TS眷属にされたので、勇者よりも先に魔王殺しの聖剣集めます。――ダンジョン使って、のんびりスローライフ   作:あでぃかりん

26 / 26
第26話・お別れのキスの味の話

 

 「疎開しましょう。そのための準備が必要ですわ」

 

 テールから戦争の話を聞かされていた僕は次の話についていけなかった。

 

 「疎開……? タキールを出て他の場所に引っ越すって事?」

 

 それって負けるってわかってる時に行うんじゃないの?

 

 「そうとは言えないかな。良くも悪くもタキールは混乱する。兵士が治安を守れなくなって、犯罪が増えるぐらいは想定するべきなんだ」

 

 リアリスの声が響いた。

 

 でも、どこに疎開するの? どの街も少なからず混乱するんじゃない?

 

 「疎開場所はリアリスと作っている街ですわ。山の中にある街を攻めるのは大変ですの。しかも、ダンジョンだからリアリスの力が十全に使えますことよ」

 

 テールが自信満々に宣言した。

 

 「食べ物とかどうするの?」

 僕は不安でいっぱいだ。

 ダンジョンではモンスターは消えちゃうし、食べられる物は出てこないのが普通。長い事籠もってられるほど食料は持ち運べないんじゃ?

 

 「数カ月分の食料は、事前に街に運び込んだんだ。港街アラクトが近いからね」

 

 リアリスがテールのコネを使って運んだらしい。最近この二人、よく結託してるよね

 

 「この疎開はシャナルマト王子たちも一緒に行きます。後継人として彼を置いていくわけには行きませんから」

 

 アルナスが補足してくれた。

 

 「じゃあ、みんなで疎開だね」

 戦争は少し怖かったけど、みんなと一緒なら遠足みたいなワクワク感がする。

 

 「……ごめんアシュ、僕は行けない」

 

 へラードの言葉が、楽しい引っ越しと思っていた僕の心を切り裂いた。

 

 心が急に明かりを失い、胸が痛くなる。

 

 「僕は、戦争に参戦しなくては行けない。それが貴族としての義務だから」

 

 へラードが戦争に参加しないといけないことは……知っていた。

 でも、へラードのことが心配で、心配で、たまらない。

 そして、それ以上に……へラードと離ればなれになるのが嫌だった。

 

 泣きそうな僕にへラードは優しく語りかける。

 

 「少し、二人の時間がほしいんだ。後で僕の部屋に来てくれないか?」

 

 「……うん」

 

 夕食後ヘラードの部屋を訪ねる。

 僕たちの疎開の準備は既に終わっていて明日にでもって話だった。

 

 「ヘラード、来たよ」

 

 部屋に入っていく。

 

 前来た時と同じ部屋なのに、何か違う。

 

 「アシュ、来てくれたんだね」

 

 僕の手を取るヘラード。

 

 「これを、渡そうと思って……」

 

 見ると、それはネックレスだった。銀色で高そうなやつ。

 

 「ちょっとしたマジックアイテムなんだ。アシュに似合いそうだったから。着けてもいいかな?」

 

 「う、うん」

 

 ヘラードが僕の後ろに回って、首元にネックレスを着けてくれる。

 

 「どう?」

 

 「似合ってる。やっぱりアシュにしてよかった」

 

 「ありがとう。大切にするね」

 

 嬉しくなって、ヘラードに笑いかける。

 

 「……」

 

 「ヘラード?」

 

 その時、ヘラードの顔が急に近くなった。

 

 唇が触れ合う。

 

 「ふぇ、き、キス!?」

 

 「う、ご、ごめん。無防備だったから、つい……」

 

 「あ、えっと!? ごめんなさい!」

 

 僕は、勢いで部屋を出てしまった。

 お別れだったのに、あんまりお話できなくて、でもそんな事より重要な事があったんだ。

 

 「どうしよう僕、男性に、キスされたのに……嫌じゃなかった」

 

 

 ◆◆◆

 

 翌日

 

 僕は、ヘラードの顔を見られなかった。

 

 リアリスはペンダントに引っ込んでクスクス笑っている。

 

 何が面白いの!?

 

 「二人共、何かありましたの?」

 

 テールもにやついて、僕らに話しかけてくる。

 

 「な、何もないよ……」

 

 顔が熱くなる気がした。

 

 「そうですの」

 

 テールは僕の顔を見て、それから首元に視線を落とす。

 

 「ところでアシュ、それはどうしましたの?」

 

 「ふぇ!?」

 

 反射的にネックレスを両手で隠す。

 

 「……へラード?」

 

 「…………僕が贈った」

 

 「ほう」

 

 テールの口元がにやりと歪んだ。

 

 「贈り物を渡しただけだよ」

 

 「私はまだ何も聞いておりませんわ」

 

 「…………」

 

 へラードが黙った。

 

 「へラード君!?」

 

 「お嬢様方、そろそろ」

 

 執事にそう言われて、お別れの時間が迫っているとわかる。

 

 「ヘラード君……絶対帰って来て」

 

 僕は馬車から体を乗り出して伝える。

 

 「戦争に絶対はないけど、どんな手を使っても帰ってくるって誓うよ」

 

 そう言って笑顔で手を振るヘラード。

 

 うん、僕はちゃんと、ヘラードが帰ってくるまで待つよ。

 

 それが僕の役目なんだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。