TS眷属にされたので、勇者よりも先に魔王殺しの聖剣集めます。――ダンジョン使って、のんびりスローライフ   作:あでぃかりん

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第23話・鬼族の悲劇と悪略の話

 

 ツヴァイとモノの人生は壮絶だった。

 

 鬼族の長の娘として生を受けた彼女たち。

 順調に生活すればなんの苦労もなく成長できたであろう。

 

 しかし、帝国の異種族狩りと呼ばれる進軍によって鬼族は窮地に立たされた。

 

 帝国は奴隷を戦力に使う。

 そして高い生産リソースで有能な道具をいくつも発明した。

 

 地上二足歩行の竜を使ったシパヒ騎兵隊、さらに150mの最大射程をもつ銃器を開発、それを配備した帝王直属の奴隷常備軍エニチリを持つ。

 

 彼らは圧倒的戦力で鬼族を蹂躙した。

 

 多くの者が殺され、奴隷として売られる中、長は彼女たちを王国の難民として逃がす賭けに出たのだった。

 

 旅立つ時、長は戦場にいたため、長の兄で二人からおじいちゃんと呼ばれている者が、二人に最後の言葉を贈った。

 

「ツヴァイ、モノよ。もしもの時はダンジョンに逃げ込め。もしダンジョンの女神の目を引いたなら、我らを導いてくれるやもしれん」

 

「んー。よくわかんない」

 

「簡単に言うとな。ダンジョンの中には天国があるんだよ。古い言い伝えにそうある」

 

「おじいちゃん分かった。ダンジョンには天国があるんだね」

 

 モノはよくわからないままそういうことと理解したらしい。

 

 鬼族の中ではダンジョン信仰が強い。ダンジョンは命と引換えに世界のあらゆる秘宝が存在しており、その加護を得た者が鬼族の長となれる文化だった。

 

 

 

 旅立ち後の生活はとても残酷で悲惨だった。

 

 無謀な逃亡劇は食料不足を招き、野生の生き物や野草を無理やり食べた。そして、お腹を壊した人からどんどん死んでいった。そんな中、二人はひたすら足を動かしたんだ。

 

「その時は足が痛くて痛くて、切り離そうと思ったよ」

 

「子供の足でよくたどり着いたね」

 

 ツヴァイがたどり着いたことを褒めてほしそうだったから、頭を撫でる。

 発言内容は物騒だけど、鬼族からすると普通なのかも。

 

 彼女たちはやっとの思いでタキールのスラムに住み着き、スラムの大人たちに怯えながら、万引きやスリの技術、残飯を漁って食いつないできた。

 

「それで、片足が動かなくなった冒険者のおじちゃんに盗んできた安酒を恵んであげたら、塔のダンジョンの話を聞き出せたんだ」

 

「それで、アシュおじょうさまに会えたんだよ」

 

 僕はそんな壮大な冒険譚を、毎日寝る前の会話から少しずつ理解していった。

 

 リアリスたちは僕より早く気がついていたようで「アシュは王族キラーかもね」と笑っていた。

 

 

◆◆◆

 

 アシュが眠ってしまった後の会議室。

 

 テールは書類を広げながら、深いため息をついていた。

 

「はぁ、今回の鬼族の報酬は師匠の件との相殺で良いですわ。それより随分とアシュに甘いですわね」

 

 テールは書類の束を軽く叩きながら、呆れたように言った。

 

 鬼族の受け入れを王国に了承させるには、それなりの根回しと準備が必要になる。

 

 その手間を考えると、師匠討伐の借りは十分返せると判断したらしい。

 

 鬼族の受け入れを王国に了承させるための策を、何日も考え続けているが、どれも決定打に欠けていた。

 

「駄目ですわ……現状の情勢から考えて、鬼族や亜人族の受け入れは外交的にも内政的にも悪手。外敵に叩かれてポシャりますわね」

 

 テールは数日かけて出した結論を、ためらいながら口にした。

 

 猫の姿でテーブルの上に座っていたリアリスは、しっぽをゆっくり振りながら首を傾げた。

 

「んー、あ、そうか。全部逆転させれば上手くいくのか」 

 

突然の言葉にテールが顔を上げる。

 

「逆転……?」

 

 リアリスはにっこりと微笑み、いつもの軽い口調で話し始めた。

 

「つまりね、王国は帝国と戦争する。

 だから他種族を保護しなければいけない。共同戦線を張るなら仲間って話になるでしょ?」

 

テールは一瞬、言葉を失った。

 

「……は? 本気で言っておりますの?」

 

「本気だよ。帝国は奴隷が増えるほど戦力を増やす性質があるんだ。さらに、常備軍はお金がかかるから攻め続ける事を余儀なくされる。

 逃げてると勝てるタイミングを失うのさ」

 

 リアリスは前足で書類を軽く叩きながら続ける。

 

「情報格差を使えば簡単だよ。

……例えば、鬼族の里の襲撃の事実を少し大げさに王国貴族に伝える

帝国の商人や役人に『王国は異種族保護を始めようとしている』って噂を流す

商人たちに『鬼族を保護を進めれば帝国との交易が危うくなる』って情報を広める

後は大金使って、食料の値を引き上げつつ、船の建造を進めようか」

 

 リアリスの声は終始明るく、まるでお茶会の話題を話すかのようだった。

 

「戦争なんて、互いの行き違いと小さな誤解の積み重ねで起きるものなんだよ」

 

 テールは書類を強く握りしめ、声が少し震えた。

 

「はぁ……まさに魔王にふさわしい悪略ですこと……

 貴方は本当に、この国を戦争に引きずり込もうというのですか?」

 

 リアリスはくすくすと笑い、銀色の尻尾を優雅に揺らした。

 

「テールちゃん、人類を破滅させようとする魔王の共通点って何だと思う?」

 

「さぁ……強い欲望とかでしょうか?」

 

 リアリスの話の意図が読めず、テールは軽く眉を寄せた。

 

「人の欲って大きさに限りがあるんだよね。

 それに、労働者がいなくなれば結局魔王も困るから、欲深いだけの魔王はそんな阿呆なことはしなくなるんだ」

 

 リアリスは軽い口調で続ける。

 

「答えはね……人類が好き、仲間思い、色々なパターンがあったけど……」

 

 テールはふと、アシュの顔を思い浮かべた。

 彼女の寝顔はとても可愛らしくて、少し頬が緩むのを感じる。 

 リアリスは静かに、しかしはっきりと告げた。

 

「お人好し。それが最悪の魔王の発生条件だ。

 魔王という絶対者が、本気で人類の不条理にメスを入れようとした結果……物語の魔王は生まれるんだよ」

 

 テールは書類を強く握りしめた。 アシュこそが、最悪の魔王の卵。

 

 そして、それを阻止できるのは自分たちであるという事実を、初めて突きつけられた気がした。

 

 

 

 

 

 

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