「 ついた。ここだよ。 」
「 ・・・その檜佐木さんの弟ってのは、この中か。 」
どこぞの山奥の一軒家。黒い和服の男が二人。
女物の着物を羽織った長身の男と、対照的な大人びた若い青年。珍しい組み合わせである。
彼らは"現世"である人物に会うためにここに来ていた。
「 この霊圧、そいつはなにをやっているんだ? 」
「 うーん、言葉で説明するより、実際に見てもらったほうが早いかもしれないね。
一般の隊士には、あまり気持ちの良いものではないから。勿論、檜佐木君にもね。
だから、紹介するのも兼ねて死神代行の一護くんに一緒に来てもらったんだけども・・・ 」
「 だけどもなんだよ? 」
京楽春水。護廷十三隊八番隊隊長。
彼は長らく現世にいた部下に会うためにこの家に来たが、どうも人の気配はしない。
玄関には、なにかしら手紙らしきものが置かれてある。
手に取ってそれを開いてみると、こうあった。
―――親愛なる京楽隊長。
占ったところ、そろそろ頃合いだとされたので、座して待っていたかったのですが、なにやら面妖な物が跋扈しかけているようなので捨て置けず、少しの間、留守にしています。
ことが済み次第戻りますので、どうかお待ちください。
―――八番隊5席、檜佐木悟
「 うーん、悟くん留守かぁ・・・ 」
「 呼びましたか、隊長。 」
「 わぁ!? 」
「 い、いつの間に!? 」
京楽と今回彼の付き添いで悟なる人物の住まう邸宅に足を運んでいた死神代行、黒崎一護は驚愕した。
話しかけられるまでに、彼の接近に、その膨大な霊圧に気づくことができなかったからだ。
一護とほぼ同じくらいの身長。
短く切った青い髪。黒い死覇装と霊圧から、彼もまた死神であることが伺える。そしてその顔立ち雰囲気はどことなく、彼も知っている人物を思わせる。
そして一護は、彼の霊圧に、死神とは別のなにかを感じる。
そう、これは人間のものだ。
何故、人間の霊圧が混じって感じられるのだろうか。
京楽の部下ならば、死神であることは確かであり、死神は死神の霊圧を持っていて然る。人間の霊圧なんかないはずだ。
「 あぁ、悟くん。もう済んだのかい? 」
「 ええ。件の悪霊ならば、この通りに。 」
その手に握られていたのは、ぬいぐるみだ。
市販の、龍をデフォルメさせたような。
しかし、その中からは、悍ましい瘴気が漂っている。
これが、いわく付きのなにかなのか、それともこれの中に、何かが封じられているのか。
一護は、その人間の霊圧の大本が、そのぬいぐるみであると確信するが、いまいちわからない事があった。
常日頃感じている、身近な仲間、例えば、茶渡泰虎なんかの霊圧とは、あまり似通っていないのだ。
人間のようで、人間ではない。そんな感じだ。
虚とも違う、なにかが、この中にある。
『 ――――!―――――――!! 』
「 !? 」
ぬいぐるみから、なにかの声が聴こえてくる。やはり人のようで、そうではない。
確かに、その霊に意識はあるらしいが、意思疎通そのものは難しいだろう。
「 黙れ。 」
悟の霊圧が、急激に増大し、その身体から、凄まじい霊力が溢れる。
それに気圧されたか、龍のぬいぐるみは、あっさりと大人しくなった。
だが、一護にはそれが不可解でならなかった。
ついこの間までそういった霊力の一切を失っていた彼であるが、今はすっかり元来生まれ持った力を取り戻し、そういった感覚も戻ってきている。
それまで虚という悪霊に関わってきたこの青年にも、このぬいぐるみがなんであるのかはいまいち理解できなかった。
少なくとも、人間に由来するなにかでは、あるはずなのだが。
「 隊長、そちらの方は? 」
「 ほら、前に伝えた死神代行だよ。 」
「 そうか。では彼があの男を・・・
ありがたいことです。彼を無間に放り込んだとあれば、一先ず安泰だ。
そこはやはり、お父上の血筋でしょうか。 」
彼の漏らしたあの男というのが、一護には誰のことなのかがすぐに分かった。
とすれば、やはりこちら側の事情を、ある程度知っているのだろうか。
口ぶりからして親父のことも知っているようである。
「 はじめましてですね、黒崎一護さん。申し遅れました。
八番隊5席、檜佐木悟と申します。
日々の目覚ましいご活躍はお聞きしております。 」
「 ああ、どうも。 」
丁寧な口調で挨拶を交わす悟のその表情に、裏表はなかった。
怪しい術を使っているらしいのは確かだが、やはり彼も護廷十三隊の死神、一護にこれといって危害を加える気があるはずがない。
それも、直属の上司の前で。
「 立ち話もなんですので、家でお寛ぎになってください。 」
「 それじゃ、お邪魔しようか。 」
京楽に続く形で、一護は民家の中に入っていった。
いたって普通の造りをしてはいたが、どうも張り詰めるような気配がしてならない。
外から感じた霊圧が、中に入った瞬間、より一層濃くなっているようだった。
護廷十三隊。十刃。X-CUTION。これまで幾度と修羅場を潜り抜けてきた死神代行は、今これまでにないようなプレッシャーをこの何の変哲もない木製造りに感じている。
「 こちらにどうぞ。 」
戸が開いた先は、質素な居間だ。やけに近代的なテレビやらラジオやらが置かれているのを除いて、ごくごく普通の部屋である。
そう、その部屋中の、いくつも置かれているぬいぐるみを除いては。
このぬいぐるみ一つ一つから、霊圧を感じた一護は、これこそが外から感じたものの正体の一つだと知る。
中身は恐らく、先の龍のぬいぐるみとおなじだろう。
自分たちと相対するように座ったその死神は、丁寧な口調を崩さなかった。その手元に、あのぬいぐるみが置かれている。
京楽もまた、そんな部下と同じく、いつもののほほんとした態度のままだ。
「 みんな、僕らを怖がっているのかい? 」
「 そうですね。如何に歪んだ整といえども、隊長格クラスの霊圧を持っているのは、ほんの一握りです。
少なくとも、この部屋にはそれはいません。
例外があるとすればコイツでしょうが、それでもお二人には敵わないでしょう。 」
「 歪んだ整?そいつはなんだよ? 」
「 隊長・・・ 」
「 ああ、この際だ。一護くんにも教えてあげなさい。 」
人の有する魂魄、魂には、二つの側面があることは、以前に一護は、朽木ルキアから聞いている。
人間や死神の"
この虚を整に戻して魂葬の後に、尸魂界に送るというのが、死神の仕事である。
しかし、目の前の男は、歪んだ整といった。
さも、虚とは別に、人間の悪霊がいるような口ぶりだ。
いや、いるのだろう。そして、それがこの周りのぬいぐるみたちの正体だ。
何故彼らがこんなことになっているのか、勿論気になるところの一護だが、幸いにもこの檜佐木悟という男は、きっちり説明してくれる、涅マユリなんかと似たような隊副隊長であるらしい。
これが浦原喜助とかだったら、嘘やらなにやらを織り交ぜて誤魔化していたかもしれない。
一護自身大恩ある浦原をそうは思いたくなかったが、平然とそうするのが、彼である以上は仕方がない。
その点はやはり、悟は信用できる人のようだ。
「 黒崎さん、歪んだ整とはそのままの意味。
整のまま、常人離れした霊圧を得てしまった魂魄のことです。 」
「 常人離れした霊圧? 」
「 世にいう、心霊現象だとかなんだとかっていう奴です。」
「 それ虚が起こしてるんじゃないのかよ。 」
「 確かに虚も起こしますが、彼らは基本的にシンプルでかつ大胆、分かりやすくいえば動物的なんです。
本当に厄介なのは、もっとスマートに動く連中です。
何かしらの恨みから、整の霊が力を持って、生者を害する事だってある。
お聞きしたことがあるんじゃないでしょうか?
いわく付きのビデオを見て、その数日後にテレビから長髪の女が・・・ 」
「 貞子? 」
「 そう、貞子です。虚と同じように、貞子の同類がわんさか実在していると考えてください。
死神でもないのに、巨大な霊圧を得た彼らは、その存在がはっきりと固定され、"虚に転ずることがなくなります"。
心霊スポットがどうたらと特番で時折やっていたりしますが、あそこでも霊能者たちをビビらせているのは、虚ではありません。
奴らだったらいった時点で、当事者たちを襲っていますから。
あれらはみんな、整です。
虚よりも人間だった頃の要素が残っているので、理性が効くものが多いのでしょう。
世にいう心霊スポットとやらの怪異は、その殆どが、整の霊が起こしている。 」
「 なん・・・だと・・・! 」
だれかと戦っているわけではないが、一護はそんな反応を示して驚かざるを得なかった。
彼の中ではすっかり、悪霊といえば虚になっていたからだ。
常日頃から見ているような、老人や不幸な子どもの霊が、そんなことをするものなのか。
しかし思えば確かに、悟のいうことは的を外しているわけではない。
例えばグランドフィッシャー。
彼にとって、母の直接の仇であったこの虚は、知能は有せどもやっていることといえば魚のチョウチンアンコウと同じだった。
人間によく似た寄せ餌で人を惑わし、喰らう。
その他にも、一護が遭遇した虚といえば、どこか動物然としていて、その前までの悪霊のイメージとはあまり合わない。
グリムジョーをはじめとした破面に至っては、虚特有の孔などの差異はあれど、殆ど人間である。
強いていえば、虚にされた織姫の兄や、
つまり、そんな虚とは別に悪霊らしい悪霊もいるということになるわけだが、ならばそれを抑え込んでいるであろう悟は何者なのか。
このような手法、一護が会ってきたどの死神とも似つかない。
「 その一つが、このぬいぐるみの中の悪霊というわけですが、これとは別にもっとわかりやすい物をお見せしましょう。 」
悟は腰から彼の斬魄刀らしき刀を取り出した。
長さ一寸5尺。飾りのない黒色の柄の長ドスである。
「 顕れよ、空即是式。 」
斬魄刀の解号を唱えると、刃の切っ先に触れていた場所に、別の空間が現れる。
まるで、異界にでも繋がっているような異様なそれに手を突っ込む悟の姿に、一護は再度驚くこととなる。
「 これが、オレの斬魄刀です。
触れた場所に隙間を設ける。そこから別の場所に繋げられますし、物も持ってこれる。隙間の中に物を収納することもできる。
便利でしょう? 」
「 あ、あぁ。 」
「 それで、見せたいものというのは、これです。 」
その隙間の中から取り出されたもの。
それは一護にも、酷く見覚えのあるものだ。
これまで戦ったものの多くは、それを握っていた。
刀である。斬魄刀ではないようだが、その赤い鞘、その中に収められているであろう刃からは、異様な気配がしている。
周りのぬいぐるみと同じ、霊圧だ。
「 それ、いわく付きの妖刀ってやつ? 」
「 その通りです隊長。この刀、銘を加州清光。
かつて新選組の一番隊隊長、沖田総司が生涯に渡って振るい続けた刀です。 」
「 お、沖田総司?新選組のか? 」
「 そう、新選組の剣の天才です。
んで、この霊圧みればわかると思いますが、彼は今、悪霊とかしてこの中に封印されています。
新選組ほぼ全員の霊圧を取り込んで。
整の魂魄は他の魂魄を取り込むことで、霊圧が高まっていくんです。
虚と同じですね。違うのは魂魄はそれほど必要がないことと、斬魄刀で斬っても地獄には行かないこと。 」
新選組の名前くらいは一護も聞いたことがある。幕末に活動していた侍たちの組織だが、まさかそんなことになっていたとは。
しかし、それよりも悟の口から、気になる発言がでたほうが気になっていた。
「 この刀は表向きは所在不明という扱いになっているようですが、まさかその主が憑いているとは誰も考えもしないでしょう。
世間に晒すよりは、オレが持っていたほうがまだマシだ。
・・・さて、では隊長、そろそろ物をあちらに・・・ 」
「 待ってくれ悟。 」
「 あら、どうしました? 」
「 さっきよ、気になることを言ったよな?
斬魄刀で斬っても、地獄に落ちねぇって。 」
「 あぁ、そのことですか。
確か、一度目にしているんでしたよね?
虚が地獄に落ちる様を。 」
「 あぁ。とんでもねぇ悪党だった虚が斬魄刀に斬られても、生前の罪がもとで地獄に落ちるって。 」
「 確かにその認識で間違いありません。
しかし、斬魄刀で斬られて地獄に行くのは、あくまで虚なんです。
貴方は、先代の死神代行を討伐したとお聞きしています。思い出してください。
彼はすぐに、地獄には落ちなかったでしょう?
だからあなたは総隊長に、彼の遺体を現世で埋葬してほしいと頼み込めたんですよ。
ウチの兄貴は、地獄に落ちるもんだと思ってたそうですが。 」
いわれてみれば、そうだと一護は腑に落ちる。確かに自身の前任の死神代行である銀城は、尸魂界への復讐の為に何人もの死神を陥れ、殺してきた。
どんな理由があれ殺しは殺し。
以前自身の前で地獄に連れ去られたシュリーカーとは、やったことは変わらない。
しかし、銀城とシュリーカーで、人格面はさることながら、一番分かりやすく決定的な違いがあった。
シュリーカーは虚であり、銀城は人間であることだ。
彼が一護から奪った力で得た卍解には、虚の力が混じっていたそうだが、あくまでそれだけである。
それに、彼に引導を渡したのは間違いなく二年ぶりに握っていた自身の斬魄刀、斬月である。
にも関わらず銀城は、すぐに地獄には放り込まれず、その遺体は尸魂界に持ち帰られていた。
「 生前、大悪人であった虚は、斬魄刀によって虚になってからの罪を洗い流した後、地獄に引き渡す。
それが、死神の決まりです。
しかし、これであちらに赴くのは、あくまで虚であって、
整ではない。
藍染の手下の破面、十刃も何人かが地獄に落ちたそうですが、彼らだって虚です。 」
「 歪んだ整は、虚じゃない。霊子濃度だって虚ほど高くもない。だから彼ら以上に霊感がない人間には見えないし、なにより人間のそれは見た目がさほど変わらないのが多いから、普通の整とは見分けがつきにくい。だからそういった整に死神が襲われる、なんてこともあったりするんだ。 」
「 んじゃ、ウチの街にもそんなのがいるのかよ? 」
「 歪んだ整が発生する主な要因は、本人の人格です。生前の何かしらの悲劇や境遇がもとで魂魄が変異してしまう。
空座町は重霊地のようですが、治安は良い方ですので問題はないでしょう。
必ず大丈夫だ、と保証はできませんが。 」
「 つまり、結局怖いのは、生きた人間ってことだね。
山じいが若い頃はもっと酷かったらしいし。 」
「 爺さんが若い頃? 」
「 彼これ千年前だよ。護廷十三隊ができたのも、ちょうどその辺り。 」
千年前、とすると平安時代。文系の一護にとってはこの時代を生きた人物として小野小町の名が思い浮かぶが、そういえばその小野小町も、怨霊伝説みたいなのがあったのを思い出す。
どこかでばったりでくわすことも、あり得るのかもしれない。
この時代は小野小町が可愛く見えるような、怖ろしい魑魅魍魎が蔓延っていた時代である。
見た目からしてそうなのだろうとは薄々感づいてはいたが、そんなに昔からあの爺さんは戦っていたのかと大して接点のなかった護廷十三隊総隊長の偉大さを知り、感心する。
ん?そう思うとそんなのを相手取って、おおよそそんな総隊長にだってできないであろう封印という芸当を用いる悟はもしかして・・・
「 オレは陰陽師なのではないか?とお考えになりましたね? 」
「 な、なんでわかるんだ? 」
「 いえ、そんな未来が視えましたもので。 」
( 一護、この男は預言者か!? )
( オッサンちょっと黙っててくれ! )
「 その認識で間違いはありません。
陰陽道。現世においては平安の世に栄華を極め、尸魂界においてもかつてはそれなりの術師がいたとされています。
この鬼道の体系には、いくつか種類がありましてね、その一つだと覚えていただければ幸いです。
・・・これ以上時間を取る訳にもいきませんから詳しくは、後日機会があればとさせて頂きます。
良いですね? 」
「 お、おう。 」
「 それじゃ、お話も済んだし、そろそろ取り掛かろうか・・・ 」
京楽は懐から、ガラケーらしき物を取り出す。
伝令神器。死神が通信の為に使用するツールの一つだ。
割と昔気質な彼も持っているとは、一護は意外に思っていた。
「 あ、七緒ちゃ〜ん?今悟くんと会ってるんだけどね、かなり量が多いから、人手多めにお願いね! 」
「 そういえば、お前なんで現世で暮らしてたんだよ。 」
「 あちらだと、あまり受けがよろしくなくてですね。
総隊長はご理解いただけてくれていますが、
オレのことは隊長の何人かも詳しい詳細を知りません。 」
その後、伊勢副隊長をはじめとした八番隊の隊士たちと鬼道衆らによって、悟の仕事で回収されたもの、即ちこの邸宅内に封じられた、"いわく付きの物品"を持ち出す作業が始まった。
これらは、尸魂界にて、厳重に保管されることとなる。
ちなみに一護は帰らされた。
京楽に曰く、彼の強大な霊圧によって、悟の回収した魂魄たちをビビらせ、運搬を円滑にする算段も兼ねて呼んだらしい。
「 良かったんですか?彼をそのまま帰して。まだ何かしら手伝ってもらっても良かったのでは? 」
「 だってここにあるの、みんなヤバいんでしょ?
変に危険に晒すよりは、虚とは別の怖ろしい存在がいるものだと教えたうえで返したほうがまだいい。 」
「 そうですか。 」
「 悟くん、実際にキミから見て、彼はどんな人に見えた? 」
「 悪い人間では、ないですね。以前に聞いた話を踏まえた上で、直に会って確信できました。
若さ故に甘いところはありますが、それがより人を惹きつけるのかもしれない。
志波前十番隊長の御子息だといわれれば、確かにピンときますね。 」
「 そうかい。そっくりだよね、彼に。 」
「 ええ。 」
「 しかし、本当におっかない霊圧ばかりだね。
どうも人間じゃないのが混じってる。
現世にいる、どこぞの神さまとかかな? 」
「 どうやら西側から召喚の儀法が持ち出されたらしいそうです。
どれも海外由来です。世間で、悪魔とか邪神とかといわれている。
「 向こうも向こうで虚、あっちじゃドラゴンっていうみたいだけども、その管理で手一杯だろうし、そんなこというもんじゃないよ。
多分、あっちにもキミみたいな子、いるんじゃないかな? 」
「 あっちの業者は多いでしょうが、能力は大凡期待できないでしょうね。
でなきゃオレが向こうに出張なんていく必要ありませんから。 」
「 そういえば聞いてなかったけども、どうだったんだい、西洋は? 」
「 こちらと変わりませんよ。美しい自然に、息づく人々や動物、そしてそのなかに蠢く人の業、欲望、そして嘆き。
誰かが誰かを恨んだり、貶めたりして、怨嗟は廻り、悪霊が生まれる。
そうして誰かが苦しみ、恨み、悲劇は繰り返される。
この負の連鎖は人間が人間である限り、永遠に終わらないでしょう。
因果の鎖は、オレたちの目に見える以上に、雁字搦めになっているのかもしれない。 」
「 あのぬいぐるみの中身も、そうなのかい? 」
「 ・・・アレは、もともとは黄金の指輪に宿っていた物です。
大昔からある代物だったらしく、最初の所有者が荼毘に伏してからというもの、持ち主を転々として、その尽くが奇怪な死を遂げたという、呪われた指輪です。
とっととどこぞの火山にでも投げ込めばいいものを、人間、とりわけ金持ちは欲するものですから、この曰くを知ってか否か、手を付けるものが次々に現れてしまった。 」
「 それじゃ、その最初の持ち主が、悪霊の正体というわけかい? 」
「 一概にも、そうとは言えません。というのも、これの初代所有者の魂魄はとっくに消えていて、呪いが一人歩きしていたらしく、あとから憑いた悪霊がそれを利用して指輪を手にしたものの魂を喰らい、成長していた。そしてそいつ自身も、呪いの影響を受けて、自分が誰だったのかすら覚えていない。
おそらくは欲することを強いて捕らえた魂魄から人間性を奪い、魔物に変えてしまう呪いだったのでしょう。
そういうの、結構あるんですよ。
ま、なんとか調伏し、手なづけられましたが。 」
「 呪いねぇ・・・
それで、その指輪はどうしたの? 」
「 その中に入っています。かなりやばいものだというのはこれを見つけた店の店主も知っていたらしく、安くしてもらいました。
霊そのものは、ぬいぐるみの方に映っていますが、呪いは依然として残っているようです。 」
京楽は手に持っていたぬいぐるみにチャックがあることに気づき、それを開いて中を探る。
すると、冷たいものに触れる感覚を覚え、それを取り出してみれば、確かに金細工でできた、見事な指輪がでてきた。
これが、そのすべての原因であるらしい。
「 年季が入っていると思えないが、確かに怪しい感じだね。
これは、持っていって厳重に保管したほうがよさそうだ。
もう誰にも、欲されぬように。 」
「 それがいいでしょう。現世の知り合いのところに託すというのもありかもしれませんが、
彼らに負担を課すのもよろしくないでしょうし。
そしてコイツは、引き続いてオレが面倒をみますよ。
・・・これからまた戦ごとがあるようなので、働いて貰いましょう。 」
このときサラッといったので、京楽は気にしていなかったが、悟の予言は見事に的中してしまい、後に尸魂界はおろか、三界すべてを巻き込む戦争が引き起こされることとなる。