とっても天使なウマ娘さん 作:レース場の散った芝
「エイシンフラッシュさん、ローズキングダムさん、ルーラーシップさん、でしたか?」
「私のお友だち、そしてライバルの皆さんです」
「なるほど。ピサの大事な人たちに俺達は盗撮されていた、と」
俺達を盗撮していた3人組、それが今目の前にいるピサのご友人達だ。ご機嫌斜めなピサと、何故かご友人3人組と一緒に海の家にご飯を食べに来たところである。今日一日でウマ娘の知り合いがだいぶ増えたなぁ。
「盗撮だなんてそんな。私達はピサさんの恋路を応援しているだけですよ」
「こ、恋路……恋路かぁ」
「どうしてシンジさんが照れるんですか?」
「いやー、ねぇ。ピサも恋路については否定しないんですね」
「……シンジさんはいじわるです。分かってるくせに」
「まぁ、その……はい」
ピサさんが俺に好意を持ってることくらい分かっている。というか今日確信に変わりました。その好意の度合いまではまだ分からないけど。まだ芽生えたばかりかもしれないし、もう結婚のことまで考えてくれてるかもしれない。
「すみません、コーヒーを3つ」
「なぜコーヒーを?」
「日本では甘ったるい空気になるとコーヒーを頼むという文化があるようですから、今がその時かと」
「エイシンフラッシュさんって日本育ちじゃないんですか?」
「はい、生まれも育ちもドイツです。日本へは留学で」
「へぇ」
ドイツかぁ。ソーセージが美味いってイメージがあるな。というかそれしかない。詳しい種類までは知らないけど。好きなんだよね、ソーセージ。美味しいし。
「それから、私のことはフラッシュでいいですよ。折角の縁ですから気軽にお呼びください」
「私のこともローズと読んでくれて構わない」
「俺もルーラーでいいぞ」
「……」
「違う。ピサさん違う。俺悪くない」
ジト目でジトーっとピサが睨んでくる。可愛いけど。可愛いんだけども。今回は俺悪くないと思うんです。3人を同じ卓に座らせたのはピサの判断ですし。なんならフラッシュさんとルーラーは少しニヤニヤしてるから、ピサを焚きつけるためにやってるでしょコレ。心遣いは嬉しいけども、ピサを不安にさせてしまうようなことはやめたい。
それから、フラッシュさんは俺より年上なんですよね。呼び捨てなんてできませんて。
「あの、ピサ?」
「まあ……」
ピサのふわふわ尻尾が腕に巻き付けられる。この行為の意味は知らないけど、フラッシュさん達が驚いたような表情をしているからウマ娘にとっては特別なもの……なのだろうか。独占欲の表れとか? 分からん。分からんけどドキドキする。
心なしか周りからも注目を集めてる気がする。ピサもほんのり赤くなってる。マジで何なんですかコレ。ピサに聞いても教えてくれなさそうだ。
「なんだピサ、意外と大胆じゃないか。まぁ談話室で見せつけるように毎日毎日電話でイチャイチャしてるんだから今更か」
「ルーラーさん」
「な、なんだよぉ……睨むなよぉ……」
ルーラー、面白い人だな。ピサが一睨みすると強気な態度から一変、すぐにブルブルと怯え始めた。面白い人だ。でも気持ちは分かる。だって怒ったピサ怖いもん。最近堕天しがちなピサである。
「デートの時はいつもこんな感じなんですか? ピサさんもあまり詳しいことを教えてくれないので」
「いつもはただ2人でお出かけしてるだけですよ。デートとは言いつつもまだ付き合ってないですし。ダービー見に行ったり、ショッピングしたり、至って普通のお出かけです。ただ、今日のピサは少し甘えたがりみたいですね」
「……嫌、ですか?」
「まさか、そんなことあるわけないですよ。好きな人に甘えられて嫌な人はいないです。多分」
「少し、やきもちを……すみません」
「うーん、可愛い。ジェラシーなピサも可愛いですよ」
「もうっ……ありがとうございます」
「……なるほど、たしかにコーヒーが飲みたくなる」
「ずずっ」
なんだよ、皆してコーヒー飲みやがって。そんなにコーヒー好きかい? 今日はコーヒーが飛ぶように売れて、海の家もホクホクだろうなぁ。
「付き合わないのか?」
「そうですねぇ……そうだなぁ……」
当然付き合いたいんですけどね。でもそれはピサの気持ち次第である。好意は持ってくれている。だからといってすぐ付き合いたいかと言われると必ずしもそうではないだろうし。
「あの、その……」
「あー、席外した方がいいですかね?」
「すみません、そうしていただけると……」
男なんだから今ここで告白しろよ、と思われてしまうだろうが、ピサに何か考えがあるみたいだし。友人に相談したいこともあるだろうし、その場に俺がいては話しづらいだろう。決してヘタレではない。ピサの気持ちを優先しただけだ、うん。トイレに行って、適当に何か買って時間を潰すか。
「その、デビュー戦で……」
おっとっと、聞いちゃいけないことを聞いてしまった気がする。慌てて耳を塞ぐ。ふーん、デビュー戦で、かぁ。ピサさんが勝ったら付き合う、とかなのかなぁ。デビュー戦で勝ったら改めて告白してほしいとかかなぁ。
あー、やばい。ドキドキしてきた。どうしよう、ピサさんの気持ちとかも全部俺の勘違いで、デビュー戦後に盛大に振りますとかだったら。そんなんだったら俺悲しくて泣いちゃう。盛大に泣いちゃう。
「まいどありぃ!」
トイレを済ませ、行列ができていた美味そうな焼きそばを買った。時間を潰すのにちょうどよさそうな行列だったから。ゴルシちゃん印のゴルゴル焼きそばだったか? 店員さんがトレセン学園の体操服を着ていたけど、お手伝いか何かだろうか。
「シンジさん? また会いましたね」
「んー? ブエナ? ホントによく会いますね。まぁ一面砂浜だし、遭遇はしやすいか」
またブエナと遭遇してしまった。本日3度目である。2度あることは3度あるってことか。まるでピサと出会った時のようだ。運命を感じてしまう。
「ピサさんに出してもらえたんですね」
「まあね。ブエナはトレーニング終わりですか?」
「うん、さっきまで水泳トレーニングだったんだ」
水泳トレーニングねぇ。多分めっちゃヤバい量泳いでるんだろうな。ウマ娘、特にトップ層はヤバいトレーニングしてそうだし。ブエナはまさしくトップ層だろうし。
水泳終わりのブエナはピサと同じスク水姿。ブエナもスタイル良いよなぁ、中学生とは思えないくらい……濡れた髪もなんだか官能的。
「……思いっきり俺を殴ってください」
「えっ、えっ」
「頼みます。ブエナにしか頼めないことなんです。……あーでもピサに殴られるのも悪くないかなぁ」
「うわ」
「うわ、じゃないよ」
普段優しい天使なピサに殴られるんですよ。困惑しながらも拳に力を入れるピサ、そのギャップに割と興奮しないですか? しない? さいですか。
「……あれ? 今ピサさんのこと……」
「バレちゃいました? ブエナ呼びにピサが嫉妬しまして、それで。嫉妬するピザも可愛かったけど、やっぱり好きな人には笑っていてほしいなって」
「……いいなぁ、ピサさんが羨ましいです」
「はぇ?」
「シンジさんみたいな、好きな人のことを心から想ってくれる素敵な人と、私もお付き合いしたいなぁって」
「ブエナならきっといい人が見つかりますよ」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
出会いには困らないだろうし。それにブエナもピサに負けず劣らず素敵な人だ。可愛いし、笑顔も素敵。スタイルもいい。悪い男も近寄ってくるだろうが、ブエナは誰彼構わず靡くような人ではないだろう。きっと素敵な人を見つけられるだろうな。
「あ、私そろそろ戻らなきゃ。さようなら、シンジさん。……連絡先、忘れないでね」
「はーい。……あ、タオル……」
タオルを返しそびれてしまった。まぁいいか、今度で。というかピサに預ければいいか? でも俺が借りたものだし、礼儀として俺から返すべきか? いいや、後でブエナ本人にLANEで聞こ。
それはそれとして、やっぱりブエナって可愛いよなぁ。幼さが残る顔立ちが、ピサとはまた違った魅力があって素敵である。それでいて競走ウマ娘としても強いのだから、そりゃ大人気になるわって感じ。……ブエナとも知り合ってしまって、俺どこかで刺されたりしないだろうか? ピサを残して死ぬなんて絶対嫌だぞ。
「ピサー、ただいまー」
「シンジさん、おかえりなさい」
「フラッシュさんは?」
戻ってくるとフラッシュさんの姿がどこにもなかった。ピサ、ローズ、ルーラーの三人が雑談に花を咲かせている。絵になるなぁ。
「トレーニングに戻られましたよ。シンジさんによろしくと。それからお会計もよろしくと」
「え゛……ま、まぁいいですけど……」
「うふふ、冗談ですよ」
「貧乏学生には心臓に悪い冗談ですね。……そうかぁ、フラッシュさんいなくなっちゃったのかぁ」
「……」
「あ、いや、違くて」
「なんだ、俺たちじゃ不満か?」
「私じゃ、不満ですか?」
「いやいやいや、違うんですって。ただちゃんと話できなかったなーって、そう思っただけですって」
ちゃんとした自己紹介とかもできてないし。折角知り合ったのだから、ちゃんとした挨拶くらいしたかった。
「ルーラーやローズに不満があるわけないですし、フラッシュさんに下心があるわけでもないですって」
「……これも冗談ですよ。うふふ」
「本気のトーンだったぞ」
ブエナと逢瀬していたと知られたらどうなってしまうだろうか。恋愛感情はないし、そもそも逢瀬ではないか。でもピサからすれば同じだろうな。故に内緒にしておきます。
「人と人の繋がりができることは素晴らしいことですから、シンジさんが交友関係を広げることは大歓迎ですよ。ローズさん、ルーラーさんともぜひお友達になっていただきたいです」
「……連絡先でも交換しておきます? 今スマホ持ってないんで、後での登録になりますけど」
「もちろんだ」
「フラッシュ先輩にも教えていいか?」
「はい、もちろんです」
2人の連絡先を教えてもらうのは流石に頭がパンクするので、俺のを教えて向こうから登録してもらおう。ブエナの分も覚えておかないといけないしね。記憶力はそこまでよくないんです。
「……ありがとう、後で登録しておく」
「じゃあ、俺らもトレーニングに戻るとするか」
「もう戻られるのですか?」
「ああ、2人のデートの邪魔をするわけにはいかないからな」
「……心遣い、ありがとうございます」
「最近ずっと"シンジさんに会いたい"って言ってたしな」
「もうっ、シンジさんの前では言わないでくださいっ」
こちらまで恥ずかしくなってくる。ピサがそう思ってくれてたことはもちろん嬉しいけど。俺だってピサに会いたいなーって思ってたし。
「そういうことだ。シンジ、これからもピサのことよろしくな」
「もちろんです。幸せにします」
頬を膨らませてプンプンなピサと共に2人を見送る。……あれ、2人支払いしてなくない? いいけど。コーヒー数杯とちょっとした食べ物だけだろうし、代わりに払っておこう。……思ったよりコーヒー多いな、カフェイン摂りすぎではないか? 俺が席を外した間にガブ飲みしたっぽいな。そんなに甘々な話をしていたのだろうか。気になる。でも教えてくれないだろうな。
「……焼きそば買ってきたんですけど、食べます?」
「ゴールドシップさんの……?」
「なんかあっちの方で売ってました。知り合いですか?」
「いえ、学内で有名な方ですのでお名前だけ……何と言えばいいんでしょうか。こう、破茶滅茶な方と言いますか……」
「はーん、あんまり深く聞かないようにしておきます」
「そうしていただけると……ではいただきます。シンジさんも一緒に食べましょう」
「いただきまーす」
うん、美味いじゃないか。さっきの話を聞いてとんでもないものじゃないかと少し警戒してたが、大丈夫そうだ。なんならめっちゃ美味い。並んだ甲斐があった。
「シンジさん、明日からのご予定は?」
「えーとですね、明日は一日フリーかな。明後日は一日予定埋まってて、なんか体験会なり何なりに行って、夜は山で天体観測。その次の日は昼から帰りのバスですね。一応朝は時間作れないこともないかも」
「そう、ですか……なかなか予定が噛み合いませんね」
「ピサはずっとトレーニング?」
「明後日はお休みを。明日はトレーニングです」
「そっか、噛み合わないですね」
ピサともっと一緒にいたいけれど、こればっかりは仕方がない。お互い別の目的で、たまたまここにいるだけだし。
「……天体観測、トレセン学園との合同にできないかしら」
「俺には権限がないのでなんとも」
「……少し掛け合ってみます」
「誰に?」
「トレーナーさん経由で色々な方に、です」
ピサと一緒に天体観測ができるなら超嬉しい。好きな人と星を見るなんて超ロマンチックじゃん。たった1人の生徒のためにトレセン学園が動いてくれるかは知らないけど。
「いつか、シンジさんと天体観測に行きたいと思ってたんです」
「この前色々教えてくれましたもんね。オススメしてくれた本買いましたよ」
「本当ですか? ありがとうございます。なので、ぜひこの機会にシンジさんと……」
「……もし本当にうちとトレセンで合同になったとして、一つだけ懸念が。ピサがナンパされないか心配です」
「ふふっ、シンジさんは心配性ですね」
「ブエナをナンパしようとか言い出す奴が友人に何人もいるもんで」
「ではずっと私のそばにいてください。それならばきっとナンパされませんから」
「ブイブイ言わせてるパリピは、俺がいようといまいとナンパしてきますよ」
「その"ブイブイ言わせてるパリピ"の方のイメージができないのですが、その時は"彼氏とデート中"と伝えるだけですから」
「ぴぇ」
ピサの口から彼氏なんて言葉が出てくるとは思わなかった。くすくすと笑われている。ピザの手のひらの上ということか、くそぅ……悪くない。ピサに弄ばれることも、彼氏だと思われてることもどちらも。
「ま、まぁその時は俺が彼氏のフリをすればいいってことですね」
「フリ……そうですね、まだフリ、ですね」
「いつかフリじゃなくなりますか?」
「はい、もちろんです。ですがもう少しだけ、待っていただけませんか? 私の身勝手な都合でお待たせしてしまい、申し訳ないのですが……」
「いつまでも待ちますよ。伊達に片思いしてないです。それに恋人になっても、俺らの関係性って変わらないと思うですよ。2人の関係に恋人って名前がつくだけで。だからのんびり、気長にピサのこと待ちますよ」
今だって毎朝通話したり、たまにデートしたりしているんだ。恋人になったとて何かが変わるわけではないだろう。通話の時間が伸びたり、デートの頻度が上がったりはあるかもしれないけど。結構大きな要素だな。
「そうでしょうか? 恋人になれば手を繋いだり、キスをしたり、今よりももっと繋がれますよ」
「まぁたしかに」
ピサ、手を繋ぐのもキスするのも好きそうだなぁ。手を繋ぎたいと甘えてくるピサを想像すると萌える。キスしたいと甘えられると俺の心臓が止まる。
「それに、シンジさんが大好きなお胸も、シンジさんの好きなようにできるかもしれませんよ」
「あのあのあの、人前でそんな話しないでくれませんか? 俺がおっぱい星人だと認知されちゃうじゃないですか」
「違うんですか?」
「いやまぁ……違わないですけど」
「えっち。私以外にそういう目向けちゃダメですからね」
「ひゃっ」
「うふふ、シンジさん可愛いです」
スク水姿のブエナを少し邪な目で見てしまった、なんて口が裂けても言えない。世間体的にも。墓場まで持っていく。
これもピサに絶対に言えないことなんだけど、ピサはエッチしたらしたでドハマりしそうな気がする。だって物理的に繋がる行為だし。あまりにも言い方がスケベすぎるけど。でもピサはハマりそうな気がする。口が裂けても本人には言えないけど。本気のパワーでぶん殴られそう。
「……なんですか?」
「いえ、なんでも。それよりかき氷食べませんか? 折角の浜辺デートですし」
「ええ、もちろんです」
キャンペーンのピサ可愛すぎて滅。