プロセカの世界に転生したオタク、過去の俺がヒロインたちに重すぎるフラグを建てすぎていて平和な日常が戻ってこない件   作:雨風 時雨

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見方によってはちょっと…いやかなり際どい
何がとは言いませんが


第12話

「せ、先輩! どこ行くんですか!? これから杏ちゃんと3人で、祝勝会(デート)に行き――」

 

「悪い! 親の門限が厳しいんだ! プロデューサーとしての初仕事は『お前らの健康管理(早寝早起き)』だ! じゃあな!!」

 

 Vivid Streetの路地裏。

 俺は、左右から腕に絡みついてきたこはねと杏を強引に振り解き、弾かれたように夜の街へとダッシュした。

 

 背後から「あ、逃げた! 待ちなさいよこのバカプロデューサー!」「先輩、明日迎えに行きますからねーっ!」という2人の歌姫の熱烈な声が聞こえてくる。

 だが、俺は振り返ることなく、ただひたすらに脚を回転させた。

 

 肺が焼けるように熱い。

 ここで捕まれば、俺は一生あの2人の『精神的支柱』としてストリートの裏社会に監禁されることになる。

 

 なんとかビビバスの魔の手から逃れ、見慣れた住宅街へと辿り着いた時、俺は電柱に寄りかかって激しく咳き込んだ。

「ゲホッ、ゴホッ……! はぁ、はぁ……」

 

 生きた心地がしない。

 俺が放った起死回生の『自己犠牲ヒールムーブ』は、見事に杏のツボを突き、こはねの依存を「ユニットごとプロデュースしてくれている」というトンデモ解釈へと昇華させてしまった。

 

 もはや、俺の『平穏な日常』は風前の灯どころか、とっくに爆散して灰になっている。

 

「……とにかく、家に帰ろう。帰って、鍵を二重に閉めて、布団かぶって寝るんだ……」

 

 重い足取りでアパートの階段を上る。

 だが、俺の心臓は、自宅のドアの前に立った瞬間、再び嫌な音を立てて跳ね上がった。

 

 (……電気が、ついてる)

 ドアの隙間から、昨日と同じ、温かなオレンジ色の光が漏れている。

 

 昨日の朝に見つけた『置き手紙』の呪いの文面が、脳裏にフラッシュバックした。

 

 『キミの胃袋は、これから毎日私が満たしてあげるからね! ――キミの【一番】より♡』

 

「……嘘だろ。また合鍵で入り込んでるのか……」

 

 天馬咲希。

 俺を『病室の暗闇から救ってくれた唯一の光』として狂信し、他の女の影を察知した瞬間、氷点下の笑顔で脅してくる最恐の幼なじみだ。

 

 俺は震える手でドアノブを回した。鍵は当然のように開いている。

 玄関に入ると、昨日と同じように、美味しそうな夕食の匂いが漂ってきた。

 

 だが、昨日と決定的に違うことが1つあった。

 玄関の土間に、咲希のローファー以外に、見知らぬ女子高生の靴が『3足』も並べられていたのだ。

 

「……は?」

 

 俺が呆然としていると、リビングの扉がガチャリと開いた。

 

「あ! おかえりなさい、遅かったね!」

 

 ピンクのエプロンを着た咲希が、昨日と全く同じ、ヒマワリのような満面の笑みで出迎えてくれた。

 

 だが、その背後。

 リビングのテーブルを囲むようにして、宮益坂女子学園の制服を着た3人の少女が、俺を一斉に振り返った。

 

 黒髪ロングの凛とした少女、星乃一歌。

 ショートヘアで鋭い目つきの少女、日野森志歩。

 おっとりとした雰囲気でエプロン姿の少女、望月穂波。

 ……幼なじみバンド『Leo/need』の、フルメンバーである。

 

「な、なんで……お前らまでここに……!?」

 

「えへへー! 今日はね、キミにみんなをちゃんと紹介しようと思って、呼んじゃった!」

 咲希は俺の腕を取り、強引にリビングへと引き入れた。

 

 一歌、志歩、穂波の3人は、どこか気まずそうに、しかし俺に対して明確な『警戒心』と『興味』の入り混じった視線を向けている。

 

「ご、ごめんなさい、突然お邪魔しちゃって……。咲希ちゃんが、どうしても私たちに紹介したい『恩人』がいるって、聞かなくて……」

 穂波が、申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる。

 

 一歌は、俺の顔をジッと見つめながら、ぽつりと呟いた。

「……あなたが、咲希を暗闇から救ってくれた人。咲希が『この人がいないと私、生きていけない』って言ってた……」

 

「お、おい待て一歌! それは誤解だ! 咲希が大袈裟に言ってるだけで――」

 

「大袈裟なんかじゃないよ!」

 咲希が、俺の背中にギュッと抱き着いてきた。

 

「私ね、いっぱいいっぱい考えたの。キミが昨日『お前が自分の大事なもの(バンド)を捨てるなんて望んでない』って言ってくれたでしょ?」

 (言った。確かに言った。お前が俺のためにバンド練習を休むなんて狂ってるから、ちゃんと幼なじみを大切にしろという意味で言った!)

 

「だからね、私、決めたの。キミと、一歌ちゃんたち。どっちも私にとって一番大切な『居場所』なら……いっそ、みんなでキミを共有(シェア)すれば、誰も寂しくないし、誰も離れ離れにならないよねって!」

 

 ――は?

 俺の思考が、完全に停止した。

 

 共有(シェア)

 幼なじみという神聖な関係性の中に、俺という部外者の異物を強制的に組み込み、共同体として管理する?

 それが、このヤンデレ幼なじみが導き出した『バンドと俺の両立』の解答だというのか!?

 

「ちょ、ちょっと咲希! シェアってなんだよ、意味分かんないんだけど!」

 

「そうだよ咲希。いくら恩人とはいえ、私たちにとってはただの同じ学校の……」

 志歩が、腕を組みながら呆れたように溜息をついた。

 

 そうだ、志歩! もっと言ってやってくれ! お前は孤高のベーシストだろ!

 こんな狂ったおままごとに付き合う必要はない!

 

 俺が志歩に助けを求めようと視線を向けた、その瞬間。

 俺の脳裏に、またしても『前世の記憶(最悪のやらかし)』が、フラッシュバックした。

 

 ――日野森志歩。

 彼女は、自分が本気でプロを目指しているが故に、中途半端な覚悟の人間とはバンドを組めず、周囲から孤立していた。

 

 そんな彼女が一人でベースを弾いていた屋上に、無自覚だった俺はフラリと現れ、あろうことかこう言い放ったのだ。

 

『――周りがどう思おうと関係ない。俺は、お前のベースの音が一番カッコいいと思うぜ。……お前が一人で鳴らす音も、俺が全部一番特等席で聴いてやるから』

 

「――――ッ!!」

 

 俺は、ガタッと音を立てて後ずさった。

 忘れていた。俺は咲希だけじゃない。レオニのメンバー全員に、無自覚なタラシ爆撃(聖人ムーブ)をかましていたのだ!

 

 俺の視線に気づいた志歩は、腕を組んだまま、フイッと顔を赤くして視線を逸らした。

 

「……まぁ、咲希がどうしてもって言うなら。……それに、こいつには昔、私のベースを……その、褒めてもらったこともあるし。特等席で聴くって約束、まだ果たしてもらってないし」

 

 (志歩ォォォォ!! お前まで好感度バグってんのかよ!!)

 絶望は、連鎖する。

 

 俺の震える視線は、隣でエプロンをつけている望月穂波へと向かった。

 穂波のトラウマ。それは「誰にでも優しくしようとして、結果的に誰の味方にもなれず、孤立してしまった」こと。

 

 そんな彼女に対して、俺は……!

『――全員に優しくたっていいじゃないか。俺は、お前のその優しさが好きだよ。もし世界中がお前をずるいって責めても、俺だけは、お前のその優しさを絶対に肯定してやる』

 

「……あ、あの」

 穂波が、モジモジとしながら俺の袖を軽く引っ張った。

 

「その……あの時は、本当にありがとうございました。私、あなたの言葉にすごく救われて……。だから、あなたが咲希ちゃんにとって大切な人なら、私にとっても、その……すごく、大切な人だなって……」

 

 (穂波ィィィィ!!! お前はオカン属性だろうが! なんでそんな上目遣いで頬染めてんだよ!!)

 そして、最後の一人。

 

 星乃一歌。

 彼女は、初音ミクを愛し、幼なじみたちとの絆を誰よりも強く願っていた少女。

 

 俺は彼女がスマホでミクの曲を聴きながら一人で泣いていた時、隣に座り、イヤホンの片方を勝手に耳に突っ込みながら、こう囁いたのだ。

『――一歌の好きな曲、俺にも教えてよ。お前がミクの歌で幼なじみを繋ぎ止めたいなら……俺が、お前の一番の理解者(ファン)になってやる』

 

「……ねえ」

 

 一歌が、すっと俺に近づいてきた。

 その黒髪の奥にある瞳が、俺を真っ直ぐに射抜いている。

 

「あなたが、私たちを繋ぐ『理解者』になってくれるなら。……私、あなたが私たちの輪の中に入るの、反対しないよ。むしろ……あなたがいないと、私たちの音、完成しないかもしれないから」

 

 ――チェックメイト。

 俺の家のリビングで、幼なじみバンド『Leo/need』の4人による、完全包囲網が完成した瞬間だった。

 

「えへへー! みんなもキミのこと気に入ってくれたみたいで、私すっごく嬉しい!」

 

 咲希が、俺の首に腕を回して、頬ずりをしてきた。

 

 4人の美少女たちに囲まれる、夢のようなハーレム展開。

 だが、その現実は、俺という一人の男を『レオニの共有財産』として永遠に縛り付ける、底なし沼のような地獄の契約だった。

 

「ほら、ご飯にしよう! 今日は穂波ちゃんも手伝ってくれたんだよ!」

 

「う、うん。あなたのお口に合うか分からないけど……いっぱい食べてね?」

 

「アタシは別に、お前のためってわけじゃないけど……まぁ、残したら許さないから」

 

「……後で、私の新しい曲も聴いてね。約束、したよね?」

 4方向から叩きつけられる、逃げ場のない好意(圧力)。

 俺は引きつった笑顔を顔面に貼り付けたまま、椅子に座らされた。

 

 その時だ。

 俺の首に抱き着いていた咲希の鼻先が、ピクリと動いた。

 

「…………ねえ」

 

 咲希の声が、一瞬にして、極寒のブリザードへと変わった。

 一歌、志歩、穂波の3人も、ビクッと肩を揺らす。

 

「キミの服から……また、違う匂いがする」

 

 冷や汗が、ドッと吹き出した。

 

 先ほどまでVivid Streetで、こはねと杏に左右から抱き着かれていた時の匂いだ。

 しかも、昨日のまふゆの香水とは違う、ストリート系の香水と、こはねの甘い匂いが混ざった『2人分』の痕跡。

 

「……キミ? これは、誰の匂いかな? 私以外の女の子のもの、口にしないって約束したよね?」

 

「ち、違う! 口にはしてない! これはただ、帰る途中でちょっと人とぶつかって――!」

 

「嘘だね。これ、ギュって抱き着かれないと、こんなにベッタリ匂いなんてつかないもん」

 

 咲希の瞳から、完全にハイライトが消失した。

 

 彼女の笑顔はそのままに、その指先が、俺の制服のボタンへとゆっくりと伸びてくる。

 

「……汚いな。キミは、私たち『だけ』の特別な居場所なのに。……こんな匂い、今すぐ消さなきゃ」

 

「さ、咲希……?」

 

「みんな! ご飯の前に、この子をお風呂に入れちゃおっか! 私が全身、ピカピカに洗ってあげるからね♡」

 

「なっ!? ちょ、バカ! 高校生にもなって混浴とか正気かお前らァァァァ!!」

 

 俺が悲鳴を上げて逃げようとしたが、志歩にガシィッと腕を掴まれ、穂波に「ダメだよ、咲希ちゃんが悲しむでしょ?」と退路を塞がれた。

 

 一歌に至っては、「……私が背中、流すから」と完全に瞳孔が開いた状態で迫ってくる。

 全員が、完全にバグっている。

 

 『Leo/need』という本来なら青春の輝きに満ちたはずのバンドは、俺を洗浄し、独占し、永遠に管理するための『ヤンデレ共同体』へと変貌を遂げてしまったのだ。

 

「やめろおおおおおおお!! 誰か助けてくれえええええ!!」

 

 俺の断末魔は、防音性の高いアパートの壁に虚しく吸い込まれていく。

 

 男友達の司や彰人は、すでに外堀を埋める敵に回っている。

 外にはニーゴ、モモジャン、ビビバスの修羅場が控えている。

 そして今、俺の最後の牙城であるはずの『自宅』すらも、完全に陥落した。

 

 俺のデスゲーム第2日目は、文字通り『身ぐるみ剥がされる』という、最も恐ろしいバッドエンドと共に幕を閉じるのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 (※セカイのカフェテーブルにて)

 

 「あーあ。見事に全ユニットの地雷を踏み抜いたわね」

 

 「あはははは! 明日の学校、一体どうなっちゃうんだろうね!」

 

 「さあ? でも、彼が『過去の自分』を呪う時間は、まだたっぷりあるわよ。……次は、どんな修羅場が彼を待っているのかしらね」




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