TS眷属にされたので、勇者よりも先に魔王殺しの聖剣集めます。――ダンジョン使って、のんびりスローライフ   作:あでぃかりん

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第24話・戦争の前の話

 

 

「最近、世が物騒になってきてやがる」

 

 フレットがオキナに稽古を付けてもらっているが、未だに一本も取れていない。

 

 そんな中の雑談はオキナが課した試練の一つであった。

 

 話に気を取られ剣が鈍るなど、そもそも二流、日常の延長にこそ最強の剣があるというオキナの思想によるものだ。

 

「ほう、いつの世も戦グセは無くならぬものよの。……右に隙がある」

 

 オキナはフレットの右肩に容赦なく一撃を入れた。

 

「フレット貴様は弱い。幼少から腕を磨いたでもなく、身体はデカいが、筋肉すら剣に特化しておらぬ」

 

「元は所詮農奴の三男でしかねぇからな。こうやって戦ってると基礎の差、実力の差ってのが嫌ってほど分かる」

 

 オキナが首元に木刀を突きつける。

 

「故に戦場はよい経験となるだろう。あそこは剣士として必要な技術、経験、心の持ち方を鍛える。農民であっても戦士となるしかない場所だ」

 

「分かった。志願すれば決まるかと言うと微妙だが……」

 

 王国について戦争に出るのはやぶさかではない。しかし、鍛えられる戦場に当たるかどうかは運だろう。

 

「故に、儂と共に二人で奇襲をかける。敵陣を駆けて兵力の一角を斬り取る」

 

「は? 戦場って行ってもルールがあんだろ? 流石に無謀すぎるわ!」

 

「一兵の仕事は基本歩くことと、そして待つことだ。性に合わん。遊撃こそが戦場の華ではないか」

 

 オキナは自信満々に言ってのける。

 

「君たち、楽しそうな話してるね、一枚噛んでも良いかい?」

 

ぬるっと、リアリスが話に割り込んできた。

 

「何用だ」

 

 オキナが睨みつけるが、尻尾を振りながら我関せずだ。

 

「大丈夫、退屈させないから」

 

「はぁ、早く言え。やるかどうかは後で考えてやる」

 

 フレットが先を促す。

 

「致命的な出来事を起こしてほしい。つまり宣戦布告だよ」

 

 リアリスの不吉な言葉にオキナの目が光った。

 

◆◆◆

 

 本日2度目の社交会を終えた僕は馬車の中でぐったりしていた。

 

「疲れた……戦争とか起きそうなのに、こんな事してて良いのかな?」

 

 帝国との戦いはいつ起きてもおかしくないと言われている。貴族も商人も同じ事を言っているから、たぶん起こるんだろう。

 

 ただ僕は社交会の連続に疲れ切っていた。

 

 話題は、シャナルマト君とのお見合い話が中心だ。

 

 僕を好いてくれるって分かってるのに他の人を紹介するのは、酷い裏切りだと思うから、僕は乗り気じゃなかった。

 

「あなたは広告塔なのです。いっぱい稼いで貰いませんと」

 

 と言っても服の宣伝とか一言も言ったことはなくて、ひたすらダンスとお話が多かった。

 

もっと、大々的に何かすると思ったから拍子抜けだ。

 

「今までで何着ぐらい売れたの?」

 

 僕はテールに売上を聞いてみた。

 

「ざっと100着程度は売りましたわよ」

 

 なんかいっぱい売れてる!?

 そんなに売れるものなの?

 

 自分が今日やった事を思い出したけど、売上に貢献できたとは到底思えなかった。

 

「アシュがちゃんと目立って活躍してくれたからですわ。私も、これだけ注目されるとは思っておりませんでしたが……」

 

 テールが僕の頭を撫でる。

 僕と違う香水が爽やかに香る。

 僕も似たような匂いなんだろうなと思うと、不思議な感覚がした。

 

 このままずっとこうしていたいと思ったけど、撫でられたままというのはかっこ悪い。

 そう思い、テールの手を払いのけた。

 

「アシュは今のままで良いのですわ。戦うのは男の仕事。後始末だけ手伝えば良くってよ」

 

「うーん、でもへラード君とか、戦いに出るんでしょ? 僕もなにかしないと……」

 

 そう言うと、テールの表情が少し曇った。

 

「アシュには戦争に関わって欲しくありませんわ」

 

 テールの声が、いつもより低く、わずかに震えていた。

 

「戦争は……同情する余地がたくさんある場所ですの。そして、冷徹な判断が求められます」

 

 彼女は一度言葉を切り、僕の顔をまっすぐに見つめた。その瞳には、苛立ちや怒りではなく、深い不安と、抑えきれない心配が浮かんでいた。

 

「アシュはお人好しですわ。死にそうな仲間を見れば、ほっておけない。敵であっても同情してしまう……そんな優しさが、きっと他の誰かの命を犠牲にしてしまいます」

 

 テールはそこで小さく息を吸い、指先で自分の袖をぎゅっと握りしめた。

 

「……私は、もうこれ以上、大切な人を失いたくないのです」

 

 その声は、ほとんど囁きに近かった。

 

「だから、アシュ。あなたには、戦う側ではなく、待っている側でいてほしい。

みんなが無事に帰ってくるのを、笑顔で迎えてあげてほしい……それだけで、十分なのですわ」

 

 テールは最後に、弱々しく微笑んだ。

 いつも気位が高く、強がりな彼女が、こんなに脆く見えたのは初めてだった。

 

「皆ちゃんと戻ってきますわよ。そしたらまたパーティーですわ」

 

 うん、誰一人として欠けず戻って来ることを祈るしか、僕にはできなかった。

 

 

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