あんな好き好きビーム出してるのを、目の前で見せられたらさぁ……。
誰だって……ねぇ……?
しかもそこそこ重めのやつっぽいし!
馬に蹴られて星になりたくはないよー……。
でも絶対! 行く末を見守るために友達でいる。
私たち、ハッピーエンドが大好きだから。
『ヤチヨのお料理対決、予選終〜了〜!!』
ファーストラウンドの終了発表は、もちろんツクヨミの中で行われた。
大鳥居の上で、ヤチヨは高々と宣言する。
私たちは万バズを達成した後も油断せず、定期的に料理配信を上げ続けていた。
予選突破が確実となったら、次はその先を見据えて動かねばならない。
一度走り出したからには、私とかぐやは止まるわけにはいかなかったのだった。
ヤチヨの読み上げによって、上位チームが次々と発表されていく。いずれも登録者十万人を超える、中堅どころの粒揃いだ。私も研究のためにいくつか配信を巡ったり、かぐやごとコラボにお呼ばれしたりしたが、やはり彼らは手堅く面白かった。
さらには動画の切り抜き編集の制作や、何年も配信活動を継続してきた実績、グループ内の団結力、組織力もある、強敵ばかりだった。
かぐや&いろPチャンネルは実質かぐやのワントップであり、私がどんなに頑張っても、マンパワーや編集力では、既存のチャンネルに大きく劣る。
新興勢力としての期待値と、あのヤチヨブーストの勢いがなければ、予選突破は危うかったに違いない。
『さて、とうとう予選一位の発表! 衆生皆々刮目せよー!!』
私たちの名前は、まだ呼ばれていない。
しかし、会場内は浮ついたような、期待に満ちた雰囲気が漂っている。
それもそうだろう。
彼らはみんな、この予選で登録者数がもっとも増えた、燦然と輝く配信者の名が呼ばれるのを、今か今かと待ち侘びていたのだから。
そう、今となっては登録者二十万人を超え、参加者の中で最大勢力となったチャンネル。
『予選一位! かぐや&いろP!! 新人配信者が、まさに鯉の滝ライジング! ヤッチョも驚きだよ!!』
それが、私たちだった。
「いやっほーぅ! みんなー!! 応援ありがとー!!」
ヤチヨの背後の大型スクリーンに、ツクヨミ衣装のギャルかぐやと、二足歩行のキツネの着ぐるみを着た私の姿が映される。
手を振り、飛び跳ねて、大はしゃぎで騒ぐのはかぐやに任せて、私は静かに観衆に向けて頭を下げた。
「みんなのおかげだよー!! チャンネル登録ありがとねー!!」
集まったオーディエンスから、大喝采が起きる。
『かぐやー! 結婚してくれー!』
『限定トースト美味かったぞー!』
『なんでも醤油で解決するなー!』
予選までは駆け出しだった私たちの認知度を大きく広げただけでも、このイベントに参加した価値は大きかったと言える。
かぐやはまさしく、ツクヨミに現れた超新星だった。
カメラの前の彼女は、その言動、配信の神に愛されたかのようなトラブルと幸運、自由で奔放なその性格が、ツクヨミの神々……プレイヤーたちに広く愛され、受け入れられていった。
私の身内贔屓があったとしても、かぐやは、比類なきライバーとしか言いようがなかった。
『いろPもお疲れー!』
『たまには手加減してくれー!』
『一言でいいから喋ってくれー!』
私は着ぐるみを着たまま、彼らに小さく手を振った。
超常的な飛躍と同時に、原作の竹取物語よろしく、かぐやに求婚するリスナーが増えたのはちょっと困りものだ。
少々かかり気味の彼、彼女らは、私たちのチャンネルでは、訓練された常連たちに、難題持って出直してこいと諭されるのが常だった。
それでも懲りない困った方々には、私直々に『ご理解』頂いてもらっている。
かぐやのアップが切り替わり、再びカメラは大画面にヤチヨを映す。
『さて! いよいよ決勝! 参加者は全編ライブで勝負してもらいます! こう言うのって待ち時間が長い? わかるよ〜。ヤチヨも黙って待つのは超苦手なのです!』
決勝は全組多窓で同時ライブ!
忠犬オタ公、乙事照琴、二人とも料理対決、決勝の盛り上げよろしくね〜!
鳥居の下のステージに設けられた実況席に、スポットライトが当たる。
オタ公と琴は二人ともツクヨミのライバーで、イベントごとやゲームなど、実況や解説に定評のある組み合わせだ。
「ヤチヨの無茶振りはもう慣れた! クライマックス決勝は明日十二時開始だよ!」
「誰が勝つのか絶対見逃すな! 審査員はオーディエンスと視聴者の全員だ! 最強の料理! 最高のリアクション! 超盛り上げる配信に来てくれるみんな! 期待してるぜ!!」
ドォン! と腹に響く轟音が会場に響き、キャノン砲で打ち出されたヤチヨの銀テープが、四方八方にばら撒かれた。
ツクヨミならではの、派手な演出だ。
勝負は明日。
時間の余裕はない。
「ーー役割を交代したい?」
私とかぐやは、自室の小さなテーブルで向かい合っていた。
「うん、彩葉。決勝は、彩葉が料理してほしい」
それは、かぐやからの提案だった。
私は理由を尋ねる。
かぐやは、んーと唸って答えた。
「彩葉のオムライス、食べさせてほしいから」
「……え?」
私は、ますます、訳がわからなくなった。
予選でハニトー以外にも見せたかぐやのオリジナル料理は、画面映えがするもので、概ねインプレッションも大きく、リスナーたちにも好評だった。
決勝はそれらの集大成。
誰もが、かぐやの派手な活躍を待ち望んでいるはずだ。
「オムライスって……あの、私が一番初めに、かぐやに作ったやつ?」
「そうそう。覚えててくれたんだ」
かぐやと出会ったばかりの頃。
まだ、彼女がこんなに大きくなる前。
ゲーミング電柱から現れた赤ん坊の姿、それから爆速で成長したかぐやにねだられ、有り合わせの材料で作った、なんてことのない夜食。
そう言えば、あの時の私の冷食まで、かぐやに食べられたんだっけ。
「覚えてるよ、忘れる訳ない」
「私もだよ、彩葉。だから食べたいの」
真剣な瞳だ。
たまにかぐやは、こういう目をする。
どこか超越者じみていて、ただびとを惹きつけてやまない目。
それはもしかして、月の狂気によるものなのだろうか。
「……決勝、勝てなくなるかもしれないよ」
この大舞台で、私との思い出の料理を選んでくれるのは嬉しい。
しかし、見た目が地味なオムライスでは、どんな事情があろうとも、派手好きの視聴者に対して圧倒的に不利だ。
決勝は自分たち以外のファンも見ている。かぐやと私を包む空気は、厳しいものになるだろう。
「大丈夫! 私のリアクションで、全部なんとかする!!」
かぐやは自信満々に二本の指を立てて、ピースサインをした。見ようによっては、耳を立てたうさぎのようにも見える。
彼女は、その形をしたままの手を、私に向けて突き出してきた。
「……なに?」
「彩葉もしてよ、これ」
私は困惑しながらも、かぐやに向けて二本の指を立てる。
するとかぐやは、ちょんちょんと私の指と自分の指を合わせて、指が交互に重なるように差し入れてきた。
かぐやの体温の高さに、私は少し驚く。
かぐやはそのまま押し付けた手のひらで、私の指をぎゅっと握った。
「ほんと、なに?」
彼女の思わせぶりな仕草は、正直かなり恥ずかしい。
悪戯っぽく私を見るかぐやから、視線を背けた。
「これは、私たちの仲良しで、勝ち確のポーズってことで!」
「ははっ。なんだ、それ」
私はかぐやと手を握ったまま問いかける。
「本気なんだね、かぐや」
「うん。絶対、彩葉のオムライスで優勝する!」
大した期待をかけられてしまったものだ。
決勝の料理配信は実食が必須ーーつまり。
料理中の映像も、食べている映像も流さなければならない。
かぐやは、ハニトーの時のように、合成を使って解決する気がないのだろう。
過去、誤って配信中に顔を晒してしまったこともあるし、そもそも本人が、そこまで匿名への頓着がない。
VR世界を大きく発展させたスマコンーーウェアラブルデバイスのスマートコンタクトとツクヨミの登場により、リアルとバーチャルの垣根が曖昧になったとはいえ、やはり個人の情報を晒す忌避感を持っている層は、一定数存在している。
「まあ、かぐやなら顔がいいから大丈夫か」
「へへへー。バイトはちょっと……これからは無理になるかも。ごめんね、彩葉」
かぐやの一言に、私は胸が締め付けられた。
結局、かぐやはほとんど、自分のために稼いだお金を使わなかった。
かぐや自身が稼ぎ出したお金は、私と食べるご飯とか、私と出かける交通費とか、私と配信する費用とか、それらのことに使われていた。
私が彼女に、バイト代を自分の好きに使ったらいいと言った結果、かぐやはそのほとんどを、私たち二人のために投じていたのだった。
それが、彼女の直球にもすぎる、好きという感情。
その理由はもちろん決まっている。
私の悩みが、金銭に関わるものばかりであったことを、同居人のかぐやも、いつしかしっかりと理解してくれていたからだ。
じわ、と私の目頭に、涙が滲むのがわかった。
「いいよ。いいんだよ。かぐやの気持ち、ちゃんと私にも伝わってるから」
「泣かないで彩葉。きっと、全部うまくいくよ」
かぐやは涙ぐむ私の頭を、そっと抱きしめた。
この温かい感情が、湧き上がる胸のざわめきが、好きだと呼べないなら、なんて言えばいいんだろう。
涙、思ったよりーー止まんないな。