とっても天使なウマ娘さん 作:レース場の散った芝
前回のあらすじ。天使とお友達になりました。
あの後無事子供さんの親御さんが迎えに来て、ピサさんとLANEを交換して、2人で一緒に帰って、家で寝て起きて、そして今。平日、残念ながら学校である。
夢のような一日だった。天使と出会い、一方通行の恋をして、友達になって、LANEまで交換してしまって、そしてこれが夢じゃないのが怖い。ピサさんの微笑みをあれだけ浴びて生きていられているのが不思議だ。
だがしかし、そんな夢ももう終わり。ここでいう"友達"っていうのはあれだ、告白を断りつつなあなあな関係にするためだけの言葉。それくらい分かる。そもそも出会って当日だったし。
つまり、俺の初恋はもう砕け散ってしまったのだ。でもこれでいい。あんなに優しい心の持ち主のピサさんが最終的に幸せになれるのなら、俺の初恋なんてどうでもいい。……ごめん、やっぱつれぇわ。
ピコンッ
不意にスマホから通知オンが鳴る。なんだろう、こんな朝っぱらから連絡か? 休校の連絡であってくれ。
『おはようございます。今日も一日頑張りましょう』
ふぇ〜、ピサさんからの連絡だぁ……嬉しい、超嬉しい。今ピサさんがどんな気持ちでメッセージを送ってきたのか分からないけど、少しだけ友達として振舞ってやるか的なやつなのかもしれないけど、それでも嬉しい。
『おはようございます。今日もいい天気ですね』
『今日は雨ですよ?』
『今起きたばかりで外を見ていませんでした。降ってますね』
雨か、めんどくさいなぁ。雨の中学校行くのめんどくさいし、バイトに行くのもめんどくさい。せめてピサさんと相合傘できたらなぁ。
『時間、大丈夫ですか?』
時間? ……あ。
『寝坊です。完全に』
『あー』
別に夜更かししたわけじゃないのに寝坊してしまった。ガチで急げばギリ間に合うか? でも雨だしなぁ……まぁいいか、多少遅刻しても。
『ピサさんは大丈夫ですか?』
『私は大丈夫です。寮なので学校もすぐですし』
そうか。トレセン学園は寮制って聞いたことあるな、そういえば。
『いいですね』
『お気を付けください。雨で地面も濡れていますし、急いで転ぶと怪我をしてしまいますから』
『ありがとうございます。ピサさんに心配をかけるわけにもいかないので、安全を期して遅刻覚悟でゆっくり歩いていこうと思います』
『もしかして遅刻の言い訳にしようとしていますか?』
『そんなことはないです、100%、絶対。好きな人を遅刻の言い訳に使うわけがないです』
嫌われてしまうだろうか。あらためて読むと言い訳に使おうとしているようにしか見えない。ピサさんから返信が返ってこない……はぁ、寂しい……。
「……」
7時きっかり。今日は寝坊しなかった。つまりピサさんに心配をかけることがない。偉いぞ、俺。まぁピサさんとは昨日の朝以降やり取りしてないんだけども。
今日は俺の方からおはようって送ってみようかな。でも返信がなかったら悲しいなぁ……いや、ピサさんは優しいからきっと無視はしないだろう。でも、だからこそピサさんに負担をかけたくない。興味のない男のために時間を使ってほしくない。……という理由からピサさんにメッセージを送るのはやめておこう。ぶっちゃけ自分から送る勇気がないだけ。
「いただきます」
いやまぁ、興味のない男――つまりは俺なんかのために時間を使ってほしくないということは紛れもない本音である。
興味を持ってもらえるよう努力はするし、あわよくば好きになってほしい。恋愛的な方面で。でもそのために頑張れば頑張るほどピサさんに時間を使わせることになる。好きな人の時間を奪ってしまうくらいなら恋心なんてキッパリ捨てて……みせるさ、多分。
プルル……プルル……
「……ピサさんッ!?」
朝ご飯のトーストを頬張っていると突然ピサさんから電話がかかってきた。慌てて電話に出る。慌てすぎてトーストは机の上に落としてしまった。
「はっ、はいっ! おはようございます!」
『おはようございます、シンジさん。よかったです。今日はちゃんと起きられたみたいで』
「あはは、昨日は心配をおかけしました。何かご用でしたか?」
『用という程のことではないのですが、シンジさんが寝坊してしまわないようモーニングコールをしてみようかと』
「え、好き」
俺に気があるんじゃないかと勘違いしそうになる。そもそも、俺に気があろうとなかろうと、ピサさんの声を朝から聞けるだけで最高の幸せである。
『……よかったです。よければ明日からも……』
「嬉しいです。朝からピサさんと話せるなんて。でもピサさんの負担にならないですか?」
『負担だなんてそんな。シンジさんとお話しするのは楽しいですから』
「え、と……それじゃあ明日からもお願いしてもいいですか?」
『分かりました。では明日からもよろしくお願いします』
ヤバい、心臓ドキドキだ。今すぐにでもゴロゴロ転げ回りたいくらい嬉しい。
『今日と同じ時間でよいでしょうか』
「大丈夫です。なんならピサさんの都合のいい時間で大丈夫です」
『ではこの時間にしましょう。……あ、少しお待ちください』
友人が来たのだろうか、一瞬他の人の声がした。寮生活だとそういうのもあるか。
『……はい、以前お話しした。……い、いえ、彼氏では……』
え、俺、ピサさんの彼氏だと思われてる? そんな名誉なことあるかい? ……あ、今一瞬”初手求婚野郎”とかいう不名誉な単語が聞こえてきたな。まぁ事実だけどさぁ。そう、ピサさんに求婚しちゃったんだよなぁ……。ついうっかり口が滑ってしまったとはいえ、大胆すぎることをしてしまった。
『……すみません、お待たせしました』
「ごめんなさい。俺が初手求婚野郎なせいでピサさんに迷惑をかけてしまったかも」
『聞こえてました?』
「はい。今、周りから聞こえる声も多少は」
『……』
なんかキャーキャー言っている気がする。さすが年頃の学生達、色恋沙汰に興味津々なのだろう。俺の一方通行だけれど。
「ピサさんも大変そうですし、今日はこのくらいにしときます?」
『そ、そうですね。そうしていただけると……』
「分かりました、ではまた明日」
『はい。今日も一日頑張りましょう』
プツリと通話を切る。声には出さなかったけど、最後の方のピサさんの声が少し上ずっていて、その、可愛かったです。
あー、元気出てきたなぁ。元気モリモリだ。俺だけに向けられた好きな人の声を、言葉を聞くだけでこんなに元気が出るだなんて知らなかったぜ。いやまぁピサさんだからきっと俺が相手でなくとも同じことをしたのだろうけど、それでも嬉しい。今日の体育の実技テストでいい結果を出せそうな気がする!
いやぁ、さすがにピサさんにベタ惚れすぎるか? 一目惚れ、しかも恋したのはたったの3日前、しかもしかも直接顔を合わせたのは1日だけ……ベタ惚れするには十分か。うん、間違いない。
「あー……ピサさんに会いたい。会いたいなぁ……」
週末、デートに誘ってみようか。迷惑じゃないかな。きっとピサさんは承諾してくれるだろう。でもだからこそ負担にならないかが心配だ。ここで躊躇っちゃう俺は恋愛に向いていないのだろうか……いや、押す! ここは押すべきだ! 俺はこの恋を成就させたい!
『週末の予定って開いてたりしますか? ピサさんがよければ一緒にダービーの観戦に行きませんか?』
送っちった。送っちったよ。これまで築いてきた関係性、まぁたった3日間の関係だけども、その関係性を壊してしまうかもしれない。あー、送ってから段々と後悔が……一体どうするのが正解なんだろうか。恋愛は難しいな。
『もしかしてデートのお誘いですか?』
ばれてーら。まぁそりゃそうか。だって告白まで済ませちゃってるし。どうしよう。友達同士のただのお出かけですって誤魔化してもいいけど……。
『はい、デートのお誘いです。興味がなかったら遠慮なく断ってください』
『なんて言い方したら逆に断りづらいですかね』
ここは誠実に、正直に。ピサさんもきっとそういう人が好き……だと思う。
『少し、考えさせてください』
『前向きに考えているのですが、私もこういうことは初めてでして……』
『ピサに手出したら潰す』
『↑は気にしないでください』
『シンジさんが真剣に気持ちを伝えてくださるので、私自身もちゃんと恋愛というものを整理をしたいのです』
ちょっと待って、なんかいたぞ。
『お返事待ってます。当日の朝でも大丈夫です』
『それだとチケットが買えないかと……なるべく早く答えを出すようにしますね』
「はぁぁぁぁ~……よしっ。よしよしっ」
まだデートできると決まったわけじゃないけど。決まったわけじゃないけど、ピサさんのことだからきっと”前向きに考えている”という言葉通り本当に前向きに考えてくれているのだろう。デートだと認識したうえで、俺からの恋愛感情を認識したうえでである。だからよしである。
『話は変わるのですが、お時間、大丈夫ですか?』
『忘れてました』
デートのお誘いをするかどうかうんうん悩んでいたせいで、どうやら結構な時間が経ってしまっていたらしい。今日も遅刻確定です。ありがとうございました。
好意を率直に伝えすぎかもしれませんが、主人公君は初恋だからね、恋愛経験値ゼロだから仕方がないね。