鬱ゲー世界の魔法少女たちを助けるために俺ができる幾つかのこと 作:それは違うよ!
『空間裂傷警報発令! 対象は横須賀湾を真っ直ぐこちらに向かっています!』
『敵は……え、円盤……? 数は二十、侵蝕獣と同様の反応あり! 現在、戦闘機隊を向かわせています!』
「助かる! 戦闘機隊にはこちらから攻撃しないように指示を出しておいてくれ!」
なにがなんだかわからない、といった様子でオペレーターたちも困惑していた。
そりゃそうだ。前作クソゲー廃人の俺ですら動揺しているんだ。
まずは敵を知るために、資料として提出された観測機からの映像を確認すると、いかにもメカニカルな漆黒のUFOといった風情のエネミーが二十機ほど、空を滑るようにこちらへ向かっているのが見て取れた。
「……なんだ、この動き?」
空を飛んでいるというよりは、回転寿司のレーンに乗っかっているように、「流れて」きているといった方がいい挙動だ。
映像を拡大しても、円盤には、スラスターやジェットエンジンの類がどこにあるのかもわからない。
群体型の侵蝕獣である可能性もあるにはある。だが、俺の直感は、あれはれっきとした機械だ」と囁いていた。
「まさか、人が乗ってるわけじゃないよな……!」
あの円盤について知っていることは少ない……というか、ないに等しい。
だが、空間裂傷を超えてやってきたということは、「向こう側」の産物であるということは確かだ。
ゲーム中でも、三万円ぐらいした設定資料集でも一切言及されることのなかった、「空間裂傷の向こう側」。
クソゲーの傷を舐め合う同志たちが、盛んに掲示板やSNSで考察していたのを思い出す。
最終的には外野の「脚本の人そこまで考えてないと思うよ」というマジレスで終わってしまうのだが、与太話の中には、空間裂傷の向こう側は外惑星に通じている、なんてものもあった。
もし、あの円盤に人が、宇宙人が乗っていたなら──俺の知っている「魔法少女マギカ⭐︎ドラグーンZwei」の世界は大きく揺らぐことになる。
「いいか、絶対にこちらからは発砲するな! 敵は異文明の知的生命体である可能性が高い! そうであれば、可能な限り穏便なファーストコンタクトをとるんだ!」
そして、この世界が今はゲームの中ではなく現実である以上、あの円盤が宇宙人の乗り物だと仮定して状況を俯瞰するなら、最悪に近い。
マザーシップのような存在は見当たらず、小型の円盤だけを差し向けてきたということは、向こう側に対話の意志はほぼないと見ていいだろう。
だが、こちらから発砲すれば、敵側に侵略の口実を与えてしまう。
『そこの所属不明機、ただちに減速せよ! 繰り返す、所属不明機はただちに減速し、所属と姓名、階級を──うわああああっ!』
果たして、俺の予感は最悪の形で的中してしまった。
恐らくは射程距離に入ってしまったのであろう戦闘機隊を、潜望鏡のようなパーツから放たれるビームで対話に応じることなく円盤たちは撃墜したのだ。
有効射程距離も、威力も、今の地球が保有している兵器のそれを遥かに凌駕している。
『大佐! エイリアン共に話し合う気はないみたいですぜ!』
『緊急展開ブースターを使用し、EM隊にスクランブルの許可を!』
部下たちからは洋上であの円盤を迎撃するように要請が上がってきたが、基本的には直進しかできない緊急展開ブースターを装備したEMでは、恐らくあの円盤とはまともに戦えないだろう。
「ダメだ! 基地に引き込んで迎撃を行う! 魔法少女にも出撃命令を出せ! あれを今から我々は侵蝕獣と定義する! 聞こえているな、管理番号五番! 君の出番だ!」
異文明の知的生命体が接触を図ってきて、対話を拒否したとあれば、もう戦う以外に道は残されていない。
そして、口実になるのは「空間裂傷を超えてやってきた」ことと、「円盤からは侵蝕獣と同様の反応が出ている」ことの二つだ。
二ステージ目では「謹慎中」ということで使えなかった遠距離ユニットこと、問題児の魔法少女にもスクランブルをかけて、俺は操縦桿をきつく握りしめた。
『敵円盤群、間もなく艦艇の有効射程圏内に入ります!』
「艦砲射撃! 地対空ミサイルを全弾叩き込め!」
『了解!』
横須賀基地に停泊しているイージス艦に搭載されている地対空ミサイルが火を噴いて、黒い円盤たちに差し向けられる。
だが、俺たちの抵抗を嘲笑うかのように、円盤は潜望鏡のようなパーツを伸ばすと、そこからビームを撃ち放ってミサイルを撃ち落としてしまう。
艦砲射撃も何発か着弾した様子だったが、ダイダラボッチが纏っていたのと似たようなバリアかなにかに弾かれて、ほとんど有効打を与えられていない。
「くっ……」
『お待たせっしたー! うちの現着だよ!』
これでは対侵食獣ように調整された、EM隊の装備でも有効打を与えられるか怪しい。
ぎり、と奥歯を噛み締めていると、呑気な声と共に人影が管理棟の中から飛び出してきた。
管理番号五番。こと射程距離と攻撃範囲に関しては、「最優」のアンジュにも匹敵する問題児。
「頼んだよ、アヤネ!」
『あいあいさー! うちも謹慎明けでストレス溜まってるからさぁ、全力でドカンとやっちゃうよ!』
管理番号五番──鮮やかなオレンジ色の髪に、大きな翡翠色の瞳が見目麗しい魔法少女、朽木アヤネは、なにもないところから空中に儀礼用みたいなデコレーションが施されたライフル銃を大量に出現させると、そこから一斉にビームを撃ち放った。
アヤネは「閃熱」の固有魔法として、銃からビームが出せるのだ。
ファンタジー極まる絵面がコテコテのSFとぶつかり合う状況に、頭がおかしくなりそうだったけども、今はただそのファンタジーが頼もしい。
『ごっめーん! 管理官! 何発か撃ち漏らしたみたい!』
「いや……十分だ! 引き続き火力支援を頼む!」
『あいさー⭐︎』
しかし、予想通りとでもいうべきか、円盤のいくつかは重力を無視したようなマニューバでビームの直撃を回避して、反撃の弾を撃ち込んできた。
「EM隊各位に次ぐ! 敵をダイダラボッチと同様の脅威と認定して、全兵装の使用を許可する! 基地に損害を与えさせるな!」
『了解!』
そして、ようやく射程距離まで接近してきてくれた円盤に向けて、俺たちはバックパックに装備したミサイルランチャーと手にしたアサルトライフルを撃ち放つ。
案の定意味のわからない挙動で避けられるが、その後隙を咎めるようにアヤネのビームが円盤を貫く。
そうして、二十機の円盤のうち十八機を撃墜するという戦果をもってして、アヤネは能力を示してみせた。
「敵の全滅を確認……か」
『しかし、大佐……』
「ああ……これからの戦いは、未知の領域に突入していくだろうな」
EM隊の戦果である二機と合算して二十機の黒い円盤を全部平らげた計算になるが、とても喜んでいられる状態じゃない。
侵蝕獣だけでなく、謎のエイリアン。
空間裂傷を超えてやってくるまさかの第三勢力に、俺は頭を抱える他になかった。