鬱ゲー世界の魔法少女たちを助けるために俺ができる幾つかのこと   作:それは違うよ!

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桜木ノアの地位向上計画

 基地に帰ってわかったことは、俺の名前が「成田代悟」であったことと、想像以上に桜木ノアの境遇が最悪だったことだった。

 

「桜木ノアは同期の魔法少女を含めた基地の人間から日常的に暴力、ハラスメント行為を受けている、か……」

 

 調査結果は、魔法少女のメンタルを安定させるために常駐してもらっているカウンセラーの先生に、無理を言って取り寄せたものだ。

 本来は守秘義務があるから、おいそれと外部には提出できないものだけどそこはそれ、大佐としての権力を少しだけ濫用させてもらった。

 ちなみにこのカウンセラーさんはノアの唯一といっていい心の拠り所だったらしいけど、本来ならダイダラボッチの襲撃に巻き込まれて死んでいる。人の心とかないんか?

 

「とにかく、ノアの有用性を示すことが一番の地位向上に繋がるのは確かだな」

 

 ノアのおかげでダイダラボッチを撃破することができた、というのはあくまでも今は俺目線の情報でしかない。

 客観的に、彼女が用意してくれる「災厄までの五分間」の重要性を示し続けてようやく、有用性が示されるのだ。

 それまでに俺がやっておかなきゃいけないのは、ノアと周りとの関係改善と、あとは信頼関係の構築か。

 

 ……いや、無理じゃねぇ?

 

「ただでさえフタバには睨まれてるし、昨日の今日でとった行動が真逆だからアンジュたちにも怪しまれている……と考えると、どこの誰から信頼関係を築いていくべきか」

 

 昨日の今日まで魔法少女たちを道具扱いしていたらしい俺に対する信頼を回復する方法があるなら教えてくれ。

 好感度ゼロを通り越してマイナスだよ。

 とりあえずは心を落ち着けるためにも散歩でもするか、基地内の。

 

 椅子から立ち上がって、歩き出す。

 部屋を出て、すれ違った基地の人員たちからは敬礼で見送られるけど、本心がどこにあるのかわからない仕草は苦手だ。

 立場上コミュニケーションバリバリいけますよ、みたいな面はしているものの、前世は真逆の廃人コミュ障だったんだから余計に胃が痛む。

 

 ふらふらと当てもなく歩いているうちに辿り着いたのは、魔法少女たちが一日を過ごしている「管理庫」と呼ばれる施設だった。

 昨日、ノアと出会った場所でもある。

 魔法少女の誰かが作った、大規模家庭菜園の雑草を、今日もノアは健気に引っこ抜いてはゴミ袋に詰め込んでいた。

 

「精が出るね」

「……あ、あわわ。か、管理官さん……!」

「そんなに緊張しなくていいよ、俺の方が参っちまいそうだからさ」

 

 真っ白ですべすべな肌を、土の汚れに染めながら雑草を抜いていたノアは、恥ずかしいところを見せてしまったとばかりに制服の裾で拭った。

 

「ハンカチ、貸そうか?」

「えっあっ、ご、ごめんなさい。ぼく、制服、汚して……」

「制服もハンカチも支給品だから、クリーニング申請出してくれれば洗ってくれるし、予備もあるから大丈夫だよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 ノアは俺が手渡したハンカチで土汚れを拭うと、少し居心地が悪そうに、煉瓦造りのプランターへと腰掛けた。

 

「か、管理官さんは……急に優しく……あっごめんなさい、その、ぼく、管理官さんを疑ってるわけじゃなくてっ!」

「ああうん、まあ……色々思うところがあったっていうのと、前の戦いじゃ君の魔法に助けられたからね」

「……ぼくの、魔法?」

「たった五分だったかもしれない。でも、その五分が俺たちの未来を分けた。事前に準備ができるって意味では、ノアが作ってくれた時間の意義は大きいよ」

「……ぼ、ぼくの魔法は、皆みたいに戦いで役に立てる魔法じゃないです。なんなら、全然ダメダメで、だから、皆から……」

 

 ノアは、落ち込んだ様子で人差し指同士を突き合わせた。

 確かに五分であれこれ設備を確かめた上で作戦を練ることができたのも、ダイダラボッチをメタることができたのも、原作という前提を知っている俺の前世知識ありきでの話だ。

 普通は五分前にとてつもない規模の敵襲があります、と言われたって、どうにもならない。

 

「カウンセラーの先生に、周りのことについての相談はできている?」

「あっえっ、そ、それは……はい……」

「そうか、ならよかった。でも、ノア。この前の特異個体──『ダイダラボッチ』を倒せたのは間違いなく君の力のおかげだよ。そこは忘れないでいてほしいな」

 

 だとしても、無理難題をなんとかできたなら、間違いなくそれは成果といえる。

 

「ぼ、ぼくの……力……」

「遅いではないか、桜木ノア! なにをサボっておるのだ!」

 

 がちゃり、と管理庫の内部に通じる扉が開かれたかと思えば、現れたのは昨日、後方でアンジュとフタバに補助魔法をかけてもらっていた管理番号四番──柊木コユキが、枕を小脇に抱えながら頬を膨らませて飛び出してきた。

 

「ご、ごめんね、コユキちゃん……!」

「柊コユキ、管理番号四番」

 

 俺は確認するように、彼女の名前を口に出す。

 ふわふわの、雪か雲を糸に紡いで作ったような髪の毛に、長い前髪で片目が隠れた群青色の瞳の魔法少女だった。

 低い背丈と、袖の辺りが完全に余ったダボダボな制服。そのくせ胸の辺りはやたら張り出しているから、シルエットが完全にてるてる坊主みたいなことになっている。

 

「おやおや、人が変わったと噂の管理官殿……今日もわがはいに出撃命令でも?」

 

 どことなく尊大で、こっちを信頼していないことが伺える──悪くいえば、「舐め」が感じられる口調で、柊木コユキは答えた。

 

「いや、別に。大した用事はないよ。ところでこの家庭菜園は、君が作ったのか? 申請書の類は確認できていないけど」

「い、いかにもわがはいが作ったものだが……?」

 

 少しだけ大人としての「圧」をかけた問いかけにビビったのか、コユキは微かに後ずさった。

 

「そっか。別に申請とかはどうでもいいんだけどね。自分で作ったものの管理を他人任せにしすぎているのは、よくないよ」

「この農園はわがはいのもので、か、管理官殿が踏み入る事情では……!」

「魔法少女の管理と運用が俺の仕事だからね。一応これも任務の範囲さ」

「うっ……」

「管理官、さん……」

 

 それとなく釘を刺しておけば、ノアが毎日のように雑草を抜いたり奉仕活動をしたりすることはなくなる……とまでは言わなくとも、そこにプレッシャーが生じるようになる。

 いずれは農園をコユキ自身が管理できるようになるのが望ましいけども、今はそれだけで十分だ。

 少しずつ、刻んでいく。物事は焦ってどうにかなるものじゃない。

 

「せっかくきたんだ、少しはノアのことを手伝ってあげるといい。ゴミ袋を焼却炉まで持っていくとか、さ」

「……それは、管理官殿の命令であるか?」

「お願い、といったところかな」

「こ、断れば?」

「別に俺は直接どうこうしないよ。でも、ノアは悲しい気持ちになるんじゃないかな」

 

 これだけ圧をかけていれば、まあなんとかなるだろう。

 現に、頬を膨らませつつもコユキはゴミ袋を抱えてとてとてと走り去っていった。

 今は少しでもノアに寄り添って立場を少しずつ向上させていく。それが重要だ。

 

 そしてゆくゆくは、現状ではあまり仲良くない魔法少女たちが全員一丸となって、ハッピーエンドを目指して突き進んでくれるようになればいいわけだからな。

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