とある英雄の原子熱冷 作:むぎのん
"ヒーロー"が居るのに、なんでそんな目ができるのよ
___ホント退屈ね。この世界は
それが、麦野沈利の最初の感想だった。
視界に広がるのは、整った街並み。
空は青く、人は多い。
どこにでもある“平和な風景”。
「……くだらな」
小さく吐き捨てる。
彼女からすればこの世界は、妙に“出来すぎていた”。
人は笑い、誰かを称え、何かを信じている。
その中心にあるのは___ヒーロー。
個性と呼ばれる力を持ち、それを振るう存在。
誰かを助けるための“職業”。
有象無象に認められるために、そんなもののために力を使うらしい。
(……ヒーロー、ねぇ)
かつては、漫画やアニメの中にしかいなかった存在。
それが今や、当たり前のようにそこにある。
通りすがりの子供が、目を輝かせて叫ぶ。
『ヒーローになりたい』と
その隣で、親が笑っている
なんとも微笑ましい光景だ
誰が見ても、思わず笑ってしまうだろう。
__それでも
(……しょうもな)
麦野は一瞥すらせず、通り過ぎる。
前世で血生臭い人生を送ってきた彼女にとって、それらはすべてどうでもよかった
違う身体。違う環境。違う世界。
なら、いっそ記憶も消えていればよかったものを___と一瞬思いながらも。
(とりあえず___)
空を見上げる。
青い。無駄に綺麗だ。
(適当に生きるか)
それが結論だった。
ヒーローにも、ヴィランにもなるつもりはない。
誰かのために何かをする気もない。
ただ、自分が退屈しないように生きる。
それだけ。
_____そのはずだった。
数年後
中学校の校舎裏。
人の気配は少なく、静かで無駄がない。
麦野はそこを気に入っていた
理由は単純で人が寄ってこないからだ。
壁にもたれ、ぼんやりと時間を潰す。
やることはない。やりたいこともない。
正直、この生活が退屈でないかと聞かれれば___嘘になる。
変化のない日常。平和な日常。
同級生に話し相手がいないわけでもない。
だが、合わせるだけで疲れる。
麦野の精神年齢は、とっくに中学時代を終えていた。
そんな人間に、中学生特有の話題はただの消耗でしかない。
(ま、別にいいんだけどさ)
退屈なくらいがちょうどいい。
そう思うようになったのは、いつからだったか。
前世の記憶がよぎる。
血に濡れた日常。
人を殺し、殺されかけることを繰り返すだけの時間。
(……“あいつら”も来てたりすんのかしら)
暗部で共にいた仲間たち。
そんな連中と、ここで再会して。
もし“まともな青春”をやり直せたら____
(……くだらな)
すぐに否定する。
そんなもの、あるはずがない。
その時だった。
人の気配。
麦野は視線だけを動かす。
そこにいたのは___轟焦凍。
クラス内でも、悪い意味で浮いている男。
白と赤。分かりやすい特徴。
だが、それ以上に目を引くのは____
(……あの“目”)
見慣れている。
腐るほど見てきた。
闇を抱えた人間の目。
かつての仲間たちが見せていたもの
そして、鏡越しに見たことのあるもの
じっと見ていたせいか、焦凍がこちらに気づく
だが、特に反応はない。
興味がないのは、お互い様だった。
ほんの数秒
視線が交差する。
たったそれだけ
本来なら、それで終わるはずだった。
関わる理由はない。
関わる価値もない。
___それでも。
麦野は、ほんの一瞬だけ目を細める。
(……気に入らない)
ヒーローが存在する世界で
救いを求めれば、誰かが手を差し伸べるはずの世界で
それでもなお、その目をしていることが気に入らなかった。
「……あんた」
気づけば、声が出ていた。
焦凍がわずかに反応する。
「なんだ」
短く、温度の低い返答。
麦野は一瞬だけ考え____
どうでもよさそうに言う。
「何抱えてんのか知らないけどさ‥‥
そんなんじゃ、“いずれ壊れる”わよ?」
「……なんの話だ」
「……別に」
それだけ言って、視線を逸らす。
会話は終わり。
それでいい。
それ以上続ける意味はない。
(……あーあ)
内心で、軽く舌打ちする。
(余計なこと言った)
どうでもいいはずだった。
ただの他人
ただの風景
____それなのに。
引っかかった。
それが、何より面倒だった
___この時点では、まだ
それがどれだけ長く続く関係になるのか、二人とも知らない
ただ一つ確かなのは
この瞬間から、何かがほんのわずかに“ズレ始めていた”ということだけだった。
麦野沈利 個性『原子崩し』
体内で生成した高エネルギーの電子を収束・射出し、
対象を分子レベルで破壊する“超高出力型遠距離個性”。
放たれる光線は直進性と貫通力に優れ、遮蔽物や防御をほぼ無視して対象を破壊する。
また出力の調整により
拡散射撃(広範囲制圧)
集束射撃(一点突破)
連続射撃(弾幕形成)
といった応用が可能。
ということでむぎのんがヒロアカ世界に来たよ