提督が退役しました。これより年金生活に入ります 作:デモステネス
柳と大淀が先立ち、響と初雪がそれに続く。最上と夕張は、マイク、アンプ、スピーカー、延長ドラムといったものを取りに放送室、吹雪、夕風は、パイプ椅子と机を取りに会議室へ。白雪は、問われて神通を音楽室に連れていった。
「出店を出しますよ。」
人の集まるところに商機あり。元海軍技術研究所工作部付き、株式会社明石屋本舗代表取締役 明石市子は大地明石を急きたてて酒保に向かう。
事態に付いていけず目を白黒している艦娘たちは、大地日向に号令をかけられ、引率されて外に移動した。
「それでは第1回大地寮提督チャレンジを始めます。実況は私、横須賀第一鎮守府所属夕張と」
「佐世保第八鎮守府所属、鳳翔が解説を勤めます。宜しくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。さて、鳳翔さん。噂には聞いていたけど、提督チャレンジってなんなの?」
「柳提督の口車に載せられて言い返せない口下手な艦娘が思いの丈をぶつけるのが提督チャレンジです。
条件は、衆人環視の下で兵器未使用。艦娘は、弾に当たっても魔法のバケツかければ治りますが、提督は人間ですから死んでしまいますからね。
刀や槍といった近接武器、格闘技も禁止です。柳提督は、艦娘専用提督で腕っ節は娑婆の人間と変わりませんから。
それで佐世保第八鎮守府の艦娘は、それ以外の方法で提督打倒の技を身につけています。提督も対抗技編み出すんですけれどね。」
「今日の見どころはどこになるのかしら、鳳翔さん。」
「佐世保第八鎮守府の大淀さんは、2、3年で人事異動する方がほどんどだったんですけれど、この大淀さんは6年いらして、柳提督を圧倒していました。
一方、柳提督は、年季を重ね、後任の大淀さんに圧倒されることは少なくなりました。 歴代最強の大淀さんと、老いて益々盛んな柳提督の対戦。私も楽しみです。」
「それは楽しみね。それでは挑戦者入場」
初雪の荒ぶるドラム演奏『霞ちゃん行進曲』、響の先導で大淀がやってきた。大地夕張が頑張って、と声を掛けると右手を上げてそれに応え、他の艦娘からも声援が飛ぶ。
「続きまして提督入場」
白雪の『津軽じょんがら節』、神通の先導で柳提督がやってきた。こちらは節に合わせて小刻みに首を動かして精神統一している。両者は、元グラウンドだった滑走路に30m程間を空けて対峙した。
「それでは提督チャレンジを始めます。
兵器、武器、格闘術、それに類する攻撃は禁止。勝利条件は、どちらかが参ったを言うまで。
見苦しい場合は、指導、判定、試合没収することがあります。よろしいですね。
両者、礼! 始め!」 神通の号令で両者は構えを取った。
「氷の微笑」通る声で大淀が詠唱。気温が下がり、柳を凍りつかせるに見えたが
「アブラギッシュ!」柳は、額を拭うフリをしてキャンセルした。
「薔薇の嵐!」
背景に薔薇の花束を顕現させた大淀は、薔薇をヒュンヒュン飛ばしたが
「ごっつあんです」
柳が腹をぽんぽん、と二度叩き、荒塩を撒くフリをすると薔薇の花は萎れて勢いを失い、地面に落ち、かき消えた。
「こんなものか?」
「軽く御挨拶です。 無駄に歳をとって耄碌はされていないようですね。」
柳は答えず、クイクイ、と右の指を動かしてみせた。
「鳳翔さん、今の何?」
「提督を拗らすと魔法使いになるといいますが、柳提督は、言霊使いになりました。
一度顕現するととても面倒なので皆さんも注意してくださいね。」
「言霊使い?」
「ちなみに大淀さんの魔法属性は、風水雷光です。」
「はい?魔法属性?」
「艤装スロット1個につき属性1つで、万能型です。逆に金剛さんは、全スロット火で、火魔法に特化しています。文字どおりのばぁーにんぐらぶですね。」
なにそれ!?とギャラリーから驚きの声が上がる。飲まなきゃやってられませーん。試合開始早々、ビール&枝豆セット(33oz入り。500円)が売れ始めた。
「では参ります。雷よ、あれ!」
大淀の背景がにわかにかき曇り、雷雲から球電が柳に向かって飛び出したが
「犬も歩けば疲れた!」
球電が勢いを急に失い、柳のはるか手前で落下、四散した。
「ローリングサンダー!」
雷雲から稲妻が数条、柳に向かって奔り
「ロシアはおそろしあ!」
駄洒落で絶縁されてしまった。
「波濤よ、押し流せ!」
雷雲の中から波がうねり、柳に目掛けていったが
「八卦良い、白居易」
水の塊が寒いギャクに瞬間冷凍されて地面に落ち、昇華した。
「当たらん、当たらんなあ、大淀。大本営なんぞに行って腑抜けたのではないかあ。」
「その大口を閉じて差し上げます。
赤にして橙、黄は緑に変じ青へと至る 虹色の波紋!」
大淀は、波紋を使った!
「人間なんて 〇〇〇〇〇!!!」
単純な、力強いコード進行が大淀の五重和音を打ち破った。
「そんなバカな、なーんて言うと思いました? どんどん行きますよ!」
「かかってきなさい。私はいかなる挑戦も受けよう。」
「放射冷却!」
「葬らん!」
「あの、鳳翔さん?」
「はい、なんでしょう」
「何をどこからつっこんでいいのかわからないけど、大淀って、本当に魔法使ってるのよね、幻でも凄いんだけど。」
「本物ですよ。」
「柳提督がオヤジギャグでキャンセルしてるんだけど、アレって。」
「言霊って凄いですね。」
「それで説明終わり!」
「柳提督によれば、名前を名乗るだけで攻撃、防御、回復、支援全部をこなす提督がいたそうですよ。それに比べれば自分なんて兵学校の一号生みたいなものだと。」
「エエ・・・」そんな人いたっけ?
「私たちも対抗上、スキル持ちにならざるをえませんでした。」
「鳳翔さんも魔法使えるの?」
「嗜む程度ですが。」
「必要は発明の母ね・・・」
「風雪よ!」
「蒲団が、吹っ飛んだ!」
「氷の矢!」
「校長先生、絶好調!」
「永久凍土!」
「A-10とは、アパッチより強くF-16より強くF-111より強くどれよりも安い!!」
「デコビーム!」
「ボリスフラッシュ!」
寒いおやじギャグを聞かされ続けて艦娘たちが引き始めた。
「ああ、もうじれったい!大淀さんを応援するわよ、霞!」
「わかったわ。初雪教官、太鼓をお借りします。」
満潮と霞が『霞ちゃん行進曲』を打ち鳴らし始めた。
「清霜、あたいらも負けてらんないよ!」
「うん!」
「おっと、礼号組の応援よ。これは負けられないわね、大淀。柳提督、まさかのアウェー?」
「昔を思い出しますね。」
「そうなんですか、鳳翔さん。」
「佐世八鎮でもそうだったんですよ。今では霞さんも満潮さんもすっかり丸くなってしまいましたけどね。
馬鹿ばっかりなんだからw、とか、なんでこんな鎮守府来ちゃったのかしら┐(´∇`)┌ って。」
「達観した霞とか満潮って、それはそれで想像つかないわね。」
「氷雪着氷!」
「兵庫の標語!」
「猛吹雪!」
「モノレールで戻れ~る?」
「セントエルモの灯!」
「戦車を洗車!」
「水蒸気爆発!」
「スイカ安いか!」
「四十八手、全部防ぎますか。」大淀は構えを解き、首を数度振って柳に話しかけた。
「はーっはっは。MP切れか、大淀。私のネタ帳はまだ火を吹いたばかりだぞ。」
「余裕綽々ね。実況としてアレなんだけど、地味にイラつくわね、サリー大佐。」
「それに立ち向かっていくのもまた提督チャレンジの醍醐味ですね。」
「うわあ。大淀、これまでか。何か策はないのか。」
「是非もなし。」大淀は溜息をつくと陽気なカンツォーネを唄い出した。
それに合わせて柳が即興の替え歌を歌う。
♪俺の初期艦 知ってるかい
吹雪さん 吹雪さん
愛と正義で できてる
吹雪さん 吹雪さん
「えーと、なんというか、ごちそうさま?」と、夕張。
「人間、素直が一番ですよね。」鳳翔はプラス思考だった。
♪ぱんつ ぱんつ めっさ強い
ぱんつ ぱんつ めっさ凄い
歌い切ってやたら上機嫌な柳。アルカイックスマイルを浮かべた大淀は、ソ連軍歌を唄い出すとすかさず柳が歌い返す。
♪ろーすけパーンツ 吹雪のパンツ
パープル地で バタフライ
瞬間、雷鳴が轟き辺り一帯が暗転。霰が降り出した。舗装に当たってバチバチ跳ね返る音が喧しい。
Dies irae, dies illa solvet saeclum in favilla
怒りの日 かの日に 世界は 灰燼に帰す
teste David cum Sibylla.
ダビデの預言、シビュラの書
Quantus tremor est futurus,
怖れ 慄け
quando judex est venturus,
裁きの時が来た時
cuncta stricte discusurus.
すべては峻厳に訴追される
お手洗いは済ませましたか。神様にお祈りは。」
「あの、これはだな」
「表層雪崩」
低く通る声。突如発生した雪崩に柳は為す術もなく巻き込まれて雪に埋まった。
「提督かんげきー!」
吹雪は大淀に向き直った。「教唆だからセーフと思いましたか?塵旋風」
「きゃー!」
旋風が大淀を上空へ吸い上げ消滅。大淀は柳のそばに落下して雪に埋まった。
「地吹雪」
積もったばかりの雪を風速40mの強風が吹き飛ばし、柳と大淀の上半身が現れる。
「頭を冷やしてください。雪が溶けるまで、1コマ90分。宜しいですね。」
「そこまで。試合没収。」終わりを告げる神通の声が響いた。
「えーっと、まさかの没収試合となっちゃったわけだけど、鳳翔さん?」
「ご存知の方もいらっしゃると思いますが、吹雪さんは初期艦から叩き上げの特務少佐です。艦娘をやっていると、上が色々言ってくることがありますけれど、それを現実に対応させるのは特務将校の最も期待されているお仕事です。
皆さんも精進してくださいね。」
「なるほどー。特別講座基礎課程修了のマスターだけあるわ。さすがね。」
何かに思い当たった最初の夕張は、ぽん、と手を打った。
「以上で第一回提督チャレンジを終了します。実況は、私、夕張と、解説、鳳翔さんでお送りしました。鳳翔さん、今日はありがとうごさいました。」
「こちらこそありがとうございました。」
白雪の指揮により、ものの10分そこらで机や椅子は片付けられ、出店も撤収。ゴミは持ち帰りで、辺りは滑走路に戻り、脇に積った雪山に柳と大淀が取り残された。
故意に無視されていた二人に敢えて関わろうとする者はいなかった。命あっての物だねである。
「委員長」
「なんですか」
「寒い。」柳は腕を雪の中から抜いて交差。両手を肩に当てた。
「大人しく埋まっててください。抜け出したのバレて氷漬けにされたくありません。」
「はい。」
雪は、接触面が融けなければそこそこの断熱材である。昭和くらい昔、真冬になると北海道では越冬野菜を雪の中に埋めていた。外が-18℃とか-25℃になっても、雪の中はせいぜい-5℃くらいに留まる。一方、氷は固体だから外気温はダイレクトに伝わる。
「委員長」
「なんですか」
「初日から閣下召喚、って拙くないか?」
「大佐がいつまでたっても隙見せないからでしょうが。なにガチンコ勝負してくるんですか。引き分けか辛勝惜敗。大勝しちゃいけないのはわかってますよね。」
「すいません。久しぶりでちょっと調子こきました。」
「海より深く反省してください。」
「はい。」
「委員長」
「なんですか」
「暇」
「知りません」
「謎々しようぜ。シャハジ・ポンポン・ババサビフ」
「アリストクラシー・アル・アシッド・ジョージ・ストンコロリーン二十八世。」
なんだかんだで付き合いのいい大淀であった。
大淀が柳に勝負を挑み、相討ちになったことは当日のうちに大本営に伝わった。
楔は打ち込んだ。勝つに越したことはないが、負けなかったことで大淀を大地寮に異動させた者たちは安堵した。
吹雪さんのステータス
所属 大地寮
階級 日本海軍予備役特務少佐
職業
艦娘 Lv99 副官 Lv67
秘書 Lv64 メイド Lv50
能楽師 Lv34 魔法使い Lv72
< new > 教官 Lv10
スキル
海の狼
艦隊の盾
優れた戦術家
駆逐艦リーダー
沿岸海域専門家
静かなる狩人
ハンター・キラー
ハエ叩き
装備訓練の達人
書道 毛筆1級、硬筆1級 秘書検定2級
オフィス環境診断士2級、整理整頓アドバイザー1級
紅茶検定中級、紅茶アドバイザー
素人能楽師
風魔法、水魔法、複合魔法
満点の熟練した前線指揮官ですが、秘書・副官としては大淀の下位互換です