超かぐや姫!〜縄文時代から時を超えて〜 作:ウミウシになりたい
「うまいな…なあ、かぐや?」
「…ふん!獲物見ずに狩れるようになるまで認めないもん!」
ぷりぷりと怒り、ウネウネとキモい動きを魅せるウミウシは、俺の今の教え子の弓の腕前を認めずにいた。
件の教え子はそんな珍妙な生き物を見ても動じず、変わらず次の的へと弓を構える。凛々しく、集中している姿は凪を思わせるように誠品で美しい。
その姿勢から、また一射。
ヒュン
狙いは的の中心ではなく、外側に逸れたがまだ教わって1日か2日くらいでここまで射てるのは素晴らしい。
補足するが、15メートルの距離だ。
15メートルといえど、5メートルでますば姿勢の調整からしていくのだが、弓の構えが最初から口を出す隙が無いほど完璧だった。なので、もう距離を伸ばしてやっているのだ。
ちなみに今の俺はこの時代に似合わない、強弓を使っているのでやろうと思えば350メートルまで殺傷可能だ。それも、無意識で集中せずともいけるので、弓次第ではもっと射程は伸びるだろう。
「すごいですね、って言ってやれ…かぐや」
「ちぇ〜、ほんとに〜?………はいはい、分かった分かった『まだまだだね〜』言ったよ〜!」
何故か弟子が悔しがる様子を見せるため、俺は色々察するが諦めてさっさと指導に専念することにした。このウミウシめ、やはり邪悪の類の者だったのか。
「『申し訳ない…くッ…!』」
これくらいじゃへこたれない弟子だったから、良かったものの始めたて初心者には言葉責めがすぎるものだ。やる気を見せるかのように、拳を握り意気揚々とまた弓を構えだした。
一昨日くらいに長から頼まれ、指導してはいるもののやはり才能は抜群だ。今度は的の内側に矢がいった。
「………いやあ、これ教えることといったら、もう実戦くらいしかないんじゃないか?」
俺はその才能に、若干引くととともにウミウシはというと────
「ふんふん!…ッふん!べぇーだ!」
───否が応にも認めなかったのであった。その後は、長の娘が満足するまで付き合い、そして俺とかぐやはというと家に招かれて行くことになった。
『「いっぱい食ってくれたまえ!娘が沢山世話になってるからな!」』
俺は分かりました、と何とか取り繕った笑顔でこの時代では最高のご馳走であろう食卓へと顔を向ける。
かぐやはというと、俺の雰囲気を察したのかそれを隠そうと元気よくいただきます!と言い、食べ始める。
「…………キモチワルイ」
俺は聴こえないように、ポツリと呟く。どうしても視覚的にも、物理的にも目の前にある筈の美味しそうな食べ物がどうしょうもなく、食べたくない。
それは、何故かいつの間にか消失した味覚、嗅覚といった五感が失くなってしまったのがやはり大きいだろう。
口で幾ら噛んでも噛んでも、顎が疲れるだけで本来感じられる味覚が機能していないため、全てその労力が徒労に終わる。加えて嗅覚も、それがどんなにいい匂いで食欲をそそるものであろうと、分からないのであれば全く未知の物になる。
が、しかしここは長の前での食事なため、残すことは失礼にあたるだろう。そのため我慢して食ってる訳だ。
「……ねぇねぇ…ハル、大丈夫…?」チラリ
「………うん?ああ、大丈夫だ。大丈夫…」
力なくそう答える俺を見てか、俺よりも早く大食いで食べ始めた。それを長が見てか、嬉しそうに笑い声をあげて今日の指導もありがとう、というような笑みでこちらに顔を向けた。
それに対して、それはかぐやに向けてくれと………苦笑いで応じることしかできなかった。
辛い、苦しい。痛みでもって今を…やっと強く意識することができた。外傷はかぐやに過度に心配をかけるから、食べ物で不味い物、美味しい物、毒の物、苦い物、それに匂いでも風にのって薫る自然の香りは何時だって、俺はここにいるとそう感じさせてくれたのに…今は、もう感じない。
何故…?どうして…?俺は望んでもいなかった不老不死たる代償なのか、はたまた今を生きる人々の冒涜的な存在だからこその罰なのか。
やっと、未だに覚えているあの決意した日に誓った現実を見ること、がまだまだ続きそうだったのに。また俺はあやふやになりかけている。俺はこの現実に存在しているのだろうか?今、俺は夢を見ているんじゃないだろうか?
「ねえ!ねえ!ハル!!!やめてッ!!!」
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
ふと、痛みを感じる。それにかぐやの悲鳴のような声も朧げながら聴こえる。なあ、ここは現実か?それとも非現実か?俺と食は、切っても切れない関係でだからこそ今までの年月を過ごすことができたのだ。なのに…なのにッ!
俺は、最後に泣いて崩れるように俺を見つめるかぐやを、微かに見据えて意識を落とした。
この痛みこそが、ここを現実だと証明してくれるようで…ああ願わくば───このまま
「いい朝だな、なあかぐや?」
「ッ!…………う、うん!そう、だね…」
今日も今日とて、指導しないといけないし………張り切っていくかと、俺は背伸びをして身体をほぐす。
朝日はいつ見ても、気持ちを晴れやかにしてくれる清涼剤だ。身体がポカポカするし、気分も良くなる。
かぐやはというと、何故か日に日にやつれているように見えるが、まあ、かぐやだしいつの間にか元気になってるだろう。ほっといても何とかなるなる。
俺はボケーとしているかぐやを横目に、俺はそのまま長の家へと出向くことにしたのだった。
…ッ!…ゼェ~………ハア……ハル!マテー!
いつの間にか結構距離の差が空いており、かぐやは豆粒になっていた。がんばれ〜
〜2年経過〜
俺は、長に対して飯はいらないと正直に言って、俺は家に帰る。長の娘はというと、長の侍従?っぽい人の息子さんと結婚するようで着飾り的なものがされている。
どうやら、俺から免許皆伝をもらった日に式典をやろうとなっていたようで、長の娘さんはとっても大喜びでいえーい!としていた。
かぐやもかぐやで、謎にイエーイしてるので両者共に万々歳といったところだろうか?
長の娘さんが俺に対して結構親しくしてくれてた時期があったが、あれは脈ありでは無かったということか。
例えば、事あるごとに俺の後ろを歩き、俺が狩りで成功すると大喜びして、それに笑顔いっぱいで飯をくれたのに………。あれは、嘘だったのか…。
こういうことで落ち込む俺ではないが、娘さんがそういう行動をするたび、かぐやが喧しく喚いていたのを覚えている。そして、かぐやと娘さんが一対一で向き合った時を境にぱたりとそういったことは無くなった。それはそれで、あの喧騒が無くなるのかと悲しいなあ、と思うことはあったがもう過去だ。
「おめでとうございます」
「『おめでとうございます!頑張ってね(-ω☆)キラリ』で良いよね?」
「何か余計なことを、付け加えられてるような気がしないでもないが…まあ、いいか」
頭を掻いて、今一度晴れ姿の娘さんを見る。笑顔が溢れており、この時代で随一の美しさを誇るのではないかという美貌が、人々を魅了する。
「『ありがとうございました!師匠!』だって!良かったじゃん、ハル!」
「…そうだな、まあ晴れ姿を見れて良かった良かった…」
鷹揚に頷いて、俺のやってきたことに意味があるのはやはり嬉しいものだなと思う。縄文時代で人と関わって関わって…その度に滅びと消失を繰り返し、関わった縁が軒並み失くなっていった。しかし、一度こうした門出を祝うイベントというのは人の営みの中で色褪せず、記憶に残る良いものだ。
だからこそ、より一層かぐやは人と関わりたくないと言い出す時もあったのだ。あの時はかぐやはイヤイヤ期になっていて、聞く耳を持たずに泣き喚いた。そのため、俺はそんなかぐやを放って置く訳にはいかず、何日も何日も身体を覆って撫でていたものだ。
それが終わると、次は放心状態になってしまったのでまたまた大変だったな………。今ではかぐやには一度、そういった経験は必要だったなと思い直しているため、良い?思い出となっているのだが。
と、思考に耽っていたらいつの間にか宴会のようになっていて、辺りが騒々しくなっていた。
駄目だな…年月を経るごとに考え時間がゆっくり引き伸ばされ、まるでおじいちゃんのようなノンビリしたものへと、脳が変容している。
「ん〜!美味しい!」パクパク
あいも変わらず元気なかぐやは、並み居る人々とは比べものにならないくらい、めちゃくちゃ食っている。俺は一度、かぐやにそんなに美味しいのか?と問いかけたことがあるが、満面の笑みを思い浮かべさせるような明るい声で、うん!と言ったことを遠い昔だが今でも覚えている。
俺はというと、食事に口を付けることなく水を飲んで時間を、淡々と潰す。俺にとっての食事はもう現実を否定するものでしかないため、あまり食べたくないのだ。しかも、匂いもしない得体のしれないものを食うことは、やはり誰だって好き好んでやるものじゃないだろう。
「………味、ホントに失くなっちゃったんだよね…匂いも…まだしない?」
「ん…?また今さらだな。もう味だとか匂いとかは良いんだよ、ただまあ…もう一回、不味いだとか美味しいだとか…風にのった色んな香りをいっぱい感じたい…とかどうしても欲は出てくるが…」
それより、かぐやがいるからな。と一瞬だけ逡巡した後に言葉を付け加える。すると、かぐやがあはは、と苦笑いする様子を見せた後に大袈裟に笑った笑顔を見せてきた。
俺はその様子を深く考えずに、肯定的な反応だと思い俺も笑みを見せるのだった。それに、式典で暗い顔を見せるのは慇懃無礼というもの、それなら笑みを見せようじゃないか。
〜10年経過〜
俺は、やはり不老不死たる宿命ともいうべきものを背負っている。それは、老化による年齢変化を見せないというものだ。特に、未だに寿命が低い時代では見た目の変化もかなり変容するため、尚更目立つ。
長からは長寿の秘密を教えてくれだの、良き弟子だった娘さんからは嫉妬?によるものなのか、年々扱いが悪くなっていってるような気がする。まあ、娘さんは美貌一番と謳われていたが今では、まあまあ美少女といったところに落ち着いているためなのか。真偽は定かではない。
知ったところで、どうにでもなるものではないが。
かぐやはかぐやで………村中を疑心暗鬼に思っているのか俺が村の中にいる時は、忙しなく俺の頭上で警戒態勢をとっている。理由をかぐやは教えてくれないが、知ったらダメだという雰囲気を感じる。十中八九、長から長寿の秘訣を教えないならば武力行使とか、そんな辺りだろうか?
今さら、不老不死なんか年季に年季を重ねすぎて思うところは………ない。それに、いつの時代も権力者というのは不老長寿を求めるものと、古今東西決まっているものだ。
それに対して、かぐやは何故隠そうとしてるんだろうか?と疑問が当然浮かぶ。ただまあ、かぐやはかぐやなりに、俺の不老不死をコンプレックスに思わないように、配慮してくれているのか。
それはそれで、危険なことになるなら伝えてくれれば助かる…どうとでもなるっちゃなるが、事前に身構えできてれば後の対処が楽になるからな。
「ッ!ハル!後ろッ!!!」
ヒュン
「…………まだまだ甘いな。気配を無くす技術はまだまだ未熟だ…」
『「さっさと、長寿の秘訣を教えぬか!」』
何を言ってるか分からんが…鬼気迫る表情を見るに………長の寿命が近いとかそんな感じか?確かに、最近は顔を見せることが少なく、対面していた時は見るたびに痩せていたが…。とうとう老衰か?それとも病死か?
俺は当たりそうな矢を、首を反らして回避する。こんな芸当できて、獣と戦う時はなんで傷ができるかお思いだろう。その答えは、俺の懐にある。
俺は長の様子を僅かに思い出しながら、娘が第二矢を放とうとしているのを見て、姿勢を下げて左右に身体を動かしながら接近していく。
娘は、狩りはすれども"人"と戦った経験というのは無いはずだ。人と獣は、決定的に違うものでまたそれは弓の構え、心得のあり様も大きく変化する。
距離にして、約50メートル。単純に茂みに隠れているため、発見が容易にできた。恐らく一撃で仕留める算段だったか?些か舐めすぎだろう。なあ、娘さんよ?
接近する俺に対して、右往左往に弓をズルズルと動かす姿は滑稽であり、ああコイツは人と獣を同じだと考えていたんだな…と思うには十分だった。俺はどこまでいっても、根っからの狩人で…それも、縄文時代から約6000年を歩んだ狩人だ。標的を補足すると、その後に感情が揺らぐなんてのはとうの昔に無くなっている。
『この野郎めー!父上が死ぬのだぞ!何も思わぬか!この曲者がーー!』
ヒュン
第二射がくるが、弓から発射される矢の速度は熟知し、それに対処する反射速度を備える俺に対して、あまりに無力な一矢であり、そのまま俺の後ろに矢がいった。
そして俺は至近距離の間合いに入って、狼より格闘はやはり随分楽だな、と思いながら制圧を完了した。首にはナイフモドキを添えているが、娘はそれでも下でぐぬぬと唸っている。お前は俺を殺そうとしたの分かってないのか?はあ…と、ため息を吐いてこちらに寄ってくるかぐやを見る。
「…………なんで…ッ!…いつも、じゃないけど…こうなるんだろうねッ…本当に、私は…」
「まあまあ、落ち着けかぐや…いずれ起きることだっただろうし、それが今起きたことなんだ、だから気にするな」
ぐずりだしそうな雰囲気を醸し出すかぐやに、俺は慌てて娘に対して縄を縛って、放置して急いで村から出ることにしたのだった。こんな形で村を出ることになるとは、思いもしなかったな…。
さらば、村よ。まあ文明を知れたし良かったものだったと思うことに………。いや、かぐやをこんなことにした村は罰を受けるべきだ。幾年月流れたら、勝手に滅びはするだろうがどんな滅びかは…知らないがな。
このまま弥生後期をちょいと書いて、古墳時代ですかね〜。古墳と弥生ってそんなに差がないから書きどころ難しい…。むむむ……。
次話は今度こそゴールデンウィークかな〜と。次話と次話で弥生時代書いて、かぐやSideかこうかなーと。卑弥呼みこ書かないとね!
村は、その後どうなったか神のみぞ知る…。碌な目にはあってないでしょうね、頻繁に。
昨日初めて映画館で超かぐや姫見たんですけど、音響やっぱ良くて…大画面なのも見応えあって良かった…よかったよー!ヤチヨ〜!
本屋で小説版も買えたので万々歳の1日でした!以上!