提督が退役しました。これより年金生活に入ります   作:デモステネス

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第55話 大本営海軍部秘書室 (2)

「えっと・・・。バイクミーティング? うん、バイクミーティングだったのよ。

 大湊夕張がね、サーキットで歩兵第四連隊長と知り合ってね。バイクのことで盛り上がって。あとは成行きかしら。」

「バイクミーティング?」

「やっぱ北海道ったらツーリングでしょ。大地寮のある十勝は、オンロードは、国際サーキットがあって、オフロードは、基本国有林だから気兼ねなく林道走れるのよ。

 前も横も地平線の真っすぐな道をトコトコ走ってもいいし、気合入れて攻めてもいいし、バイク乗りにはたまらない所ね。」

「ツーリングはわかりましたが、それがなぜ陸軍と交流会になるんでしょう。」

「うん。あれだけ私が集まったからね。臨時総会になったのよ。それで柳白雪がそういうの得意できっちり会場準備してくれたのよね。

 夕張会の総会はいつもコミケみたいになるんだけど、おやっさんが客引きしてくれて陸サンが一杯来たのよ。」

「おやっさん?」

「そう呼べって連隊長が。教授とかお兄さんでもいい、って言われたけどおやっさんよね。吉村大佐だし。」

 

 

 トラブル体質の大佐は間に合ってます。どうして陸軍まで参入してくるんですか!

 大淀は声にならない叫びを上げ、日向は人の縁とは面白いものだな、と素直に感心していた。夕張は、とかちちほーというのはトラブル体質なフレンズの産地なのかしら、と訝り、運命が運命を呼び寄せたのだ、と台詞を脳内再生。明石は、商機の予感がします。どう営業かけたものか、と考え始めた。

 

「陸軍が美人と何かおもしろそうなことに集ってくるのは本能ですからやむを得ないでしょう。」

 大淀は、陸軍を切って捨てると夕張を見つめた。

「報告書は読みました。あれだけページ数あると皆さん各項目に一喜一憂していましたが。

 百隻を超える艦隊が大本営の預かり知らぬところで集合する。荒唐無稽すぎて、龍田さんですら蜃気楼でしょう、と笑い飛ばしていたくらいです。

 確かに艦隊に届け出はありましたが、実艦で北海道に押し寄せる必要はありませんよね。」

 夕張は頭を掻いた。「柳提督にも言われたわ。ただのチャンタが国士狙いに見えてるぞ。大本営の奴らには、って。

  14cm砲の改修だったんだけどね、試製の。」

「試製14cm砲?」

「55口径の試作があったのよ。条約時代に。」

「あったな。」

 日向が頷いた。50口径三年式14cm砲は夕張の主砲で日向の副砲である。

「そんなものがあったんですか。」

 驚いたように明石。マル2計画で建造されたので条約時代のことを詳しく知っているとおかしい。

「誰もが改修できる14cm砲だけど、誰もやったことがないのよ。目から鱗が落ちる思いだったわ。」

 

 大地夕張が試製14cm砲の開発改修するけど、サンプルの数欲しいから誰か一緒にやらない?あとデータ持ってる娘いたら教えて、と言って来た時のことを思い出した。

 14cm砲は、戦艦の副砲から軽巡洋艦の主砲、特務艦や商船の備砲にと汎用的に使用されている砲で、空母だろうが潜水艦だろうが艦種に関係なく誰でも改修できる。さすがに55口径の試作は無理としても、ノーマルの14cm砲ならいくらでもデータあるだろうと思ったら皆無だったのだ。

 自分の主砲だけど、そういえば開発改修なんてやったことないわね。誰か一緒にやらない、という軽い気持ちから始まったそれは、未知への挑戦に変わった。しかも材料は倉庫の肥しになっている代物で、いくら使い潰そうが全く問題ないときている。

 

「ああ、確かに私もやったことありませんねえ。」

 

 明石が感心したように呟き、大淀は呆れていた。最初の明石ですらやったことがないなら他は言わずもがな。あまりにありふれ過ぎていて目に入らなかったわけですか。

 

「それでみんな飛び付いたんだけど、問題になったのが試射よ。

 呉は海面が狭すぎるし、佐世保と舞鶴はほら。日本海や東シナ海で艦隊組んで演習やろうもんなら面倒なのが沸くでしょ。」

「義理堅い連中が喜び勇むだろうな。」日向が頷いた。

「五毛党に付きまとわれたくなかったら太平洋でやるしかないじゃない。

 それで言いだしっぺの大地夕張のところでやりましょう、ってことになったのよ。

 横須賀も大湊もうらみっこなしだしね。」

 

 パッケージライセンスの講習会のことまで言うつもりはない。ツーリングを先に言ってある。馬鹿正直に一から十まで説明する必要はない。

 

「それが当初の言い訳ですか。そんなものが通るとでも思いましたか?」

「本当にそうなんだからしょうがないじゃない。でも」

「でも、なんですか」

「哲学的にして永遠回帰である。」

 

 大淀は思わず溜息を洩らした。こんなことを艦娘に吹き込む人間は自分の知る限り一人しかいない。

「誰もが読めるが 誰もが読めない本。」

「普通種こそ研究されるべきである。」

 二人で答え合わせをした。

 

「どうせ指揮統制から逸脱してどーたら、って益体も無い因縁つけてきて、身内の証言は客観性に乏しく証憑として採用できない、って口塞ぎにくるんだから身内以外の証人増やすしかないだろう、って気を回してくれてね~。」高らかに勝利宣言をした。

「あのインテリヤクザ・・・」

「そこまでにしておけ。」日向が嗜めた。

「毛根にセルフダメージ与えるのが趣味な連中にそう義理を立てなくてもいいだろう。

 話を戻すぞ。陸軍の公式にしていない話、と言ったな。」

「ええ。」

 つい感情的になって話を自ら逸らしてしまいました。反省。

「あきつ丸さんも苦笑していました。艦娘と合コン、うらやましいだろう、って。」

「清々しいまでに直截的だな。」

「第五旅団が第二師団と第七師団にもちろん参加するだろう、と声を掛けているそうです。向こうからなし崩ししてきました。

 参本から伝言があります。もたもたしていると他の方面軍も我も我もと騒ぎだすので可及的速やかに第五旅団に返事を願いたい。」

「ええーっ!?」

 なんか知らない間に大事になってた。大淀に呼び付けられるわけだわ。

 

「商いのにおいがします。」

 

 と、明石。こちらは陸軍の支援がないので自力で勝ち取らなければならない。

「でもそうじゃないですね。私が呼ばれる理由にはなりませんね。妖精さんですか?」

 明石は、さも鎌を掛けたふりをしてみせ、大淀は頷いた。

「工廠長がついてきているそうです。妖精さんも。」

「ええっ!工廠長?」

 妖精さんに軍の人事権は及ばない。鎮守府でもない場所、それも内陸に妖精さんがいるというのも驚きだ。

「工学部コンビが軍の命令から外れて、柳提督も全く歯止め掛ける気がありません。妖精さんもやる気満々です。」

「あー」(察し)

「各鎮守府の工廠妖精さんが修学旅行に行くんだといって、明石さんを引率に指名しています。止めようがありません。

 工作艦は明石さん一人しかいませんし、明石さん複数着任の鎮守府はごく少数です。明石さんと妖精さんが抜けてしまえば鎮守府運営が停止します。ワンオペ放置のつけが突きつけられました。」

「そうですね。」

 なるほど。自分が呼ばれるわけです。これは大商いの予感がしてきましたね。思いを巡らしながら明石は大淀に続きを促した。

「比較的余裕のある鎮守府から派遣では頭数が全く足りません。明石さんを複数緊急建造。大本営直属の工作艦予備隊を編成して欠員の出た鎮守府に留守番に充てることで対応する以外に方法がありません。

 しかし、建造したての艦に鎮守府のメンテ一切合切を任せるのには不安が残ります。退役艦のサポートが必要です。

 将来的には、民間軍事会社にして包括請負契約した方が軍の指揮系統を通すより、より適切に運用できると考えます。

 この件に関しては、白紙委任されています。」

「承りました。お任せください。詳細は、出来次第お届けします。」

 

 切れ者との商談は話が早い。こちらがプレゼンするところが全部終わっていた。白紙委任も取り付けており、これならすぐ実務にかかれる。明石会幹部会の緊急招集掛けて、退役して社員になっている私は何人いましたかね。

 

「夕張と明石はわかったが、私はどういうことになるのかな。」と日向。

「柳日向が瑞雲神社を建てたのが始まりです。」

「神社?」

「ご祭神が瑞雲のプラモデルで、ここまでなら日向さんの悪ノリで済んだんですが。

ロボットのプラモデルを合祀したところからおかしくなりました。」

「ロボット?」

「柳日向が言うには、フネだった我々が人間の体を得て艦娘になったんだ。ならば瑞雲が人型になるのも当然だろう、と。」

「なかなかいいことを言うな。」

「ちなみにそのロボットは、飛びます。」

「ほう」「はい?」

「空中戦して、近接戦闘で立体機動します。」

「なんとな」「はあっ!」

 事情を知らない日向は素直に感心していたが、夕張は沈黙を守り、明石は律儀に驚いてみせた。

「柳夕張と最上が妖精さんパワーで魔改造しました。

 『特別な瑞雲をあげよう。私と一緒にお参りに行かないか』と、日向さんがプラモデルを配り始めて、一部の提督と艦娘がド嵌りしています。」

「ほう、そんな手があったか。」

「徹夜でプラモデル組んだり、ご神事だといって意味不明な台詞を叫びながらプラモデルの模擬戦に熱中してご飯も食べなかったり、秘書艦や私が音を上げています。

 『おだて上手のセーラさん』ってなんですか。」

「あははは」

 セイラさんよ。四人の中で唯一属性を持つ夕張が思わず笑い声を上げた。

「なんか最近妖精さんが大人しいと思ってたらそんなことしてたのね。気付かなかったわ。」

 きっと当たらなければどうということはない、とか、性能の違いが戦力の決定的な差ではないことを教えてやる、とかやってるわね。

「ほとんどの鎮守府で同じことが起きています。もう日向さん個人の悪ノリで済ませる段階は通り越しました。宗教なら宗教らしく上意下達で仕切ってください。」

「宗教とは心外だな。洒落が独り歩きしたことは認めるが。」

「外見上の区別がつきません。このまま放置しておくと幕末の『ええじゃないか』になりかねません。

 それからプラモデルメーカーから問い合わせが来ています。

 在庫僅少につきこれから増産しますが、納品には一カ月以上かかる見込みです。

 なお、二か月頂ければ新金型で大々的に生産できますが、お待ちいただくことは可能でしょうか。

 いったいどれだけ発注したんですか。」

「まあ、そうなるわね。」

 

 夕張が日向の台詞を盗っていた。鑑賞用、保存用、布教用。プラレスしたら無疵で済まないから鑑賞用は消耗品だし。鎮守府全員に配ったら布教用だけで100個以上。

 それを新しい信者が買い足して、全鎮守府がそうならメーカーも金型作り直すわね。

 

「ふむ。大船に乗ったつもりで安心するといい。」日向は微笑んだ。「近頃は日舞の名取の真似事ばかりしていたからな。妙な行き掛かりだが航空兵力啓蒙に申し分ない。場所を得て、模型とはいえ瑞雲が戦うんだ。胸が躍るな。伊勢の奴も呼んでやろう。」

「戦艦何十隻も動かせません。資源のかからない方法でお願いします。」

「心得た。」

 





 哲学的かつ永遠回帰 (ニーチェ)

 昔ながらの風習・信仰を墨守するばかり、って、何のために頭付いてるんだ。人間、先人を乗り越えなきゃ進歩しないだろう。(超人)
 そして人間、悩んで成長すると今まで見えてなかった新たな問題に気付く。この壁を乗り越えなければならないが、あれ?前にもこういうことあったよね。(永遠回帰)

 人間、成長しなければならない、という当り前のことを言っているだけのなのだが、超人とか永遠回帰とか、いちいち中二心をくすぐる用語を使ってくるのがさすが哲人。


 誰もが読めるが 誰もが読めない本

 ニーチェが自書『ツアラトストラはこう語った』に自らつけた煽り文句。
 哲学書は、カントの『純粋理性批判』なんかが典型例だが

”人間の理性は、ある種の認識について特殊の運命を担っている、即ち理性が斥けることもできず、さりとて答えることもできないような問題に悩まされるという運命である。斥けることができないというのは、これらの問題が理性の自然的本性によって理性に課せられているからである。また答えることができないというのは、かかる問題が人間理性の一切の能力を超えているからである。”

 序文からトップギア入り。そのうちア・プオリだのア・ポステオリだの聞いたことのないカント独自の用語やら定義が入ってくると、最初こそ逃げちゃ駄目だ、と頑張って読み進めるが、そのうち負けでいいです。この本、誰か最後まで読んだ人いるんですか!流石先輩、というのが旧制高校の学生の評価であった。(もっとも旧制高校なので英訳か原文で読んでいる)
 ニーチェのツァラトストラは、全文が物語風の叙述で、↑のような見ただけで逃げ出したくなる取っ付き辛さはない。
 しかし、書かれた内容を読者の全員が理解できるわけではない、理解したくない者が必ずいる内容の本だとして『誰もが読めるが誰もが読めない本』と煽り文句をつけた。


 普通種こそ研究されるべきである

 物珍しいものに気を取られるのは人間の性で、生物学者も例外ではない。
 例えばヒキガエルは日本列島に人間が住みついて以来、誰もが見てきたはずだが、アズマヒキガエルが亜種分類されたのは1883年。ナガレヒキガエルが別種分類されたのは1976年。
 なるほど分類学は欧州渡りの学問だが、ガマはガマでも四六のガマ、って指の本数数えていたのなら江戸時代から見分けつけられたんじゃね?

 ところで無尾目の指は前足が4本、後足が5本である。
 例外は、日本産のカエルでは鹿児島県の奄美大島と加計呂麻島に棲息するオットンガエルのみ。(前後とも5本。)
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