提督が退役しました。これより年金生活に入ります   作:デモステネス

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第31話 愉快なやつ(1)

「ども司令官、お久しぶりです~。青葉他3名、着任しました~。」

 

 まさか本人が来るとは思わなかったな。早速監視役を仰せつかったか。柳は元の部下を爪先から頭の天辺まで一瞥した。

「ご苦労。随分変わったな、青葉。」

 眼鏡を掛け、ポニーテールをやめて左右にお団子を結い、正面に太いアホ毛。これでカチューシャしていたら眼鏡をかけた金剛である。スカートもキュロットスカートから丈の長いプリーツスカートになっている。

 

「どうでしょう」

「なかなか新鮮でいいぞ。しかしお前も随分苦労しているようだな。」

「えっ?」

「白髪があるぞ。」

「そんなあ。どこ、どこですか。」

 柳は机の中から扇子を取り出すと、青葉の脇に立った。

「ほら、ここここ。あ、ここにも。」

 青葉の後ろに回り、扇子で髪を触れて白髪を数えだす柳。

「えーっ、嘘ですぅ。」

「うん、嘘だね。ふーん、お団子の中にカメラ仕込んだのか。」

「バレちゃいましたか。」

 青葉も苦笑している。歌いながら柳は青葉をチェックし始めた。

「ふむ。

 ♪一つ 人よりハゲがある 二つ ふもとに ハゲがある」

 伊達メガネ、セーラー服の後ろ襟を次々と扇子で軽く叩いていく。

「提督、何しているの?」

 衣笠は、青葉が大本営から連れてきたので柳とこの青葉の事を知らない。

「五つ いつでもハゲがある 六つ 向こうにハゲがある

 襟の裏を探ってごらん。」

「はい?え、何これ」

 後ろ襟の角に盗聴用マイク、首のところから録音機が出てきた。

「七つ 斜めに ハゲがある 八つ やっぱり ハゲがある

 ふん。腕を上げたな。」

「恐縮です。」

 柳はちょっと離れて青葉の横に立つとしげしげと青葉をみつめた。

「私には手が出せないな。初雪、ちょっと来てくれ。」

「・・・何?」

「ふかふかもふもふ、go!」

 瞬間、青葉に飛びつき胸を揉みしだく初雪。

「おおー、資料用に写真を…うっひょひょ~」

「硬い。偽乳特戦隊。 ふん。」

 右手を背中に回してブラジャーのホックを外すと、左手を服の中に突っ込み青葉のブラジャーを外す初雪。その間3秒。

「いやーん」

 慌てて腕を組んで胸を隠す青葉。しかし、時遅く服の中からパッドが転げ落ちてきた。どうも変だと思ったのよね。おっぱい大きくなってるのって。怪訝に思いながらも衣笠がパッドを拾い上げるとパッドには小型録音機とマイクが仕込んであった。

 

「なにこれ」

「いやー、着任早々いいもん見せてもらいましたわー。」

 

 ずいぶんおっさん臭いなこの秋雲は。そう思いながら腰を落とし、衣笠の手からパッドを取り上げると、柳は盗聴器に向かって再び歌い出した。

「九つ ここにもハゲがある。 十で とうとう つるっパゲ

 漣、青葉のスカート、どこでもいいから折目触って裾持ち上げてごらん。」

 事態についていけず、目を点にしている漣に柳は命じた。

「はい、ご主人様。って、何これ!?」

 折り目は何か芯が通って硬く、裾はやけに重い。

「女のスカートの中は秘密で一杯だからな。」

「てへっ(はぁと)」

「・・・青葉。何やってるの。」

 

 スポーティ一辺倒からファッションに目覚めたのかと思っていたら。衣笠は鎮守府違いの姉を呆れ顔で眺めた。

「それにしてもどうしたんだ、このアホ毛。」柳は青葉のアホ毛をつついた。「何を仕込むにもボリュームが足りんようだが。」

「それはですね。」

 青葉は右のお団子を押すととアホ毛の先が発光した。光ファイバーだったらしい。

「ヘッドライトです。便利でしょう。」

「なるほど。」

 ピンクの髪の色からIV号戦車のマークを連想したが言わないでおく。

「秋雲、人を元気づけることを何という?」

「はい?なにそれ」

 いきなり話を振られて戸惑う秋雲に柳は真面目腐って言った。

「正解は”ハゲ”ます、だ。

 漣、東南アジア原産でヒユ科ヒユ属の一年草アマランサスの一種の観葉植物はなんという。」

「えー?」

「はい時間切れ。正解は”ハゲ”イトウだ。

 衣笠、第二次世界大戦中、ドイツにあったへリコプター会社の名称は?」

「ええっと・・・」

「正解はフォッケ=ア"ハゲ”リス社でしたー。」

 必死に笑いをこらえる青葉。

「初雪、一名様明石屋にご案内。青葉、制服に着替えてもらうからな。

これはお前が帰るまで預かっておく。」

 金属の決裁箱に隠しマイクその他を入れるとわざとらしくがちゃん、と音を立てて蓋を閉めて鍵を掛け、秘書艦と間諜が部屋を出ていくのを見守った。そして東京某所の一室では周囲が笑いを押し殺す中、私はハゲでない。剃っているだけだ!と怒号が響き渡っていた。

 

 

「ご主人さま、今のは一体?」

「いつものスキンシップだね。」

「「「スキンシップゥ?」」」三人がハモる。

「傍目にはそう見えんかもしれないけれどね。だから大本営も元部下なのによこしてきたんだろうさ。書類の上辺しかみないからそうなる。」

 フン、と鼻を鳴らすと姿勢を正し、衣笠たちに向き直る。

「ではあらためて大地寮へようこそ。私が寮監の柳佐理です。よろしく。

 大本営がら色々聞いていると思うが、私が何者で、ここで何をやるつもりなのか、自分の目と耳で確認してね。

 それからさっきの小芝居だが、これからもちょいちょいやるからサクラよろしく。」

「小芝居だったの?」

「大本営がねえ。」柳は露骨に嫌な顔をして溜息をついた。

「くっだらんちょっかいかけてくるんだよ。それが嫌で予備役すっ飛ばして退役したっていうのにねえ。しつこい奴は女に嫌われるし、電にヤキ入れられたのにご苦労なこった。マゾなのかな。」

「電がヤキ?想像つかないわ~」

「秋雲は、幸せですのお。」

「秋雲は、そのままの秋雲でいてね。」

「え?え?なになに?」

 漣と衣笠の生温かい視線に戸惑う秋雲であった。

 

「自分の信じたい情報しか見聞きせず、無駄に有り余る自信と根拠のない理論武装で精神論語るたーけは艦娘が一番知ってるんじゃないかな。説明どころか会話するだけ無駄。

 子曰く、『民の義を務め、鬼神を敬して之を遠ざく。知と謂う可し』といってね。それで連中が観たがる小芝居打つことにしたんだ。」

「( ・∀・)キタコレ!及川長官」

「私は、白文は読めないなあ。漣は及川長官知ってるのかい。」

 柳は内心首を傾げた。開戦時の海軍大臣だった及川古志郎が駆逐艦の艦長やるには漣は新しすぎる。護衛総隊に漣はいなかったはずだが。

「支那方面艦隊の長官ですぞ、ご主人様。艦長がいつも感心してたのです。」

「へえー。そうだったんだ。」

 実戦経験あったのか、及川古志郎。後世の評価を知っているだけに柳の評価もまた辛辣なものであったが胸にしまっておく。よほどの愚将でもなければ自分の仕えた提督を悪し様に言われてうれしいわけがない。しかも日華事変は、勝ち戦である。

 

「君たちにやってもらうのは二つだ。大地寮は、役不足に悩む教官と学生を募集している。一つは大本営用の公式募集要項の作成で、もう一つは、艦娘がその気になりそうな本命募集要項の作成と配布だ。」

「役不足って?」

「火力で圧倒するつもりで球磨や長良待機させてたら、道中のウルフパックがひどくて五十鈴や那珂に変更とか、夜戦見込んで川内や神通温存してたら、ボスが離島棲姫や港湾棲姫で、多摩由良鬼怒阿武隈か、夕張大淀に第二艦隊旗艦変更とかしているうちにすっかり待機要員になってしまってね。」

「ああ、確かに。」

「軽巡の長女全員に怒られた。髀肉の嘆、って言葉知ってますか、って。」

「えー、阿賀野さんに怒られたの~。ありえんわ~」

「出撃ないからってゴロゴロしすぎ、って矢矧に怒られたじゃない、って八つ当たりされた。」

「あー、やはりそうなりますかー。」

 安定のだらし姉ぇ。艦娘三人が思いっきり頷いていた。

「お詫びのしるしに間宮券渡したら、今度は能代にこれ以上阿賀野ねえのウエスト増してどうするんですか、って怒られるし。

 教官は、そうやって実力があるにもかかわらず出撃しそびれている艦娘に来てほしいんだよ。人に教える、ということは自分の能力を再確認して洗練することにもなるからね。

 学生は、主力艦と改二のある艦以外が対象だ。出撃させられているうちにレベルアップするしね。だから実質、軽巡と駆逐艦になるな。」

「青葉と高雄、愛宕は?」

「重巡飼い殺しにしている鎮守府、ってあるのかい?」

 衣笠の質問に柳は精神的にのけ反った。「どこの世界のドーチェだよ、戦艦経済って。それにうちの鎮守府の最強重巡は青葉だったよ。」

「えーっ?」

 今度は衣笠が驚く番だった。改二がなく、旧式の青葉はカタログスペック上では重巡最弱である。叩かれても叩かれても復帰してきた史実を反映して運だけは高いけれど。

「せっかくだから体験してもらおうか。その方が説得力が増すだろう。」

 鎮守府違いとはいえ妹が驚くようでは先がない。そう柳は結論した。

「みんな、オリョールに出撃したことは。」

 全員が頷いた。

「衣笠は、沖ノ島沖かリランカ島に出撃したことはあるかい。」

「どちらもまだです。」

「漣と秋雲は、キス島に出撃したことは。」

「いやー、フルボッコにされたわけですがー」

「あたしはまだだね。」

「初心者以上、中堅未満かなりかけ、というところだな。やはり君たちはここに来てよかったようだ。

 うちの連中を紹介しよう。」

 

 事務室に案内する。吹雪、白雪、響、蒼龍が立ちあがって敬礼した。

「吹雪と蒼龍が専任教官。白雪と響は基本は主計で、響はパイロットだ。」

「パイロット?駆逐艦なのに?」

「アントノフに限って言えば蒼龍がコ・パイだ。現状、一番慣熟しているのは響だからね。研究班の日向、最上、夕張はラボにいる。

 吹雪、『旅行』を頼む。それから初雪と青葉にここに来るように言ってくれ。」

「はい、Head master。」

 

 吹雪に引率されて衣笠たちが施設見学に出ていくのを見送ると柳は蒼龍に話しかけた。

「せっかく青葉が来たから急降下爆撃訓練するぞ。」

「うれしいなぁ(棒)」

「響、青葉がアントノフの慣熟飛行するのにどれくらいかかりそうだ。」

「一日もあれば十分じゃないかな。」

「あたしも同乗させてもらっていいですか」

 目を輝かせる白雪に柳は人数を考えた。空が響、青葉。水上が吹雪、夕風、衣笠、秋雲、漣。全部で7人か。「ペイロードは十分だな。」

「ありがとうございます!」

「すまんが晩飯仕込んでいってもらえるか。何せ残るのがほら。」

「ああ、そうですね」

 白雪は頷いた。居残りは物ぐさ1号2号。それに研究組と蒼龍である。蒼龍以外は紅茶とビスケット、缶詰とビタミン剤を用意しておけば優に三日はそれで暮らそうとする。

「昼は気にしなくていいぞ。適当にやるから。」

「えーっ!」

「いい加減粗食に慣れるか、自分で作るか、どちらかを選びなさい。」

 ミッドウェーで沈んだので蒼龍は制空・制海権喪失後の補給切れ貧乏暮らしを知らない。

「ぶーう。搭乗員ニ糧食ヲ支給スルコトヲ得!」

「人もし働くことを欲せずば食すべからずと命じたりき。」

「聞く所によれば、汝等のうちに妄に歩みて何の業をもなさず、徒事にたづさはる者ありと。」

 

 柳のテサロニケ人への後の書第3章10の引用にすかさず蒼龍が続く第3章11を引用し返して特大ブーメランが柳に突き刺さった。

「しょうがないじゃないか。うちは鎮守府じゃないんだから間宮や伊良子は来ないんだyo!」

「じゃあ、鳳翔さん連れてくれば」

「君はバカか。」柳は心底呆れ顔をした。「どこの世界にくれ、って言って鳳翔くれる鎮守府がある。瑞鶴どころか空母寮全員に爆撃されるわ、最低でも。」

「それはそうですね。」

 その立場になった自分を想像したらしい。蒼龍は、あっさり認めた。

「本人が退役するつもりでも周りがうんと言わないだろう、鳳翔の場合。

 よっぽど慎重に根回しして後継者育成したか、提督が殿堂入りのバカで、鳳翔すら周りを構っている暇がないくらい指揮統制も士気も崩壊してるんでもない限り。」

「誰かお料理上手、こないかなあ。」

「自分が料理作る選択肢はないのかい。」

「提督に言われたくなーい。」

 

 またもやブーメランが柳に突き刺さるのであった。




 青葉 古鷹型重巡洋艦3番艦 or 青葉型重巡洋艦1番艦

 艦これ世界では艦隊のパパラッチ。隙あらば提督や艦娘の写真を撮っては艦隊新聞にゴシップネタを載せようとやりたい放題しているが、この青葉は・・・。

 漣 特型駆逐艦第19番艦

 提督をご主人様呼びする唯一の艦娘。ネットに最も順応し、ネットスラングを普段使いする公式ネタ要員。 ご主人様、調子に乗ると、ぶっ飛ばしますよ♪

 秋雲 陽炎型駆逐艦第19番艦

 艦これ世界では、一般も18禁もアリの同人作家。仕事上がりのビールが艦娘一似合う、鋼鉄の腐女子。

 衣笠 古鷹型重巡洋艦4番艦 or 青葉型重巡洋艦2番艦

 常識人+世話好きを買われて↑のお調子者三人を〆、監督するために呼ばれた鉄人。史実ではサボ島沖夜戦で唯一まともな反撃をして艦隊を救っている。衣笠さんにお任せ!

 戦艦経済

 男の浪漫、大艦巨砲主義の終着点。Hearts of Iron世界では、イタリアはこれで世界を征服した。どたぷーん。

 民の義を務め、鬼神を敬して之を遠ざく。知と謂うべし。(論語雍也第六の二十二)

 敬遠の語源。神仏のような人間の知では推測できないものには尊敬の気持ちを失わないが、それ以上深入りすることなく、それよりは人間として務めなければならぬ人としての義務を着実に実行してこそ、それがほんとうの知者である。
 スピリチュアルだのパワースポットだのに入れこむ暇あったら手、動かせ。

 テサロニケ人への後の書 (新約聖書)

 本来の主題は、↑の敬遠と同趣旨で、危機を煽って金儲けのネタにする終末論者に惑わされることなく、落ち着いて日々の労働に励むことの大切さを説くことであった。
 それが赤色革命で「働かざる者食うべからず」と変化し、聖職者、貴族、地主資本家といった不労所得者を攻撃する根拠とした。現代日本では、専ら企業経営者が労働者をこき使う論拠に使っているのが歴史の皮肉である。
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