提督が退役しました。これより年金生活に入ります   作:デモステネス

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第59話 北風と太陽 (2)

「おやつの方向と朝ごはんの方向。朝ごはんが先なのです。」

 

 囮に向かった駆逐隊のうち、7時の方向に向かった方を先に相手することにした。分散させて各個撃破。基本に忠実な電であった。

 一方、駆逐隊。電の出現にも関わらず引き返せなかった。潜水艦の反応が確実で無視できなかったためである。もっとも急いで戻ったところで巡洋艦は電に鎧袖一触されていたのだが。

 

 まず朝潮型×2+巻雲

 

 電探に反応どころか潜望鏡らしきものが目視できた。しかも動かない。何かしらの技術的トラブルで動けなくなっているらしい。

「なんや。こんなもんに弾、使うまでもないわ。ぶっ飛ばしてやるでー。」

 キラー役の黒潮が増速、潜水艦に体当たりをかけ

「なんや?」

 あまりの手ごたえのなさに首を傾げ、続いて唐突に行き脚が鈍ってつんのめる。

「なんやなんや」

「すくりゅーに なんや からまりました!」

「なんや!」

 

 罠であった。海面すれすれに浮かぶよう浮きを両端につけたロープを張り、真ん中に鉄パイプを溶接して潜望鏡に見せかけたドラム缶を配置。砲撃でなかなか当たらないのに焦れて近づいていて来る駆逐艦の脚を引っ掛ける仕掛けであった。

「なんやー!!!」

 黒潮は絶叫したが、こうなっては両舷停止してスクリューに絡まったロープを外さないことにはどうにもならない。無理に動けば機関に負担がかかるし、ロープを外すのが難しくなるばかりである。

「もう、黒潮のバカぁ」

 巻雲は嘆いたがこれは演習である。戦場で停止すれば文字通りの据え物斬りになるが、その危険はない。後で拾えたら拾いに来るから、と言い残して電の下に向かった。

 

そして綾波型×2+白露

 

「カきゅう、すいしんおん」

 白露が耳を澄ませ、朧と漣に潜水艦が潜んでいるとおぼしき位置を伝達。朧と漣が調定水深を10mごとに変えた爆雷を投下。間を置きつつ爆音が鳴り響く。白露のソナー員は外したヘッドセットを戻すと再び耳をそばだて、首を傾げた。

「すいしんおん、へんかなし。」

「囮ね。」

 白露の判断は早かった。「探査音、最大で発振。」

「たんさおん さいだいではっしん」

 強力だが自艦の位置を大声で叫ぶようなもののため、滅多に使われないアクティブソーナーの最大発振を白露は命じた。直ちに反射波が返ってくる。

「はんしゃ、ちいさい。フネじゃありません。」

 ドラム缶の中にスピーカーを取り付け、録音したカ級の推進音を流していたのである。

「対潜用具収め。砲撃戦用意。第一戦速。朧と漣に発光信号。”単縦陣。旗艦朧”」

 機関が唸り、聴音のため原速に落としていた白露はみるみる速度を上げた。

 

 荒潮+巻雲

 

「ぷらずま、へんしん」

「あらあら、どういうことかしらねえ。」

 

 射程距離に入るまで間もなく。見張り妖精の報告に荒潮を首を傾げた。まさか単艦でこちらの頭を押さえるつもりではなかろう。となると同航戦を挑んでくるつもりか。確かに反航戦では正面を向いている第一砲塔しか使えない。同航戦になれば全門使えるが、それはこちらにもあてはまる。1対2。ぷらずま化した電は桁外れの技量をもつらしいが、有利になるのはむしろこちらである。

「変針中に撃たれっぱなしになるのを嫌ったのでは。」と副長妖精。

「そうね。」

「ぷらずま、はっぽう」

 

 変針を終えた電が直ちに射撃を開始。見張り員妖精の報告に怪訝な思いをする荒潮と巻雲であったが、初弾が近弾どころか遠弾で仰天した。電の主砲は米軍の5inch単装砲 Mk.30改、射撃管制装置GFCS Mk.37付き。艦これ世界では駆逐艦の射程を巡洋艦と同じ中距離に変えてしまうチート兵器だったからたまらない。

「突撃。最大戦速。急いで~」

 内心とは裏腹におっとりした口調で荒潮は命じた。まだこちらは有効射程距離に入っていない。距離を詰めなければ撃たれるがままになってしまう。同時に巻雲も同じく最大戦速を命令。性能の違いで荒潮と巻雲の間隔がじわじわ広がっていく。

 

「今更遅いのです。」

 

 相手が加速も舵の効き方も遅い大型艦の艦隊なら荒潮たちの突撃も意味はあったが、同じ駆逐艦。しかも特型。最大速度は荒潮と巻雲が35kntに対して電は38knt。約1割速い。追いすがる荒潮と巻雲になんなく合わせアウトレンジからの砲撃を継続。荒潮たちに勝機があるとすれば電が変針中に突撃して自艦の有効射程距離に入ることだったが、その機会は既に失われていた。

 

「うわーん、今日はいけるかもと思ってたのにぃ」

 

 艦速差から先行した荒潮がまずやられ、破れかぶれで最大射程距離で撃ちまくるも届かず、巻雲もその後を追った。

「朧さんがいなくて朝飯前だったのです。やっぱりおいしいものは後なのです。」

 電は反転。最後の駆逐隊に向かった。

 

   *   *   *

 

 武芸者の立ち合いは、間合いを取って互いに睨みあうことになっている。じりじりと間合いを詰め、刀剣や棒を得物にする者は足だけではなく得物を微妙に動かして油断を誘う。油断した相手に打ちかかって先を制する。動作を見切って飛び掛かってきた先を打ち据える。後の先で相手の技を見切って攻撃を躱しつつカウンターを極める。

 先をとるか、先の先をとるか。後の先をとるか。達人クラスが立ち会った場合、先の先の先をいかにとるかになって、素人目には互いに睨みあうばかりでちっとも動かない。そういうことになっている。

 さて、艦娘の艦隊戦はどうか。

 チャンバラ、剣客、空手、ボクシング、機動戦士等々の戦いを愛好する諸氏には残念なことに第二次世界大戦中の艦艇のスペック上、数を頼みに撃ちまくるだけである。万発百中のフネは百発百中のフネに勝る。悲しいけれど、これが戦争である。

 まず、間合いだが、微妙に間合いを変えてとか、瞬時に踏み込んで、というのは人間だからできるのでフネには不可能である。どうしてやれない、という意識の高い同志政治将校は燃料タンクに酒でも飲ませてノッキングしまくりの自動車を運転していただきたい。内燃機関であれ蒸気タービンであれ、エンジンは定格出力してシャフトを回してナンボの機械であって伸び縮みで動いている筋肉のように不均等に動かせない。

 航空機は、強力なエンジンにフラップやタブがついていて、さもトリッキーな機動ができるかのようにみえるが、空を飛ぶ動物のうち空中で静止できるのは昆虫でも一部。鳥類は唯一ハチドリに限られる。後退に至ってはトンボですら不可能である。機動戦士が空中で飛び退いたりできるのは未来世紀の強力な姿勢制御エンジンとそれを支える姿勢制御技術の成果なので、チートといっても第二次世界大戦当時の技術の工廠妖精さんにそこまで要求してはいけない。

 まして船ともなれば、人間ならしっかと大地を踏みしめて自重を支えて機動するところ、船体を支えるのは水である。仮に腕とか足的な瞬発力をなんとかするメカがあったとしても水中に突き出すばかりで反作用で船体を動かすなど妄想することすら馬鹿馬鹿しい。ペルシアの諺に曰く「水の上に瓦を積んでおられようや?」

 そして見切りだが、飛行中の砲弾の着弾先を確認できるようになったのはIT化されてからである。大砲が艦船の兵器として搭載されて以来、補正とは着弾してからやるもので、撃たれた方も着弾寸前まで当たるかどうかわからなかった。いかに妖精さんがチートといっても第二次世界大戦時の機械式計算機にそれを求めるのは無茶である。

 第二次世界大戦の艦船は、現代人から見れば弾はとにかく当たらないし、発砲間隔も遅い。IT化された現代では飛行中の砲弾を観測して着弾前に諸元修正した次弾を発射しているし、砲弾の揚弾・装填は重労働だったが現代では自動化されている。第二次世界大戦と現代では技術革新で運用が隔絶しているのだ。

 陸軍に例えれば、ライフル銃の普及前。散兵による相互連携ではなく、カラフルな軍服を纏い、マスケット銃を抱えた戦列歩兵であろうか。遮蔽物の全くない場所で密集陣形を組み、とにかく当たらないので数を揃えて打ちまくるしかないところなどそっくりである。いや、後退できるから軽弓騎兵かな。陣形崩すとタイミングの合わない二人三脚よろしく行動がままならなくなってタコ殴りされてしまうあたりが共通している。

 

 そして 朧、漣、白露

 

 反航戦。電を確認するや各艦は間隔を詰め、旗艦朧の真後ろを単縦陣で突っ走る。第三戦速のそれはサーキットならスリップストリームに入ったというべきだろうが、水上では引き波で推進力のロスにしかならず舵も効きにくい。そして射程に勝る電が発砲を開始した。

「ぷらずま、はっぽう」

「障壁展開!」

 朧の淡く輝くバリアーに当たった電の砲弾が流れ星のように一瞬輝き、音もなく消える。

「うわー。話には聞いていたけど。」 後続の白露と漣が歓声を上げた。

 

 謎の少女が朧に与えた力、クライン障壁。展開中は一切攻撃できないが、そのかわり駆逐艦としては理不尽な防御力を誇る。長門の41cm砲の直撃を3発耐えるというぶっ壊れ性能ぶり。その障壁に隠れ、左右に飛び出して砲撃。歩兵の市街戦のような戦闘を白露と漣は始めた。戦艦や巡洋艦からなる水上戦にあっては駆逐艦の装甲など無きに等しい。雷撃までの間、弾は当たらないと信じながらの突撃となるが、障壁に隠れている限り被弾はありえない。気も大きくなろうというものである。

「あーっはっは。この防壁が抜けるものか、あーっはは!」 やたらハイになった漣だったが

「目障りなのです。」

 障壁からの単調な出入りに電が狙いを澄ませていた。露天艦橋に砲弾が直撃する。続いて次弾が羅針艦橋に命中。

「ぎゃー!」

 舵機故障で横腹を見せたところに電の主砲が次々と命中。漣は落伍した。それを見た白露は、事前の打ち合わせ通り朧の真後ろ、障壁の際のぎりぎりに変針する。二人で左右に飛び出して攻撃していたが、電は、目移りすることなく漣を討ち取った。こちらは針路を不規則に変更しながら砲撃する分、命中精度が下がるので一対一ではチート化した電に敵うわけがない。

「障壁解除、3分前。一斉打方、試射無し、初弾より急斉射」

 引き波から外れるために白露が朧の左後方に位置を変えるために舵を切り、全砲塔の向きを変えた。

「障壁解除、10秒前。9,8,7,6,5,4,3,2,1 障壁解除。」

「「「撃て!」」」

 

 朧に一瞬遅れて電と白露の全主砲が斉射された。彼我の距離は6000m。楽々回避できるので駆逐艦同士の昼戦に魚雷戦はやるだけ無駄。機銃で駆逐艦は沈まない。暗黙の了解でそんな距離になっている。時速60Km以上で走る車が対向車線の車に物を投げてぶつけあう状況を想像してほしい。示現流と違って二射目、三射目はあるとしても命中率は著しく下がる、なーんていうことは電にはなかった。

 

 一射目。白露は後部機銃座、朧は電の後煙突に命中させたが、電は白露の艦橋に命中させた。

 二射目。白露は外れ。朧は第三砲塔に命中させたが、電は白露の艦橋に命中させて白露に止めを刺した。朧と白露は各砲塔任せの独立打方にしていたが、電の主砲は射撃管制レーダー、射撃指揮コンピューターからなる射撃指揮装置GFCS Mk.37付き。一斉打方を継続していた。科学の勝利である。

 三射目。朧の放った砲弾は全部外れたが、電の主砲は朧の艦首に集中。鎖が切れて錨が落下。もう一つの錨も揚錨機の留め具が破損して海没。第三戦速で突っ走っていたからあっという間に見えなくなった。

「なんてことしてくれるのよ!!!」

「武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候、なのです。」ぷらずまは容赦がなかった。

 

「落穂拾いなのです。」叫びながら落錨捜索を始める朧を尻目に電は針路を変えた。

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