オサレポケモンバトル   作:ニコラス―NICORUTH―

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鮮血魔嬢、ゲットだぜ。

 

 これは、オレが黒崎さんに会う前のことだ。

 

幼少の頃、なんの間違いか地獄に迷い込んだオレは、そこで師匠に出会い、多くを教わった。

剣術、白打、そして、陰陽術。

特に陰陽術は奥が深く感じられたので、その修行は特に苦にはならず、師匠(せんせい)も見た目によらず人の良い方だったので、おどろおどろしい地獄での暮らしは思ったよりも辛くはなかった。

 

 強いていえば、兄貴としばらく離れることになってしまったことくらいだが、まぁ、あんな泣いてばかりの奴でも、力強く生きていけるさと思っていた。

 

 そんな兄貴もいまでは九番隊副隊長で、瀞霊廷通信の編集長だというのだから、世の中は本当に分からないものだ。

そして、オレはといえば京楽隊長率いる八番隊の五席だ。

酒飲みで隊長羽織りの上に女物の着物を着て、黒髪に眼鏡の女性が好みのダメなおっさんにしかみえんでもないが、オレからした彼はえらく頼もしい大人に見えた。

人も良く、信頼できる方だ。

 

 さて、その日オレは、そんな隊長の命により、西に飛んでいた。

尸魂界・西梢局(ソウルソサエティ・ウエストブランチ)

ヨーロッパ方面を管轄する俗に言う死後の世界。

オレのいる尸魂界での虚は、こちらではドラゴンと呼ばれ、ロンドンの裏世界にて資源化されている。

これを管理しているのが、こちらでの死神にあたる魔女と呼ばれる連中なのだが、

最近あちらさんはそのドラゴンとはまた別の存在に悩まされているらしい。

 歪んだ整。虚とは別の一般的なイメージの悪霊。

生きた人間と遜色ない姿を保ち、生者を害する。

己の存在を保つ為に他の魂魄を喰らうことも辞さない、言ってしまえば、整のまま虚のようになってしまった者たち。

 

 こちらでも、かなり被害がでているが、西でも同様だったらしい。

 

魔女たちが手に負えない奴がいるので、あちらのお偉方がこちらにどうにかできないかと打診してみたところ、その手の専門家であるオレが紹介されるに至る。

それで今、この島国より寒い西欧に、件の悪霊を退治しに赴いたわけである。

 

道行く人の群れ。東と変わらず賑わいをみせるその中を歩いていく度に、住む場所は違えど、人の本質は変わらないと知る。

一体どのような場所かと思ってみたが、多少建物の造りやら髪の色に差異があるだけだ。

 

 その悪霊は、16世紀に死んだ人物であるらしい。なんでも何人もの女を拷問して悦に耽り、果てには他所の貴族の娘にまで手を出して身を滅ぼしたと。

その怨念が今もなお、現世に留まり蠢いている。

奴さんはイギリスのロンドンに本部を構えているようなのだが、この整のような存在が現世に存在するのも鼻につくのでなんとか対処しようとしたらしい。

が、そいつのもとに送り込んだ魔女たちは皆一様に行ったきり生きて戻ってこなかったのだという。

喰われたな、これはと思った。

それで、

その手の業者に頼んでも、良い返事はなかったそうだ。

それどころか魔女と聞いて、払おうとまでしてきたらしい。

それで、東にこの話が回ってきたと。

こちらの魔女たちが、ドラゴンではないからと侮ったのだろうことは想像がついた。

西の連中はなにかと高慢ちきなのが散見されるからね。

そういうのが足をすくわれる。

それも踏まえて東と大差がないのだ。

住めば都とはいうが、どこで住もうが、この世はこの世なのだ。

まぁ、もともと魔女はドラゴン専門であるらしいので、遅れをとってしまうのも無理はないと頭の中で彼等を擁護しながら脚を進めるオレの手には、一冊の本が握られている。

こちらに来る前に、件の悪霊について知らされた時、何かわかるかもしれないと現世で買ったものだ。

『 カーミラ 』。女吸血鬼と貴族のお嬢様との逢瀬を描いたシェリダン・レ・ファニュ著の小説。

このカーミラのモデルがそれであるらしいので、航空機の中で読んでみたが、大して収穫はなかった。

 

 しかし、話としては面白かったので、危ういとは知りながらも件の心霊スポットへの期待みたいなものが大きくなっている。

が、だからといって油断するわけにもいかない。変なところで死ぬ羽目になったのなら、地獄の師匠(せんせい)に会わせる顔がないというものだ。

そこで、気は早いのかもしれないが、戦う前の支度を始める事とした。

 

―――陰陽道『 六壬神課 』。

 

 占事略決・ 外典に記された鬼道の派生の一つ、陰陽師の技能だ。風水を読み、易を読み、未来を占う。

わかりやすくいうと、断片的な未来予知ができる技術である。

これによって、それに応じた対応を取れるのだ。

かの安倍晴明レベルともなれば、知れぬものなどほとんどないだろうし、任意の相手に意図して不幸を引き寄せる、なんてこともできるだろう。

まったく、つい最近までこれほど便利な術が廃れるとは、昨今の死神もたかが知れたものだ。

実際大した力を持たぬ平の隊士など、目障りな肉壁以外の何者にもなるまい。

特に十一番隊。あそこの連中は隊長と五席しか宛てになりそうな人はいない。

その隊長からは顔を合わせる度にすげぇ表情を向けられるからたまったもんじゃない。

 

 

 そして、そうこうしているうちに、その心霊スポットに辿り着く。

 

 ハンガリー C城跡地。

 

 かつて、600人もの少女の血が流れた惨劇の舞台。そこから感じられる霊圧は、確かにそのなかに、強大ななにかが彷徨っているのだとオレに伝えていた。

その他にも、城の中には、被害者たちの霊もいると噂され、吸血鬼カーミラのファンが聖地巡礼と称して来ることがあるものの、夜にはまず誰も脚を運ぶことはない。

それだけ怖ろしい場所と認識されているようだ。

 

 

 さて、六壬神課で視えた未来によると、当然のことながらターゲットの霊はあの城の中で陣取っているらしい。

吸血鬼らしく、相手の霊圧を自身に取り込む能力を有するようだ。

そして、城内の霊圧は複数個確かに確認できるが、どれも同じ。

知らないものの為にすこしだけ捕捉するがこの霊圧は魂魄によって個人差が生じる。

これが仮に件の貴婦人の被害者のものならば、霊圧の波長はどれも違っているはずだ。

だが、すべてが一定であるこの状況。

違う人間が全員同じ霊圧であるはずがない。

これは、現世で心霊スポット巡りにでも脚を運んだ人間たちが遭遇したのは、被害者たちではないということのなによりの証拠だ。

おそらくは分霊だろう。

神社の神などをよそに祀る際に、その魂魄、あるいは霊圧を分ける。

これによって、事実上、動かせる身体が増えたり、分霊を自身から離れた地を知覚する為の端末として使用したりもできる。

しかし、霊力のリソースを分霊にも割かねばならないので、結果として本霊の霊圧はその分低下する。

整の霊のこの性質を、吸血鬼はうまく利用した。

城内に複数もの分霊をばら撒き、それを自身の目として使っている。

それを被害者の霊としてカモフラージュすることで、侵入者の姿を捉え、かつ己の霊圧を下げて、自分を弱く見せる。

本来の力は、隊長格にも引けを取らない。

 

 オレは現世のポケモンというゲームが好きなので、それに例えれば、隊長格、そうだな、霊術院時代の同級生だし冬獅郎にするか。

冬獅郎を65だとすれば、ヤツは63ほどと言ったところか。

 

それが(自身のテリトリー)に脚を踏み入れたのを認識するや否や、中で袋にして捕食する。

まんまと格下を誘いだして、それを糧にしてしまうというわけだ。

そうして魂魄を取り込み、霊圧が増して分霊が増えると。

なるほど隙を見せぬ姿勢というわけか。

 

 魔女たちも、これにやられたのだろう。

彼女たちは皆、中にいる霊すべてが同一人物だとは知らなかったので、分霊を見ても見逃してしまっていたのだ。

それが命取りになったというわけである。

魔女はドラゴンの管理保護を主なる任務としていて、死神と違って魂葬などはしないから、整の霊と関わることはほぼ皆無。だから霊圧を見極める能力が死神と比べて低い傾向にあるのかもしれない。

なんなら虚を資源にしているので、そこでもやはり所詮人間という先入観からくる慢心がでてしまったのかも。

まぁ、しくじって死んだ連中のことなど、考えたところでどうともならないのもまた事実ではあるが。

 

 

 さて、敵の主戦法は知り得た。では、どう攻略するか。

どう打ち倒して調伏し、従えさせるか。

まず真正面から入るのは望ましくない。

攻め込めぬ訳では無いが、それだと自分の存在がバレてあれこれと手を打たれて後手に回る可能性がある。

できれば敵側の監視網の薄い位置から侵入し、スマートに片付けたいところだ。

魔女どももそうやって不覚を取ったのだろうし。

ここ霊脈は通っているようだが、破道の九十九"五龍転滅"で城ごと仕留めにかかるなんて論外だ。

隊長格クラスが相手ともなれば、最上位破道でも殺しきれるかどうか分からぬ上、仮にも観光地であるこの城をぶち壊せば、連中が五月蝿いであろうことは想像するに難くはない。

心霊スポットになっていて、悪霊が住み着いているのだ。

それに襲われなくなるに越したことはないだろうに。

 

 ともすれば、やはり入り口とは別の地点から侵入を測るか・・・ん?

その時、闇夜の中を羽ばたく黒く小さな物体がオレの視界に映る。

コウモリだ。一見すれば、何の変哲もない野生の動物だが、どうやら奴さんは霊圧を誤魔化すのがド下手だと見える。

 

「 破道の三十三 蒼火墜。 」

 

 三十番台破道の青き炎に、オレに飛びかかってきたコウモリたちが焼かれていく。

こいつらも、分霊だろう。吸血鬼らしく、コウモリとも縁があるらしい。

しかし、分霊を飛ばしてきたということは、あちらもオレに気づいているということになる。

それででてこないということは、でれば自分が不利になると知っているからか。

それでオレを挑発しにあのコウモリを飛ばしたと。

己のセオリーを曲げない。戦いにおける基本中の基本だ。

それを、彼女は心得ているのだろうか。

それとも、これまでと同じ手段が通じるものだと思っているのだろうか。

いずれにせよ、バレてしまっている以上は、こちらも動かねばならない。

 

「 南の心臓、北の瞳、西の指先、東の踵、風持ちて集い、雨払いて散れ―――― 」

 

 五十番台縛道の詠唱。この術によって、相手の本体の在り処を探る。

そこに直接乗り込みにいくというわけだ。

結局正面から攻めることになるとは。

さっきまでどうしようか考えていたのがバカみたいではないか。

 

「 縛道の五十八、掴趾追雀。 」

 

 さて、奴は何処か・・・よし、地下か。

 

寝室にいそうだとは思っていたが、ここは1799年に焼けてしまって、当時の間取りの殆どが失われている。

いるとすれば、やはりそこだろう。

分霊も結構な数がそこに集中している。

 

『 陰陽道、護身隠行法・・・! 』

 

 自身の姿を隠す護身法。この術を使用すると、相手にオレの姿は愚か、霊圧も殆ど見えなくなる。これで敵の懐に忍び込み、不意打ちを仕掛ける。

魔女たちがそうであるならば、ここの悪霊もおそらく、霊圧を感知する能力は死神よりも高くはないだろうし、いくら全方面に視界を張り巡らせていても、急に自身のもとに現れられ、奇襲を喰らえば対応は遅れるはず。

その分だけこちらが有利になる。

天敵がいないのならば、そんなもの警戒する必要だってないだろうしな。

この場面、本国の隊長格どもならば、バカ正直に突っ込んでいくんだろうが、オレからしたら、そんなもの相手に食ってくださいと自ら餌になりにいくようなものだ。

そんなん許されるのは今の尸魂界においてただ二人だけだろう。

一番隊と十一番隊、その隊長たちだ。

だが、オレは総隊長ほど霊圧は高くないし、更木剣八ほど腕っぷしも強くはない。

ならば、どれほど汚くとも、勝ちにいかねばならん。

死神の矜持だなんだと気にする精神がなくて良かった。

 

そして、戦闘となれば、多分向こうも抵抗してくるだろうことは当たり前。

 

ならば、いつでも切り札は切れるようにしておかねば。

斬魄刀、"空即是式"の能力で隙間を発生させ、その中からもう一本、別の刀を取り出した。

この中には、オレがこれより以前に調伏した霊が入っている。いざとなったら、こいつを呼び出して、戦ってもらうのだ。

悪業罰示という、式神の一種である。悪さをしていた神格や

霊を従わせる。中には歯向かってくるのもいるし、術者の力が足りてないと取り込まれる可能性もある、危うい式神であるが、その分、強力な戦力になってくれる。

式の使役とは、陰陽道の基本である。

陰陽師は各種術式とともに、この式神を使役して怪異の調伏を為す。

このセオリーにオレも従うのだが、

その場合、オレは前衛を式神に任せ、その後方であれこれ指示をだしたりすることになるので、その様はまさしくポケモンのような様相となる。

手塩に掛けたポケモンを繰り出し、その強さを競わせる。

ただ、あちらと違ってあまり可愛げはないけどな。悪霊だからね。

陰陽道の真髄とはそれ即ち、式神でポケモンバトルをする鬼道であるともいえる。

時間はあまりかけたくない。とっとと片を付けに行こう。

門を潜ると、草生した廃墟の辺りを、いくつもの霊体がキョロキョロと辺りを見渡している。

オレの霊圧が消えたので、探しているのだろう。

そのいずれもが、少女の姿。胸辺りを串刺しにされたように、刺し傷が複数ついているが、それ以外に生々しさを感じない。やはりかつて自分が拷問の末に殺した者たちを模倣しているようだ。

今手に持っている妖刀、というよりそのなかの霊の霊圧も消している。いくら探そうとあちらからオレたちを視認することはできない。

そのまま素通りしながら、地下への入り口を探すと、それらしき扉がついた床が目に入る。

開いてみると、当たりだ。

ここから霊圧を感じる。間違いない。

そのまま入ってみようと思うところだが、どうも暗すぎる。ただでさえ夜なのに、地下というのだから、当然ではあるが。

これは、オレ自身の霊圧センサーをあてにして進まねばならないか。

しかし、ここで一つ思いだしておこう。

奴はさっき、オレに喧嘩を売る際に分霊をコウモリの姿にしていた。

コウモリは暗闇の中を超音波で物体の存在を感じ取って飛び回る。

そのまま本物のコウモリの性質を有していた場合、それをセキュリティに組み込まない手はない。少なくともオレが本霊ならば、間違いなく利用する。もしそうであった場合、あくまで見えなくしているだけのオレが、乗り込んできているのが筒抜けになってしまう。

そうなれば、すべての分霊がオレに襲いかかり、押し切られる可能性も浮上する。

となれば、多少作戦を変更しよう。

奴のもとに忍び込むのではなく、あぶり出す。

そのついでに分霊も一掃しよう。

懐から、一枚のカードを取り出した。

あまり強くない、というより御しやすい式神は、こういう形代の描かれたカードの中に入れるようにしている。

こいつのある特徴を利用して、今表にでている分霊を消し飛ばす。

ここは尸魂界じゃないから、大気は霊子ではない。であれば、爆発は軽微に済むだろう。

妖刀だけ護身隠行法を解除し、分霊たちをその霊圧に晒す。

奴らは急にでてきたその霊におびき寄せられ、こっちに集まってくる。

馬鹿な奴らだ。数で押せば勝てると思い込んでいる。

こちらの術中であるとも知らず。

 

 

「 来い、丸魔胤(マルマイン)。 」

 

 封じる際に決めた解号と言霊を唱えることで、式神は十全な力を発揮する。

今回は、城を消し飛ばさないように、解号を唱えずに召喚する。

カードの中から、丸い球体に人の顔のついた異形が現れた。

こんななりだが、一応生前は人間だ。

どこぞの芸術家で名もしれていたらしいが、死後どういうわけか悪霊になった。

多分、もっとアートを描きたかったとかそういう動機だろう。

曰く、芸術は爆発なんだと。

オレはこいつを捕らえた時、まん丸とした見た目が似ていたので同名のポケモンから取って、言霊を丸魔胤とした。

そしてご存知の方も多いだろう。マルマインといえば、

これだ。

 

「 大爆発だ。 」

 

 その瞬間、周囲を眩い閃光が走り、夜の闇に覆われた大地が爆烈する。

分霊たちは消し飛び、城には余波の爆風が吹き荒れる。

大分威力を落としてこれだ。

全力の爆発は、それはそれは怖ろしい一撃となる。

オレは巻き込まれないのかだって?その心配はない。

"縛道の八十一 断空"でガッチリガードだ。

一度全開火力でこれを使ったことがあるが、辺り一面焼け野原になってしまったのを覚えている。

まぁ、威力はどうあれ、一度爆発したこいつは、死に体になってしまう。

あれだけの霊圧を炸裂させたのだから無理もないが、

十分すぎる働きだ。

あとはオレとほかの式神、例えばこの妖刀のなかの奴に任せて貰うとしよう。

 

「 戻れ、丸魔胤。 」

 

 悪霊の丸いフォルムが、カードの中に吸い込まれていく。

戦闘不能になったりしたり敵と相性の悪い式神はこうして形代、つまりはモンスターボールの中に戻す。

これで回復するまで暫くは丸魔胤は呼べない。

だが、こいつを犠牲にしただけあって、成果はでてきた。

本霊の霊圧が動きだし、外に向かい始めている。

妖刀の霊圧と、一変に分霊が消し飛んだので、奥でふんぞり返っているわけにはいかなくなったのだろう。

そこを突く。今度は地下にいる分霊たちを叩く。

それと同時に、本体との決戦の支度だ。

 

「 忍べ、隠苑(カクレオン)、潜め、幻賀(ゲンガー)

咬め、鮫波陀(サメハダー)、来い、又奴餓寿(マタドガ)・・・

「 ちょっと、ちょっとストップ!! 」ん? 」

 

 毒ガスを吐く式神を呼び出して地下にガスを蔓延させようとした時、凄い勢いでなにかが飛び出してきた。

女の霊だ。ティーンくらいで、オレより背が小さい。

さっきまで感じていた霊圧が一纏めになっている。

コイツが、件の悪霊だろう。

護身隠行法もさっきの爆発の後では意味が薄いと感じて解除しているから、今ならあちらも、オレが視える。

 

「 アンタ何考えてんの!?ここ一応観光地なのよ?

貴重な地元の資源、それも私のウチを塵にするつもり!? 」

 

「 必要ならそうする。なにしろオレはそういう業者だ。

仕事で来てる以上当たり前だろう。 」

 

「 なに?アンタ上流への忖度とかそんなのないわけ? 」

 

「 ないわけではないが、お前ではない。 」

 

 隊長も貴族家系だが、他に尊敬する貴族といえば、朽木隊長だろう。

彼のような規範だなんだを重視する方こそ、敬意を表するべき。

他には、大前田副隊長のところもか。兄貴がよく世話になっているらしいし。

断じてこいつのような、悦に耽るしか能のないバカではない。それにしてもこいつ、これまで生前も死後も何人も犠牲を生んでおいて、なお生き生きしてやがるな。

悪霊らしい悪霊だ。

 

 まあ、C城は吹っ飛ばさないでくれと止められてるし、下手を打って京楽隊長に迷惑をかけるわけにもいかないから、できるだけそんなことはしたくないけどな。

 

 

「 敬いなさいよ!私は貴族よ?わかる!?忍び込んできた魔女どもといい、下々のカスがそんなこと許されると・・・ 」

 

「 血肉を啜り、悦に深る他能のない貴族など、誰が有り難がる。 」

 

 

「 お前ら農民が搾取されるなんて当たり前じゃない。

寧ろ、私の美の生贄になれるのだから、光栄に思うべきよ。 」

 

 やはりだ、価値観が合わない。こいつと言い合ったってなんも進展しない。なにしろこいつはこれまでに多くの魔女を殺し、その魂魄を糧としているのだ。とっとと蹴りをつけよう。

・・・ん?またこいつ勝手に出てきやがったな。

そこそこ長い付き合いになってきた、白い炎を纏った猛禽類の鳥によく似たなにかが。

 

vicissim(出番か)? 』

 

「 ダメだファイヤー、お前じゃ強すぎる。

せっかく城を壊さないように知恵絞ってるのに、台無しになってしまうじゃないか。 」

 

 

「 なによ?アタシを差し置いて、ペットとお話?

舐め腐るわね、黄色いサルが。 」

 

「 アゴの一族に追いやられたお前も、東洋人と西洋人の区別はつくんだな。

だからなんだって話しだが。 」

 

「 さっきからバカにして。

アタシを誰だと思ってるのよ? 」

 

「 悪趣味な殺人鬼、その死に損ないだろう?

血の幻なぞに溺れず、潔く老いさらばえよ。 」

 

「 ・・・! 」

 

 こいつが一番気にしていること。これは老い。

生あるものの常だ。時とともに心身から若さは喪われる。

それを畏れたこの女は手についた召使いの血を見た時から、他者の鮮血を浴びることで、若がえれるなどと本気で信じた。

生前から、その性根は変わってはいない。

そして、老いへの恐怖にも尚苛まれ続けている。

それ故その執念、その所業は、悪霊と化した彼女の呪いとなり、

 

そして、それは今、オレのもとに降りかかろうとしている。

 

・・・短絡的なことだ。

 

「 陰陽道、一掃返し。 」

 

 印を結び、跳ね返す。女の若々しい身体、その胴体に、いくつもの穴が空く。

彼女が用いた拷問器具、"鉄の処女"にかけられた時のそれのように。

 

「 ああああああああああああ!? 」

 

 悪霊の叫びがこだまする。その発狂は痛みからではなく、己の身を汚されたことから来るものだ。

 

「 アンタぁ!?自分が、自分がなにをしたのか解って・・・ 」

 

「 縛道の六十一 六条光牢。 」

 

 六の光の帯がその華奢な身体を抑え込む。

ここから、こいつに大技を叩き込み、仕留める。

丁度、さっき放った式神たちが、いい感じに位置についている。

女の霊を中心とし、カメレオンのような見た目の隠苑が東、

名探偵の番組とかにでてきそうな黒い人型がデフォルメされたような見た目の幻賀が西、

サメのような鮫波陀が北だ。

あとは、一方向。ここには鳥のような羽を備えた式神がよい。

 

「 ファイヤー、ちょうどいいからお前も手伝え。 」

 

 廃墟の破片に泊まっていたファイヤーが、南の方角に飛ぶ。

揃った。

 

『 東に青龍 』

 

『 西に白虎 』

 

『 北に玄武 』

 

『 南に朱雀 』

 

 詠唱を開始すると、式神たちを線と線が繋ぎ合わせ、結界が構築される。

 

『 軍相八寸 語るに及ばず 』

 

陰陽道と密接な関係にある、五行思想。

そのうち、木、金、水、火の4属性を動員した鬼道だ。

 

 

 

 

『 赤き(けもの)、黒き(けもの)

白き百獣(けもの)、青き竜蛇(けもの)

相まみえて行、循環せん。 』

 

 四体の式神たちに、エネルギーが集まる。女は抜け出そうとするが、もう遅い。

 

『 ―――四神相応!! 』

 

 四方から放たれる霊圧の奔流、これによって、美しき四肢は潰される。

万全な状態ならば耐えられたろうが、先の丸魔胤の大爆発で、地上に散らしていた分霊がやられている。

その分だけ、本来のスペックから弱体化している今は、堪えきれまい。

 

 女の霊は、地に伏して動けなくなっていた。どうやら、早くも勝負あったらしい。

結局、お前の出番はなかったな、と手に持つ妖刀を一瞥した。

 

 

 

 

 

 

式神たちを戻した後、血に這いつくばる女に近づく。

依然、オレを睨んでいるが、その目には怒りよりも、哀しみが顕れているようだった。

その瞳は輝きを亡くして、現在ではなく、過去を映し出している。

そう、オレの脳裏に、それを訴えかけている。

 

「 アナタも、なの? 」

 

「 ん? 」

 

「 アナタも、私を異常だといいたいのね?

私はただ、そういう風に教えられた、その通りにしていただけなのに。 」

 

「 お母様は、物心ついた頃にはいなくなっていた。

お父様は、なにも教えてはくれなかった。

爺やも、メイドたちもみな、アタシに媚びへつらうか、かしこまって事務的に仕事をするばかり。

蝶よ花よと大事にされてばかりだった。

お前たちの常識なんか、一つたりとも教えてもらえなかった。 」

 

「 誰も、"お前は可笑しい"と言ってくれなかったのよ。

兄弟たちよりは、マトモだからって。 」

 

 そうして歪んだ果てが、史実の惨劇か。

だが、過去は過去だ。どう足掻こうが、変わりようはない。

 

―――顕れよ、空即是式。

 

 解号を唱えたオレの手には、隙間から取り出した蝙蝠のぬいぐるみがあった。

 

力はなくならない。形を変えて存在し続ける。

陰陽五行思想の考え方だ。

エネルギー保存の法則にも親しいそれは、人の魂魄にだって当て嵌まる。

無力化した悪霊を、そのまま魂葬すれば、力をそのままに尸魂界に送られる。

そうなれば、今度は尸魂界で暴れ始めて、あちらは大きな被害を被ることになる。

隊士たちは死にまくり、隊長たちの仕事は増えてしまうし、なにより護廷十三隊という組織そのものも、打撃を受ける。

こちらの場合は、魔女どもがさらに犠牲をだすことになるだろう。

それを避ける為にどうするか。

こういった触媒に、歪んだ整を封じ込めるのだ。

 

「 また、私を閉じ込めるの? 」

 

「 お前に拒否権はない。それに、少なくとも、こんな寂れた城にいるよりは幾分かはましだ。

・・・入れ。外界と完全に断絶されるわけではない。 」

 

 貴婦人、吸血鬼と呼ばれた女は、渋々ぬいぐるみの中に入っていく。

その時の言葉は、それなりに印象深かった。

 

「 あぁ、フェレンツ。アンタ、どうしてアタシに構ってくれなかったのよ。

アンタさえいてくれたら、まだ、マシだったかもしれないのに・・・ 」

 

 この場面で、想うのは旦那のことか。

吸血鬼カーミラは淫らなことで知られるが、彼女たちの夫婦仲は悪くなかったんだろうな。

どうあれ、4世紀以上も前のことだし、他人事だ。

オレにとってはどうだって良い。

だが言えることは・・・

 

「 死して救いがあるわけではない。我らは永遠に苦しみ足掻き続けるのだ。

天も神も見放した、生き地獄の中で。 」

 

 

―――吸血鬼カーミラ(エリザベート・バートリー)

もとい鮮血魔嬢(クロバット)、ゲットだぜ。

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