とある英雄の原子熱冷 作:むぎのん
一年と半年が過ぎ、麦野沈利は雄英高校の校門前へとやってきていた
目的はもちろん一つ、雄英高校の入試試験を受ける為
(‥‥凄い人数ね)
視界一面に広がる受験生の群れ。
朝の満員電車など比にならない密度に、麦野は小さく息を吐く。
これだけの人数が集まる以上、倍率も相応に高い。
頭では理解していたが、こうして実際に目にすると現実味が違う。
(‥‥‥こんなことなら、一年の時に推薦枠貰っておくんだったわ)
一度は与えられていた推薦枠。
それを“面倒くさい”の一言で蹴った過去を思い出し、ほんの僅かに後悔する。
そんな過去の事を思い返していると
「どけデク!!」
背後から飛んできた怒声に、麦野は振り返る。
そこにいたのは、見覚えのある少年。
「あれって‥‥」
そこにいたのは"ヘドロ事件"の被害者として有名になっていた者
名前は確か、爆豪勝己と彼女は記憶していた
そしてそんな彼にめちゃくちゃ言われてる方の緑髪だが‥
一目見ての評価は、単純明快。凡人。
それ以上でも以下でもない――はずだった。
(……なんだこいつ)
見た目は平凡。
雰囲気も、体つきも、特筆すべき点はない。
なのに。
(……妙に引っかかるわね)
自然と視線が向く。
怒鳴られながらも、ただ受け流すように立っているその姿。
弱い。頼りない。今にも折れそう。
それなのに。
(……)
ほんの僅かに感じる違和感。
だが
(ま、どうでもいいわね)
思考を切り捨てる。
それ以上考える価値はない。
麦野は視線を外し、その場を後にする
やがて受験生達は試験会場へと案内された。
さて、筆記試験の方だが___語るまでもないだろう。
余裕。この一言に尽きる。
彼女の頭脳明晰さは前世の頃と何一つ変わっておらず、今なお健在。
高倍率の筆記試験とはいえ、麦野からすれば話にすらならなかった。
プレゼントマイクからの説明をある程度受けた後、麦野はスタート地点へと足を運ぶ
「……さて、と」
説明された内容は単純だ。
四種の仮想ヴィランの存在。
それらを“行動不能”にすることで得られるポイント。
そして、各ヴィランごとに設定された得点差。
極めつけに、得点にならない“0ポイント”の存在。
要するに――
(倒せば、点が入る)
それだけの話だが
(ま、どう考えてもそれだけじゃないでしょうね)
これはあくまで、“ヒーロー”としての適性を見る試験。
ヴィランを倒すことだけが評価基準なら、それはただの戦闘試験に過ぎない。
(裏で見てるのは……)
導き出される結論は一つ。
(……“人を助けること”、か)
小さく、溜め息を吐く。
(……どう考えても、柄じゃないわ)
自嘲にも似た感情を一瞬だけ浮かべて___すぐに消す。
そして、結論だけを残す。
(なら)
(誰よりも多く、ポイントを取ればいいだけね)
それで全てが済む。
『─────ハイスタートォ!!』
気の抜けた合図が、場に響いたその瞬間___
麦野沈利の姿は、その場から“消えていた”。
「えっ……?」
誰かの間の抜けた声。
それも無理はない。
つい今しがたまで、確かにそこに“居た”はずの存在が、
次の瞬間には“どこにも居ない”のだから。
『どうしたァ!?実戦じゃカウントダウンなんざねえんだよ!走れ走れぇ!!』
プレゼントマイクの声が飛ぶが、その直後。
『――ってもう三体狩ったぁ!?速すぎだろおォ!?』
観測が追いつかない。
麦野の姿は、すでに最前線にあった。
空間が、歪む。
いや、正確には。
“距離”という概念が、無視されていた。
(……使えるわね。これ)
彼女の移動は、走行ではない
跳躍でもない
ましてや、加速ですらない
“繋いでいる”のだ
三次元空間における、任意の座標同士を
本来ならば、到達に時間を要するはずの距離を
“最初から存在しなかったもの”として扱うことで
0次元の極点。
それは、かつて理論としてのみ存在していた空間概念。
前世にて麦野は、"
完全な理解ではない。
再現の理屈も、全てを把握しているわけではない。
それでも___
(“点”さえ掴めばいい)
彼女の能力は、“曖昧な電子操作”。
量子論すら無視して、物質の在り方を歪める力。
だからこそ
(そこに“あることにする”だけでいい)
距離は意味を失う。
座標は、直結する。
結果として生まれるのは__
“移動”というプロセスを省略した移動方だった。
『標的捕捉!! ブッコロス!!』
「___邪魔」
次の瞬間
ロボットの上半身が消し飛んでいた。
麦野沈利の
『曖昧なまま固定された電子』を強制的に動かし、高速で叩きつけることで絶大な破壊力を生み出す。
これが彼女の本来の使用用途である
前世ではあまりの破壊力により一歩間違えれば自滅する可能性すらあったが、今の彼女はこの世界に来たことにより更なる進化を遂げていた
出力の制限、出力放出の最適化、更には0次元の極点という理論を用いた能力使用
今の彼女にとってこのような試験は作業同然のものでしかなかった
「はぁ……全く……」
小さく息を吐く。
視界の端で、また一体ロボットが吹き飛ぶ。
爆発音すら遅れて届く程度には、処理は速い。
(もう十分でしょ)
得点は、既に十分すぎるほど稼いでいる。
わざわざこれ以上動く理由はない。
(もう帰っていいかしら?……)
正直な感想だった。
そんな時
______ゴゴゴゴゴ……!!
地面が揺れ、空気が一変する
それまでとは明らかに違う、“質量”を伴った何かが動き出した気配の先へと視線を向ける。
「……ああ、アレね」
現れたのは、明らかに規格外の巨体
他の仮想ヴィランとは比べ物にならないほどのサイズだ。
(0ポイント)
説明で聞いていた、例の倒しても得点にならない“ただの障害物”。
(ほんと、邪魔なだけじゃない)
興味はない。関わる理由もない。
踵を返す――そのはずだった。
「うわっ……!?」
小さな悲鳴に反射的に視線が動く
その先には瓦礫に足を取られ、倒れている受験者
起き上がれないまま、迫る巨体を見上げている。
(……は?)
一瞬、思考が止まる。
(なんでそんなところで転ぶのよ‥‥)
あのまま放置してしまえば、あの生徒は怪我をしてしまうのは容易に想像出来る
柄にもないのは分かっている
分かっていてもなお
「____はぁ」
麦野沈利の姿は、その場から“消えていた”。
次の瞬間。
倒れていた受験者の身体が、ふっと消える。
「え……?」
本人すら理解が追いつかないまま、気付けば数十メートル先へと移動していた。
「……な、に……今……」
その直後。
――ズドォンッ!!!
0ポイントヴィランの足が、先程までその場にあった地面を踏み砕く。
間一髪。
「ぼーっとしてんじゃないわよ」
すぐ横から、気だるそうな声。
振り向いた先には、麦野沈利が立っていた
「立てるでしょ」
「……あ、う、うん……!」
戸惑いながらも頷く受験者
それを確認すると、麦野はすぐに視線を0ポイントヴィランへと向ける
(‥‥‥なにやってんだか、私)
「あ、あの!速く逃げないと‥!」
「んー?そうね。じゃあ、とっとと逃げな」
「え、いや‥‥‥あ、貴方は?」
「あー、私?ちょっとあのデカブツ止めてくるわ」
「……は?」
間の抜けた声。
当然だ。
“止める”なんて言葉で済ませていい相手ではない。
振り返ることもなく、麦野は一歩踏み出す。
「……無理でしょ、あれ……」
生徒は、呆然と呟く。
巨体の影に飲み込まれる位置まで、麦野は歩みを進める
普通なら、立つことすら躊躇う距離。
だが麦野は、ただ退屈そうにそれを見上げる。
「ほんと、無駄にデカいだけね」
振り上げられる腕。
――轟音。
振り下ろされる鉄塊の一撃がやってくるが、
麦野は一瞬にして消える。
次の瞬間には、上空の空間へと“繋がる”。
距離という概念を踏み越えて、
最短で“そこ”にいる。
「……まあ」
指先を、軽く向ける。
「的としては悪くないか」
____閃光。
音すら置き去りにする一撃。
放たれたそれは、一直線に巨体へと突き刺さり___
“消し飛んだ”。
中心から、抉り取られるように。
存在そのものが削除されたかのように。
一瞬、遅れて。
ズドォォォォンッ!!!
巨体が崩れ落ちる。
「……は?」
生徒の口から、間の抜けた声が漏れた
あまりにも理解が追いつかない。
(今の……何……?)
攻撃は見えた。
だが、“何をしたのか”が分からない。
ただ一つ、分かるのは。
(‥‥‥人間の出せる出力じゃないでしょ‥)
あまりにも、次元が違いすぎる。
「はぁ‥‥」
瓦礫の上に、麦野はふわりと降り立ちながら息を吐く
「やっぱ無駄に消耗するわねぇ‥‥これ」
「あ、あの‥‥!!」
気が付けば生徒は麦野へと声を掛けていた
「‥‥何?」
「そ、その‥‥助けてくれて、ありがと」
「‥別に‥‥」
面倒くさそうな仕草をするが、面と向かって礼を言われたのが効いたのか、若干照れくさそうにしながら麦野は返事をする
「な、名前!名前を聞いてもいい!?」
「‥‥‥は?」
「ウチの名前は耳郎響香!貴方は?」
「……麦野、……麦野沈利」
それだけ答えて、視線を逸らす。
別に、覚えられる理由もない。
覚える必要もない。
(……ほんと、柄じゃないわね)
小さく息を吐く。
瓦礫の山と、静まり返った試験会場。
その中心に立つ自分を、どこか他人事のように見つめながら___
「……帰りたい」
ぽつりと、そう呟いた。
『0次元の極点』
元ネタは『とある魔術の禁書目録』PSPゲーム版、麦野沈利編より。
元々は木原数多が提唱していた理論ですが、今回のむぎのんは一方通行からその話を聞いていた、という設定にしています。
恐らく、どこかでそういう機会があったのでしょう。
元ネタのままだとあまりにも無法すぎるため、いくつか制限を設けています。
まず、ワープ能力についてですが、現状ほぼ自身にしか使用できません。
一応、他者へ使用することも可能ではありますが、その場合は自身への負担が10倍以上に跳ね上がります。
元々、自身への使用ですら負担が大きいため、他者へ使用する機会はほぼ無いと思っていただいて大丈夫です。
また、射程距離に応じて消耗も変動します。
距離が長くなればなるほど、当然負担も大きくなります。
何故そこまで負担が大きいのかは、むぎのんがあまりにも細かい演算処理をしているから
ということで結論付けてます
もしかしたら、ワープ系の個性を持ってる人と話したりしたら何か変わるかも‥?
追記 お気に入り数100超えました!
ありがとうございます!m(__)m