提督が退役しました。これより年金生活に入ります   作:デモステネス

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第34話 愉快なやつ(4)

「これはちょっと恥ずかしいな。」

 

 アントノフの垂直尾翼に響のバストアップの改二姿、Верныйが描かれていた。朝日を受けて、水兵帽のバッジの金色の星と鎌とハンマーがキラキラ輝いている。そして機体にはデカデカと手書きのキリル文字の赤文字。きっとスターリン万歳!とか、ファシストに死を!といった迷彩塗装をぶち壊しにすることで有名な例のスローガンだろう。

 

「妖精さんのいたずら?色々な意味でイタ飛行機になっちゃったね。」と蒼龍。

「悪乗りし過ぎです。けしからんですね。」青葉が一気に不機嫌になった。

「なんて書いてあるの、響ちゃん。」白雪が尋ねる。

「独裁のド レーニンのレ 民警のミ ファシストのファ ってなんだい、これは」 右側に回ってみた。

「ソ連のソ ラーゲリのラ シベリアのシ 昼間からチェキストがすっ飛んできそうだ。」

「あっはっは。なんですかそれ!」青葉の機嫌が一気に直った。「妖精さんにそんなジョークセンスがあるとは。やりますねー。」

 

 そして機体の点検に向かう面々であったが

 

「あれっ?スパッツついてるよ。」と、蒼龍。

「パイロンに爆弾ぶらさがっているね。」と、響。

「・・・・・・」

「翼がテーパー翼に変わっていますね。」

 白雪の沈黙に青葉は驚いたふりをしてみせた。

「ちょっと用事ができました。搭乗を取消します。今日の出撃は、皆さんで行ってください。」

 スタスタと寮の中に戻る白雪。残された三人は心の中でハンケチを振っていた。さらば我が愛しき技術バカ共よ。貴艦等はいい奴だった。

 

「さ、今日も張り切って参りましょうか。」

 

 青葉がとってつけたかのように声をかけ、三人はおずおずと機に乗り込んだ。

 

 

 

「こいつがやりました。」

「やったのはこいつです。」

 

 白雪がラボに入ると、ただならぬ気配を察知した妖精さん達がてんでばらばらにお互いを指差した。そして上目づかいに白雪を見、無表情な顔に息を呑むと一斉に一人の妖精を指差す。

「え?ボク?!」

 うろたえる妖精さんを一瞥すると白雪は感情の全く籠らない声で宣言した。

「この子以外、五日間お菓子抜き。」

 

「ひえええ!」

「そんなせっしょうな」

「おに、あくま、れいけつにんげん!」

「あ、ばか!」

 

 本人も口を押さえたが遅い。白雪は冷血人間呼ばわりした妖精さんをつまみあげた。

「そう、あたしはschneewittchen。雪の魔女ですから。」

 氷の微笑を浮かべて工廠長の方を見た。

「この子を暫くお借りします。よろしいですね、工廠長。」

「お、おう。」

 すまねえ。部下を守れない俺を許してくれ。シローは心の中で詫びた。しかし、女と戦う操典なんつぁ、この世にあった例がねえんだ。

 

「さて。お話を聞かせてもらえますか、最上さん。」

 

 経理VS技術畑の伝統の一戦の幕が上がった。

 

 

「あの瑞雲みたいな翼は?」

「みたい、じゃなくて瑞雲の翼だよ。まんまじゃないけどね。大湊第3警備府で大破除籍になっていたのを資源とバーターで引き取ったんだ。」

「いくらで?」

「10機分で各20。武装はないけど、部品取りに使えるからね。スパッツやパイロンはそれで流用したんだ。」

「ふむ。相場としては、妥当なところでしょう。

 明石さん。プロペラが可変ピッチに変わっていたみたいですけど。」

「定速プロペラにしました。固定ピッチじゃせっかく馬力アップしても燃費が悪いままですからね。横須賀第2鎮守府でお蔵入りしていたドーントレスの予備エンジンごと買い叩いてきました。過給機付きになって中高度性能も大々的に上がったんですよ。」

 

 ここぞとばかりに燃費と空中性能の向上を訴える明石にそうですか、と頷く白雪。よし。首の皮つながった。明石は心の中でガッツポーズをとった。

 

「夕張さん、ガンポッドというのは?」

「対空訓練がね。急降下爆撃だけじゃ物足りないでしょ。だから機銃掃射できるようにしたの。 あのポッドの中には九七式七粍七固定機銃が入っていて、消火器用の炭酸ガスボンベから圧縮空気でゴム弾を打ち出すようになっているのよ。全部で30kgくらい重量増えたけど、それくらいならペイロードも全然余裕よね。

 ポッドも九九式二五番通常爆弾の側を利用しただけだし、機銃2丁送料込みで新品のタイヤ1本分で済んだのよ。」

 

 陸軍ならさておき、7.7mm機銃は鹵獲やら開発の失敗で嫌になるほど余る装備である。倉庫の肥やしにするにも倉庫のスペースがもったいないくらいだ。夕張は廃品利用の安物であることを強調した。

「なるほど。日向さんは?」

「私は大したことはしていない。投弾アームとサイレンつけたくらいだな。」

「投弾アーム?」

「緩降下爆撃なら爆弾倉から投下で済むがな。まともに急降下爆撃するとなると投弾アームがないとペラに爆弾がぶつかる。使ったのは鋼材何本かと謎カーボン製のワイヤが20mくらいだ。

 サイレンはそうさな。愛嬌という奴だ。いかにも急降下爆撃だろう。ホームセンターで売ってた。」

「まともな急降下爆撃。確かにそうですね。」

 やったか。いや、そんなことはあるまい。この間は始まりだ。日向は覚悟を決めた。

 

「とても、とても悲しいことです。」白雪は小刻みに首を振った。「こんな愚行が始められたことも、止める人が誰もいなかったことも。弁天様が泣いています。」

 

 愚行って。言い返そうとした最上だったが、白雪の氷の微笑に瞬時に凍りついた。

「あのルフトヴァッフェだってタンテユーやコンドルに急降下性能は要求していません。薬でもキメていたんですか、国家元帥みたいに。」

「さいこうにはいってやつだぜ。」

 

「誰?その口をきくピー(自主規制)は。」

 

 軍艦の化身なので水兵が使う汚い言葉も当然使える。しかし女の子なので口調はあくまでも穏やかだった。

「三途の川を渡りたいピー(自主規制)のピー(自主規制)は誰ですか?

 いない? ピー(自主規制)が空耳でも囁きましたか?

 いいでしょう。気合入れてあげます。精神注入棒でそのピー(自主規制)のピー(自主規制)がおさるのピー(自主規制)みたいになって、パンツ穿けなくなるまで。

 あなたですか、ピー(自主規制)のピー(自主規制)は。」

「チガイマス!」つまみあげられた妖精さんは必死に叫んだ。

「そう? ピー(自主規制)のかけらさん。嘘ついたら針千本ですからね。」

「チガイマス!」

「ぼくだよ」

 胸を張る妖精さんに白雪は感心して見つめた。

「はちまきさん。へえ、はちまきさんだったんですか。」

 

 吹雪が借りてきた妖精さんは、新しく妖精さんが集まってきたので佐世保に帰したのだが、ここがきにいりました、と居残ったのが四人いた。古参の妖精さんなので当然白雪もよく知っている。

「正直者は好きですよ。ご褒美に妹をピー(自主規制)していいですよ。」

 携帯を取り出す。「もしもし初雪ちゃん。可及的速やかにラボに来てくれる。」

 

 返事を待たずに通話を切る。果たせるかな、3分で初雪は駆けつけてきた。直立不動で姉に敬礼する。

「初雪ちゃん、はちまきさんを5日間預けます。好きに使っていいですからね。」

「ん…わかった…。戻ってもいい?」

 

 やらなくてもいいことはやらない。やらなければならないことは手短に。出処進退の鮮やかな初雪であった。その右肩に乗ってはちまきさんが片目をつぶってみせる。そんな手があったか。元佐世保第八鎮守府の古参妖精さん三人がくやしがっていた。

 初雪の好き放題ということは文字通り初雪の使い走り、お世話係になることだ。なにせ初雪ときたら眠くなるまで本やテレビやゲームに嵌り、リンゴどころかミカンまで皮を剥いてやらなければならない干物娘。やんごとなきお姫様並みに世話を焼いてやらないと服を選ぶのが面倒くさいといって丸々1週間同じ服を着倒しても意に介さない物ぐさ2号である。(1号は提督)工廠妖精さんのレゾンデートルである物作りをじっくりやってる暇などない。

 だがしかし。戦場でもない限り初雪の半径3mからお菓子が消えることはない。

 

「ぼくもいいました。」

「おおはたさんも。 そう。でもね。」

 白雪は妖精さんに顔を近づけて言った。「自首、っていうのはね。最初だけ減刑が考慮されるんです。二番目はないんですよ。でも。」

 白雪はこぼれんばかりの笑みを湛えて言った。「その勇気に応えて、おおはたさんにはさっきの妖精さんと一緒にあたしに付き合ってもらいましょう。楽しいですよ。5日間、バンジーやり放題。」

 

 ペタン、と座り込むおおはたさん。白雪は滑走路の地下の通気用で上屋を入れると23mの竪坑の一つをバンジージャンプ台にしていた。非常灯の灯を頼りに真っ暗な竪坑を飛び降りる。有体に云って真夜中の投身自殺。よくて特殊部隊の夜間降下訓練にしかみえないのだが、白雪はそれを嬉々としてやっていた。

 

「おおはたがやられたようですな。」

「やつはしてんのうのなかでもさいじゃく。」

「くちくかんごときにやられるとは、ようせいのつらよごしよ。」

 

「駆逐艦ごとき、ですか。むっしゅ・ころん・おぶらいえん、ちくわ大明神さん。」

 小声でしゃべっていたつもりだったがしっかり白雪に聞かれていた。

「工廠妖精さんがそんな風な考えだったなんて。これは教育が必要ですね、工廠長。」

「アッハイ」

「NとS。どちらがいいですか。」

「えっと」

「どちらがいいですか。」

「えぬでおねがいします。」と、むっしゅ・ころん・おぶらいえん。

「えすでおねがいします。」と、ちくわ大明神さん。

「じゃあ、この箱の中へどうぞ」

 鎮守府引っ越し御用達、小さい段ボール箱を指差す。

「「えっ」」

「どうぞお入りください。」

 氷の微笑で促す白雪。カクカクとして動きで妖精さんが段ボール箱に入るとガムテで封をする。通信欄に駆逐艦のよさを教えてあげてください、と記入。宛先をそれぞれ

『○○第○鎮守府 戦艦長門様』

『××第×鎮守府 巡洋艦川内様』

 と書いた。

 

 

 バカ野郎共が。どいつもこいつもどうしようもない大馬鹿野郎共が。はちまき抜かして物の見事に自爆しやがった。シローは胸の内で呟いた。それにしても一罰百戒かよ。新入りに箍嵌めるためとはいえ、白雪の姉ちゃんも容赦がねえ。

 

「最上さん、話は終わってませんよ。」

 

 白雪の注意が妖精さんに向かっている間にステルスモードに入って後進を試みた最上であったが、流石に場所が悪すぎた。

「いやあ、あははは。」

 取り敢えず笑ってごまかす。ああ、どうして大きな段ボールを置いておかなかったんだろう。ボクの馬鹿。

「皆さん、私がどうして怒っているかわかりますか。」

「無駄遣いをしたから」明石がおずおずと答える。

「そうです。しかし、全く誤解されているようです。先ほどから皆さんは、お買い得を強調していますが。」

 白雪は言葉を切って全員を眺めた。全くいい歳して技術バカが!

「お金の多い少ないをいっているんじゃありません。だいたいあの飛行機は夕張さんの私物なんですから、本来私がとやかくいうものじゃありません。しかし。

 いい大人が揃いも揃ってネタ兵器作ってどうするんですか!」

「ネタ兵器って」夕張が弱弱しく反撃する。

「パンジャンドラム並みのネタ兵器でしょうが、貨客機が急降下爆撃って。」

「失敗は成功の母といって」

「後につながる場合です。」ぴしゃり、と白雪は遮った。

「貨客機を急降下爆撃機に改装する。いくら弄ったところで急降下爆撃機として開発された飛行機に敵う訳ないでしょう。イギリスの対空火炎放射器とかドイツの音波砲とか、何か後につながりましたか?

 仮に皆さんが今回の改装にかかったお金でお笑い芸人におひねりあげたんだったら、私は何も言いいません。正しいお金の使い方だからです。

 しかし、アントノフに求められているのは、ちょっとした藪くらいなら離発着できる不整地能力と、真冬のシベリアだろうが必ずエンジン始動する信頼性です。

 急降下爆撃性能欲しいなら初めから武装下ろした九九艦爆やドーントレス払い下げてもらえばいいでしょう、彗星や流星は無理としても。空戦以外のマルチロール機ならソードフィッシュがあります。

 まったくもう。戦艦を輸送船にしますか。或いは輸送船を軍艦にしますか。」

 北号作戦のことを言われて日向は押し黙った。

「特設空母や仮装巡洋艦なら」

「なら伺いますが、最上さん。神鷹さんが蒼龍さんに敵うと思いますか。愛国丸やアトランティスと撃ちあって不覚をとるとでも?」

 

 

 

「おお、やってるな。」

 

 通りかかった柳は微笑んだ。青葉対策にどう小芝居うとうか考えていたが、丁度良かった。大本営の奴らもこれで3年は戦えるだろう。よしよし。気付かれないよう、足音を忍ばせて事務室に引き返す。

 白雪の説教は、昼まで続いた。(合掌)

 

 なお、某鎮守府では姉の監視から解放された陸奥が連続休暇をとったり、また別の鎮守府では夜22時を過ぎても軽巡洋艦寮が静まりかえって、静かすぎて眠れない軽巡洋艦娘が続出したらしい。




 弁天様

 インドの河神サラスヴァティ。芸術、学問の神だが、漢音訳の弁才天の才能の才の音が財と同じことから日本では財産神も併せ持つ。
 弁才天の場合:学問、芸事の女神様。琵琶を持つ
 弁財天の場合:財産、勝負事の神様。独鈷杵、剣、斧を持つ。

 長門、川内

 艦これ世界では、まったく、駆逐艦は最高だぜ!!の双璧。

 パンジャンドラム

 糸巻き戦車を本当に実戦兵器として作ってしまったという、英国面とは何かを物語る珍兵器。
 なお、割り箸ガイドの代わりに鉄筋、輪ゴムの代わりにロケット弾を動力として使った結果、ガイドは短すぎ推力不足でネズミ花火並みにあっちこっちにぶっとんでいく。

 対空火炎放射器

 ドイツのシュトゥーカに悩まされた英軍が火炎放射器空に向けたらシュトゥーカがビビって逃げるんじゃね、と考えた。射程は60mあったらしいが、投下した爆弾の爆風避けるため、シュトゥーカは通常高度500mで機体引き起こしていたので意味がなかった。というか、艦載用だとマストや艦橋を焦がしてシュトゥーカより危なかった。

 音波砲

 連合軍のヤーボに悩まされたドイツ軍が殺人音波ビームで搭乗員皆殺しじゃあ、とパラボラアンテナを対空砲にしてみた。動物実験の結果、人間を殺すのには50m先からで30秒照射すれば足りると評価されている。
 音波がビームになるとして、500-4000m先を時速何百キロで上空を飛ぶ飛行機の中にいる人間を追尾し続けなければならない。
ナチスの科学はあ、世界一チイイイイ!

 神鷹

 太平洋戦争勃発で帰国できなくなったドイツ客船シャルンホルストを買収。改装して特設空母とした。排水トン20,900トン、搭載機数 27+6機

 蒼龍

 正規空母中、一番小さい空母。排水トン18,800トンで、トン数だけで比較すれば神鷹よりも小さい。搭載機数54+18機で搭載機数は神鷹の倍。

 愛国丸(日本海軍)、アトランティス(ドイツ海軍)

 貨物船に15cm砲、対空機銃、魚雷発射管を積んで通商破壊戦をした仮装巡洋艦。
 もちろん、砲の門数、速度、共にまともな軍艦に敵う訳がない。
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