方向音痴のサイヤ人   作:

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8. よいの都

 

夕闇の中、光り輝く眠らない都市──西の都。

その一角にあるブルマ一家の邸宅にて。

 

「おかわり!」

「メイズくんだったかい?ブルマと同じくらいの歳に見えるのに、随分と気持ちのいい食べっぷりだなあ」

「今日は料理人を呼んでるけれど、次に来た時は私の手料理もご馳走するわね〜!」

「ん、食べる」

「体調が治ったそばからこんなに食べるなんて、どんな胃袋してるのよ……」

 

パオズ山の老人の懸念をよそに、わたしは元気に肉をかき込んでいた。

 

いや。

実のところ迎えのジェット機に乗ってから、この都に近づくにつれて感じ取る気配がどんどん増えていった。

あちこちで蠢く気に、吐き気はするし頭は痛い。

最悪の気分だった……のだが。

 

なんと、全てを解決するスーパーアイテムがあったのだ!

 

気の感知はそのままに、不調だけを取り除く。

それこそ、わたしがブルマをここまで運んだ理由──

 

 

──そう、酔い止め!!

 

 

「薬ってこんな凄いものだったのか!!あ、飲み物もおかわり!」

「まにあわせの市販薬だけどね。まさかあたしもここまで効くとは思ってなかったわ」

 

もう匙を置いているブルマをよそに、ひたすら運ばれてくる食べ物(報酬)を口へ放り込む。

 

「それで、どう?メイズ。あなたの要望通りの“エリート向け”の食事、お眼鏡にかなった?」

「量が少ない。なんでこんなちょっとずつなの?ここの文化か、それともエリートはみんなちまちま食べるわけ?」

 

一皿に数口の料理。

次から次へと出てはくるが、まるでつまみ食いをしている気分だ。

これがエリート向けだとしたら、少量に抑えることで忍耐力とか精密性とかを鍛えているのか。

もしくは同じものを食べ続けるより、たくさんの種類を食べた方が強くなれるんだろうか。

 

とにもかくにも、こんな少しずつでは食べた気がしない。

 

「格式張ったとこじゃ、みんなこんな感じよ。でもまあ、一皿に多いほうがいいならそう変えてもらうけど?」

「わたしはエリート候補だし、ちょっとくらい違ってもいいんじゃないかな。うん、多いのがいい!」

「な、なんかさっきから妙にテンション高いわね……まあ、そういうと思ってさっきお願いしておいたから、じきにメイズ向きの量が運ばれてくるわよ。それで、量はともかく味はどう?好きなものとかあった?」

「味?味は……まあ、悪くないね」

 

この星ではジジイの料理くらいしか食べたことがない。

それでも、母星にいた頃には考えられないほど多種多様な味付けで、心なしか料理そのものがキラキラと光って見えるほどだ。

 

 

……だが、なぜだろう。

 

不思議と、一口食べるたびにジジイの作った、ゴマの匂いが香る食事が脳裏をよぎる。

やっぱり、毒じゃないにしても何か盛られてたんだろうか。

──あ。そういやこの前食べ損ねた包子、今日作るとか言ってたような。だからか?

 

一つ頷き、次の肉へと手を伸ばす。

皿の向こう側でブルマが引き攣った笑顔を浮かべていた。

 

「……な、なかなか肥えた舌をお持ちのようね」

「舌?確かに舌なんか鍛えたことなかった。噛みちぎられることもあるかもしれないし、鍛えるか」

「そういう意味じゃないわよ!!!ていうか舌を噛みちぎられるってどんな状況?!」

「どんなって、寄生形態の敵とかいるし、普通にあり得ると思うけど。それよりこの肉おかわり」

「ぜったい普通じゃない!!はぁ、よくそんな話しながら食べられるわね。しかも、もはや食べるというか吸引だし……」

「このスープももう一杯!!」

 

 

◇◇◇

 

 

「さて、やっと食べおわったわね」

 

ブルマが空になった皿の山を見渡す。

 

「……あの量がどこに消えたのかも気になるところだけど。とりあえず、さっそく測定しとく?」

「測定?」

「メイズ専用の酔い止め薬を作るの!体重とか体質とか、ちゃんとデータを取って調整すれば、市販のよりずっと効くはず」

「……今から?」

「もちろん!!既製品はあるけど、あたしの命を救った報酬なんだから、せめてオーダーメイドにするわよ。薬に詳しい従業員は捕まえてあるから、今日明日でデータを整理して、成分や副作用を調べて──」

 

「ダメだ!!!」

 

次々と計画を並び立てるブルマに、思わず待ったをかける。

 

「それじゃ包子が食べられないじゃん!!」

「え?包子?」

「今日の夕飯は包子の日だから、もう戻る」

「ちょっと待った。さっき食べたのは?」

「おやつ」

「あれで?!!!何人前食べたと思ってるのよ?!」

「半人前」

 

信じられない……と唖然としているブルマだが、こっちのセリフだ。

唖然とするブルマをよそに立ち上がり、扉へと足を進めると、ブルマの母親が扉を開けながら微笑む。

 

「メイズちゃん〜?食べ足りないようなら包めるけれど、いかが?」

「いらない。夕飯あるから」

「ち、ちょっと!待ちなさいよ」

「あらあら、ブルマちゃんたら。お友達が帰っちゃうのが寂しいのかしら?」

「は、はぁ?! 何言ってるのママ! ち、違うから!」

「オトモ……ダチ?いや、わたしはメイズだけど?」

「一緒に遊んだり、美味しいものを食べたりしたんでしょう?それをお友達っていうのよ〜」

「ちょっと!!また適当なこと言ってーー!!!」

 

一緒に遊んだり、美味しいものを食べたり。

 

……あ。

 

「オトモダチって、お供達ってことか」

 

供ね。

メディカルポットがない今、薬屋を手元に置くのは今後色々と役立ちそうだ。

ふむ。

 

「わたしはブルマのとも()じゃないが、ブルマはわたしのとも()にしてやってもいい」

「なっ……!」

 

ブルマが一瞬目を丸くする。

 

「……う、上から目線なのは気に食わないけど、そういう風に言われるとあたしが冷酷なやつみたいじゃない。なるわよ、友達!!」

「あら!やったわね、ブルマちゃん」

 

初めてのお供!

そういや、前に知り合いが『王子のお供なんぞ、色々任されて面倒でしかない』とか言ってたな。

 

……なるほど。楽しみだ。

 

「じゃ、今日からブルマは供ね。とりあえずこの市販薬?の酔い止めもらっていくから。足りなかったらまたもらいにくる」

「ああ、うん……って、あんたは何勝手に帰ろうとしてんのよ!!専用のはどうするの?!」

「今は急ぎだから無理」

「ぱ、包子に負けた……!」

 

ブルマが崩れ落ちる。

 

「……くっ。それならせめて、うちのジェットで送っていくわよ!居住区は?」

「ブルマと会った場所からしばらく走ったところ」

「走ってって……あの速度で?!そんなの範囲広すぎるじゃない!!何、じゃあ今あなた迷子なの?!」

「迷子じゃない!適当に飛んでいけば、そのうち着くし!!」

「あ〜……そういえば飛べるんだったわね……」

 

ブルマが何かを思いついたように目を光らせる。

 

「ねえ、ついでにどういう仕組みで飛んでるのか、少しだけ測定して──」

 

まずい!

 

ここは相手のホームだ。

器具が揃っているから何をされるかわかったものじゃない。

 

素早く窓枠に足をかける。

 

「て、適当なタイミングでこっち来るから! じゃ!」

「あっ、ちょっとメイズ!待ちなさいよ!!!ちょびっとエネルギー波測定するだけ、痛くしないから!お菓子あげるから……」

 

 

◇◇◇

 

 

ブルマの家を飛び出した勢いそのまま、夜の都を飛び抜ける。

ぐんぐん遠ざかる街並みが闇の中でチカチカ煌めいて、宇宙船の窓から見た星の海のようだった。

 

途中で海に出てしまうこともあったが、そのたび近くの人間にパオズ山の方向を聞いては飛び立つ。

そうして背後へ流れていく、いくつもの小さな気の塊たちを見送り──

 

 

──やがて、人の気配がまばらになってきた頃。

ようやく見覚えのある二つの気を掴んだ。

 

そのまま気配の元へ飛び込む。

 

「夕飯!!!」

 

「メイズ、戻ったのか!おかえり。まずは挨拶からじゃろう」

「戻った!!えっと、タ……タダイマ?わたしの包子は?!」

「よし。今、蒸しとるから少し待っとれ」

 

そう言うジジイの視線の先では、籠が火にかかっている。

もちろん、その中にはあの白くてふわふわで丸い包子が詰まっているのだ。

生地の匂いがふわりと香り、食欲をそそる。

 

「やった、間に合ったぁぁぁ〜〜!!!」

「な、なんじゃ?そんなに食べたかったのか?」

「ハッ!?いや、別に!鍛錬の一環だから、逃さないように急いだだけ!夕飯まだだったから!!」

「そ、そうか……?」

 

そうでしかないに決まってる。あまり気にするんじゃない。

包子まだかな。

 

「それにしても、随分と遅かったがどこ行ってたんじゃ?」

「えっと、山と西の都と海」

「ほうほう、山と西の都と……」

 

ジジイの顔が固まる。

 

「西の都?!!な、なぜそんな遠くに……! 迷ったにしても遠すぎるじゃろう?!」

「迷ってない!迷子を送ってやったんだよ」

 

すごいだろ、と胸を張る。

 

なんだかやたらと気分が良い。

薬のおかげで不快感がないせいか、なんでも楽しくて、掴み損ねた箸が転がるだけでも不思議と笑えてくる。

 

ていうかブルマ、西の都からこっちに来てたんだろう。

もしかして包子目当てか?ふふ、わたしの包子を食べるつもりだったのか。

許せん。

 

「なんと!それは良いことじゃな」

 

ジジイは嬉しそうに笑った。

 

「ふむ、西の都か……見たところ、そこまで体調は悪そうには見えんが、大丈夫じゃったか?」

「あー、それ!なんで教えてくれなかったの!気が多くて怠かったよ。まあ薬で治ったけど!」

「薬?!誰に、何のじゃ?!」

「ブルマ……あー、わたしの供で、迷子だったやつ。送り届けたら酔い止めが報酬で、包子はやらなくていいから!」

「友?!あのメイズに!……ん?包子?」

「包子はわたしので、測定するとかめんどうだから薬ももらったし、夕飯食べるから帰るって」

 

そうだ、薬。

どこにしまったっけ?

 

あれ。

 

えっと。

包子がそこに、ん?

 

「包子の籠が二つに増えてる……いや、みっつだ」

「籠が……?何を言っとるんじゃ?」

 

まて。

なんか、考えがまとまらない。

ジジイの言葉が、やけに遠く反響する。

 

足元が崩れて……いや、わたしが傾いている?

 

視界の端がぐにゃりと歪む。

いつの間にか、地面がすぐそこに──

 

 

「メイズ!!?」

 

 

ジジイの声が遠ざかる。

 

「大丈夫か!?一体何がっ……

 

……な、なんと。寝ておる」

 

 

そのまま意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日──昼過ぎ。

 

 

「……ん……?」

 

眩しい光に目を覚ますと、目の前には空っぽの皿が転がっていた。

記憶をたどる。

 

西の都を飛び出し、包子を待つ間にジジイと話し……

 

いや、待て。

わたし、昨日の夜、なんて言った……?

 

「ブルマはわたしの供で……包子は渡さない……?」

 

頭を抱えて床を転げ回る。

 

なんだ、あの支離滅裂な発言は?!

明らかにおかしい。どうかしていたのか?!

そんな変なことなんか何も、あ。

 

もしや、貰った薬の……いや、そんなまさか!

 

あれはわたしの悩みを解決してくれるアイテムのはずだ。

きっと都の気の濁流の影響であって、薬のせいなんかじゃない……!

 

「おや、起きたのかのう」

 

声に振り向く。

ジジイが呆れたような顔でこちらを見ていた。

 

「まったく、もう昼じゃぞ?昨夜は急にバッタリ倒れるし、寝言は変じゃし。何か変なものでも食ってきたんか?ほれ、残りの包子」

 

そう言って差し出してきたのは、すっかり冷めかけた包子が一つ乗った皿。

 

「って、もっとあったよね?!他のはどうしたのさ!?」

「ああ、お主がいつまでも起きんから、悟空が全部食べちまったぞ」

「また?!!おいこらゴクウ!!!」

「……ん?これもたべていいんか?」

「違う!それはわたしの……あ、ダメだってーーー!!!」

 

こうして、奇妙な出会いと共に、わたしのちょっと長い散歩は幕を閉じた。

 

 

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