鬱ゲー世界の魔法少女たちを助けるために俺ができる幾つかのこと   作:それは違うよ!

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人類に逃げ場なし

 なぜ俺が桜木ノアと他の魔法少女の融和を試みているかについては、彼女が「魔法少女マギカ⭐︎ドラグーンZwei」のキーパーソンだというのもあるし、素朴な同情もある。

 ただ、喫緊の問題として考えられることとしては、俺たちはまだチュートリアルを乗り切った段階でしかない、ということだ。

 チュートリアルが終わればなにが始まる?

 

 答えは第一ステージの攻略だ。

 チュートリアルが畜生難易度だったから流石に第一ステージぐらいは手加減してくれるだろうと考えていた時期が俺にもあった。

 だがこのクソゲーは、全方位に渡ってプレイヤーの神経を逆撫ですることに余念がない。

 

 つまり、第一ステージも安心と信頼の畜生難易度だということだ。

 泣けてくる。

 一応、チュートリアルでアンジュが死ななかったことと、横須賀基地が無事だったから、想定通りの敵が来るのなら、なんとかなりそうだが。

 

「人類に逃げ場なし、か」

 

 今日も家庭菜園の草むしりをしているノアと、俺から釘を刺されたことがよっぽど堪えたのか、ゴミ袋を抱えてとてとてと焼却炉に向かっていくコユキの姿を観察しつつ、溜息をつく。

 そもそも、空間裂傷はどうして発生したのかだとか、空間裂傷の向こう側にはなにがあるのかといった重要な情報はゲーム中で一切プレイヤーに開示されない。

 

「あっ、コユキちゃんがいないと思ったらこんなところにいたんですね! 管理官!」

「譲葉アンジュか」

 

 この世界をハッピーエンドに導くためにはそもそも空間裂傷が解消される必要があるのに、その方法は設定資料集にも書かれていないという有様だ。

 だから、頭を抱える他にない──と、二度目のため息をついていたときだった。

 最優の魔法少女こと、アンジュが声をかけてきたのは。

 

「農園の手入れはノアちゃんの仕事じゃないんですか?  なんでコユキちゃんが手伝ってるんですか?」

「手伝っているというか、ゴミ出しぐらい自主的にやるようになっただけだよ」

「ふーん……? それって、管理官の入れ知恵とかじゃなく、ですか?」

「誰の入れ知恵であろうと、やると決めたのはコユキ自身だよ」

「……そーですか」

 

 人当たりが良さそうなアンジュも、少なからず「戦う力を持たない魔法少女」であるノアには嫌悪感を抱いているようだ。

 まずいな。

 こっちとしては一刻も早く結束してもらいたいのだが、俺の介入が願望を結果的に遠ざけている可能性も考慮しなきゃいけない。

 

 いや、でもここはアンジュの興味をノアに惹きつけておくべきだろう。

 きっかけがないまま、周りだけが先に進んでいくと焦りや遅れを感じて間違った方向に突っ走ってしまうことはままあるからな。

 そこで俺は、去っていこうとするアンジュの背中を引き留めるように、わざとらしく呟いた。

 

「そういえばさ」

「なんですか、司令官?」

「この前の『ダイダラボッチ』の襲撃はノアの未来観測がなければ、今より遥かに大きな被害が出ていたって話が会議に上がっててね」

「あはは、それって司令官が用意周到だったからじゃないですか。だって、たった五分でEMや戦闘機をスクランブルさせられないですよ」

「そうだね、『ダイダラボッチ』が来ることを知っていなければ、できなかったことだ」

 

 俺の言葉に、アンジュは一瞬だけ、不快さを露わにするように眉を吊り上げた。

 

「無理に仲良くなれ、なんてことは言わないよ。でも、俺たちは仲間だ。同じ利益を追求するために結成された集団だ。それだけは忘れないでいてほしいな」

「あはは、肝に銘じておきますねっ」

 

 答えたアンジュの目は、全く笑っていなかった。

 それもそうか。

 今は釘を刺しておくだけでいい。それがなにかのきっかけにさえなってくれれば。

 

「か、管理官さん……っ!」

 

 手にしていた雑草をゴミ袋に放り投げてから、ひどく顔を青ざめさせたノアが駆け寄ってきた。

 恐らく、これは。

 手元の端末でスクランブル要請を基地全土に展開し、いつでも戦闘体制に入れる準備をしておく。

 

「落ち着いて、ノア。なにが見えたの?」

「す、スライム……ゲームの可愛らしい方じゃなくて、気持ち悪い方が、川から無限に増殖して……」

 

 来たか。

 過呼吸気味なノアの背中をさすりつつ、俺は唇を引き締めた。

 侵蝕獣「ジェリーム」。ゲームにおける第一ステージのボスにして、攻撃を受けると分裂するだけでなく、水に接触していると際限なく増殖していく能力持ちのキショいやつだ。

 

「仕方ない……管理番号三番、橘ユウカに出撃要請を。それと、今回の戦いでも管理番号四番、柊木コユキは橘ユウカのバックアップを。航空支援は頼めないな……ノア、どこの川とか具体的にわかる?」

「さ、相模川……空間裂傷の位置は、ひ、平塚市、です……」

「ありがとう。あとは俺たちがなんとかするよ」

 

 後五分で横須賀基地から平塚市までEMを飛ばすには、緊急射出ブースターの使用が不可欠だ。

 

「聞いたね、アンジュ! フタバにも伝えておいてほしい! 後五分で平塚市の相模川に向かってもらう! 敵は恐らく増殖能力と分裂能力を持っていることが予測される! 迅速に対処しないとまずいことになるぞ!」

「了解しました、司令官! それじゃあ今日も、『最優』の力を見せつけちゃいますよ!」

 

 自信があるのはいいことだが、少し過剰すぎるきらいがあるな、アンジュは。

 しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。

 諸々の申請をこっちの権限で勝手に承諾、そのまま俺たちは、様々な手段を用いて、全力で平塚市へと急行した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『うへ〜、きっしょ……あんなのと戦いたくないなぁ……』

『正直に言えば、アンジュ。あなたに同意しますが、戦うしかありません! それが正しいことなのですから!』

『フタバはああいうの平気なんだ……わたしは無理ぃ……』

 

 アンジュがぼやいた通り、侵蝕獣「ジェリーム」はまるでスライムにムンクの叫びみたいな顔を貼り付けたような容貌で、相模川の水源に根差すことで増殖と分裂を繰り返していた。

 人によっては発狂ものの景色だろう。

 俺だって集合体恐怖症というわけじゃないのに、EMのHMDに投影されている景色を見るだけで背筋がゾワっとする。

 

『今回あーしが呼ばれたってことはなんとなーく察しがついたっすけど、管理官。ここら一体燃やし尽くして構わねーってことっすかね?』

 

 そして、今回の作戦で新たに帯同してもらった魔法少女──燃える炎を思わせる赤毛に、吊り気味な金色の瞳という出で立ちの女の子である、橘ユウカが問いかけてくる。

 

「そのつもりだ、分裂が分裂を生む以上、これだけの数をEM隊で相手にするのは愚策だ。管理番号三番、橘ユウカ。君が分裂した侵蝕獣を燃やし尽くして、梯フタバが消火。本体にはEM隊と 葉アンジュでトドメをさす」

『了解!』

 

 ここが原作だと第一ステージにもかかわらず難所だと言われていたのは、本体をどうにかする時間と分体を処理する時間がシビアすぎるゆえだった。

 本体に時間をかけ過ぎれば分体が街を埋め尽くして終わるし、分体の処理にかまけすぎていると、本体が無限に分体を生み出すので終わらない。

 しかし、今回は最強火力のアンジュが生存している。あとは通常攻略と同じように橘ユウカに分体を焼き払ってもらって、終わらせればいいだけだ。

 

『了解っすよ〜、そんじゃぼちぼち行きますかね、「鉄火繚乱(てっかりょうらん)」!』

 

 ユウカは、固有魔法を発動させるために、手持ち武器である「魔法星装」のソードメイスをコンクリートの地面に擦り付けて、火花を散らした。

 ぱちん、と指を鳴らすと同時に着火、粉塵爆発のように火の手が上がって、侵蝕獣「ジェリーム」の分体を焼き尽くしていく。

 

『おお、街が燃えてる……相変わらず範囲と汎用性じゃあわたしを超えてるね、ユウカちゃんは。それじゃあわたしは本体にトドメを刺すよ! お願い、コユキちゃん!』

『任された。わがはいの仕事は果たす』

 

 コユキの増幅魔法によって無尽蔵の魔力がブーストされたアンジュは、両手で「星の聖剣(エクステラカリバー)」を天に掲げて、天まで伸びた光の刃をジェリームの本体に向けて振り下ろした。

 

「今だ、各機、撃ち漏らすなよ! ナパーム弾で本体からこぼれた肉片の細胞一つに至るまで焼き尽くせ!」

『アイ・サー!』

 

 そして、敵の肉片を十機のEMが放ったナパーム弾がことごとく焼き尽くしたことで、街に甚大な被害が出るより早く、侵蝕獣ジェリームを倒すことができた。

 ユウカの魔法で家屋が焼けたりしたことに関しては、あとで国連軍から家主に賠償金が出るのだろうけれども。

 なにはともあれ、また一つ俺たちは難局を乗り越えられて、一安心といったところだった。

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