超・それが私たちの理由!   作:ゴータロー

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不器用なのは、きっとみんながそう。

助けてって言ってもらえれば、いくらでも力になるのに。

頑張ってすり減ってる友人の姿を見るのは辛い。

思うところはあるけど、さ。

一番じゃなくても。

大事なんだから。




#3 『超・大バズり!』

 

「おお〜……! 私たち、イケてるっぽい?」

 

 料理対決の予選は事前の予想通り、混戦模様となっていた。

 しかしながら、かぐやと私は、難題を犠牲にした配信のおかげで、良いスタートダッシュに成功していた。

 そうは言っても二の矢、三の矢がなければ、刺激に飢えたリスナーの興味を惹き続けることは難しい。

 このイベントには大手が出てこないとは言え、発信力やプレゼン力が高い、中堅どころの配信者たちも数多く参加している。

 私たちは、まだまだ次の作戦を考える必要があった。

 そんな折、私たちはバイト先から意外な提案を受けた。

「私とかぐやに……」

「限定メニュー開発を手伝ってほしい??」

 店長に理由を尋ねると、やはりヤチヨの影響はリアルでも大きいもので、来客の話題に、料理対決の話が出ることが多くなってきたのだと言う。

 かぐやは頼まれてもいないのに自分のチャンネルを店先で話していたから、店長も配信者としてのかぐやの存在を認知していたのだった。

(バイト先に私、身バレしてるんじゃ?)

 その可能性も低くはなく、ひゅっと背筋が冷えたが、今は考えるのを後回しにした。

 突然極上の配信ネタが降ってきたかぐやは、大喜びではしゃいでいる。

 確かに、ツクヨミとリアルを結びつけるメニュー作りとなれば、話題性は高い。

 折しも、真実がこの店を取り上げた直後だ。

 うまくすれば、彼女のフォロワーも力になってくれるかもしれない。

「いよぉーし! 彩葉! どうする? やっぱり五つの難題使っちゃう?」

「それならまず、貴族を探して宝物を用意するところからだね……」

 私はもちろん、皮肉のつもりでかぐやに言った。

 難題は、存在しないから難題なのだ。

「現実的に実現可能なメニューじゃないと。でも、お店の厨房を借りて良いなんてラッキーすぎ」

「彩葉と私の頑張りのおかげじゃなぁ〜い?」

 かぐやは調子に乗っている。

 彼女は、大体どんな時も調子に乗っている。

「はいはい。かぐやも頑張ってる頑張ってる」

「彩葉は?」

「私もまあ……頑張ってる、かな?」

「そうだよ! 彩葉もずっと頑張ってる! 自信を〜……持って!」

 かぐやは私の肩に手を置いて、頬を寄せてくる。労っているつもりらしい。

 ありがと、と私は照れているのが伝わらないよう、素っ気なく彼女に答えた。

 

「それで、私に相談か〜」

 真実は開口一番、この間の配信面白かったよ、と私たちに告げた。私とかぐやは彼女に感謝を伝える。

 私は休日の店内に真実を呼び出していた。かぐやは店のエプロンを身につけている。

「かぐやだけに任せると、ストッパーがいないからさ……」

「そう! 私はオモロ優先! 映えとバズには強くても、さすがにお店でやりたい放題やったら、彩葉に怒られることくらいはわかる!」

 怒った彩葉、メチャ怖なんだよ〜とかぐやは怯えていた。

 そうだろうね、と真実が微笑んだ。

 友人とは言え、厨房に関係者以外を入れるわけにはいかないので、真実はカウンターの外から様子を見てもらっている。

「ゼロから作るの、私とかぐやだけじゃ難しくて。真実の意見を聞きたいんだ」

 自分たちの配信ならミスをしても自己責任だが、店の名前を背負うメニューとなればそうもいかない。

 店長は気楽に臨んでほしいと言っていたが、普段からお世話になっている以上、全力を尽くすべきだと私は考えていた。

「夏も少し過ぎて……これからの時期で言ったら、やっぱり『月見』じゃない?」

 真実はスマホを取り出して、何かのファイルを開いた。

「最近は大手のバーガーチェーンも、ファミレスも、シーズンが来ると魔法の言葉みたいに月見メニューを作るんだ。玉子を使ったメニューはオールシーズンありふれてるけど、響きが日本人向けなのかな? 玉子が嫌いな人って少ないもんね」

 月見。ルナミではなく、ツキミ。

 言われてみればなるほどと思う。

 私自身、節約のために外食に行くことが少ないから、季節の流行り物は、あまり意識を向けてこなかった視点だ。

「月見いい! それにしようよ彩葉!」

「そうだね……わかりやすいし、かぐやのイメージにも合ってる」

 何せかぐやは月から来たと言う設定だ。月見メニューを考案するのに、これほど都合のいい存在はない。

「あとはメニューだね。和風、洋風、中華風、ファストフードからスイーツ、ドリンクなんかもいいかもねえ」

「多い、情報量が多いな」

 私は慌てて手元のメモに素早く書き留めていく。一線で活躍する人物の声は値千金だ。

 かぐやは早速卵をひとパック用意して、エッグパティの作成に取り掛かっている。

 試作は順調そうに見えた。

 

 

 

 

 が。

「……これは、難しいねぇ」

「どれも美味いんだよね……」

 かぐやが次から次へと作るメニューは、さほどの変化球もなく普通に美味しいものばかり。

 月見ハンバーグ、月見そば、月見パスタ、月見グラタン、月見カレー、月見チョコミント……つまり候補が出過ぎて、三人とも決めあぐねているのだった。

「いや、月見チョコミントはどうなんだ?」

「でも美味しかったよ、これ。普通、こんな組み合わせにしないもんね」

 真実は一品一品写真を撮り、それぞれの料理の長所をきちんとスマホにメモしていた。本当に頭が上がらない。

「いっそ全部配信に出して、リスナーの反応見て決めるって言うのは?」

 一見ありそうなかぐやの提案に、真実は顎に手を当てて考え込んだ。

「んー……普段の配信なら、それでもいいと思う。でも、こういう短期決戦なら、ライバーに自信を持って推されたメニューがいい、かな」

「むむ……まさか、こんなに難航するとは」

 私は水差しから、水をコップに注いで一口飲んだ。真実も私もかぐやも、すでにだいぶお腹がいっぱいだ。

「よしっ! 決めた! スイーツにする!」

「お? なんか閃いた?」

 かぐやはしっしっし、と笑った。懐中に一計あり、と言うことなのだろう。

 彼女が厨房に引っ込んで、私と真実はカウンターに二人取り残された。

「真実なら、どれがいいと思う?」

「んー……私なら、月見チョコミントがいいかな?」

 提示されたメニューの中では色物だ。

「その心は?」

「彩り? 配信の画面映えしそうだし」

「なるほどねぇ」

 真実の言うとおり、月見チョコミントの三色団子みたいな見た目は面白いかもしれない。

 そのまま二人でだらだらと会話していると、厨房のオーブンから、シナモンの焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。

 事前のかぐやの予告通り、キッチンの中では甘いものが調理されているのだろう。

 満腹感を感じていたのに、やはり甘味は別腹なのか、胃がうごめいて隙間を空けようとするのを感じる。

 せめて試作メニューを決め切らなければ、私たちは店の試食で好き放題食べただけになってしまう。食べ過ぎの幸福感に包まれていたが、内心の焦りはあった。

 厨房から食器が鳴る音がして、かぐやが大皿を持って現れた。

 その上には、こんがり焼けた正方形の物体が乗っている。

 

「じゃじゃーん! 月見ハニトーだよ!!」

 

 かぐやが盛り付けた月見ハニトー……暴力的なカロリーの権化、ハニートーストは、ハチミツと熱で溶けたバニラアイスがしみしみになっていて、いかにも食べた瞬間、口の中を幸福で満たしてくれそうだ。

「わあ……!」

 真実は感嘆の声を上げる。

 黄身が半熟のエッグパティが、立方体のハニトーに蓋のように乗せられている。その上にはシナモンパウダーと、きめの細かい粉砂糖がたっぷり振りかけられていた。

 チョコソースが五線譜のように大皿を彩り、散らされたペパーミントの緑も鮮やかだ。皿の端には山盛りのホイップクリームまで添えられている。

 本当にかぐやは、この辺りのセンスが抜きん出ている。私は舌を巻いた。

 真実が早速、スマホのカメラを起動して撮影している。流石にハニトー、五感に訴えかけるビジュアルは最強と言っても良かった。

「めちゃくちゃ美味そう……」

「私たち女子高生は、ハニトーと見れば釣られる生き物だからねぇ……」

 私と真実は、ナイフとフォークをいそいそと手に取る。

 

「これに……醤油をかけて食べるんだよ!」

 

 私たちの間に流れる空気が変わった。

「マジか」

「このままでも十分美味しそうだけど……」

 私たちの精一杯の抗議も虚しく、かぐやはスイートソースよろしく卓上醤油を極上のハニトーに回しかけた。

 月見の玉子と相まって、途端におかずのようないい匂いが充満する。

 急にキワモノじみた料理に変貌したハニトーを前に、私も真実も手を止めた。

「あ、写真」

 心なしか真実のテンションも、盛り下がってしまったような気がする。

 自信満々のかぐやを前に、食べないわけにはいかないので、私たちは恐る恐る最初の一口を口にした。

 

「えっ……うまっ?!」

 

 ハニトーの殺人的な甘さを、醤油の塩気が引き立てて、次々と口に運びたくなる美味しさだ。

 慣れ親しんだ醤油の味が、溶けかけのバニラアイスとよく合う。

「うわっ……すごいね、これ……!」

 真実も口の中に広がる、複雑玄妙な味わいに驚いているようだ。

 普通に食べれば月見の玉子が浮いてしまうだろうに、半熟にとろけた黄身と醤油がマッチして、ハニトーと混然一体となった甘塩っぱさを演出している。

 確かに、普通に食べるより美味しい。味覚を通して、頭の中を直接揺さぶられているような感覚だ。

 私と真実の反応を目にしたかぐやは、鼻高々だった。

「どお? 美味しいっしょ?」

 かぐやは私が切り分けたハニトーを、行儀悪く素手でつまんで口に放り込んだ。

 かぐやは魂が昇天したような、至福の表情を浮かべている。

「これ、いけるよ! 店長さんに話して、チャンネルとお店でコラボしたほうがいいって!」

 真実は興奮した様子で早口に叫んだ。

 真実いわく、期間限定の新メニューはタイミングの旬が大事で、アピールは大きく、受け手に取って衝撃的なほどいいのだと言う。

 彼女がそれほど自信を持って口にするメニューなのだから、おそらく間違いないのだろう。

 私は真実から、手を付ける前の月見ハニトー醤油ソースの画像をもらい、店長に画像付きメッセージを送信した。

 ほどなく既読が付き、ぜひ試食してみたいとの返事があった。

 配信のことは、対面で話すことにした。そうなればあとは、カメラの前に立つかぐやの腕前と、私のプロデュース次第だ。

「ありがと、真実」

「いいよいいよ〜、私も楽しかったし。あ、でもメニューに採用されたら、私のアカウントでも紹介させてね?」

 芦花も連れてこよーう、と真実はご機嫌だ。

 喜んでいる真実を見て、私はツクヨミ内のやり取りを思い出し、少しだけ切なくなった。

 

 真実と芦花。

 

 この二人は、私が思っているよりずっと、私のことを大切に想っていてくれたのかもしれない。

 かぐやがそれに気付かせてくれた。

 でも、そのせいで真実たち二人とは少しだけ、心の距離が離れてしまう。

 それがなぜだか、私の心をざわめかせた。

 

 

 

 

『かぐやっほ〜! みんな、今日はかぐや考案オリジナルメニューが、このお店で並ぶことになったよ〜!!』

 かぐやの配信が始まり、バイト先の店内にいる私は、店長に頷いた。

 そう、私たちの家ではなくて、かぐやは開店前の店の中から、グリーンバックと合成を巧みに使って配信している。

 すべてはかぐやの説得で快く引き受けてくれた、理解のある店長のおかげだ。私たちが何十回土下座しても、足りないだろう。

 店長は配信内の私の正体にも若干気付いている風だったが、深くは聞かずにいてくれた。実に大人の対応だと思う。

『かぐやと言えば〜……月! 月と言ったらこの時期、やっぱ月見っしょ! ヤチヨ〜見てる〜? ルナミじゃなくて、ツ・キ・ミ! 今日はとっておきの月見メニュー、紹介しちゃうよ〜!』

 私は、かぐやから作り方を教わった月見ハニトーを、配信用カメラの前に設置する。さすがに作りたてとはいかないが、見た目はほとんど崩れていない。

 私はコメント欄のポジティブな反応を確認してから、かぐやにゴーサインを出した。

『え? このまま食べたい? も〜っと美味しくする魔法が、あるんだよぉ〜……』

 かぐやは傍らから醤油を取り出し、画面が悲鳴で埋め尽くされたのを満足そうに見送ってから、ハニトーに飴色の液体を垂らしていく。

『じゃあ。これはリアクション担当のいろPに食べてもらいまーす♡はい、あーん♡』

 かぐやはフレームアウトし、画面の外にいる私に切り分けたハニトーを食べさせた。味は折り紙付きだが、アバターもないままカメラに映るわけにはいかない。

 私は配信画面に、『めちゃくちゃ美味い』とテキストを乗せた。コメント欄はざわついている。

『みんなも、絶対食べてみてね! かぐや特製の、期間限定月見ハニトーが食べられるのは世界中、ツクヨミ中を探してもここだけだからね!』

 

 ばいばーい、とかぐやが手を振って、配信を終えた。

「かぐやちゃん、すごいねえ。働いてる時とは、別人になったみたい」

「……わかります」

 唖然とする店長から店のSNSアカウントを借りて、配信終了と同時にかぐやのポストを引用する。

 じきに、数回、数百回と次々と数字のカウントが回っていくのがわかる。

「……ん?」

 配信を終えたかぐやも、私の手元を覗き込んでいた。

「うわ! めちゃくちゃ拡散されてる!」

「そう、だけど……これ……」

 投稿から数分も経たずにリポストが数千、インプレッションが二十万を超えた。

 いくらなんでも、私たちだけの力にしては拡散が早すぎる。

 私は自分のスマホの通知を見て、愕然とした。

 

 月見ヤチヨが、かぐやのポストを引用していた。

 

「……店長」

 ーーやばいことに、なったかもしれないです。

 私の顔から、血の気が引いていくのがわかった。

 目を離している間も、インプレッションはみるみるうちに増えていき、数百万を超えた。

「シフト入れる人、全員呼んでください。たぶん、修羅場になります」

「え?」

 私は大急ぎで配信機材の片付けを始める。

 下手をすれば、もう何分もしないうちに客が並び始めてしまう。

 とにかく時間がない。

「かぐや! 今すぐ制服に着替えてきて! 今日は店が終わるまで手伝い! 捌けないくらいのお客さんが来るよ!」

「えぇ〜っ!!? 超ウケたってこと?」

「ヤチヨに見つかったんだよ……かぐやが配信で煽るから!」

「それって……新手の嫌がらせ?」

「先に喧嘩を売ったのはアンタだっての……もう!」

 そうは言ったが、ヤチヨが軽々しく個人の挑発に乗るとは思えない。彼女はむしろ、私たちを応援しているのではないか。

 このくらいの波乱を乗り越えられないようなら、ヤチヨカップに、トップライバーたちに挑む資格はない、と。

(落ち着け、私……!)

『彩葉?! 配信のポストすごいことになってるよ?!』

『ヤチヨが動くなんて、彩葉たち何したの?』

 配信やSNSを見ていたのだろう、真実、芦花から次々にメッセージが送られてくる。

 私は息を落ち着けるために、深呼吸した。

 すう、はあ、と時間をかけて深く息を吐き出すと、少しだけ思考がクリアになる。

「店長、今日は通常営業やめましょう。ハニトーとドリンクのみで行きます。食材だけ、どうにかして切らさないようにしてもらえますか?」

「酒寄さんのそんな顔、初めて見た……」

 ただごとでない私の様子を見て、店長は二つ返事で了承した。

 幸い、天気は晴れだ。

 少しでも回転率を上げるには、物理的に席を増やして対応するしかない。

「かぐや、テラス席増やそう。この店内だけじゃ足りない。何回転するか、私にも予想つかない」

「お、おお〜……彩葉が、マジの顔してる……! ほんとの本気で激ヤバのやつだ……!」

 かぐやは私の意をすぐに察して、バタバタと椅子を外に運び出し始めた。

 あとは何ができる。全部やるんだ。

 列整理。会計先払い。お釣りの用意?

 掃除もしないと。食器は使うやつだけ。あとは、あとは。

 思考がぐるぐると巡る。頭が痛い。吐きそうになる。

 私のスマホの着信が鳴った。

 相手はーー真実。

 

『彩葉! 私と芦花も手伝うよ!』

『とにかくそっち行くから! 彩葉に言われたこと何でもやるから!』

 

 私は涙が出そうになった。

『……ありがとう、二人とも』

『お節介かもしれないけど、整理券だけ早めに用意したほうがいいよ! どんなにお客さんを捌けても、食材は限界があるはず!』

 真実の助言を聞いて、私は店長の顔を見た。それはつまり、今日中に並んでも入れない客の数を、許容しなければならないということだ。

 電話の内容が聞こえていたのだろう。店長も素早く頷いた。

『わかった。ほんとありがと。助かる。絶対埋め合わせする』

 通話の終わりの方は……少し、鼻声になっていたかもしれない。

 

 私は目の端に滲んだ涙を拭って、店長と、今から起きる事態への打ち合わせを始めた。

 

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