提督が退役しました。これより年金生活に入ります 作:デモステネス
「ということがあってね。」
「あははは・・・」 力なく笑う衣笠であった。
「ご主人様、そのために磐手さんたち呼んだの。」
「うん。磐手も同窓会だ、ってノリノリでね。さすが上村艦隊、いい仕事をしてくれたよ。」
「所払、って青葉はどうなったんですか。」
「所払は、えーころ加減な刑罰でねえ。一番重い重所払(おものところばらい)だと日本全国のうち1/3くらい住めなくなるんだが、一番軽いのだど町内から出てけ、ってことになる。青葉の場合、退寮処分でめでたく営外者になったわけだ。」
「はあ? そんだけ大騒ぎしてそれだけ?」
「侘しいもんだぞ、独り者の営外居住って。誰もいない部屋に帰って飯を喰う。慣れれば気楽だがな。」
柳は時計を見て丼ぶりを叩き、日向が青葉の脇腹をくすぐるのをやめた。
「で、欧州打通作戦が始まったんで、報道というならPK(Propagandakompanie)見習ってこい、って名目で観戦武官でドイツに派遣したんだ。
青葉は、ドイツ流の軍報道を身に付け四年後に帰国、というのが公式の記録だ。伝説の54がよくぞここまで更生した。世界を見て目が開かれたんだ、ということになっている。 まあ、確かにそのとおりではあるんだが。物事には何事も表と裏があってだね。」
「裏、ですか。」
「ネタがなければつくればいい、って悪い事まで憶えてきてね。ネタに詰まると勝手に出撃して新聞に載せるんだ、あいつは。
青葉が帰朝して暫くたってから鎮守府新聞に『タ級艦橋に着弾の瞬間』とか、『ヲ級エレベーターに着弾』とか決定的瞬間の写真が載るようになってね。不審に思ってたんだけど、加賀の艦爆妖精と松ちゃん妖精が昼間から酒かっくらって裸踊りしているのを見つけてな。」
「松ちゃんw」
「どこも一緒だ・・・」
「加賀が出撃しているのにどうしてここにいる、って鳳翔と龍驤連れてきて吐かせたら、青葉が搭乗割代わっていた。」
「はあ?」
「全く悪さのほとぼり冷ますつもりで海外出張させたら魔物になって帰ってくるなんて思いもしなかったよ。」
「魔物?」
「薄々気付いていると思うが、青葉をパイロットに育てたのはあの大佐さん妖精だ。」
「あっ(察し)」
「じゃあ青葉、靴下脱ぎ脱ぎしようね。」
「脱がさなくていい、脱がさなくていいですから!」
「あっそう。じゃ、最初は靴下の上からね。こちょこちょこちょこちょ」
「あははは!」
椅子を倒され、仰向けになったところを蒼龍に足の裏くすぐられて嬌声を上げている。どう見ても魔物なんていう物騒な存在には見えない。
「正真正銘の魔物だぞ。『ほらふき艦娘の大冒険』は知っているよね。」
三人は頷いた。
「あれは青葉が鎮守府新聞に連載した小説を加筆校正したものなんだけど、どうやらノンフィクションらしいんだ。」
「はあ?!」
「まさかあ」
「君たち、青葉が操縦する飛行機で曳航されたと思うけど、あれって村田さん妖精が軽く引くレベルの変態機動だからね。」
「えっ?」
「帰ったら誰でもいいから艦攻妖精さんに聞いてごらん。うちの村田殿は呆れていたよ。防空巡洋艦に突撃するならともかく、高が曳航に命張るか、って」
「じゃあ、空中機動で敵戦闘機を撃墜したって」
「たぶん実話。」
「浮上してきたカ級に切り込みして、メンタルモデルしばいて母艦まで戻ったって」
「きっと本当。」
「戦艦仏棲姫壊の口の中に対戦車砲撃ちこんで弾薬庫誘爆させて撃沈した、って」
「事実だ。ドイツ海軍の戦闘詳報を確認した。」柳は上を向いた。
「公式記録では、夜戦でグラーフ・ツェッペリンの砲撃が急所に当たって撃沈したことになっている・・・・・・。そんなわけがあるかい!
いくら伯爵が夜間砲撃できるたって対空砲の10.5cm連装砲だぞ。ヴァイタルパートなら大和やアイオワの主砲も弾くあのクソ硬い戦艦に、なんで紙装甲の空母が豆鉄砲当てるのにノコノコ近付いて行くってさ。
『ホラむす』の航空爆弾喰らわせて絶叫して口が大きく開いたところに狙い澄まして37mm砲撃ち込んだ方がよっぽど本当らしいよ。」
「じゃあなぜ公式記録は嘘書いたの?」
「グラーフ・ツェッペリンに夜間航空攻撃能力はない。できるのは砲撃だ。」
「(;゚Д゚)エエー」
「物証があるんだよ。 最後に大佐が友情と感謝の印に自分の勲章のレプリカ作ってワーレザイバーにプレゼントするだろう。
うちの青葉、持ってるんだよ。その勲章。」
「マジですか、提督」 驚きのあまり漣の口調が普通になっていた。
「黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を作る奴なんていないだろう。」柳は溜息をついた。「さっきこんな女に誰がした、って言ってけど『大佐の戦友』『空飛ぶピンクの驃騎兵、Die rosa Haar Husaren der Luft』にしたのは私なんだよね。」
時計を見てまた丼ぶりを叩く。青葉は口ではひーこら言っているが、まだまだ元気一杯だ。
「3年派遣の予定が1年延長希望してきて、任期切れの前に向こうの提督とグラーフ・ツェッペリン連名の丁重な文章でお引き取りのお願いが来たからさ。てめえの不始末をいつまでもよそさまにおっつけるのも何だ、と思って召還したんだけど、悪いことしちゃったよねえ。」
「悪いこと?」
「自分の指揮下にない外国の観戦武官が部下と結託して無双しまくっているんだ。ストレスなんていうもんじゃないよ。私も思い知らされた。」
柳は往時を思い出してしみじみと溜息をついた。
「手柄を立てれば問題なかろう。
古事記に載ってるどころか、シュメールの粘土板やエジプトのパピルスに載っていても驚かん。古今東西未来永劫軍隊が抱える問題だよね。
バレないように搭乗艦の妖精さんにお菓子配ってアリバイ作るんだ。賄賂の贈り方まで憶えてきやがった。
艦隊で出撃させるより新聞報道のネタの戦果の方が上で、手柄は空母のものになるから新米の子は、私がMVPですか。うれしい、って、喜んじゃってるし、ベテランは妖精さんが休養とって指揮統制値回復してるし。みんなは新聞見て士気上がってるし。
命令違反だ、って機械的に処分するわけにもいかん。」
時計を見て丼ぶりを叩く。笑い過ぎて汗ばみ涎が垂れた青葉の顔を吹雪がタオルで拭き、初雪がタオルであおぐ。白雪が差し出した吸い飲みの水に青葉はむしゃぶりついていた。
「妖精さんと談合できないようにぎりぎりまで艦隊編成隠すようにしたら、ハッキング仕掛けてくるわ、そこらそんじゅう盗撮カメラに盗聴マイク仕掛けるわ、もう、わやさ。
下手なとこ撮られたら新聞の四コマにされるんだ。」
「あははは・・・」
「そのうち青葉の盗撮盗聴を私がどれだけ見破るか、って手段が目的化してねえ。それで着任がああなるわけさ。
大本営的には処遇に不満を持つ艦娘が常時提督の隙を窺っている、ということになるんだな。柳生十兵衛か、ってーの。」
「似合わなーい。」
柳生十兵衛ならはまり役がいる。漣と秋雲は単純に隻眼の木曾と天龍を思い浮かべていたが、衣笠は十兵衛の父、但馬守宗矩を連想していた。一介の剣士から大名に上りつめた能吏と、退役してもなお大本営から睨まれている目の前の男とでは比較にならない。戦時だから中将になったが、平時なら営門中佐か大佐で終わっただろう。出世云々を置いておくとしても、この紅茶お化けが真剣白刃取りをする姿は想像もつかない。
しかし、青葉といい、吹雪といい、紙一重を超えた艦娘に妖精さんまで隠居先についてきていて、大本営も何を警戒しているものやら監視している。この出世しそびれの冴えない男に何があるというの?
青葉通信 von Deutscheland 第1号
"Hello, I am Japanese kammusu heavy cruiser Aoba."
(こんにちは。あたしは、日本の艦娘 重巡洋艦の青葉です。)
青葉は海軍ですから英語はばっちりです。
"spell "
黒板に漢字で青葉と書いて、下にAobaとローマ字でカナをふりました。皆さん、オーバ?とかいって戸惑っています。外人さんには難しかったですかね。青葉はコメットさんじゃありませんよ。
"Please call me Seiba"
(セイバーと呼んでね)
Aobaの後に Seibaと書き足したらですね。
「オオ、ザイバー。ウェルカム」
、とニコニコしながら応えられちゃいました。うーん、約束された勝利の剣、っていうのを期待したんですねどねえ。補給処の西場さん、見てますか?ドイツに来たら西場さんもザイバーですよ。
ちなみにドイツ語はeiと書いてアイと発音します。Sの後に母音がきたらザジスゼゾ。計算 keisanと書いて改竄と読みます。深いですねー。
ワーレザイバー(Wareseibar)について
所 属 扶桑皇国海軍
階 級 大佐相当官
スキル 5
伏撃
卓越した戦術家
夜間航空攻撃
対艦攻撃
繰り返しますが重巡洋艦の艦娘です。
とある日のグラーフ・ツェッペリン攻撃隊搭乗割
大佐
第一次払暁攻撃 カノーネンフォーゲル1号機
第二次攻撃 カノーネンフォーゲル2号機
第三次攻撃 カノーネンフォーゲル3号機
第四次夜間攻撃 カノーネンフォーゲル4号機
伍長
第一次払暁攻撃 カノーネンフォーゲル1号機
兵長
第二次攻撃 カノーネンフォーゲル2号機
ドクトル
第三次攻撃 カノーネンフォーゲル3号機
ワーレザイバー
第四次夜間攻撃 カノーネンフォーゲル4号機
カメラマン「おっ、今日は休みだ」
ロースマン「休みって、何」
無勝手流撃墜かい。あれは、敵から逃げるのに必死になってあれこれしているうちに敵が勝手に墜落しているだけだからね。狙ってやれるものじゃないよ。
とっつあん妖精 第507統合戦闘航空団
艦娘が空中勤務者になったことですか?大佐が異業種から人材スカウトしてくるのはいつものことですから驚くことではありませんでしたよ。
カメラマン妖精 グラーフ・ツェッペリン所属
彼女が我々のシフトに入ってきて随分楽になりました。もっとも彼女は後部機銃手からナビゲーター、ナビゲーターからパイロットになってしまったので、その期間は長くはなかったんですが、その頃には戦局は好転していましたからね。
ドクトル妖精 グラーフ・ツェッペリン所属
彼女はとても愉快な奴でね。戦争初期の先の見えない、あの重苦しい時期によく船乗りの四方山話を語ってくれて、それで我々は随分明るい気持ちになったものだ。
空に上がれば安心して背中を預けられる頼もしい戦友で、対空砲火に当たって不時着水した時は彼女に回収してもらい、私を撃墜したと浮かれているお調子者をきっちり教育してやった。
大佐妖精 グラーフ・ツェッペリン所属
派遣当時、ドイツ海軍は再建というよりは新設の最中で、唯一の空母、グラーフ・ツェッペリンは、毎日出撃が当り前。その中でも大佐ときたら一日に三度も出撃するくらいのタフガイで、あたしも『休んでいる暇はないぞワーレザイバー。出撃だ。』と首根っこ掴まれて出撃したものです。
とんでもないところに来てしまった。上司の甘い言葉に乗せられてひどい目に遭う。艦娘は提督に従うものだれど、その中でも自分はなんてバカ正直だったんだろう、って、がっかりしちゃいました。
でも大佐に私も初めは偵察・撮影任務だった、と言われて出撃を繰り返しているうちにだんだん慣れてきて、そのうちに自分は日本に生まれて艦娘になってしまったけれどこれはこれでアリかな。そう思えるようになってきたんですよ。
『空中驃騎兵ワーレザイバー女男爵の空中及び海上における奇想天外な遠征と冒険』
"Wunderbare Reisen zu Luft und Wasser:Feldzuege und lustige Abenteuer die Freifrau Wareseibar Husaren der Luft"(通称 ほらふき艦娘の大冒険、ホラむす)より