1942年11月16日―。
パプアニューギニアのニューブリテン島の北端にあるラバウルに向かって西進する艦娘の一団があった。
ソロモン諸島の東にある、深海棲艦の根拠地であるガ島に向かった挺身艦隊だ。
だが、それは勝利の凱旋ではなく、ほとんど敗走に等しかった⋯。
「比叡さん!!
しっかりしてください!!」
と、比叡改二を抱えて航行する愛宕改二が、しきりに比叡改二に呼びかける。
「大丈夫だよ…愛宕…。」
と、弱々しく答える、大破した比叡改二。
「それよりも…霧島は…?」
と、妹の霧島改二を気にかける比叡改二。
大破した霧島改二は、高雄改二が抱えて航行していた。
「霧島さん!!
しっかりしてください!!」
と、霧島改二を抱えて航行する高雄改二が呼びかけるが、霧島改二からの返事は無い…。
「起きろ、霧島!!
もうすぐラバウルだ!!」
と比叡改二も呼びかけるが、霧島改二からの返事は無い…。
「霧島さん…?
霧島さん!!
返事をしてください!!」
と高雄改二が叫ぶも、霧島改二は完全に意識を失っているようで、高雄改二の呼びかけに、まったく反応しない。
大破した暁改二も、電改二と雷改二に抱えられていた。
「暗い…
眠い…。」
と、
「暁ちゃん、しっかりして!!」
「寝ちゃダメなのですっ!!」
と、雷改二と電改二が呼びかける…。
夕立改二も、白雪改二と初雪改二に抱えられている。
「夕立、しっかりしなさい!!」
という白雪改二からの呼びかけに
「だい…じょうぶ…っぽい…。」
と弱々しく答える夕立改二…。
綾波改二は深海棲艦からの集中砲火により炎上してしまった。
川内改二に抱きかかえられている綾波改二の姿は、服は燃えてほぼ全裸で、頭髪も燃えてしまっており、全身大火傷を負っている。
艤装も燃えて、ほぼ使用不能だ。
綾波改二を抱きかかえている川内改二自身も、綾波改二がこの状態でも生きているということが、とても信じられなかった。
だが、生きているのなら、その命を助けなければならない。
まもなく、一行の前方に、シンプソン湾の東端にある
・
ラバウル鎮守府の発進ゲート前では、所属している艦娘達が帰還してくる挺身艦隊を心配そうに見守っていた。
ガ島砲撃に向かったものの、待ち伏せていた深海棲艦の反撃によりガ島砲撃に失敗し、挺身艦隊は壊滅的な被害を出したと聞いていた。
やがて、まだ日が昇る前の明るくなったの東の水平線に挺身艦隊の姿が見えてきた。
「帰ってきたよー!!」
と、誰かが叫んだ。
そして数十分後、挺身艦隊が帰港してきたが、その惨憺たる姿に、皆、息をのんだ。
「比叡!!
霧島!!」
と、高雄改二と愛宕改二が背負っている比叡改二と霧島改二に駆け寄る金剛改二と榛名改二。
「金剛姉さま…ごめん…。
やられちゃったよ…。」
と、弱々しく金剛改二に謝る比叡改二。
「霧島!!
霧島!!」
と、榛名改二は高雄改二に背負われている霧島改二に呼びかけるが、霧島改二は何の反応も示さない。
「提督…」
と、愛宕改二がラバウル鎮守府の提督である阿部少将に帰還報告をしようとしたが
「報告は後にしろ!!
まずは大破艦を直ちにドックに連れていけ!!」
と指示する阿部。
ドックに搬入された
比叡改二
霧島改二
暁改二
綾波改二
修理担当の夕張改二も、綾波改二の惨状を見て、思わずえずいてしまった。
「高速修復剤をありったけ持ってきて!!」
と、夕張改二は助手を務める夕凪改二*1に怒鳴る。
「そ…そんな…もう在庫が…」
と躊躇する夕凪改二に
「急げ!!
綾波がどうなってもいいのか!!」
と怒鳴る夕張改二。
「はい…
い…いや…いえっ!!」
と、夕凪改二は在庫が残り少ない高速修復剤を取りに走った―。
・
阿部の執務室で、高雄改二と愛宕改二が戦闘の報告をした。
比叡改二
霧島改二
愛宕改二
高雄改二
暁改二
雷改二
電改二
からなる艦隊と
川内改二
白雪改二
初雪改二
浦波改二
敷波改二
綾波改二
夕立改二
の艦隊でガ島砲撃に向かったが
戦艦新棲姫
南方戦艦新棲姫
防空巡棲姫
および多数の駆逐ニ級改からなる深海棲艦の待ち伏せにあってしまった。
どうにか敵艦隊は撃退したものの
比叡改二
霧島改二
暁改二
綾波改二
夕立改二
が大破し、本来の目的であったガ島への砲撃は行えなかったので、作戦は失敗に終わったのである。
「そうか…。
ご苦労だった。」
と、報告を聞いた阿部は険しい表情で答えた。
その時
「夕張、入ります!!」
と、執務室のドアがノックされた。
「入れ。」
と阿部が答えると、夕張改二が入ってきた。
「大破した者達の状態は?」
と訊く阿部に
「高速修復剤の大量投入により、比叡は回復しましたが、霧島、暁、綾波、夕立は…。」
と、夕張改二は首を横に振った。
「そうか…。」
と答える阿部。
「霧島、暁、綾波、夕立は、ここで
仮の解体処置
を行います。」
と言う夕張改二に
「まかせる…。」
と答える阿部…。
・
後日、阿部は大本営からラバウル鎮守府の提督を解任された。
ガ島砲撃作戦失敗の責任による更迭である…。
解任された阿部と
『仮の解体処置』をうけた
霧島改二
暁改二
綾波改二
夕立改二
そして比叡改二は、ラバウルの南方にあるブナカナウ飛行場から九六式陸上輸送機に乗って
霧島改二
暁改二
綾波改二
夕立改二
は
高速修復剤で助かったはずの比叡改二も
金剛改二
榛名改二
そして阿部の秘書艦だった妙高改二の見送りを受け、阿部や比叡改二達の乗った九六式陸上輸送機は
右側の席に座っていた比叡改二が、ふと、窓から外を見れば、シンプソン湾の東端にある
◇
九六式陸上輸送機はトラック諸島やマリアナ諸島を経由して、神奈川県の厚木基地に着陸した。
阿部は軍令部に出頭するため、ここで別れ、比叡改二は艤装の修理のため…
霧島改二
暁改二
綾波改二
夕立改二
は『解体処置』をうけるために横須賀鎮守府に向かった―。
『解体処置』をうけた
霧島改二
暁改二
綾波改二
夕立改二
は
普通の人間
となり、社会復帰のためのカリキュラムを受講した後、海軍を退役することになる。
一方、比叡改二はラバウル鎮守府から除籍され、艤装を修理している間
横須賀鎮守府付
となった。
いわゆる
だ。
「新しい配属先が決まるまで、少なくとも2〜3週間はかかると思うから、それまでは自宅で待機せよ。
新しい配属先が決まり次第、電報で報す。」
と人事課に言われたので、比叡改二は解体処置を受けて退役し、普通の人間になった霧島と一緒に、懐かしい自宅に帰宅した―。
・
自宅に帰ってきても、出迎えてくれる者は誰もいない。
それでも、短期間とはいえ霧島と一緒に過ごせるのは嬉しかった。
翌日から、霧島は社会復帰のカリキュラムを受講するため、横須賀鎮守府に向かった。
しかし、比叡改二は何もすることがないので、とりあえず、掃除でもして、霧島が帰ってくる夕方まで過ごすことにした…。
新しい配属先が決まるまで2〜3週間はかかるというはずだったが、3週間経っても横須賀鎮守府からの電報は来なかった。
そのうち、1942年の年末になった。
その日は朝から曇りで、雪が降りそうなくらい寒かった。
比叡改二は、外の郵便受けを開けた。
すると、中に一通の封筒が入っていた。
ようやく、横須賀鎮守府からの電報が来たかと喜んだが…
残念ながら、横須賀鎮守府からの電報ではなかった。
しかし、その封筒の差出人は、意外な人物だった。
「金剛姉さま?」
部屋に帰って封筒を開けて、手紙を出してみた。
手紙の内容は、金剛改二と榛名改二はラバウル鎮守府から転属することになったとのこと。
そして、艤装の整備と休養を兼ねて、
どうやら、新年は姉妹そろって迎える事ができるようだ。
これはこれで、とても嬉しかった。
そして…
12月30日に帰国した金剛改二と榛名改二とともに、1943年を迎えた―。
1943年の正月の朝、年賀状を取りに外の郵便受けを開けたら、年賀状と一緒に、横須賀鎮守府からの電報も入っていた。
部屋に戻って、さっそく、電報を開けてみた。
『1月4日 横須賀鎮守府に出頭せよ』
「これでまた、金剛姉さまと榛名と一緒に戦える!!」
と喜ぶ比叡改二だったが
「それがね…
と言う金剛改二。
金剛改二と榛名改二の転属先は
「じゃ…私は…?」
と、比叡改二は首をかしげた―。
・
三ヶ日が終わり…
金剛改二
比叡改二
榛名改二
は横須賀鎮守府に…
霧島は就活のため、4人そろって家を出た。
金剛改二
榛名改二
は、いつもの御子装束。
比叡改二は第一種軍装。
霧島はビジネススーツ姿。
そして、家の前でお互いに
「「武運長久を祈る☆」」
と敬礼しあって、霧島は面接に…
金剛改二
比叡改二
榛名改二
は横須賀鎮守府に向かった―。
・
横須賀鎮守府の人事課で、比叡改二は辞令を受け取った。
『戦艦比叡 ラバウル鎮守府への配属を命ず』
ラバウル鎮守府から除籍されたのに、またしてもラバウル鎮守府に配属されたことに、比叡改二は苦笑するしかなかった。
しかし、気になるのはラバウル鎮守府の戦力だ。
これまで、ラバウル鎮守府の戦艦戦力は金剛四姉妹が担っていたが、金剛改二と榛名改二は
これだと、ラバウル鎮守府の戦艦戦力は比叡改二だけということになる。
ということは、ソロモン戦線に大規模な戦艦戦力は必要無いということなのだろうか?
それとも、長門型や大和型が配備されたのだろうか?
「すみません。
本当に、私だけがラバウルに行くのですか?」
と、人事課の職員に訊いてみると
「いえ。
あなたの他に2名配属されるため、その者を連れてラバウルに向かってください。」
と言われた―。
更衣室で御子装束に着替えた比叡改二は、発進ゲートに向かった。
すると、そこには2名の艦娘がいた。
「あの…
もしかして、戦艦比叡さんですか?」
と訊いてくる、茶色のブレザーを着たポニーテールの艦娘。
「そうだよ。
私が金剛型2番艦の比叡だよ。」
と答える比叡改二。
すると、ポニーテールの艦娘が
「本日付けでラバウル鎮守府に配属されました
装甲巡洋艦 高千穂
です。
よろしくおねがいします!!」
と敬礼した。
そして、もう一人…
白いセーラー服を着たショートヘアの艦娘が
「同じく、本日付けでラバウル鎮守府に配属されました
防空巡洋艦 新高
です。
よろしくおねがいします。」
と敬礼した。
「え…?
装甲巡洋艦…?」
と、高千穂と名乗った艦娘の艦種を聞いて驚く比叡改二。
なぜなら
装甲巡洋艦という艦種は数年前に廃止されたはず
だからだ…。