提督が退役しました。これより年金生活に入ります 作:デモステネス
「聯合艦隊司令部より通信。
小型で猛烈なぷらずまが明後日未明から正午にかけて大地寮に到来する可能性確実。
原因は、軍令部の大地寮に実艦配備却下、及び新型磁気感知魚雷の磁気嵐による不発。目的は親撲会。目標は新型磁気感知魚雷開発者。ぷらずまを沈静化せよ。」
大淀の報告に柳は顔をしかめた。自分、退役したのに何で命令が来る。しかも特大の厄介案件が。「確実ですと。」
うんざりした口調で吹雪を見るとこちらも苦笑いしていた。「どうします?」
「是非もなし。 委員長。」
「教官用の実艦配備は問題なく。他は貸しにして後からおいおい。親撲会は。
実艦、艤装使えば瞬殺で研究所夕張が大破しますがぷらずまがそれで納得するか。修繕補修の資材も必要です。
公開か、当事者同士か。
公開して衆人環視の下で瞬殺される研究所夕張のプライドと、恥を晒させてぷらずまが満足するのと観戦の各鎮守府の艦娘の周知を優先するか。当事者同士にしてぷらずまが心行くまで御仕置を優先するか。」大淀は言葉を切って柳を見つめた。
「当事者同士だな。ぷらずまも直接夕張にざまあすれば気が済むだろう。夕張も全鎮守府に恥晒すのも可哀そうだ。地球的な磁気嵐じゃどうにもならん。
実艦艤装は・・・なしだな。資材もさることながら、ぷらずまだから瞬殺されても仕方ないと夕張は考えるだろう。教育上宜しくない。とはいえ磁気嵐だから仕方ない、って片付けられたら現場が堪らん。戦闘中に学術観測なんかしてられるか。」
あちらを立てればこちらが立たず。いつもの提督の仕事である。それをあさっての朝までに対策しなければならない。
「聯合艦隊の貸しは、できるだけ高くつけてくれ。」
それにしてもどうしたものか・・・。平等でひいきなし、がっつり記憶に残って後々疎かにする気がおこらない方法って、そんなデウス・エクス・マキナみたいな都合のいいものは。
* * *
「こ、これくらいで許してあげるのです・・・」
夕張さん、また失神しましたけどどうしますか、という白雪の声に電は弱弱しく答えた。終わりかい、と残念そうな声の響。なぜ立会人の二人がお仕置きに一緒に参加して、二人とも元気いっぱいなのですか。付き合い切れないのです。夕張さんも失神3回目だし、仏の顔も三度までで許してあげるのです。
突如現れた軍港に誘導され、時間も惜しいとちゃっちゃと接岸。ちょっと艦上構築物をぶつけちゃったけど、そんなことは些細なことなのです。響ちゃんが迎えに来てくれていて目的地まで連絡機でひとっ飛び。寮監室に案内されると元提督と大淀、白雪、夕張が待っていました。
「話は聞いている。新型磁気感知魚雷の磁気嵐による不発。最適射点四か所から発射して全部不発。
結論から言おう。電。地球レベルの地磁気嵐に対処できる磁気魚雷はない。科学は万能じゃない。
夕張。君が作ったのは宝くじだ。実際に爆発するまで正常作動するかわからないメカを兵器とは言わない。現場指揮官としては、そんなものは全部下ろして他の魚雷積む選択肢しかあり得ん。」
いくら予算つぎ込んだか知らんがドラム缶にも劣る。ドラム缶なら補給物資が積めるし何回も使える、と柳に言われ表情を押し殺す夕張を見て電は満足を憶えた。よかった。わかる人はちゃんとわかってくれるのです。
「それぞれ思うところはあるだろうが、提督としての私の評価はこうだ。そして、それぞれの言い分に優劣が付けられないということになる。普通ならこういうだろう、我慢しろ。世の中には儘ならぬことがあって、今回もその一つだ、と。
しかし理屈ではわかっていても気持ちは納得できんことがある。」ニヤリと笑う。
「思う存分拳で語り合え、と言いたいところだがそれだと夕張が瞬殺だ。全然公平でない。電も物足りないだろうが、夕張が納得できないだろう。」
第5次寄せ集め艦隊。昼飯前に片付けてきたんだって、と柳に問われ、はいなのですとにこやかに答える電に夕張は怖気を奮った。単艦でぷらずまに敵う水上艦なんていないわよ!
「ということで二人には肝試しで勝負してもらう。ウチにはちょっと面白い設備があってね。先に参ったを言った方が負け。わかりやすいだろう?
白雪、響。二人の案内を頼む。」
ということで冒頭に戻る。連れてこられたのは滑走路横の掩体堤の横にある建物。四人はハーネス着用、身長測定してからロープが括りつけられた。電と夕張がなんだろう、と思っていると、白雪がそれじゃあ、私が見本を見せますね、とパーティーションの扉を開き、レッツ バンジー!と叫んで暗がりの中に飛び込んだ。
「「ええええええ」」
下をのぞき込む二人。暗闇の穴の底に非常用電灯の明かりが見える。なんかトップマストの見張り台から海面くらいの落差じゃすまないんですけど。恐々見守っていると響がロープを巻き上げ、白雪が上に上がってきた。
「ということでバンジージャンプ対決です。高さ23m。最初は床面-3mで飛んで、次から30cmずつロープを伸ばしていきます。 大丈夫。最悪でも足首ぶつけて入渠すれば治りますから。じゃあ夕張さん、2番から。電ちゃんは4番から。」
二人を床の縁に立たせてハーネスとロープを再度チェックすると号笛を取り出すと短く鳴らし、白雪は夕張、響は電の背中をドン、と押す。
「「きゃあー!」」 研究所夕張、3回目であっさり気絶した。
「研究室に住み込みの研究の虫で塩気が足りないとは聞いていましたけど。」
白雪があきれていた。「まだ床まで2m以上あるのに」
「初心者だからね。付き添いが必要じゃないかな。」と、響。
「そうですね。じゃあ、響ちゃん、電ちゃんの付き添いお願いします。ふん!」
活を入れて夕張を起こす白雪。きょろきょろする夕張に白雪は優しく話しかけた。
「いきなりはちょっと怖かったですね。次からは私も一緒に飛びますから大丈夫ですよ。」と、隣のレーンに並んだ。
響が夕張の背中をドンと押し、同じタイミングで白雪が飛び降り。ロープを引き揚げて夕張・白雪組が上にあがってくると、今度は白雪が電の背中をドンと押し、響が竪坑に飛び込む。
「きゃー(はあと)」「ぎゃー!!!」
研究所のウラナリ瓢箪に負けてなるものですか。まして特型姉妹が楽し気に飛び込みしているとあってはなおのこと。ぷらずまが頑張る一方、夕張は自分でも知らなかったことだが軽度の高所恐怖症だったらしい。ましてそれが真っ暗な竪坑に飛び降りとなればなおのこと。意地でも参った言う気はなかったのだが、本能的な恐怖に為す術はなかった。
* * *
「お疲れ様。お茶が入っているよ。」
気絶3回目の夕張は、吹雪と初雪が担架で保健室まで運んでいった。物足りないからもうちょっとやっていきます、という白雪と響に呆れ返り、迎えに来た最上に連れられて電が寮監室に戻るとサリー大佐がお菓子とお茶を用意して待っていた。
怖かったのと叫んでいたせいで喉がカラカラなのです。電は、生温い薄茶を一気に飲み干した。「ふう」
電がマグカップを置くと柳が茶を注ぐ。熱いという程ではないが、さっきよりは温度が高いので少しずつ飲む電。「甘いものもあるよ。」
菓子詰め合わせセットの箱を置く。電がいただきますを言って手を付けると、柳は電と自分のマグカップに熱々の紅茶を注いだ。
「比叡直伝、気合の入った紅茶だ。元気が出るぞ。」
「ありがとうなのです。」
レーズンサンドを手に取った。クリームがかを〇と違っていて、これはこれでおいしいのです。
「どうだったかな」
「響ちゃんが自由すぎるのです。筆頭次女のお姉さんまで。」 気力を取り戻した電がまくしたてた。「暗闇に飛び降りって、艦娘のやることじゃないのです!」
「そうだね」
「それも喜んでって、習志野の第一狂ってる団なのですか。」
「いや、全く」
うちは80mもないんだが、という言葉は飲み込んでおく。精鋭無比って床に書いておこうかな。漢字4文字でバンジーが軍事教練設備に早変わりだ。
「響ちゃんは響ちゃんだからまだわかるとして、あんまりわかりたくないけど、白雪さんまでって、サリー大佐のところは、艦娘に何をやらせているのです」
「面目ない」
白雪は、ジェットコースターやフリーフォールといった絶叫系が大好物で、響は、日向師匠の教育の賜物なのだが言ってもしょうがない。
「ニッコリ笑顔で奈落に突き落とし、ってやっぱり狂ってる団なのです」
「そうだね。」
第一空挺団の海軍の認識はそんなものだろうが、それをお前が言うか、ぷらずまよ。
「あんな訓練、川内さんや神通さんだってやらないのです。」
「いや、全く」
海軍から空挺って、ウチの夜戦忍者なら本当にやるかもしらん。今でも言えばレンジャー資格とってきそうだし。ラムケ親爺でも目指しているのかね、アレは。
「まさか宴会する度に2階とか3階から飛び降りていませんよね。」
「・・・面目ない。」
妙な艤装を装着して機動は響の日常である。川内が屋根の上や電柱のてっぺんから飛び降りするのも。
「その間はなんなのです。」
”さっきからさ、提督。そうだね、いや全く、面目ないしか言ってないんだけど”
巻き込まれてたまるもんか。全力で空気になっている最上がメモを書いて大淀によこした。
”それで会話が成立していますから問題ありません”
メモに走り書きする大淀。こちらは仕事で忙しいんですバリアを張っていた。ぷらずま対応は大本営から提督に名指しの命令ですし、私は私の仕事をします。
大本営からどう貸しを取り立てるかKJ法で特大付箋にあれこれ書き付けて机に貼りまくっている。
”ドラム缶出しましょうか?落ち着くんでしょう”
”ダンボールの方がいいな。トラップダンボールとか妖精さん、開発してくれないかな”
”なんですか、それは”
”情報部の必需品、って青葉が言ってたよ。特殊段ボール。工作員が何度もダンボールで命拾いしてるし、ダンボール扱いは、任務の成功のカギと言ってもいい、ってさ”
”実績あるなら開発しますか。妖精さんも集まってますし”
特殊ダンボール開発。詳細情報。聯合艦隊経由、情報部
特殊ダンボール開発。夕張、明石、工廠妖精指揮
付箋にそそくさと書き付ける大淀。視点が違う者がいると案が広がる。
「新型魚雷って、本当にモノにならないのですか。」
こちらは電。愚痴をこぼして落ち着いたらしい。声のトーンが落ちている。
「艦底爆破式が原理的に一番すごいのはわかっているのです。期待もしていたのです。」
大淀と最上は耳をそばだてた。そうだね、いや全く、面目ないで流し続けていた提督だが、どう答えるのか。
「史実では、磁気感知魚雷はどこの国も実用品じゃなかった。」
史実を思い出しながら柳。アメリカでは使い物にならん、と早々に損切り。ドイツでは現場からはスカパフロー襲撃をやってのけたギュンター・ブリーンに訓練生用の木銃と公言され、トップからは連合軍のナルヴィク上陸妨害を成しえなかった主原因にされて軍法会議。兵器開発局が更迭されて開発局トップは自殺している。
「実用化したのは戦後になってからだ。そして音響追尾式は、21世紀でも有線式で潜水艦用だ。水上艦が使うものじゃない。」
というか、ミサイルに代替したので潜水艦しか魚雷を使わなくなったのだが。
「じゃあ」
「史実がそうだからといって今もそうなる必要はない。」電を柳は遮った。
「あの誉が栄同様に稼働して流星や銀河がまともに運用できるんだ。魚雷だってできるさ。」そして電を見つめた。
「海軍研究所から資料を持ってきているそうだね。」
「はいなのです。」
「ウチには今、日本中から明石や夕張、工廠妖精さんが来ている。一人二人じゃ駄目出しして終わりかもしれないが、これだけいれば策の一つや二つは立つんじゃないかな。」
ヘルマン・ベルンハルト・ラムケ 部下達から親愛の情を込めて「パパ」と呼ばれた。
海軍、陸軍、空軍の三軍で将校していた稀有の軍人。しかも兵隊からの叩き上げから始まって最終階級は大将。史実はもちろん小説でも他にそんな軍人がいるのか、私はこの人以外に知りません。
海軍:第二帝国海軍 従兵→中尉
第一次世界大戦前に海軍入隊。乗艦沈没後は海軍歩兵となり、抜群の功績によりプロイセン金十字章(下士官に与えられる最高勲章)授与、少尉任官。
陸軍:ワイマール共和国-第三帝国(1940年まで)少尉→大佐
ヴェルサイユ条約で10万人未満に制限されていたドイツ陸軍に採用。これが日本軍なら採用にならないし、なっても特務中佐で終わる所である。
空軍:大佐→大将
1940年。51歳にして空挺資格を取得。空軍に異動。ドイツ空挺部隊最大の見せ場にして落日のクレタ島降下作戦に参加。以後北アフリカ、東部戦線に転戦。最後はオーバーロード作戦の最終段階で捕虜となる。