その後、燃えカスとなった船の残骸からドレイク船長の身柄を確保し、ことの一部始終をお聞かせ願う事とした。
形代の中に入れられてしまえば、如何に荒事に慣れた賊も大人しくせざるを得ない。
故に彼、もしくは彼女かな?は正直に事の次第を教えてくれた。
曰く、彼女はかつて時の女王エリザベス一世に爵位を賜った身ゆえに英国を害する気などなく、ロンドンに手をだすのは不本意であったのだという。
しかし、彼女よりも上位に位置する霊によって強要され、身の危険を感じた事もあってか泣く泣く銃口を向けることになってしまったのだそうな。
「 その下手人は誰だ?あなたほどの傑物をただの賊に貶めたのは? 」
「 ・・・みんなご存知のアーサー王サマさ。
まさか、本当にいるとは思いもしないだろう? 」
こうしてドイツのB山にいるのが、騎士たちの王であることが判明する。
このアーサー王なる人物は、伝説によるとかつて十二人の配下を束ね、英国、その当時はブリタニアと呼ばれていたらしいが、この国を治めた偉大な王として知られている。
しかし、栄華の果てにふとした騒動がもとで彼女の国は滅び、王もまた、生命を落とすこととなってしまった。
そのアーサー王が、ワイルドハントを率いて、卯月の末になる度に年間150人以上の生命を奪い、魂魄を略奪しているのだという。
その理由に関しては、ドレイク船長は知らないのだそうだ。
ただ、このワイルドハントは元からこのアーサー王がトップだったわけではないらしく、数年前に前のリーダーを追い出してその席に座ったのだという。
それまでのワイルドハントはそんな大人数をいっぺんに殺すようなことはせず、おおよそ伝承にあるような感じで進んで人々に危害を加えたりはしなかったのだそうな。
つまりアーサー王こそが、年間の大量怪死事件の主犯というわけだ。
「 あたしゃさっき理由を知らないといったがね、大方予想自体はついちまうよ。 」
「 それは? 」
「 アーサーは、国を取り戻したいんだと思う。 」
「 国。それでその尖兵として貴女をロンドンに差し向けたと。 」
「 だろうねぇ。仮にもお仕えした身だから分かるがね、
王様にとってのお宝ってのは、自分の治める国だ。
国全体、ど真ん中から爪先までの、民、食糧、その他資源諸々に権威。
それが王様を王様たらしめる。
それら根こそぎ、取り戻したいんじゃないのかね。
毎年の生贄は、その為の何かの布石だろうさ。
何かも、よくわからないがね。 」
権威ねぇ。オレもそれに泣かされたものだ。
京楽隊長はそれからオレを遠ざける意図もあって尸魂界、もとい瀞霊廷からオレを離してくれたのだし。もう長い事現世にいるが、オレが護廷の隊士であることに変わりない。
その名を背負っている以上、やるだけのことをやるだけだ。
これまでそうしてきたように。
そう、例え神や仏が相手だろうと、護廷を遂行するまで。
式神使いでもあるオレらしいやり方で。
もちろん、より強さの上を目指すことも忘れてはならない。
強くなければ、守れるものも守れないのだ。
その為にはやはり力がいる。
相手の戦力の情報もやはり足りない。
情報は力だ。戦いにおいては相手の手の内を覚えておくことも大事なこと。
特に神霊、悪霊の中には、下手すれば即死するような呪いを有する者だって多い。
そうでなくともヤバすぎるのが多いのだ。
あの神さま、八将神の一角たる大歳神はその最たるものだ。
アレはオレをみるなり襲いかかってきた。
動機は、"戦いたかった"から。
更木隊長や斎藤様をはじめとした初代の隊長たちみたいな理由で、オレはそれまでにない生命の危機に晒される。
だが、怪我の功名とはいったもので、それを乗り越え、生き延びられたからこそ、オレはここにいる。
まあ、あの神さまの気まぐれもあったのだろう。
オレに強くなってもらいたかったのか、視肉とかいうグロテスクな仙豆に、助言まで頂いた。
そんなこともあって、オレ自身一層強さと勝利に執着している自覚がでてきている。
少なくとも、安倍晴明レベルではまるで足りない。
あの神さま、晴明の式神である十二神将を連れていたからな。あいつら自体は大したことないが、奴らが太歳神の側に控えているということは、晴明は彼に太刀打ちできなかったという証左になる。
晴明のじゅうべぇは持ってこないとダメだ。
太歳様に比べれば、今の護廷のなんと脆弱なことか。
今の一般の隊士では、虚より怖ろしい悪霊たちに遭遇したときに太刀打ちできん。
奴らの餌を量産するばかりでは意味がないというのに。
ほぼ全員危機感を持っちゃいない。
人数も練度も足りてない。
ちったぁ神さまを殺しまくった山本総隊長や雀部副隊長を見習って欲しいところだ。
・・・あぁ、今は護廷十三隊やかの神のことよりも、アーサー王だ。
奴をどうにかしなければ、なにかしら災いが起こるだろう。
ということで、現地人であるビリー氏とドレイク船長に、彼について話を聞いた。
「 アーサーは今、何人もの兵を従えている。精霊、魔物の類も多いが、
中でも特に力があるのが、円卓だね。 」
「 円卓? 」
「 あの騎士王様と忠誠を誓った十二人の騎士たちさ。 」
「 有名どころでいえば、ランスロット卿とかかな。 」
「 いや、ランスロットはいなかったねぇ。なにしろあれとモルドレッドは裏切り者だから、いるほうが可笑しい。
それどころか、そいつらに限らず、アーサーの生前からガラリと人員は変わっているよ。
かくいうあたしもその一人さね。 」
「 貴女が? 」
「 そう。そんなあたしからいわせれば、今の円卓は化け物の集まりさ。
こいつらみんなして元は立派な英雄やら聖人でした、なんていったら百人中百人が首を傾げるような、そんな連中だよ。 」
「 伝承の気高き騎士たちの円卓は見る影もないと。 」
「 何人かまともなのもいるが、どのみち人間基準じゃやっぱりそうじゃないのばかりさ。
当然さね。元から血を見るのが日常だった奴らなんだから。
今の時代には合わな過ぎるんだよ、価値観が。 」
「 アーサー王といえば、聖剣エクスカリバーだ。
なんでも切れる業物で、選ばれた者にしか扱えない。
アーサーの没前に湖の乙女に返されたと伝えられているけれど、どうだい? 」
「 あるさ。剣はね。
これまた、面倒極まりないお宝さ。 」
「 面倒?どういう意味かご説明を。 」
「 あんた、本当にアーサー王伝説を知らないんだねぇ。 」
「 アジア生まれのものでね。 」
さて、今の時点で得られた情報を纏めると、こうなる。
毎年四月の末、ドイツはブロッケン山付近で、150人が謎の死を遂げる。
西梢局にも被害がでていたこの事件の黒幕はワイルドハント。北欧全域に伝わる、狩猟団、亡霊の群れ。
その統率者が変わったことで、なにかしらの意図によりそのような行為にでていたというのが実態。
現トップであるアーサーの目的は不明。
再び王として君臨するという為という仮説はあるが、現状その域をでることはない。
何故なら、年々150もの魂魄を集める必要がどこにあるのかがそれだけでは説明がつかないからだ。
ただ猟団を強化したいでも、一体誰を、或いはなにを想定してのものかは分からず、それならその時期じゃなくても良い。
何故、ヴァルプルギスの夜と呼ばれるこの時期でなければならないのか。同じ季節に同じ人数、必ず意味がある筈なのだが、
これらは未だ、謎のまま。
しかし、わかるのはアーサー自身も、そして彼を取り巻く戦力も膨大なものであること。
ドレイク船長ですら、半数ほどしか知らないらしいが、その多くは、この北欧では名のしれた人物たちであるそうだ。
伝承と掛け合わせると、おそらくは神霊の類もやはり紛れていることだろう。
大人数が死のうと知ったことではないというのが、力のある神霊の多くに当てはまる基本的な思考だからだ。
アーサーほどの名のしれた男ならば、剣を預けるに値すると味方する可能性も無いわけではないのだし。
そして問題のアーサー当人も、伝説に違わずかなりの名うてであり、不老不死を与えるとされる鞘は以前失われたままだが、生前とはまた別の厄介な性質を彼の聖剣は得ているようだ。
どのようなものかはドレイクは詳しくはわからないそうだが、アーサーに敵対した悪霊魔物、そして群れを追い出されたという彼の前任の攻撃が、なにかの守りによって阻まれているのを見たのだという。
とすればなにかしらの霊的防御か。
だとすれば、確かに面倒だ。
思った以上に、大事になるかもしれないが、やらねばならない。
ヴァルプルギスの夜まで、あと2週間。その前に何とかしなければ。
そして、あちらもそれを大人しく待っていてくれるほど利口でもないようだ。
ロンドンに、多数の霊圧が近づいてきているのを感じる。
―――陰陽道 六壬神課。
ドレイク船長が来た時には、話に気を取られていて使ってはいなかったが、今回は、欠かさず使用する。
未来を占い、敵の主な情報アドバンテージを得る。
ふむふむ、敵は50、うち5人がドレイク船長と同じく円卓のメンバーであろうか。霊圧が同じくらいのでかさだ。
彼女がやられたのを察知して新手を差し向けてきたか。
しかしどれもせいぜいが副隊長レベルとは、見くびられたものだ。
いちいち相手をするのも面倒だ。
よし、アレを使おう。
アレで耐えられたヤツの、相手をすることにしよう。
隊長からは、
「 四十六室がうるさいからねぇ。あまり使わないほうがいいよ。 」
と釘を刺されているが、ここは西洋。上の連中の目など届きようもあるまい。
手をかざし、掌に霊圧が集束する。
これは正規の鬼道ではない。
太歳と戦った際の、文字通りの収穫である。
彼の権能、その再現だ。
虚に並ぶ死神の不倶戴天の敵、滅却師のそれを優に超える超高精密度の霊子操作から来る、白い霊力の奔流。
その威力たるや当たった相手が生身であれば、塵も残らず消え去るだろう。
それもあって、京楽隊長はオレに使用は控えるように言ってくれたのだろうな。
実際のところ、これを真似るのは、多少鬼道を齧った程度では難しいが。
―――陰陽道 "破軍"。
放たれた霊力が、狩りの群れを一掃した。
やはりな。ほぼほぼ全滅だ。
流石は、八将神の御業。
模倣で、この威力だ。
・・・ほぼ全滅とはいったが、円卓らしき5人は未だ健在か。
そうこなくては、
こいつらは、オレの式神に相手をさせるとしよう。
ここは、ファイヤーとは別のにしておこう。
今の戦力が、どこまで通じるかの指標にもなるだろうし。
丁度、多数来ているのだ。アイツにしよう。
戦いたくて、ウズウズしているだろうし。
―――顕れよ、空即是式。
隙間を開き、式神を封じた刀を取り出す。
あちらもタイミングよくご到着のようだ。
みたところ、全員女性である。
ドレイク船長といい、円卓は女所帯なのか、それともアーサー王が兄貴のようなムッツリなのか。
そんなことはどうだっていいが、気になるところだが、
そんなもの、あとから聞けばよいだろう。
「 切り裂け・・・ 」
妖刀を引き抜くと、刃から赤黒い血が流れ、池の如き水溜りを作る。
その中から、木製の小舟が浮上し、波を掻き分けて近づいてくる。
やがて、オレの前に到着すると、
乗っていたなにかがガチリと金属の音を立てて降りる。
禍々しい妖気を放つ、鎧を着た荒武者だ。
腰には、二本の刀が帯刀されていて、抜刀されたその刃は、やはり妖しく銀色の光を帯びる。
「
式神としての言霊を呼ばれたそいつの眼が、悍ましく嗤っていた。