方向音痴のサイヤ人   作:

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5. カプセル違い

 

まるで手応えのない戦い、いや戦いと呼べるほどのものでもなかった。

 

放たれた鉛玉は、簡単に握り潰せるほど鈍く柔い。相手の位置が見なくてもわかる(・・・・・・・・)から、無駄に動くことなく、拳を振るうたびに乾いた枝でも折るような感触とともに男たちが吹き飛んでいく。

数分もしないうちに、立っているのはわたしと捕まっていた子供だけになっていた。

 

火薬の匂いがうっすら漂う中、男たちは己の武器を掴むこともできず、手足をあらぬ方向へ向け白目を剥いて地に転がっている。

……おそらく、生きているはず。

 

あの老人は愚か自分よりかなり弱そうだとは思っていたけど、想像以上にあっけない。

もはや手加減の方が大変なくらいだった。

 

 

そして、今。

 

 

「助けてくれてありがとう!武器なしで勝っちゃうなんて、あなたすごいじゃない!」

 

子供特有の甲高い声が森に響く。

八つ当たりのついでに命を拾っただけの青髪の子供が、目を輝かせてこちらを覗き込んでいた。

 

母星を出てから、まともに褒められた記憶がないからだろうか。あるいは、同年代からの賞賛の視線を初めてまともに浴びたからか。

 

なんだかソワソワするというか、落ち着かない。

 

「……ふん。わたし程度にやられるこいつらが弱すぎたんだよ。エリート候補ならこのくらいできて当然」

 

視線を外し素っ気なく返すが、子供の勢いは止まらない。

 

「でも銃もまるできいてなかったもの!どんなカラクリなわけ?それに全然動きがみえなかった……武闘家崩れのあいつらに勝つなんて、あなた並の腕じゃないわよ!」

 

こんな熱心に言われると、たかが異星人の戯言とは言え本当に凄くなったような気がしてくる。

確かに、ジジイにあしらわれているように思っていたけど、最近は投げられる回数も少し減ったし、数歩くらいは動かせてるし。

 

「……まあ、もしかしたらちょっとは強くなった、かも?」

「ちょっとなんてものじゃない。あたし大人から子供まで色んな人と会うけどね、あんたほど強い子みたことないかも」

「えっほんと?!……あ、いやその、非戦闘員ばっかだったからでしょ」

「ひせんとういん──ああ非戦闘員ね。それなら警備員はもちろん武闘家にだって会ったことある。そうね……エリート(・・・・)って呼ばれる人にも。でもあなたの方がよっぽど鋭い動きに見えたわ」

 

エリート。

 

その単語が鼓膜を震わせた瞬間、視界がパッと開けた。

 

そうだ。わたしは、生まれつき潜在能力の高さが一定の水準を超えると認められたエリート候補。

伸び代は段違いのはず。

大猿化はちょっとうまくいかなかったが、この星特有の技術……『気』の探知を習得しかけている今のわたしは、以前のわたしとは格が違う。

 

「……ふ、ふーん!見る目あるね。まあ、わたしはエリート候補だったし、そりゃそこらの奴らとは比べ物にならないに決まってる!」

 

気分の高揚そのままに声のトーンが一段上がる。

強くなっている。その確信は、胸の奥で重く、確かな熱量を持って膨張していた。

あの老人も、大猿化したゴクウもすぐに届く──いや、追い越せる!

 

「そうよ、あたしの光線銃には敵わないだろうけど、道具なしだったらかなり凄いわよ!」

「そうだろう、そうだろう……は?今なんて?」

 

うんうんと頷いていたら聞き捨てならない言葉が聞こえた気がして子供の顔を見る。

聞き間違いか。わたしが、何に敵わないって?

 

「かなり凄いわよ?」

「その前」

「あたしの光線銃には敵わないだろうけど」

 

それだ。

光線銃程度に、わたしが負ける?

 

「はぁーー?!敵うけど!!むしろ銃なんかかすり傷にもならないけど?!」

「それはムリ。さすがにいくら強いあなたでもね、あたしの光線銃には敵わないわ」

「全然効かないから!撃ってみれば?」

 

そもそも当たるわけがないが、当たったところでたかが光線銃である。

 

「強盗とかでもないのに向けるわけないでしょ。ていうかそもそも光線銃があるなら初めからあんな誘拐犯ども消し飛ばしてるわよ!」

「……それもそうか」

「急に真顔にならないでよ怖いじゃない」

「いやないならここで喚いても無駄だし。お前のうちにあるんでしょ?ならさっさと持ってきてよ」

 

ここで騒ぐより持って来させた方が話が早い。

当たり前のことを言ったつもりだったが、子供は俯いて何か耐えかねんと震える拳を握っている。

 

「あ、あんたね……」

「なに?私に助けられたんだよね、報酬はそれでいいよ」

「態度はムカつくけど、まあ助けてもらったのはそうだからいい。でもね!誘拐されたんだから家がどっちかわかるわけないでしょ!!むしろ連れてってもらいたいわよ!」

 

憤慨しているが知ったことではない。

悪いのは攫われた子供であり、強ければそんなことは起きないのだから。

 

「そう。じゃあわたし他にやることあるから」

「ちょっと!!そこは連れてってくれるところじゃないの?!あたしが無事帰れないと銃も持って来れないのよ!?」

「いや、どうせ銃には負けないから試さなくてもいいし。何よりそろそろお昼ご飯狩りに行かないと」

「か、狩り……ずいぶんと原始的ね。あ!それじゃあこういうのはどう?あたしを西の都まで送れば昼食どころか夕飯までそこらじゃ食べられないほどの食事をご馳走するけど」

「ご馳走?そんなの戻ればジジイの食事があるから」

「こんな山奥じゃ食べれないようなものもたくさんあるわよ。なんなら都会でも限られた人、そうね、エリートしか食べれないようなものも!」

「エリートしか?!それって、おいしい?ほっぺが落ちるくらい?」

「もちろん!どう、いい条件でしょ」

 

……はっ、と我に帰った時には頷きかけていた。危ない。

気のせいか、この子供、わざとエリートという言葉を出してないだろうか。

こんな弱い子供が強い戦士に会えるわけないというのに、思わず食いついてしまった。

 

しかもそれだけではない。

 

ニシノミヤコ。西の都、都会という言葉からして、おそらくこの星に降りる際、衛星軌道上から見えた文明が集約していそうな光の集積地のひとつだろう。そこなら、叔父には及ばなくとも壊れたスカウターやひしゃげたポッドを修理できる技術者がいるかもしれない。

 

それに、腕が立つ奴が大量にいるのかどうかも、どうせそのうち様子見には行く必要がある。今ならゴクウも着いてきていないし、気の感知も多少ならできるようになったので丁度いいのだが。

 

好都合だ。すべてが好都合すぎる。

でも。

 

「……仕方ないな。一緒に行ってあげる」

「え、本当にこれで頷くの?!あたしが言うのもなんだけど、もう少し警戒とかした方が……」

 

そう言いかけて、未だ意識もなく土を舐める賊を一瞥した青髪の子供が口をつぐむ。

どうやら頭の回転は悪くないらしい。

 

「警戒の必要もないってわけね。まあ無事連れて帰ってくれるならあたしは文句ないから。西の都までよろしくね」

「わたしも特別おいしいのくれるなら他はとくに期待してない」

「花より団子ってこういうやつのことなのかしら……」

「は?ハナヨリダンゴ?鼻?」

 

地球の慣用句か?

鼻は腹に溜まらないから団子を選ぶ、とでも言ったところだろうか。

妙な言葉だ。

 

「鼻なんか普通食べない。肉少ないじゃん、軟骨ばっかだし」

「ハナは植物の花!簡単に言うならとりあえず食欲が優先、つまりまるきりあなたのこと」

「そりゃ強さの糧にも腹の足しにもならないものなんか普通選ぶわけない。ほら、くだらないこと言ってないで歩け」

「あなたの普通ちょっと変わってるわよ。もう、せっかちね……ああそうだ、あたしブルマ。あなたの名前は?」

「変わってない。時間が無駄だから行くよ」

「無視?!答えなさいよー!」

 

 

◇◇◇

 

 

道中は、遅々として進まなかった。

予定ではとうに森を抜けているはずなのに、まだまだ木々に終わりが見えない。

 

地球人は驚くほど足が遅いらしい。おまけにこの子供は、隙あらばわたしを質問攻めにしてきた。

 

あまりにも面倒なので、都には別にわたし1人でもいけるだろうしそこらに捨て置くかと考えたところで、子供の口からから思わぬ情報が飛び出た。

 

「あなた直したいものがあるの?カプセル関連なら少しは手伝ってあげる」

「カプセル?」

 

記憶にあるカプセルは、フリーザ軍のメディカルポッドや、赤ん坊を入れる保育カプセルだ。だが、子供が指先で作った円は驚くほど小さい。

 

「みたことない?C.C.(カプセルコーポレーション)のカプセルよ。手のひらに収まるくらいのやつ」

 

……薬の方か(・・・・)

 

軍の連中が、メディカルポッドを使うまでもない怪我や、特殊な病気の時に飲んでいた、あの粒。

 

そこまで考えたところでハッと思い出した。

 

前に別部隊の戦闘員が、「これひとつで翌日まで持ち越すような吐き気が帳消しになる」と薬を、カプセルを片手に自慢げに語っていた。

ということは。

 

「一緒に行く対価、ご馳走じゃなく別のがいいんだけど!」

「いいわよ、カプセル関連は物によるけど。何が欲しいの?」

 

周囲を警戒し、声のトーンを落とす。サイヤ人として、弱点を知られるのは屈辱以外の何物でもない。

できれば自分1人で解決したかったが、背に腹は代えられない。

 

少し逡巡してから重い口を開く。

 

「……酔い止め」

「よ、酔い止め?!カプセルコーポレーションよ?なんで??」

「う、うるさいな!!とにかく、今後一生、どんな揺れでも吐かないようになりたいの!無理なら食べ物でいいけど」

 

あの大猿化した時の、胃袋を丸ごと掴んで振り回されるような吐き気。

ジジイは慣れるしかないと言ったが、さっさと薬で解決できるならそれに越したことはない。

 

「そういうのは専門外……だけどこのあたしに掛ればできないってことはないわ!あなたの名前を教えてくれるならね」

「わたしはメイズ。じゃあよろしく」

 

あんなに無視していたくせに、と子供は呆れたような目で見た。

なんだその目……別に知らなくても困らないんだからいいじゃん、名前を教えるほどの人間とも思わなかったし。

 

「メイズね。……それにしても、あれほどの強さがあっても三半規管は弱いのね。やっぱり鍛えるのは難しいのかしら、それなら感覚を鈍くする、いや脳での想定と実働でズレがあるから酔う?それならそのズレを補正するような……」

 

子供はわたしの内心など知ったことない様子で何やらブツブツと呟き考え込み始めた。

 

その瞳は、先ほどまでの怯えが嘘のように、獲物を狙う獣の如く鋭く光っている。

 

「ねえ。早速考えてくれるのはいいけど、今はさっさと進んで。聞いてる?」

「……飲み薬より医療器具みたいな方が向いてる?継続して飲ませるのは面倒とはいえ安全性は……」

「全く聞いてないな……ほんと、なんなんだお前……」

「ブルマ」

「聞いてるなら歩け!!」

 

 

こいつ投げ飛ばしてやろうか。

同行者は子供っぽいんだから大人っぽいんだからよくわからない変なヤツだし──なにより少し前から、目的の気がまるで突然皆眠ったかのように、ひとつも微動だにしなくなったのが気にかかる。

 

 

この星、何かおかしい。

 

 

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