提督が退役しました。これより年金生活に入ります   作:デモステネス

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第33話 愉快なやつ(3)

「かくして役者は全員演壇へと登り、暁の水平線に幕は上がる。」

 

 元より大淀はいない。吹雪は夕風と共に外泊。初雪は引き籠り。白雪と響は一日一杯曲芸飛行、提督と蒼龍は即興の演奏会でいい感じに疲労しており、夕食後早々に就寝してしまった。

 

「大地寮ひゅうばり研究室 研究員3名。

 大地寮明石組 組員102名。

 海軍省第三部第八課 課員1名」

 

「主任、我が主任研究員、主任研究員航空戦艦日向よ。オーダーを!」

「我が研究員、航空巡洋艦最上よ。オーダーする。

 複葉の翼には複式のフラップもて機動せよ。

 スピードオーバーにはスパッツをもって制動せよ。

 よく設計されたテーパー翼は楕円翼を超えると知れ。

 dive&bomb!dive&bomb!

 一撃必中、逃して帰すな。その名のとおり、最上を尽くせ。」

「了解しました~。つまり、この子はもっと凄くなる、ということですね。」

「あー、もう、青葉ぁ」夕張は髪をかきむしった。

「そこは『了解、認識した。我が主任。』でしょう!!」

「へ?」

「あははは。夕張は様式美にこだわるからねー。」最上が愉快そうに笑った。

「翼を完全に再設計したよ。主翼の上下、水平尾翼をテーパー翼にして翼端は楕円にカット。タブと自動空戦フラップをつけた。これでかなり無理がきくようになったはずさ。

 ダイブブレーキの代わりに主脚に大きいスパッツつけたよ。これで制動が足りないようならダイブブレーキにするからね。」

 

 

 鬼の居ぬ間の何とやら。昼間の内に研究班と工廠組が主翼の上下翼と水平尾翼を作成。予備エンジンに過給機と定速プロペラ組み込んでいた。邪魔者が私室に戻ったのを見計らい、只今妖精さんが翼とエンジンを換装中。エンジンはともかく、主翼換装というのは色々おかしいのだが、12時間もあればジェット機だって直おらあ。ましてこいつはレシプロ機でい、と工廠長がいうから仕方がない。投弾アームとアーム引上用のワイヤを取りつけた。農薬や肥料蒔き用のタンクが大変身である。

 

「実用上昇限度が5000mから7000m、中高度馬力も向上してます。」ドヤ顔で明石。

「重くなっちゃいましたけどね。それ以上に性能上がったということで。」

「何ができて何ができないのか、その確認を頼む。」日向が重々しく言った。

「お任せください。青葉、対空砲火以外で墜落したことはありません。」

「夜明けまでにはきっちり仕上げておくから楽しみにしててね。」

 むくれていた夕張がようやく復活した。「でも、本当にガンポッドでいいの?同軸機銃や翼内機銃じゃなくても。」

「豆鉄砲で反動もないですし、弾数の方が重要ですから。

 ではでは。青葉、これから仕込みに行ってきますのでこれにて失礼。」

 

 

 

「チーズの天ぷら!?」

 

 晩成温泉。せっせとチーズサーモン丼の写真を撮り、食べながら口述筆記を始める漣であった。

「食べるかしゃべるかどっちかにしなさい。」衣笠が嗜める。

「お仕事ですぞ、お仕事。広報の。(^Д^)メシウマ!」

「仕事熱心なのか、なんなのか。」年の離れた妹に吹雪も呆れ顔である。

「楽しそうで何よりですこと。」と夕風。

「あー、天ぷらに味噌だれというのも珍しいですが、今度はサーモンの天ぷらで試してみましょう。」

「あーあー。実況モード入っちゃったわ。よし、あたしも負けてらんないわー。丼ものといえばあたし。駆逐艦筆頭だからね。」

「そういう属性も、モグモグ、ありましたなあ、秋雲。」

「夕立も曙もウドンだったかんねー。赤城さんや金剛さんに対抗したのはこの秋雲さんよ。 そういえばここの温泉、臭いが普通の温泉と全然違うね。」

「ヨード温泉が売りですから。」と吹雪。「海水の200倍、ヨウ素が濃縮されてるってHead masterが言ってました。」

「200倍 (・∀・)キタコレ!!」

「といっても火山のそばの温泉じゃないから硫化水素とかがないだけなんですけどね。」これも受け売りですけど、と付け加える。

「そうなんだ。」いささかがっかりする衣笠。

「ナトリウムと炭酸水素ってありがちな温泉だし、ヨウ素含有量もこれくらいの温泉は他にも一杯あるんだけど、そこは言ったもん勝ちかな、って笑ってました。」

「(´・Д・)=3 はぁ~なんともいえねぇ~。」

「でも納沙布岬から襟裳岬まで、ここしか海沿いの温泉はないんです。あとは苫小牧室蘭か函館まで行かないと。 苫小牧で130、室蘭で150、函館で160海里先ですから」

「原速で10時間以上かあ。その後入港だから事実上丸一日がかりよね。」

 

 衣笠の溜息まじりの言葉に皆が頷く。入浴上陸一日お預け。それは艦娘に効く。豪華客船でもない限り船乗りにとって清水は贅沢品に等しく、南洋ではスコールを見かけると針路をそちらに向け、手隙の者は手拭と石鹸持って全員甲板に集合したものだ。乗組員が妖精さんに変わった結果、清水の使用量は激減して事実上艦娘の使い放題になったとはいえ、入浴上陸の意味が揺らぐことはない。まして女の身として生まれたからにはなおのこと。

 

「北海道はでっかいどう。」

 

 昭和でも化石ジョークだが、艦娘の大半は大正生まれか昭和一桁生まれなので問題ない。え、金剛?竣工は大正2年8月16日デース!

 

「大樹新港は、艦娘専用港で戦艦空母も楽々繋留です。それで30分で温泉って、他の鎮守府にもこんなところはありません、はい。」 吹雪、PRに余念がない。

「温泉なら、色々お勧めがありましてよ。」と夕風。「十勝川温泉ですとか。」、

「ほほう。それは聞き捨てならないですなあ。それも是非取材しなければ。」秋雲が俄然興味を持ちだした。

「でも寮監様は、然別やオンネトーが格別とおっしゃいます。」

「シカリベツ?オンネトー?なんか北海道っぽい名前だねえ。どんなとこ。」

「まだあたしたちも行ったことがないんです。Head masterの課外講座で行くところなんですけど。」

「へえー、なんで。」

「土日に遭難時のアウトドア教室やる、って言ってたんですけど、たまたま雨降りだったんです。わざわざ休みの日に何が悲しゅうて雨降りに外出歩かなきゃならんのさ。晴耕雨読に決まっているじゃないか、って。」

「噂どおりの柳提督だわぁ。でも、広報ならきちんと取材しないとね~。」

「単に温泉行きたいだけじゃないの、秋雲。」

「何を仰る衣笠さん。お仕事ですぞ、お仕事。(`・ω・´) 現地情報の収集。あの外務省ですら一押しの危機対策管理の初歩ですぞヽ(`Д´)ノ」

「だから食べるかしゃべるかどっちかに集中しなさい、漣。」

 

 

 一日一杯海の上を引き摺り回され、人の姿であったため艦隊運動というよりは陸軍の分列行進だったのだが、それでも陸の上で燻っているよりはよほどマシで気分は晴れやかであった。遮るもの一つないカンカン照りに潮風と汗が乾いた後の塩で顔がザラザラ、髪はペタペタになっても、高い士気の下、軍艦は海を進むものなのだ。

 さんざん体を動かしたら温泉入ってさっぱり汗を流しておいしいもの食べて寝る。それさえ確保されていれば明日を信じてまた戦える。兵隊レベルであればそういうものだ。補給とか戦線維持とか戦略とかは将校の考えること。それをいちいち兵隊に要求するようでは将校団が無能すぎる。

 

 さてさて。明日の対空訓練は午前中だけにしておきましょうか。お客さんですし。午後は、戻って広報業務でデスクワークさせた方がいいでしょう。その元気があれば、ですけど。それに青葉さんが来て研究・工廠組が大人しくしてるはずないんですよね。吹雪は、顔を思い浮かべながらそう思った。

 

「明日も頑張りましょう。」

 

 静かに熱血している吹雪に衣笠は訝った。予備役編入した割にこの吹雪はまるで潮気が抜けていない。青葉といい、元佐世保第8鎮守府ってずいぶん戦闘的な艦娘が多いのね。あの昼行燈提督になぜかしら。




 研究班+工廠班によるAn-2J改

 すべては対空訓練用に急降下爆撃&機銃掃射するための改造。
 ボール紙とベニヤ板でできた地球環境に優しいエコな模擬爆弾を投下し、消火用の炭酸ガスで駆動する7.7mm機銃が-さすがにBB弾では弱すぎるので-ゴム弾を発射。
 同じエンジン積んだ米海軍の急降下爆撃機SBDドーントレス中古で買ってきた方が安くて高性能で安定しています。
 そこまでしてAn-2を改造する理由は浪漫。
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