方向音痴のサイヤ人   作:

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DB二次創作初書き。


1. 襲来、球入り娘

《RECV MESSAGE: from MOROCO

“終わったらすぐ合流する、待ってろ”》

 

叔父のメッセージを最後に、意識を人工休眠の闇に沈めてから一年。

 

ENTRY INTERFACE CONFIRMED(大気圏突入境界 確認)

《STATUS: IONIZATION BLACKOUT IMMINENT(まもなく プラズマ化による通信途絶)

TTG TO IMPACT(着陸残り時間): 00:05:00 (WARNING!!: HIGH-G DESCENT(高Gでの落下))》

 

目的地接近を知らせる無機質な電子音が、わたしを夢から揺り起こす。

長期睡眠特有の気だるさを振り払ってモニターを見れば、そこに映し出されたのは雲がまだらに浮かぶ青い星。

 

これが今回の目的地、のはずだが。

 

「……青?」

 

おかしい。出る前にきいた話じゃ、わたしの担当は全体的に赤茶色でサビ塗れになった廃墟と土塊の星だった。

モニターを拡大する。そこにあるのは荒れた地表ではなく、月光を跳ね返す深い海だ。草木の緑が地を埋め、規則的な光を放つ街並みまで見える。

 

「なんか、きいてた話とちがう」

 

《O2 : 20.9% / N2 : 78.1% (BREATHABLE(呼吸可能))》

BIOMASS DENSITY(生物量密度): SCALE 7 [OVERGROWTH]》

 

測定結果をなぞりながら眉をひそめる。辺境の不毛惑星だと聞いていたけれど、ここは少し、いやかなり賑やかすぎる。

 

もしかして、渡す星のデータ間違えたのかな?

 

ハンランがどうとか、そのせいで行き先が変わるとか、出る直前は叔父も慌ただしそうだったから。まったく、雨が貴重なのはわかるけど、それならわたしの任務は後回しで良かったのに。

まあもう着いちゃったからどうしようもないけど。

 

そんなことを寝起きの頭でぼんやりと考えていた、その時。

 

《WARNING!! : Rapid rise in energy detected(エネルギー反応の急上昇を検知)!》

 

残っていた眠気を吹き飛ばすように、スカウターから警戒信号が鳴り響いた。

 

近域に異常な戦闘力反応。

画面の値が跳ね上がる。付近の目立った戦闘力の内一つが、突如大きく膨らむのを肌で感じる。

今のわたしに匹敵するくらい強い何者かが、もうじきこの宇宙船(ポッド)から見える範囲に、来る。

窓に鼻を押し付け、夜闇の底を睨みつける。

 

月明かりを遮る、山のような影。

びっしりと剛毛に覆われた太い尻尾が、地上の木々を薙ぎ払うのが見える。

 

「なっ、大猿!? ひとり任務のはずなのになんで?!」

 

いるはずのない大猿が、そこにいた。

 

叔父ではない。叔父の宇宙船は近くに反応がないし、そもそも雰囲気がまったく違う。

見知らぬ大猿(ひと)の地響きのような唸り声が船を震わせる。

今の自分など潰してしまえるだろう遥かに大きい体躯に、心臓が早鐘を打つ。だが同時に、身体中の血が沸き立つように高揚する自分もいる。

 

「……本物だっ!映像でしか見たことなかった、誇り高き大猿の姿……!」

 

だってあれは、8年に一度しか満月のない母星では未だ見ることが叶わなかった、特別な姿なのだから。

思わず後を追って変身したくなる自分を抑えたのは、満月と共に脳裏によぎった知人の姿だった。

そう。それは丸く、月が満ちるように毛根が消え始めている……頭部。

 

『いいかメイズ、到着したらまずはご挨拶(・・・)だ』

 

彼の言葉を思い出す。ああ、誇り高き戦士の心得を教えてくれてありがとう。

せっかく貴重な変身シーンを見せてもらえたんだから、エリート候補生として、常識知らずな対応なんてするわけにはいかない。

 

「お、お疲れさまです!侵攻担当のメイズです!」

 

船外放送のスイッチを叩き、精一杯の礼儀を込めて名乗る。

大猿は、応えるようにその大きな腕を上げた。

 

「えっ、ハイタッチ!? いいの!? 光栄です!けど、降りるまで待ってもらえると……」

 

血のように赤く光る瞳が、わたしを捉える。

そこに宿っていたのは、サービス精神などではない。

蟻の巣を見つけた子供のような、飛んでる虫を見つけたような、純粋で、圧倒的な殺意。

 

《WARNING!! : EXTERNAL THREAT DETECTED(外部脅威を検知)

INITIATING EMERGENCY EVASION(緊急回避シーケンス開始) —— SUCCESS》

 

大猿が巨腕を勢いよく振り回し、直後、内臓をせり上げるような衝撃が襲った。回避プログラムが強制的にスラスターを吹かし、巨腕を紙一重でかわしたのだ。

 

「あっぶな!!ハイタッチにしては殺意たかいね?!」

 

自動回避により強制的に機体が上下左右に揺れ動く。そして姿勢制御の限界を超えた負荷に、船内には様々な警告がポップし、悲鳴のようなアラートが鳴り響く。

シェイクされる視界の中で、大猿の顔が嗜虐的な笑みの形に歪むのが見えた。

 

そしてハッと気づいた瞬間には、大きなその腕が窓を埋め尽くし──

 

「まって、邪魔したのはわるかったから、せめて船降りるまでぶっ叩くのは、まってーー!!!」

 

──ヤツは、ポッドごとわたしを地表に叩きつけた。

 

《PAST MESSAGE : from MOROCO

RECV : 348 Days ago

“生き延びろよ、メイズ”》

 

《— ERROR : SYSTEM OS DAMAGED(システムOS損傷)

 

 

◇◇◇

 

 

あったかい。

 

ふわふわと柔らかなものに包まれ、お腹の辺りはほっこりと暖かく、トクトクと静かな拍動が伝わってくる。

空調や炎にあたっているのとは違う、不思議なその温度が気になって目が覚めた。

 

「……ん」

 

目を開いて驚いたのは、腹の上にある温度の正体だ。

 

そこには、自分を撃墜したあの大猿と同じ気配を纏った幼子が、頭を乗せて眠っていた。

生まれてすぐに保育器に入り、そこから出る頃には戦士として戦いに明け暮れる、それがサイヤ人。こんな風に体温を分け合うのは初めてだった。

 

身動きを取りにくくて鬱陶しいはずなのに、不思議と振り払う気になれない。

 

力の抜けるような、未知の感覚。

それを振り払うように身じろぎをして、途端に走る全身の痛みに呻く。

ああ、そうだった。

 

わたし負けたんだ。

 

すとんと、敗北を実感した。

あの大猿に。いや、今目の前で無防備に鼻提灯を膨らませているこの幼子に、負けた。

悔しさがこみ上げる。こんな保育器にでも入ってそうな幼子相手に反撃すらできずに気絶したなんて。

しかも!

 

「大猿になれなかった……!ぜったい今回の任務でなれると思ってたのに……!」

 

母星は月の満ち欠けの周期が長い。だから月のある星を探して、その上で満月をうまいこと狙わないと、なかなか大猿形態にはなれない。

わたしも生まれてから一度もなったことがない。せっかくあと少しで憧れの姿になれたのに、お預けなんて。

 

失意に暮れ枕元を見ると、無惨にひび割れたスカウターと、丁寧に畳まれた戦闘服が置かれていた。

 

「服?!」

 

まさか裸?!と慌てて我が身を顧みれば、ちゃんと身に纏っていた。

ただし、引っ掛けただけで破れそうな脆い布の服だが。

 

「なにこの伸びの悪さ……って、ちょっとまて。わたし、着替えさせられたことにも気づかなかった……?!」

 

戦士としてのあまりの失態、そしてそこまでコテンパンにやられた自分へのやるせなさ。

その事実にぎりりと歯を食い縛る。

いまにも駆け出して叫んでしまいたいような。しかし痛む体はうまく動かず、力無く布団に拳が落ちる。

 

元凶を見れば、そんなの知ったこっちゃないとでもいうように健やかに眠るその姿に、八つ当たりとわかりつつも指先に力が籠る。

 

「おまえ〜……」

 

こんなちっちゃいくせに、わたしより先に大猿になるし、ボコボコにされるし。覚えとけよ。

寝こけている幼子の頬を、指先でうりうりと突く。

 

かつて、母星で可愛がってくれた少し年上の戦士によくやられたのと同じ仕草。

あの人もこんな気持ちだったのかもしれない。

突かれた幼子がむにゃむにゃと声を漏らすのを見て、思わずくすりと笑みが漏れた。

 

そして、その暖かさを拭うように、そのまま頭を腹の上からのかして布団へ落とす。

 

……小さな重さがなくなって、お腹のあたりがすうすうと涼しくなった。

こんな薄っぺらい防御力もない布を纏ってるから冷やしたのだろうか。まさかそんな弱っちい体ではないと思うけど、どうも落ち着かない。やはりわたしたちに相応しいのはいつものこの戦闘服なのだろう。

 

着替えついでにスカウターもいじってみるが、画面はチカチカと虚しく光るだけで、もはや何も映し出さない。

こんなのでは報告も、連絡もできやしない。船内にある予備は無事かな。

 

探さなきゃ……あとで。

それより今は優先すべきことがある。

 

「……おなかすいた」

 

どこからか漂ってくる匂いが、空っぽの胃袋を強烈に刺激したからだ。

体の痛みなど忘れて、ふらふらと匂いの方へと足が向く。

 

部屋を抜けたその先。

 

そこには山のような食事を盛り付け、わたしを待ち構えていたかのように微笑む1人の老人がいた。

 

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