鬱ゲー世界の魔法少女たちを助けるために俺ができる幾つかのこと   作:それは違うよ!

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その黒幕は恋をする

 幾度となく、ぼくは見てきた。

 苦悩に悩まされ、絶望を嘗めて、その度に命を散らしてきた大切なお友達のことを。

 今までに繰り返してきた「今日」が、三百六十五回目であることを知っている人は、多分、いない。

 

 ……魔法少女の話をしよう。

 異世界と信じられている空間と、この地球を繋ぐ空間裂傷から生まれる化け物、「侵蝕獣」と戦うための力を得た、十代前半から後半の──思春期真っ只中な女の子たち。

 空間裂傷から噴き出す特殊な星間物質を「魔力」に変換して戦う、世界の守り手を指して人は呼ぶ。

 

 だけど、「世界の守り手」なんてものは、表向きの話と立場でしかない。

 特殊な星間物質と肉体が適合できるのは、思春期の女の子しかいない、というありふれた事情で、最前線の鉄火場に送られる、ダミー・ボーイもといダミー・ガール。

 よほどのことがない限り、今日は何人死んだなあ、明日は何人生きて帰ってくるかなあ、レベルの扱いを受けているのが、魔法少女の実情だった。

 

 そして、戦いの果てに魔法少女を待ち受ける運命は、おしなべて過酷で、残酷なものだ。

 

 だから、もういいかなって。

 このまま戦い続けても、世界にもぼくたちにも明日はない。

 だったら、ぼくは。ぼくが大好きな人たちのためだけに、この魔法を使い続けようと──そう、思っていたはずなのに。

 

 三百六十六回目として目覚めた朝に、あなたが声をかけてくれなければ、ぼくは、いつもと同じ繰り返しを選べたんだろうか。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「おはよう、今日も奉仕活動なんて随分と気が利くね」

 

 多分、俺は死んだ。

 いや、多分もなにもないんだけども、冷静に今の状況を俯瞰するなら、そういうことになる。

 まず、暦が違っている。なんだよ新西暦百八十三年って。

 

 西暦に新の文字がつくなんて、寝過ごしたにしては、あまりにも時間が経過しすぎている。

 そして、よくいえば中肉中背、悪くいえば少し腹が出始めてきたオタク体型は引き締まったガチムチ細マッチョになっていて、野暮ったかった髪型はきっちりした角刈りだ。

 朝起きて鏡で自分の顔を見たとき、気絶しそうになったもんな。俺が嫌いな体育会系のテンプレイメージそのままだったんだから。

 

 で、まあ俺がきっと、ろくでもない死に方をして、転生なるものを経験したのだという確信に至った理由なんだけど、それは今し方声をかけた、「この子」がいたからだった。

 

「桜木ノアさんだよね、いつも奉仕活動してくれてる」

「……は、はい。でもどうして管理官さんは、ぼくの名前を……?」

 

 確認するように名前を呼ぶと、桜色の髪の毛先に濃いピンクのグラデーションがかかっているのが印象的な、赤い瞳の少女──桜木ノアは、警戒心も露わに問い返してきた。

 ああ、そうか。

 確信が更に深まっていく。俺は、「管理官」という役割を与えられた──単なるモブだ。

 

 ありふれた言い方をするなら、俺の前世にはとある伝説のゲームがあった。

 伝説に語り継がれるクソゲーこと、「魔法少女マギカ⭐︎ドラグーンZwei」。

 プレイヤーの行動次第で分岐するマルチエンディングシステムを採用していながら、バッドエンドしか存在せず、数多のプレイヤーの心をへし折り続けてきただけでなく、トゥルーエンドに至るまで一片の救いもないそのシナリオ構成は、やり込むほどにプレイヤーを憤死させる代物だったことは、今でもはっきりと思い出せる。

 

「一応管理官だからね、直轄の魔法少女の名前ぐらいは覚えておくのが仕事だから」

「……で、でも……昨日まで、ぼくたちのことを、管理官さんは『特務少尉』って……」

「ああ、気にしてたらごめんよ。まだ全員の名前と顔が一致したわけじゃなかったからさ」

 

 俺は、桜木ノアから向けられる疑問をのらりくらりとかわしながらも、内心では冷や汗をかいていた。

 あぶねー。

 よりにもよって原作前開始といっても、本当に直前も直前だったのかよ。

 

「か、管理官さんは……」

 

 桜木ノアがなにかを口に出そうとしてもごもごと言い淀む。

 まあそりゃそうだろうな。

 昨日の昨日まで自分たちを消耗品扱いしていた立場の人間が、いきなり手のひらを返したように優しくなっているんだから、疑いもする。

 

 問題は、俺の予想が正しければ、そんな瑣末なことに考えを割いていられる時間は、もう残っていないことだった。

 

「……ッ!」

「桜木さん」

「……き、来ます。五分後に……とてつもなく大きな、侵触獣が……!」

 

 桜木ノアは魔法少女だ。

 未知の星間物質「エーテルライト」に適合し、地球を支配する物理法則から外れた力を行使できる特異存在。

 それゆえに、国連からは管理対象として扱われ、隔離された国連軍の基地で一日を過ごしている。

 

 彼女の固有魔法は、任意では起動できず、突発的に発生する「五分後の未来を見ること」──だから、仲間であるはずの魔法少女たちからは「最弱の無能」という汚名を着せられているのだ。

 

 そして、この横須賀基地の八割を壊滅させる侵食獣の出現こそが、「魔法少女マギカ⭐︎ドラグーンZwei」のチュートリアルだった。

 ……ちなみに俺こと、名もなき管理官は原作だとそいつの攻撃に巻き込まれて死ぬ。

 まあそりゃそうだ。さっき桜木ノアと会ったのだって、原作では「草むしりしかできない無能は基地の外でも走ってこい」みたいな嫌味を言うシーンだったからな。

 

「……って、俺死ぬの!? 冗談じゃないんだが!?」

 

 よもや転生して数時間で、二度目の死が待っているとか冗談じゃない。

 しかも五分後に。

 これがあと数時間とかだったら対処のしようもあるものの、五分て。

 

 湯戻し長めのカップラーメンを最後の晩餐にすることぐらいしか思い浮かばない。

 えっ、こんな状況からでも入れる保険が。

 ──ないわけじゃあないんだな、これが。

 

 不幸中の幸いとでもいうべきか、俺は前世で「魔法少女マギカ⭐︎ドラグーンZwei」を三千時間ほどやり込んだ廃人だった。

 まあ三千時間やりこんでもハッピーエンドは見つからなかったんですけどね。殺すぞ。

 重箱の隅から隅まで突き倒してもバッドエンドしか出てこないって、教えはどうなってんだ教えは。

 

「か、管理官さん……? なんだか、顔が、怖いですけど……だ、大丈夫、ですか……?」

「ああ、うん。これは発作みたいなものだから……心配してくれてありがとう。今から部隊を編成して対象の迎撃に当たるよ」

 

 原作だと桜木ノアを過小評価するあまり自分の身を滅ぼしたのが管理官くんの辿った末路だったが、幸い今は中身が違う。

 チュートリアルで頼れる先輩が瀕死になって爆散し、基地の八割が壊滅するような未来は、絶対に回避してみせる。

 シンプルにデカい、五十メートルクラスの巨体を誇る侵蝕獣「ダイダラボッチ」はチュートリアルにして史上最悪の詰みゲーと名高いが──実は、内部的にはバッドエンド直行のイベントスチルを踏むことなく倒せるように設計されているのだから。

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