鬱ゲー世界の魔法少女たちを助けるために俺ができる幾つかのこと 作:それは違うよ!
『空間裂傷警報発令! 市民の皆様はすぐにお近くのシェルターまで避難してください!』
『大分デカいぞ、今回のは……!』
『エーテルメイル隊はいつでも出撃できるようにしておけ! 魔法少女も第一種戦闘配備で待機だ!』
基地の内部は、俺が桜木ノアの「予言」を伝えたことでてんやわんやだった。
五分後の未来しか予知できない彼女の魔法だが、逆にいえば五分は侵蝕獣に対する備えができるということだ。
桜木ノアが作ってくれた五分間が、俺たちの生死を分けるということでもある。
「エーテルプラズマエンジン起動、EM-J083『
全長約四メートル前後の、箱に手足をつけたようなロボのクソ狭いコックピットの中で、俺は管制塔に向けて声を上げていた。
なにも、魔法少女に頼るだけが国連軍のやり方ではない。
ゲーム中でもしばしば言及されるが、異世界から地球にやってきたオーバーテクノロジーであるところのエーテルライトを、適合できない人間でも使えるように考えて作られたのが、この箱ロボこと「エーテルメイル」、通称EMだ。
まあゲーム本編では、大体前座として出てきてやられる雑魚なんですけどね。
とにかく、俺が今できることはこの箱ロボを操って、桜木ノアが予言したチュートリアルの詰みポイント──「ダイダラボッチ」を犠牲なしで倒す。
それだけだ。
「成田大佐、ご武運を!」
「成田……あ、俺のこと?」
「この非常時になにを気の抜けたこと言ってるんですか!?」
整備士の三つ編みねーちゃん──名前は知らない──からは怒られてしまった。
どうやら俺は国連軍の中でもそこそこの立場で、名前は成田というらしい。
あとでドッグタグとか個人データとか、こっそり確認しておかないとな。
「隊長、寝ぼけてるんですかい」
「こちらも発進準備できています、いつでも行けます!」
「了解! EM隊はまず予言のデカブツを足止めする、俺に続け!」
ゲーム中では魔法少女を操作して戦っていたものの、EMの操縦技術は、操縦桿を握っただけで、あくまでも成田が覚えている範囲で、俺の身体にフィードバックされているのがわかる。
あとは、前世で似たような操縦システムのロボゲーを嗜んだこともあるから、メカを動かすことに不安はない。
問題があるとするなら、「ダイダラボッチ」を倒すためには横須賀基地に配備されている最新型のEM、「颯風」十機でも足りないことだ。
「桜木ノア……管理番号十三番、特務少尉の予言では、敵はとんでもないデカブツだ! 航空支援も絶やすなよ! とにかく敵を磔にしてやるんだ!」
『了解!』
慌ただしく、スクランブルがかかった航空隊や戦車隊も俺の率いるEM部隊に続く形で、空間裂傷が発生しているポイントへ急行していく。
ダイダラボッチが「倒せない」と評されているのは、圧倒的なタフネスと、設定ミスかってぐらい異常な再生能力がゆえだ。
おかげで管理番号一番──最強の魔法少女と名高い「譲葉アンジュ」が自分の命と横須賀基地の八割と引き換えに自爆魔法で道連れにするという洗礼をプレイヤーに受けさせるわけなのだが。
「冗談じゃない。俺は自分が死ぬのも推しが死ぬのも耐えられないんだよ」
操縦桿を握りしめて呟く。
要するに。
めちゃくちゃコストと時間はかかるけど、魔法少女たちと国連軍が総力を尽くして攻撃し続ければ、ダイダラボッチは殺せるということだ。
ゲームじゃなんでそれが叶わなかったのかといえば答えは単純明快、指揮官である俺が死んだからだ。
指揮系統を失った中でも侵蝕獣ダイダラボッチと戦い続けた魔法少女たちは大したものだ。本当に。
要するに俺が死なずになんとか頑張ってダイダラボッチに火力を集中させ続ければ、勝てる。
つまりは、そういうことだ。
『空間裂傷、拡大していきます!』
『横須賀市中心部に侵蝕獣反応あり! これは……とてつもなく巨大です!』
それはそうだろ、五十メートルあるんだから。
恐らく日本で一番有名なロボアニメの元祖白い機体だって十八メートル、大体ビルの三階ぐらいだってのに。
その二倍以上あるんだからそりゃデカい。
「航空支援!」
『あ、あのデカブツに近寄れってんですか!?』
「お前の戦闘機はなんのために空対地ミサイル積んでるんだ!? やるんだよ!」
『は、はい!』
航空隊が爆撃を開始するのに合わせて、俺たちEM隊もバックパックに装備したミサイルランチャーの照準をダイダラボッチに固定、手持ちのアサルトライフルと合わせて総火力を叩き込んでいく。
これでダイダラボッチが持ってるバリアを突き破れればいいんだけど、無理筋だろう。
EMは確かに魔法少女だけに戦いを強いることがないようにと開発された、人類の願いの結晶だ。
だが、この世界の主役は俺たちのような軍人じゃなく、可憐な魔法少女たちだ。
せめて。
せめて彼女たちが到着するまでの間に、ダイダラボッチに少しでも手傷を負わせるのが、軍人としての俺たちの役目だった。
『魔法少女現着! 管理番号一番と二番、四番です!』
俺たちがダイダラボッチ相手にドンパチやっている間に、魔法少女もドレスアップを終えたらしい。
最優の魔法少女と次席、そしてことサポートにおいては事欠かない四番手。バックアップは万全だ。
本来のルートならここで最優の魔法少女── 葉アンジュが単騎で凸って死んでたっていうのがまずシナリオの正気を疑うな。
『管理官、本当にわたしの「星の聖剣」を解き放っても問題ないの!?』
『私とアンジュの最大魔法に、支援魔法までつけて二発叩き込むなんて……これじゃ、市街地が焦土になりますよ!?』
肩で風を切って現れた二人の魔法少女──緑髪碧眼の、まるでロールプレイングゲームに出てくる勇者みたいな格好をした最優の魔法少女、譲葉アンジュと、黒髪赤目が特徴的で、スレンダーな印象が強い次席の魔法少女、
「問題ない! 敵は恐らく強力な再生能力を持っている、住人の避難誘導も済んだ。ここで最大火力をぶつけてあの侵蝕獣を倒さなければ、より大きな被害が出る!」
『そういうことならよしきた承認っ! さあ、「
良くも悪くもアンジュは突っ走るタイプの魔法少女だから、許可が降りればやってくれると思っていたけど、その通りだった。
『……それが正しい判断ならば、承知しました。魔力解放承認、「秋水」、私の願いと魔力に応えよ──!』
アンジュはゲームに出てきそうな「勇者の剣」がそのまま実体化したような剣を、フタバは刃紋が揺れる水面を思わせる、冷たい輝きを放つ刀を抜き放ち、魔力を集中させていく。
「管理番号四番による支援も確認した! ぶちかませ!」
『言われなくても!』
国連軍、それも日本に派遣されている部隊が擁する中でも最強格の魔法少女二人が振り下ろした斬撃が、バリアを消耗していたダイダラボッチへと突き刺さる。
身悶え、雄叫びを上げるダイダラボッチの体は光と水の魔力をぶつけられて塵へと還っていくが、まだだ。
まだ、殺し切れてはいない。
「バンカーバスター!」
『了解、投下します!』
バリアを剥がされて剥き出しになっているダイダラボッチの肉体に、人類が生み出した中でも最悪の部類に入る兵器が突き刺さり、起爆した。
これで殺し切れたはずだろう。
侵蝕獣は基本的に核を持つ生き物……かどうかはわからないが、そういう性質を持っている。
今回俺が用意した作戦は、まず地上戦力と航空戦力で連携しつつバリアを消耗、続いてアンジュの魔法でバリアを破壊して、フタバの魔法で本体にダメージを与えた上でさらにバンカーバスターを核へと叩き込むという四段構えだった。
これなら、ダイダラボッチを殺し切れると踏んでの算段だった。
ダイダラボッチは、ほとんど破損した核が露出している肉塊のような状態になっているが。
『肉塊が、急速に再生を!?』
『化け物……っ!』
それでも、コアがある程度無事なら残った部分から再生していくらしい。
いや、最強格の魔法少女二人の魔法とバンカーバスターの直撃を喰らって生きてるってなんだよ。
こうなったらもうやぶれかぶれだ、やるしかない。
「ソニックブレード展開! こいつで……割れろぉぉぉっ!」
俺はEM「颯風」の腰部に装備されているソニックブレードを展開し、背部ミサイルランチャーをパージして跳躍。
そして、そのままスラスターを噴かして姿勢制御を保ちつつ、ダイダラボッチの核へとブレードを全力で突き立てた。
再生途中の生肉がじゅるじゅると蠢いて機体に絡みついてくるのは最高に気持ち悪かったけど。
ぱりん、と音を立てて核が崩壊すると、そのままダイダラボッチの肉体は砂になって崩れていく。
「はは……やった、やったぞ!」
街に対する被害はともかくとして、犠牲者を一人も出すことなく詰みポイントのチュートリアルを乗り切ったことに、俺は年甲斐もなく歓喜の声を上げていた。