Re:術式が百式観音ってマ?   作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ

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計りと図り

 藤井名入にとって呪術高専での生活は退屈しないものである。

 ある程度の強者である彼にとって、呪霊や呪詛師との戦闘と言うのは退屈な日常にスパイスを加えてくれるものなのだ。呪術高専はその場―任務と言っても良い―を提供してくれる場であるのだ。

 だから、彼としては術師のまま今生を終えても良いと思っている。

 彼の前世は最悪ではないが最良でもない人生そのものだった。平日は普通に学校に行き、家に帰って飯を食い、そうやって一日を終える。それを繰り返すだけの毎日であった。

 唯一彼が不満を抱いていたとすれば、それは親から彼への対応だった。両親は悪い人ではなかった。良識を持ち、確かに愛情深く接してはいたが、家庭の―それも両親の事情で、彼は幼少期を父が傍に居ないまま過ごした。

 その原因がやむを得ない事情でのことであればまだしも、その事情と言うのは父親の我儘によってもたらされたもののようであるから、彼はどうしても父が好きになれなかった。

 その父に引っ張られて、母もまた仕事のために家を空けることが多かった。肌を売る仕事をしていたわけではないが、やはり母も彼の傍には居なかった。だからなのか、彼の精神は健全に育まれたとは言えず、彼は日常と言うものに刺激を感じなかった。

 日常とはそれ自体が人生を構成するのに必要不可欠な要素である。その日常に刺激を感じないということは、生きるということ自体に拘りを持たないということと同義であって、だから彼は生きるという行為を簡単に投げ出した。

 魔が差したと言えばそれだけのこと。心の隙間に入り込んだ死という選択を、彼は捨てきれなかった故に、彼は今呪術高専に立っている。

 前世で得られなかった漠然とした渇き。それを満たすために彼は今呪術高専にいる。

 

 

 

「ふあ………」

 

 間抜けたあくびをあげて、名入は一度立ち止まった。今日は任務が無いから一日暇で、停学中の学友の元へ足を運び、賭け事に精を出したがぼろぼろに負けて呪術高専に帰ってきていたのだ。

 任務を貰って給料という形で学生の身ながら金を得て、それを散財するのには一種の背徳感があり、実のところ今の名入はそれに魅せられている。こう言ったところで停学中の学友―秤金次とはずいぶん馬が合う。

 だが、そういう背徳感―言ってしまえばギャンブル癖はそう長くは続かない。彼にとってパチンコだとかスロットだとか、そう言ったものに熱くなる事はあくまで一過性のものであるからだ。

 「最近はアレをしていなかったし、久しぶりにしてみよう」そんな何気ないワンアクションから、彼のブームは加熱していく。そうしてやってきたブームは時と共にその熱意が風化し、再び彼の記憶にその身を埋める。

 彼はそんな毎日を繰り返している。彼の中で何か一つの物事に熱中するブームとは、一つ一つ繰り返されてゆく巨大なサイクルを構成する一つに過ぎないのだ。

 

「先輩」

 

「おう、伏黒じゃん」

 

 廊下を歩いている名入に声をかけてきた人物は伏黒恵だった。呪術高専一年の新人である。(最も入学前から五条悟が同伴のもと呪霊狩りをさせていたとかなんとか)

 

「今、時間良いですか」

 

「おー、全然いいよ。今日俺任務ないし」

 

 場所を変えて、二人は中庭の階段に腰掛けた。まだ春先のはずなのに、ここ数日はもう暑い。

 

「先輩、俺を鍛えてくれませんか?」

 

「何でさ………ああいや、お前の強くなりたいって願望を否定するわけじゃなくてだな」

 

 伏黒は分かってますよ、と言うと少し息を吐いて口を開いた。

 

「今のままじゃ、強さが足りないと思った……それだけです」

 

「それだけ?」

 

 こいつは強さが足りないってだけで他人に指導を求めるのか? 名入は内心呆れているが、それを表に出さず取り敢えず悩むしぐさをして見せて、少ししてから喋った。

 

「まぁ、理由は何でもいいや……強くなりたいと思うのは構わないし。で、具体的にどう強くなりたいんだ?」

 

「それは………」

 

 伏黒が口ごもる。

 

「(ほら見ろ。強くなりたいだけで、どうなりたいかそれ以上考えてないじゃないか)」

 

「あのな、伏黒。具体的にどうなりたいのかイメージのないやつは、それ以上強くなれないぞ。俺も今それで伸び悩んでる最中だし。そういう時はまず自分の手札を見るんだ」

 

「手札?」

 

「そう。人間関係とかそういう一見意味ないだろってやつから、術式とかわかりやすいところまで。まぁ一旦分かりやすいところから行くか。伏黒、自分の術式についてどう思う?」

 

「………器用貧乏って感じです。ある場面に適応しすぎて、式神を素早く切り替えていかないといけない」

 

「解決策は?」

 

「式神の出す速度を上げる……とか」

 

「ま、悪くないな。それが一番わかりやすい。でも、それ以外にも道はあるんだぜ? 術式は自分の認識に左右されるところが大きいからな……例えば、伏黒の術式を詳しくは知らないが、式神どうしの良いとこどりとかできるんじゃないのか? ほら、こうゲームのモンスターを配合するみたいな感じで」

 

「はあ……」

 

 今まであまり触れたことのない物の名を出されたからか、伏黒は怪訝な表情を浮かべて名入を見た。だが、名入は本気だ。

 

「まぁ話半分に聞いてくれよ。俺はお前の術式を知らないから具体的なことは言えないし、かといって術式の開示は諸刃の剣だからな。知ってるか? あの我らが恩師、五条悟の手札って意外とないんだぜ? 術式の順転、反転とあの触れねー無下限バリアと、あと一個クソデカい破壊規模してる技があるらしい。でも基本それだけ。それだけでもあの人が最強なのは、あの人は機転が利く。応用ができる。特定の事しかできないことを活かして、別の何かを生み出すんだ」

 

「俺もそうなれってことですか?」

 

「必ずしもそうとは言えない。どう強くなるのが最適なのかなんて、結果論だ。だが、聞いたところ伏黒は式神を何体か持ってるんだろ? じゃあそれをもっと掛け合わせてみたり、今だけでも色々手を加える余地はあるってことだ」

 

「手を加える………」

 

「そういうこと。だから、まずは自分を見つめなおしてから、どうなりたいかを考えてみろ。体術関係なら手は貸してやれるし、術式の事は五条さんに訊けや。それで悩んだなら手を貸す」

 

「じゃ、ちょっと手合わせしてください。体術関連、反応速度上げたいんです」

 

「いいよ~ん」

 

 気の抜けた返事をして、名入と伏黒は訓練場へ向かうことにした。この後、彼らは『訓練』が白熱しすぎたために一部設備を破壊し、夜蛾学長から大目玉を喰らうこととなる。

 




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