鬱ゲー世界の魔法少女たちを助けるために俺ができる幾つかのこと 作:それは違うよ!
侵蝕獣ジェリームを倒してから三日ほどが経過していたが、その間に空間裂傷は発生せず、至って安穏とした日々が続いていた。
もっとも、俺は溜まっていた書類仕事に忙殺されていたせいで平穏の二文字とはかけ離れた生活を送っていたのだが。
誰だよ事後承諾で無理やり装備の使用申請やら火器の使用制限を解禁していたのは。俺か。
「そんなに雑草って生えるものなんだね」
そんなわけで三日目、ようやく書類仕事から解放された俺は、「管理庫」の農園に足を踏み入れていた。
今日も元気にノアは草むしりをしていたし、コユキは雑草の詰まったゴミ袋を短い足でとてとてと焼却炉まで運んでいる。
安穏とした光景だ。最初は嫌々やらされていた感が出ていたコユキの表情も、心なしか和らいでいるように見えた。
「こ、コユキちゃんの固有魔法は『成長』ですから、植物をちょっとずつ成長させる過程で土壌に魔法をかけると、雑草も生えてきちゃうんです……」
「そういえばそうだったね。農園にも魔法を使っていたのは初耳だけど」
「基地内での魔法の使用は禁じられていないはずだと記憶しているが?」
肩で息をしながら、ゴミ袋を焼却炉にぶち込んで、戻ってきたコユキが頬を膨らませる。
「確かに明確には禁止していないね」
「ならば、わがはいの行いにも問題はないではないか」
「そうだね、いや、わざわざ雑草も育てるぐらいなら、植物一つ一つにかけて回った方が一周回って効率的かもしれないと思っただけで」
「それだと魔力消費が激しすぎるだろう、管理官殿」
正論だった。
まあでも、雑草むしりをノアも嫌々やっているわけじゃないし、コユキも農園の管理をノア任せにしなくなったから、いい傾向なのだろう。
原作じゃ、横須賀基地を失ってからは、農園を作ることもできずに荒んでいったのがコユキだったからな。
心が安定しているならなによりだ。
「おいっすー、管理官、今日は暇そうっすね」
プランターの縁に腰掛けて、缶コーヒーを煽っていると、先日のジェリーム戦ではMVPの活躍を発揮した炎の魔法少女、橘ユウカがやってきた。
ユウカは良くも悪くも他人に対して優しいが、裏を返すのならそれは関心や執着が薄いということでもある。
ただ、決して薄情ではないのが彼女である以上、わざわざコンタクトをしてきたのは、なにかの意図があってのことだろう。
「ようやく暇になってくれた、っていうべきかな。EM隊の訓練は斎藤に任せきりだから、俺もやるべきなんだろうけど」
「いやいや、休めるときに休むのも仕事っすよ〜? 特にここ最近は大物の侵蝕獣が立て続けに出てきたわけっすから」
けらけらと笑いながらユウカは言った。
全くだ。
プレイ中はダイダラボッチのあとにジェリームを配置した開発スタッフの脳天を斧でかち割って中身を見てみたいぐらいの怒りを抱いていたからな。
「で、ユウカはなんの狙いがあって俺に接触してきたのかな」
多分、アンジュとフタバ辺りの差し金だとは思うけど、一応の確認も兼ねて俺はユウカへと問いかけた。
ぴしり、と空気に緊張が走る。
まあ、気まずくはなるよなあ。でも、アンジュとフタバにも、もちろんユウカにもできることならノアとは仲良くしてやってほしいから、狙いを聞いておくに越したことはない。
「乙女の純情を疑うなんてひどいっすよ管理官、流石に誰の差し金ってことはないんじゃないっすかねぇ〜?」
「そうだね、今のところは俺の勝手な予想でしかない」
嘘だ。
正確にはカウンセリングの先生からここ最近のノアとコユキの動向を伺った上で、アンジュとフタバとの間に溝ができ始めているんじゃないか、という仮説を立てた上で言っている。
ただ、ユウカも隠し事をした上で俺に接触してきたのなら、こちらも手札を伏せておくというだけの話だ。
「そこまで構えなくてもいいよ、俺はあくまで皆の害になることはしないって、フタバに約束しているから」
「本当っすかねぇ〜? 今だって乙女の純情を弄んでるくせにぃ」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいな」
「……ま、なんすかね。仲良くやってるのはいいことなんじゃないっすか」
──仲良きことは美しきことかな、っす。
それだけ呟くと、ユウカは少しだけノアとコユキを見遣って、踵を返した。
「──っ!」
ちょうど、そのときだった。
ノアの「五分後の未来を見る魔法」が発動したのは。
苦しそうに蹲って、片目を押さえているノアの背中をさすりながら、俺は問いかける。
「ノア、大丈夫? 今回はなにが見えた?」
タイミングとしては、第二ステージの巨大ムカデこと、侵蝕獣「ドゥームドラ」の出番だろうか。
こいつもこいつで倒すのが厄介だった気はするが、チュートリアルに出てくるダイダラボッチと、その後に控えていたジェリームに比べて印象が薄いんだよな。
デカいって個性もダイダラボッチと大して変わらないし、ダイダラボッチのように強烈な再生能力を持っているわけでもない。
厄介なのは、近づきすぎるとめちゃくちゃ痛いスリップダメージを永続的に与えてくる毒霧を噴射することだろうか。
……ああ、思い出した。
この近接戦お断り仕様のせいでフタバやユウカといった前線の鉄火場に立つタイプの魔法少女が本領を発揮できずに、ひたすら遅延させられたんだったな。
とはいえ、今はアンジュも生きている。攻撃が届くギリギリの範囲から「
「……く、黒い、円盤……? わ、わからないです……なんで、こんな……? 数は、二十ぐらいで、真っ直ぐ、この基地に」
「……円盤?」
おかしいな。
円盤型のエネミーが出現するなんて、「魔法少女マギカ⭐︎ドラグーンZwei」の攻略wikiにも書いていなければ、俺がプレイした三千時間の中にも記憶がない。
侵蝕獣は大体クリーチャーみたいな見た目と動きでこっちのSAN値を削ってくるわけだが、コズミックホラー的な方向性でデザインされてはいないはずだった。
「……よし、わかった。その円盤が何者かも含めて調査する必要がある、一旦、魔法少女はいつでも出撃できる状態で待機。初動の対処は戦闘機隊とEM隊に任せて。ノアも、休んでて」
「は、はい……」
まるで未知との遭遇を果たしたかのように──いや、実際に未知との遭遇を果たしているのだが、ノアの表情は青ざめ、怯えていた。
俺だって、なにがなんだかわからない。
まさか、原作ルートを外れてしまった影響がこんなにも早く現れたのか?
それにしたって、全く知らない敵勢力の出現は予想外だ。
基地全体にスクランブルをかけて、俺も「颯風」へと乗り込むために格納庫へと全力でダッシュする。
未知の円盤、設定資料集にも書かれていなければ、ゲーム中で存在を示唆されたこともない相手がなんなのかを、見極めるために。