前回までの展開は猿空間送りとなりました。
「 お前、名前は? 」
「 夜降といいます。 」
「 出身は? 」
「 戌吊です。 」
ヨーロッパより帰還しておよそ三日ほど経った頃、オレの現世での拠点になっている家に客人が入った。
オレと同じ死覇装に、腰には浅打。
同業者であるらしい。
基本的に陰陽道は、死神からの受けは良くない。
それがどういうわけかその使い手であるオレの元を尋ねてきた。
なにか、深いわけがありそうだ。
「 お前、所属は? 」
「 十二番隊です・・・ 」
「 十二番隊。あそこは荒事とはそれほど縁がないはずだが? 」
「 それが・・・ 」
夜降はそれまでのことを話しだした。
というか、おおよそ事の次第は察せたが、やっぱりだった。
十一番隊の隊士にボコられたんだと、こいつ。
あの御荷物連中、なにが実働部隊だよ。
更木剣八以外カスの癖に、ガラが悪く、おまけに鬼道を軽視する。
さらには四番隊のような裏方役を愚弄する始末だ。
こいつも、その被害に遭ったんだろう。
それで何処からかオレの事を聞いて、こうして弟子入りを志願しに来たそうだ。
「 分かった。強くなりたいなら、修行に付き合わせてやろう。 」
「 ありがとうございます。それでいうようでなんですが檜佐木五席・・・ 」
「 なんだ? 」
「 私も、五席みたいに強くなれますか? 」
こいつ、オレを試しているのか?
ここまで来て、今更その問いかけは不毛であろうに。
よし、オレも試してみるとしよう。
「 はい強くなれますよ。 」
「 私は痛みに弱く、苦痛には人一倍悶える。それでも強くなれますか? 」
「 はい!強くなれますよ。 」
「 貴方より、強くなれますか? 」
「 ・・・ 」
「 あの、五席? 」
「 はい!一生懸命トレーニングすれば、"私より強くなれますよ"。 」
「 ありがとうございます。 」
「 では早速だが始めるとしよう。 」
オレは、そういってボクサーがつけるような、防具を一式寄越した。
からっきしではあるが、教えることはできる。
「 それを着けろ。危ないからね。 」
夜降は言われるまま、立って防具を身に着けた。
オレもそれを見て、その場を立つ。
そして・・・
「 舐めてんじゃねぇぞ!こら! 」
顔面に重い一撃をお見舞いした。
「 痛い想いをしねぇで強くなりたいだと?なれるわけねぇだろ! 」
「 ぐぇっ! 」
「 ぶちのめされた気分はどうだ? 」
倒れた死神に、馬乗りになり、一撃二撃と加えていく。
オレだって四楓院様にはそうやって鍛えられた。
これは通過儀礼なんだ・・・!
悔しいだろうが、仕方がないんだ。
「 マウントを取られるとなぁ、陵辱されて死ぬ寸前の女の気分になるんだ。なんだっていいから早くイッて!楽にしてくれ殺してくれ!
ってなぁ! 」
「 お前の非力さを恨め! 」
「 白打ってのはなぁ、苦痛から始まるんだ! 」
「 ボコボコにぶちのめされて飯も食えず、一人で便所にも行けず、熱にうなされ浣腸を挿れるんだ! 」
「 鼻が折れたら、溜まった血を抜くために、鼻の穴に注射器を打つんだ! 」
怒涛のラッシュを撃ち込み、そいつはへばってしまっていた。
「 これが、白打だ!どうだわかったか? 」
「 う、うぅ・・・ 」
「 ・・・! 」
だが、そんな満身創痍にも等しい状態で、そいつは立ち上がった。
血を垂らしながら、ボロボロになりながら。
オレはそこにのっぴきならない闘志と、執念を感じた。
この程度のこと、十一番隊に与えられた屈辱には及ばない、と。
「 レッスンは、これでおしまいですか? 」
オレは何処か、笑みを覚えずにいられなかった。
こうして、オレと夜降の修行が始まった。
こいつは鬼道の適正があり、それなりに腕もあったので、陰陽道の初歩的な技をいくつか伝授した。
降魔調伏の技と、護身と呪い返しの法を。
占事略決に書いてあるものだが、直接教えた方が身になるだろう。
それと、霊子操作、ならびに瞬鬨の指導も行う。
「 これが拵思だ!
己の五臓六腑に神を見いだし、それに訴えかけ、霊力を滾らせるっ!
これによって自身の力と回復力を増すっ!
回道と併せて使えるから覚えておけ! 」
「 これが榮目だ!
片目を閉じて空気中に逃げる霊力を抑える! 」
「 これが手印だ!能動的攻撃のサインだ! 」
「 霊子はこうして己の念を込めることで圧縮することができる。
これを応用することで、霊子で万物を切断する斬撃を飛ばせる。
鬼道もこれを使うことでより濃度を増し、破壊力も増加する。覚えておけっ! 」
「 これ、滅却師の技術に似ていますね・・・ 」
「 気づいたか。流石は十二番隊。 」
涅マユリをはじめとして、部隊総出で研究が進んでいたから、こいつにも分かるのだろう。
京での、あの神との戦いで、その権能を解析、その正体に気づき、それをある程度物にしたオレだが、
それを"占事略決・禍星の法"と題して書類にまとめた伊勢副隊長からは、大多数の死神には難しい技能だと言われた。
というのも、死神が得手とするのは、どちらかといえば、霊圧の制御であるからだ。
霊子操作に関しては師匠だって教えてなかったしな。
霊子を扱うのが得意な奴は、死神とは別にいた。
それが滅却師。これについてはもう語るに及ばず。
オレたちの世代でも霊術院はちゃんと教えてたからな。
今は知らんが。
「 敵と似たような技術に抵抗があるか? 」
「 いえ、寧ろ好都合ですね。資料にあった彼らの能力を再現できれば、それを活かせるかもしれない。
何故、そのようにお考えを? 」
「 いや、お前も死神の力がどうたらこうたらと言うタチかと思ってな。 」
「 まさか。私のような科学の虫の端くれにいわせれば、死神の力だけで戦いを制すことに拘る手合いは、三流以下ですよ。 」
そうして夜降は、まるでギアが入ったように語りだした。
こいつも、イチモツに色々秘めていたようだ。
「 戦いとは、闘争とは、起源を辿れば生類の食い合いだ。ネコとカラスがゴミ捨て場のゴミ袋の中の生ゴミを奪い合い、
クマとクマがエサをかけて殴り合い、ライオンとゾウが互いの生命をかけて殺し合う。
人間や死神が生まれる前だって、ティラノサウルスをはじめとした恐竜が、マンモスが、サーベルタイガーが、恐鳥類が、ネアンデルタール人が北京原人が、
同じことをしていたっ。
そうでなければ生きられなかったからだっ!
これらと変わりはありません。死神だって、日夜虚と生存競争に明け暮れている。
それに変な付加価値をつけるから、不必要な人死が起きる。ただでさえ、護廷は年中人手不足なのに。 」
「 闘争の世界では、弱者は淘汰されるっ!弱肉強食だっ!
悔しいだろうが仕方がないんだっ! 」
「 一度私は、アンケートを採ったことがある。
斬魄刀を一度鞘に納めて、地面に落ちたマシンガンを取って撃てば、虚を撃退でき、生命を繋ぎ止められる。
しかし、そうでなければ虚に喰われる。
そんなアンケートを。
そうしたら、どうだ。
我が十二番隊を除いて、殆どの隊の八割以上が、マシンガンを取らない選択をしたっ。
大バカ者もいいところだっ!
理由も、死ぬより誇りだそうだっ!
生きていれば、強くなれる可能性も出てくるというのに!
なんという妥協っ! 」
「 その極みが、あの志波海燕だっ!
あの男は流儀や誇りに酔しいれ、己の才能の希少価値を垣間見なかった!
いや、理解すらしていなかった!
霊術院卒業の時点で副隊長レベル。
そんな逸材、替えが聞かないのに!
それが腐り朽ちるなど、とんでもない損失だ! 」
「 心は仲間に預けていくだと!?
誇りをかけた戦いだとっ!?
精神論で闘争を騙るな!他人を宛てにするなっ!
奴の残した言い分は生命の摂理、戦いという概念そのものに対する、
愚弄を超えた愚弄だっ! 」
こいつ、思っていたより熱いもの持ってんねぇ。
より鍛える甲斐がでてきたじゃないか。
こうして修行の果てに、夜降はわずか数日で、霊子操作と瞬鬨をモノにした。
陰陽道の方はまだまだだが、先ずは初歩的な物を抑えていくのが大事だ。
成果のほどを見る為、オレはあいつをある場所へと連れて行った。
廃病院"H医院"。見ての通りのおどろおどろしい場所だ。
ここをはじめとして、各地では、京楽隊長の命もあって用意した、死神を鍛える為の、人工心霊スポットと呼ぶべき場所が点在している。
そこにはオレが調伏した式神がおり、そいつと組み手を行って、隊士の練度を見るというわけだ。
一応人避けの結界も張ってあるので、基本的に人間は近寄らない。
もし侵入されることがあれば、その人間を食ってよいと式神には言ってある。
さぁ、そろそろ本題に移るかと、掴趾追雀で様子をみようとした時、
「 おわぁぁぁぁああああああああああああああっ!! 」
外までそのけたたましい声が聴こえてくる。見るまでもなく、アイツは元気でやってるようだ。
ここはパワースポットで霊脈の通りもいいからその必要はないはずなのだが、
これは中にいた悪霊と、他所から来た奴を何体か喰ったな。前より霊圧が増している。
が、問題はないな。
「 縛道を使うまでもなかったか。
夜降、今からお前には、あの廃墟の中にいるオレの式神と戦ってもらう。
そこまで位は高くはない神霊だ。
今のお前は副隊長レベルだから、それくらいが上等だろう。
ヤバくなったら助けに入るつもりだが、それも絶対ではないと心得ておけ。 」
「 はいっ!では、行ってまいりますっ! 」
意気込みながら、夜降の後ろ姿が、廃墟に向かっていくのを見て、オレもその後を追った。
中に入ると、当然のことながら、内部は物が散乱し、荒れ果てていた。
昔は、ここで病人が受け付けに立って看護婦さんからあれこれ聞かされたんだろうが、今は最低限の面影、人がいた痕跡
を残して、荒れ果てている。
そして、その式神はというと、
「 あれ、ですかね? 」
「 そうだ。あれが、"
「 おわぁぁぁぁああああああああああああああっ!! 」
神聖を現す白色のその身体は、まさにこの世のものではないカタチをしていた。
浮腫んだ恐竜のような体形、脚、尾に、蝙蝠を思わせる巨大な翼。包帯をグルグルに巻かれて視界を閉ざされた、鹿のような顔から、大きく空いた口。その中からは、怖ろしい牙たちを覗かせる。
一番下の"伯爵"の位を賜っているそうだが、一番下とは思えぬほどの、
「 拵思・・・! 」
早速使うか。教えた調伏の技を使い、己の防御力を高め、構える。その目には、闘志が宿っている。
必ず奴との闘争を制するという、
揺るぎない意志の力を―――
戦いが、始まる。
先に仕掛けたのは夜降だった。
死神の歩法、瞬歩を用いた瞬間移動からの、鋭い突きが胴体に炸裂し、そのバケモノじみた躯体を数歩以上引き摺らせる。
速度と質量が合わされば、破壊力が増すとは効いたが、まさにその通りである。
だが、この程度、驚鹿には、まだ蚊に刺された程度でしかない。
それは夜降自身が自覚しているのだろう、即座に距離を詰め、同じ箇所にインファイトを繰り出す。
そう、こいつはスピードタイプ。
元が一撃一撃の威力があまりなく、そして素早いということで、手数で攻める方面で鍛えた。
が、しかし、このままやられっぱなしでいるほど、相手も甘くはない。
身体に青白い電光が一瞬だけ奔ったかと思うと、
全身が、電流をスパークさせる。
夜降は即座に距離を取るためバックステップを踏んだものの、感電してしまっているのだろう、身体からジュウウゥと煙が上がっている。
これが、驚鹿の呪いだ。
電気や嵐を自在に操る。五行でいうところの木属性の一つの極みみたいな単純で分かりやすく、かつ強力な能力だ。
そして反撃の隙を与える気はないのだろう。
その長く縮小する首をくねらせて、青白い雷弾を乱れ撃つ。
残像ができるくらい荒ぶってるな。
「 陰陽道 被甲護身。 」
護身と呪い返しの法が一つ。手印を結んで物体、精神に干渉する呪いを寄せつけぬ術によって、一発二発と冷静に無数の雷弾の弾幕を弾いていきながら、反撃の機会を伺う。
しかし、それはあちらも同じことだ。
青と白の壁の中から、怖いお化けのお顔がこんにちわ。
なるほど、本命はそれか。
こいつは嘘吐きらしいが、言葉らしい言葉を話しているところを見たことがなかった。
納得したわ。嘘ってフェイントって意味だったんだなぁ。
怖いっすね、神サマ。
物理攻撃は被甲護身じゃ防げねぇ。
そんな虚を突くようなタイミングでは、瞬歩だって間に合わん。
どうする、夜降?
あえてこの場は、未来を視ない。
静観を決め込むことにしている。
その瞬間、夜降の姿が消えた。
驚鹿の腹の中に納まった訳ではない。
文字通り、その場から消えたのだ。
そして、当人は、玄関側から見て、右側にいた。
その腕には、オレが教えた無属性の瞬鬨が纏わりついていて、必殺の一撃を繰り出す準備を終えていた。
なにがあったのか。あのフェイントは、瞬歩ではカワシきれないのではなかったのか。
答えは簡単だ。
夜降が使ったのは、瞬歩ではない。
あのような不意を突かれた状態でも、相手を認識して反応さえできれば使える歩法が別にある。
飛廉脚。滅却師の用いた、霊子の足場を形成する技術。
これを部分的に再現してみせたのだ。
これならば、少ない運動で回避することができる。
もちろん、身体の動きがついていかないという制約も気にならない。
そして、それまでの修行が今、この一撃で以て結実しようとしている。
神の権能を解析して得た、滅却師の力によって、新たな進化を遂げた瞬鬨が。
―――瞬鬨"無垢麒麟"。
その名の通り、獣類の長の如き神速とともに角のように鋭利な鬼道が、驚鹿を貫き、その巨体を地に沈めた。
この瞬歩と飛廉脚による超スピードの突きこそが、夜降の見いだした瞬鬨である。
こいつの将来に想いを馳せながら、オレは一度回復を待つために驚鹿をカードに戻し、地獄にいる白打の師に思いをはせる。
・・・見ておられますか、四楓院様。
我らが宿敵の技が、あなた方の秘伝の妙技をさらなる飛躍を齎しました。
きっと貴方様ならば、お喜びになられるでしょう。
その後、夜降は尸魂界に戻った後、十一番隊にお礼参りに行き、三席までブチのめしたらしいが、それはまた別の話し。
次回、悟またしても誰かを鍛えてしまう。