「 いやぁ、こうやって間近に会うのも久しぶりだね。
元気してた? 」
「 隊長こそ、お元気そうでなによりです。 」
こうして辿り着いた隊舎、本人が云うように久方ぶりに、我が隊の隊長に謁見していた。
青髭の生えた顔。隊長羽織の上に羽織られた女物の着物。
そして手前には曰く流魂街でも特に美味いという幻の酒。
本当に相変わらずだ、この人。
「 西のほうではお疲れだったね。疲れたでしょ? 」
「 いえ、それほどでもありませんよ。しかし、あれほどの厄介ごとであったとは、思いもよりませんでしたよ。 」
「 報告には聞いていたけれども、まさか"アレ"に手を出そうとする輩がいるなんてね。
それも、人間の魂魄とは恐れ入るよ。 」
「 ご存知だったのですか?ケルヌンノスのことを。 」
「 その昔、山爺が言ってたんだよ。西の霊脈の蓋になってる神さまのこと。
絶対に触れちゃいけないものが、現世にも尸魂界にもあるってね。 」
「 総隊長が、ですか? 」
「 本当に大昔に西の方に行ったことあるらしいよ。
護廷ができる100年くらいまえに。 」
隊長はそう言うと、徳利から椀に酒を注いで、それを口元に近づけて飲んだ。
「 うん、やっぱり美味しいね。一人酒もいいけれども酒は誰かと飲んでる方がより味わい深くなる。 」
「 左様ですね。 」
続いて、オレも飲んでみる。
なるほど、確かに程よくまろやかさと甘みが混じり合っているではないか。
これは確かに幻の酒、などと評されるのも納得がいく。
「 どうだい。その酒、美味いでしょう? 」
「 結構なお味にございます。 」
「 おおそうかい。それは良かったよ。
・・・それでだよ悟君。 」
「 オレを呼び立てた理由、ですね。 」
「 そう。平子隊長からも聞いてると思うけどね、今、東京の方で奇妙な事が起き始めている。 」
「 奇妙。具体的には? 」
「 ううむ、なんでも悪霊を封じていた地蔵が誰かに壊されてたりしてたらしいんだ。 」
「 地蔵、ですか。 」
「 霊圧の残滓が途切れてたみたいだから、なにか形代を使って誰かがその霊を何処かに持ち去ったみたいなんだけどね。痕跡は新しかったから、つい最近のことみたいだ。
こんなことを聞くのもなんだけども、覚えはないかい、悟君。 」
「 東京。久しく足を運んではいませんね。
何分九州に関西、東北方面、果ては西洋と忙しなく動いていたもので。 」
そうだ。オレは思いの他、関東方面にはあまり縁がない。現在の拠点は東北だ。東京との縁といって強いていえば、入隊初期とそれから少し経った頃の一時期にその辺りで活動してたくらい。
二十年も前の話だ。
勿論、そんな大昔にオレが手を出したものを、今更他の死神が見つけたなんてのもありえない。
如何に千年前から弱体化したといえど、護廷の死神はそこまで節穴ではないからだ。
それにしても関東か。
あの時の陰陽師の小僧、元気にしてるだろうか。
「 だよねぇ。とすれば別の誰かだけども、時代の移り変わった現世で、キミ以外にああいった式神を使うものが、果たしているかどうか。
そして、仮にいたとして、その目論見はなんなのか。
大したことではなさそうだけども、どうも臭い。 」
「 それで、オレにそれを調べてほしい、ですか? 」
「 いや、そうじゃない。キミを呼んだのは、それとは別件だよ。あの辺りについては、砕蜂ちゃんたち隠密機動と連携してこっちで調べようと思ってる。
これに関してキミの出番は、もう少し後かな。 」
「 そうですか。平子隊長は、そちらの仕事についてオレに相談に乗ってほしいと仰ってられましたが。 」
「 まあそれもあるけれども、本当のところ、そっちは後回しにして別の無視できない問題の方に回すべきだと思ってさ。魂魄を集めているのが誰か分からないんだし、もう少し情報が必要になるからね。 」
「 では、オレを呼んだその別件とは? 」
「 最近、獄庫が騒がしくなってきている。外から見える位に複数の霊圧が大きくなったり小さくなったりを繰り返していて、隊士たちや貴族たちが怖くて堪らないらしい。 」
「 獄庫?そういえば平子隊長が、中を見せていただいたと言ってましたね。 」
「 見せたといっても、彼に見せたのは、ほんの一部だよ。まだ安全性が高い、上の部分。
"二階層以降"は、見せちゃいない。
問題が起きてるのは、その辺りだとボクは睨んでる。 」
「 獄庫第二階層ですか。話にはお聞きしています。大変、危険な領域であると。 」
「 正直なこというとボクね、その辺りには覚えがあるんだ。 」
「 ご存知なのですか? 」
「 ボクの同期がね、キミと同じ陰陽道の使い手だったんだけども、十二番隊にいたんだ。 」
「 隊長の同期・・・ 」
「 まだ技術開発局ができる前、今から数えて二百年位前かな。その辺りでアイツは、式神の研究をしていた。
特に・・・さっきキミが乗ってきたようなのの。 」
「 恐竜、ですか。 」
「 うん。三界の開闢以前の、原初の時代から存在した、力強い生命。アイツは、それの研究に、一生を捧げると言ってもいいくらいに入れ込んでたんだ。
ただ、色々あってアイツはもう、尸魂界には居ないけれどね。 」
「 第二階層に、その方の研究していたものがいると。 」
「 そういうことだね。というより、今の第二階層は、技術開発局ができる少し前に、アイツの件の終わりに、山爺が十二番隊に命じて研究棟ごと獄庫に隔離した結果、一階層と本来の二階層の間に挟み込む形でできたできた場所なんだ。
だから、当時の状態がそのまま維持されている。
ボクはあそこを、"恐竜屋敷"と呼んでいるよ。 」
「 恐竜、屋敷・・・ 」
「 中はアイツの残した恐竜たちで溢れかえっていて、かなり危険な領域だ。過去あそこに乗り込んだ隊長格も、その多くが命を落としている。それを踏まえた上でキミに頼みたい。そこの整理に行ってきてくれないかい? 」
またまたぁ。そんな宝の山の話をされた上、先人の存在も仄めかされて、なにより貴方に命ぜられた。
オレにだせる答えは、一つだけだ。
「 承知しました、隊長。 」
オーダーはでた。そしてオレはそれを承諾する。
死地へ赴けと命ぜられれば、それに従うまで。
それにしても、恐竜屋敷ときたか。
恐れもあるが、それ以上に楽しみでならない。