提督が退役しました。これより年金生活に入ります   作:デモステネス

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第43話 退役提督の課外講座 3

 桟橋跡に着くと、柳は先に水上から北岸キャンプ場に行くよう艦娘たちに指示した。そして自分の搬送の手伝いを申し出た蒼龍を断る。

「私は歩くから。戻って下山届書いて車回収しなきゃならん。」

 車三台に分乗してきて、二台は日向と響が回収したが、もう一台残っている。

「駐車場まで送りますよ。」

 水上なら5,6分だが、歩けば一時間かかる。

「いや、いい。久しぶりに歩いたら調子が出てきてね。全然歩き足りないんだよ。」

「そうですか。」

「お伴します。」

「えっ?」

「お伴します、司令官。」

 にこやかな表情を浮かべる吹雪に皆は察した。あ、これHANASHI☆AIだ。

「わざわざ私の我がままに付き合わなくてもいいんだぞ。」

「初期艦としてお伴します、司令官。」

 

 ヒゲのショーフクさんも言いました。頬被りで行け。触らぬ神に祟りなし。毛を吹いて疵を求めるな。駆逐艦を先に淡々と艦娘たちは桟橋から発進した。

 最後に蒼龍が発進するのを見送ると、あたしたちも行きましょうか、と吹雪が声を掛ける。柳が気まずさに耐えながら歩くこと暫し。皆と十分に離れたと確信したところで吹雪が口火を切った。

 

「容疑者司令官さん。告白の時間ですよ。」

「驚いたな。容疑者になっちゃったよ。」

「ネタはあがっているんです。キリキリ白状しちゃってください。」

「ちなみに罪状は?」

「私に隠しごとをした罪です。川内さん呼びましたよね。」

「え?」

「夜間演習を最先任に隠す。その意図を伺っています、司令官。」

「なぜそう思う。」一応とぼけてみる。

「航空機が飛んでいましたよね。木に隠れて見えませんでしたけど。」

「そうだったな。」

「それも複数。こんな何もない場所に、私たちは森の中を歩いていて、日向さんたちは車を回送している時間に飛んでくる。

 水上機なら湖に着水できますし、こんなに岸が入り組んだ所なら零観の一機や二機、いくらでも隠せますよね。」

 柳はうむ、とだけ言って続きを促した。

「野営地でびっくりの再会。晩ご飯の後、みんなでキャンプファイヤーの周りを踊りましょう?」 吹雪は首を振った。「こんな山の中に現役を呼びつけてやることじゃないですよね。 夜戦と言えば、川内さんは飛びついてきたでしょう。」

 エンジン音だけでそこまで推理するか。柳は軽い唸り声をあげた。

「想像のとおりだとしたら?」

「私の答はご存知のはずです。」

「ま、一応試しただけだ。」 強張った表情を浮かべる大淀を思い浮かべながら柳は肩をすくめた。

 

 

 通常、艦娘は言葉のとおり一所懸命一つの鎮守府で軍務に精励する。しかし、柳の鎮守府の大淀は、2、3年で人事異動するのが常であった。

 ただでさえ提督が色々面倒くさい男な上に、自分も知らされていないような海軍上層部の目論見を見抜く艦娘が何人もいて、その度に間抜けなインテリゲンチャめ。戦争が教科書どおり進むと思っているのか、と言われ、海軍どころか陸軍との軋轢まで言い当ててきて、上有政策、下有対策とくるからたまったものではない。金にも権力にも靡かない奴はどうにもならないという古今東西の為政者の悩みを思い知らされて心折れそうになるか、逆に思想改造されるためである。

 例外は後任が事故で着任できず二期6年勤めた剛の者で、その大淀はタフな交渉能力を買われて秘書室付きとなり、現在もその地位にある。

 

「演習花火を川内から受領してくれ。白雪の分もまとめて。」

 

 艦娘の艤装は概念兵器なので駆逐艦娘の12.7cm砲でも有効射程距離は10km以上あるのだが、艦娘の身長はせいぜい1.2m~1.8m。2kmも離れてしまえば、波とうねりと地球の曲率で見えなくなってしまう。実艦を伴わない艦娘同士の演習なら交戦距離は歩兵と大差はないので、無駄な弾薬と広い演習海域使うだけだ、と柳は小銃並みの威力に落とした演習弾と専用砲身を開発させていた。通常弾はなく、曳光弾と星弾だけで撃つとやたら派手なことから演習花火の名がある。

 

「演習花火を川内から私と白雪の分を受領。」吹雪は復唱した。

「白雪もあれだけ竪坑バンジーやってるんだから、夜目も利くようになっただろう。他の面子に気取られないように渡してくれ。」

「初雪はどうしますか?」

「必要ない。こたつむりは最適行動をとるに決まっている。」

「了解しました。司令官。」

 

 

 登山道の入り口に戻ってきたのは4時前。日は陰り始めており、湖岸には零式観測機が2機停泊していた。艦娘たちは椅子とテーブルを並べてトランプしていたが、柳と吹雪がやってきたのに気付いて挨拶をする。

 

「川内参上!」 そして柳をぎろり、と見る。「吹雪も久しぶり。」

 柳は首を振った。「ぱんつさんに奇襲なんて掛けられるわけないだろう。飛行機のエンジンの音聞いただけでやじさんが夜戦しに来る、って見抜いたぞ。」

「それは残念。」

「こんなに呼んでたんですか。」

 

 吹雪は呆れていた。川内他数名とは読んでいたが、鳥海、三隈、川内、白露、時雨、村雨、夕立。まるまる一個艦隊。それに赤城。

「ステキなパーティしましょ。」

 夕立と時雨のはねた髪の毛がぴょこぴょこしている。だいぶん溜まっているようですね、これは。それにしても。「なぜ赤城さんが」

「私も夜戦可能になったので見学にと。」赤城はにっこり微笑んだ。

「それは夜間作戦可能な艦載機を運用できるようになった、と理解していいのか。」

 改二か。興味を惹かれた柳が尋ねた。

「もちろん空母としてです。私の備砲はいくらいじったところでアレですから」

「素晴らしい。作戦の自由が広がるな。」

 

 午後からの航空戦は悩ましい。帰還が日没後になれば母艦を見失ったり、満身創痍、疲労困憊した機が着艦事故を起こす確率が跳ね上がる。損傷の少ない機を優先して整備補給しても出撃可能機が1ダースに満たない場合、二次攻撃、三次攻撃するか、それとも翌日に仕切り直すのかは賭けに近い。しかし、夜戦可能なら余裕ができる。

 柳の現役時代の夜間作戦可能な空母は護衛空母の大鷹と神鷹で、もちろん主力艦相手の艦隊戦には使えない。海軍陸軍歩兵大佐が提督をしている鎮守府では空母もかまわず夜戦に参加させていたが、柳は機動部隊を積極的に避退させていた。夜の空母は艦載機の整備補給が突貫作業中で、パイロットは休ませねばならない。大本営が何をほざこうが、高が中口径砲を何門か参加させるために砲撃戦に駆り出して戦闘妖精さんを疲弊させる気は毛頭なかった。

 

「残念ながら夜戦できる艦載機は戦闘機しかありませんが。」

「月光発艦できるようになったのか。よくそんなカタパルトがあったな。」

「いえ、零戦52型です、現地改造の。」

 

 柳は唸った。夜間攻撃機を実戦配備したのはアメリカ海軍くらいだからな。空軍入れるならイギリス空軍も入るが。モスキートはともかく、ボーファイターは嫌だなあ。実績はわかっちゃいるが、あのぶっ細工な機体はどうも好きになれん。カタパルトが貧弱で双発機飛ばせないのなら相も変わらずのソードフィッシュか。馬鹿馬鹿しい。

 柳は首を振った。いくら夜戦したいからって何世代先祖返りするつもりだ。彗星や流星改を九六艦攻に換装してどうする。ストリングバッグが活躍できたのは、相手が二流三流のドイツ海軍やイタリア海軍だったからに過ぎない。

 

「六番は気休めですが、ロケット弾はそこそこの攻撃力があります。

しかし、私は三式一番を使ったことがありませんし、昔の運用実績もせいぜい半年そこらですから深海棲艦相手にどう使えばいいか、これから検証ですね。」

「青葉とやってみるか?」

「零観同士の空中戦ですか?フライングサーカスにはぴったりですが。」

「そうだな。」夜間航空戦にドッグファイトなど有り得ない。

「ですから見学ですよ、吹雪さん。」

「そうでしたか。」

 

 頷いたものの、経験と勘は警告を発したままである。今回はどういうことになるんでしょう。吹雪は心の中で溜息をついた。




 九七式六番陸用爆弾:60kg航空爆弾。帝国海軍の標準装備

 三式一番二八号爆弾一型 空対空、空対艦ロケット弾。戦闘機の主翼に吊下げした
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