厳しい。さすがに夢物語かなぁ……同棲しようとしたらどれだけ大変か、その時が来たら親に聞いてみるかぁ……。
「お、おじゃましますっ」
「そんなに緊張しなくても」
あれから数週間経過し、夏休みがそろそろ終わる頃。トレセン学園のウマ娘たちも合宿を終えて東京に帰ってきていた。
そんな中、まさかのブエナが我が家に初上陸。ブエナが家に来る、ということはつまり俺とブエナがお付き合いを――
「宿題一緒にするだけなんだからさ」
というわけでは当然なく、夏休みの宿題を一緒にやろうの会である。会場は弊宅です。
事の発端はピサとの電話、俺の宿題の進みが悪いことがピサにバレてしまったのである。別にピサに怒られたわけではないけれど、その結果夏休みの宿題を一緒にやろうの会、もといお家デートをすることになったのである。そしていつの間にかそこにブエナの名前も加わっていたのである。つまりは両手に花である。クソ野郎である。
別に宿題をサボっていたわけじゃない。ただバイトでお金を貯めていただけなんです。だってブエナの秋華賞が京都だし、ピサのデビュー戦も京都だし、しかも2週続けて京都に行かないといけないし。それにピサとのデートや、ブエナにお出かけに誘われる可能性があることを考えるとお金が足りないのです。
トレセンも夏休みの宿題があるようで、俺ほどではないにしろ、ピサとブエナもまだ残っているらしい。合宿で毎日ハードなトレーニングをこなしながら宿題をやる時間はあるのだろうか、疑問である。なんならブエナは一昨日札幌でレース出てたし、すごいバイタリティだ。
「初めて男の子の家に来たんだもん。それにシンジさんと2人きり……緊張しちゃうよ」
ピサはピサで宿題で困っている友達がいたらしく、急遽遅れて来ることになった。なのでピサが来るまではブエナと2人きりである。中学生と2人きりと考えるとまずいな、俺の両手に手錠がかかる日も近いか。
「まぁ、適当にくつろいでいいよ。飲み物取ってくるから待ってて」
「うん、ありがとう」
こんなブエナは珍しい気がする。レースの時に画面越しに見るブエナも緊張してるところはあまり見たことない気がするし、初めてのお出かけの時も緊張している様子はなかった。緊張のせいなのか、ウマ耳はピクピクしてるし、尻尾もブンブンだ。
かくいう俺も多少なりと緊張している。だって相手があのブエナビスタなんだもん。ダブルティアラで、人柄も良くて、超人気な今をときめくスターウマ娘。パパラッチとかでブエナのキャリアにもしものことがあったらと思うと……SNSで話題になってる時点で今更かもしれないが。
それにブエナはピサに負けず劣らずの美少女である。そんな子が家に来てるなんて緊張しないわけがない。そんな経験今までしたことなかったし。ブエナともピサとも間違いを起こしてしまわないように頑張らないと。
「おまたせー。ほいお茶。おかわり欲しかったら言って」
「ありがとう、シンジさん。お菓子買ってきたから皆で食べよ」
「ほんと? 用意しといたの言っておけばよかったな。わざわざありがとう」
ブエナは気が利くなぁ。少し申し訳ない。報連相って大事だね。ピサもなんか買ってきてくれそうな気がするし、お菓子は十分あるよって伝えておこう。
「あ、あああ、あとね? これ、トレーナーさんからって……」
「ん?」
「私が用意したわけじゃないからね!? トレーナーさんに渡されたものだから!」
「これ……」
ブエナから手渡されたものは、中学生が持つには不相応な……高校生の俺が持つにしても不相応かもしれないものだ。
「おねっ……トレーナーさんが"これ渡せばイチコロだよ"って言うから! "シンジ君喜ぶよ"って言うから!」
「で、まんまと持ってきちゃったわけ?」
「違うの! 渡されたときはこれが何なのか知らなかったから……これなんだろうって、シンジさん喜んでくれるかなぁって、来る途中に調べで分かったの!」
どうなってるんだトレセン。これを渡すブエナのトレーナーさんもどうかしてると思います。でもまぁときめかなかったか、もとい興奮しなかったかといえば嘘だけど……だってさぁ、無理じゃない? ブエナがこれやったら大抵の男は堕とせると思います。ブエナが望む堕とし方かどうかはさておき。とりあえず自首してきますね……。
「シンジさん……これ、どうすればいいかなぁ……」
「どうすればと言われても俺も困るし……とりあえず持って帰ってもら、って……ってしたらブエナがもっと困るか」
「トレーナーさんに返すだけだし、持ってるのを見られたら困るし……」
「そうだよなぁ。まぁ、預かっておきます」
「…………使っちゃう? 今から、2人で」
「待って。待って待って待って。俺、高校生。ブエナ、中学生。OK? そんなことしたら俺捕まっちゃう。ピサとブエナを置いて捕まるなんてできない」
何故残念そうにするんだ。やめてくれ、俺を誘惑しないでくれ。ブエナのような可愛くてスタイルもいい子に甘えるように誘惑されたら普通に堕ちちゃいます。
「と、とりあえず預かっておくんで。必要になったら返すんで」
「……」
「さあさあ、そろそろ宿題やりましょうや」
「……そうだね。シンジさんいっぱい残ってるもんね」
よし、とりあえず場は収まった。興奮は治まらないけど。ブエナが魔性の女で困ります。とりあえずブエナのトレーナーさんに会う機会があれば文句言っておきます。
気持ちを頑張って切り替えて、目の前のテキストに集中する。ブエナを見ると理性が揺らいでしまいそうだから、なるべくブエナは視界に入れない。ブエナを傷つけたくないし、捕まりたくもないよ俺。煩悩退散煩悩退散。
「……シンジさん!」
「うおっ! びっくりした……」
耳元でブエナが叫ぶ。心臓止まるかと思った。可愛い顔がすぐ目の前にあるし、それでも心臓止まるかと思った。ピサとほっぺにちゅーをしあいっこ(1回ずつ)したおかげで、顔の近さには耐性がついたつもりだった。けどそれはあくまでピサ相手の話であり、ブエナに対しての耐性はついていなかったようだ。ピサとブエナでは可愛さのベクトルが全く違うんだから、そりゃそうだよな。
「ごめんね、シンジさん集中してて聞こえてなかったみたいだから」
「あー、それはごめん」
気づけば数時間が経過して、もう15時だ。おやつの時間だ。お菓子はいっぱいあるが1つも手がついていない。きっと俺が集中したから、気を遣ってブエナも食べなかったのだろう。申し訳ないことをした。というか外めっちゃ雨降ってない?
「えっとね、いろいろあるんだけど……まず、ピサさんがもうそろそろ着くみたいだよ」
「え、この大雨の中? ていうかいつからこんな降ってんの?」
「10分くらい前から? 急にぶわーって降り出してたよ」
こんな雨の中歩いてくるのか……ただひたすらにピサのことが心配である。というか今日はずっと晴れの予報じゃなかったっけ? ゲリラ豪雨かなぁ。
「……ちょっと待って、洗濯物」
「洗濯物は取り込んでおいたよ。シンジさん困っちゃうかなーって」
「助かるー」
「それから畳んでクローゼットにしまっておいたからね」
「それは神すぎる。マジ感謝」
ブエナはきっといいお嫁さんになると思う。俺以外の素敵な人を見つけて幸せになってほしい。
「それからね、1つだけ残念なお知らせ。この大雨、今日一日続くみたい」
「わーお、それは困った。ゲリラ豪雨じゃなくただの豪雨じゃん」
「夜になったらもう少し弱まるみたいだけど」
気が向いた時のお散歩にも、お買い物にも行けないではないか。困った困った。夜小腹が減った時にピサと2人でコンビニに出掛けて、ふと空を見上げて"月が綺麗ですね"と呟くシチュエーションができないではないか。
ピンポーン
「ピサだ、多分。出てくる」
びしょ濡れかもしれないから大きめのタオルを手に取って。ピサが風邪をひいてしまったら困る。
「こんにちは、シンジさん。遅くなってしまい申し訳ありません」
「大丈夫、大丈夫ですから。とりあえずこれで拭いて下さい」
「すみません、床を濡らしてしまい……」
「そんなん気にしなくていいですから。ピサが風邪をひかないことが第一です。ほら、荷物もかわりに持ちますから」
「ありがとうございます、お借りしますね」
結構な荷物の量だ。何が入っているのだろうと好奇心でチラッと見てみるとどうやら食材が入っているようだ。よかった、濡れて脱いだ下着とかじゃなくて。もしそうだったら罪悪感で鼻血を撒き散らかしてしまうところだった。
「こんな大雨ですから、シンジさんが夜ご飯を買いに行けないかもしれないと思って買ってきたんです。迷惑だったでしょうか?」
「いえ! いえいえいえ! そんなわけないじゃないですか! 買いに行けないなーって困ってたところですよ。ありがとうございます、めちゃ助かりました。お金払うんでレシートかなんかください」
「その前に、シャワーを借りてもいいでしょうか?」
「もちろん。あそこが風呂なので、好きに使ってください。バスタオルが脱衣所に置いてあるので好きなの使ってください。シャワーと言わず風呂使ってもいいですから。1時間でも2時間でも、自分の家だと思って好きなだけ使ってください」
「うふふ、そんなに時間を使っていたらお二人と過ごす時間が減ってしまうではありませんか。私もブエナさんも、初めてのお家デートなんですから」
「ぴぇ」
「ではシャワーお借りしますね。……覗いちゃ、ダメですからね?」
「ぴぇっ」
お家デートと自認はしてたけど、していたけれども! ピサもそうだと思っていてくれたのが嬉しいし、その上で、あんな魅惑的な表情で"覗かないで"なんて言われたらもう……こうなっちゃうよね。
とりあえず、ピサが買ってきてくれたものを冷蔵庫に入れよう。俺の好みにドンピシャなものばかりだ。なんだか嬉しい。このままピサと同棲してしまいたい。2人で一緒にスーパーに行って、今日はこれにしようかなんて話したりしながらさー。きっと幸せだろうなー。
「……」
それにしても、壁一枚挟んだ先で、ピサが今まさに素っ裸でシャワーを浴びてるんだよなぁ。今から
ピサとの関係が甘すぎるとのお言葉がありましたので、今回はピサ砂糖は控えめとなっております。
ところで、お家デートでは何らかの理由で急遽お泊りになるというジンクスがあるみたいですね。別に、だからどうということはないのですが。ね、サトノダイヤモンドさん。