プロセカの世界に転生したオタク、過去の俺がヒロインたちに重すぎるフラグを建てすぎていて平和な日常が戻ってこない件   作:雨風 時雨

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第15話

 神山高校、朝のホームルーム前。

 

 普段なら、クラスメイトたちと昨日のテレビ番組やゲームの話で盛り上がる、平和で退屈な時間。

 

 だが、今日の俺の座席の周囲には、半径1メートルほどの『絶対に近づいてはいけない真空地帯』が形成されていた。

 

「……ねえ、共犯者くん。もっとこっち向いてよ。ボクのこと、ちゃんと見てる?」

 

 俺の隣。本来なら別の生徒が座っているはずの机に、暁山瑞希が堂々と腰掛け、俺の右腕にピッタリと抱き着いていた。

 

 今朝の昇降口で待ち伏せされ、俺のワイシャツについたまふゆや絵名の匂いを嗅ぎ咎められた結果、俺は完全に彼女()の『監視状態』へと移行させられてしまったのだ。

 

「み、瑞希……お前、自分のクラスに戻らなくていいのか……? もうすぐ担任が来るぞ」

 

「いいの。ボク、今日は絶対傍から1歩も離れないって決めたから。もし先生が来て文句言われたら、『彼がいないとボク、教室の空気が怖くて過呼吸になっちゃうんですぅ……助けてください』って泣き真似すれば、絶対に許してくれるよ」

 

 瑞希は、悪びれる様子もなくニコリと笑い、俺の腕にさらに体重をかけてきた。

 

 クラスの男子たちからは、「おい、なんであいつ暁山さんとあんなに密着してんだ……」「羨ましいけど、なんか暁山さんの目がマジで怖くないか……?」という、同情と戦慄の混ざったヒソヒソ声が伝わってくる。

 

 代われるものなら今すぐこの席を譲りたい。

 

「……それにしても、嫌だなぁ。まだ他の匂いがする」

 

 瑞希が俺のワイシャツの襟元に顔を埋め、まるで品定めをするようにスゥッと深く息を吸い込んだ。

 

 そして、自分の手首を俺の首筋に擦り付け、彼女自身の甘い香水の匂いで強引に上書きしてくる。

 

 俺の心臓は常に早鐘を打っていた。

 

 もし、複数の女の香水が混ざったこの匂いが、あの犬並みに鼻の効く咲希たちの鼻腔を刺激したら……今度こそ俺は解剖台の上に乗せられるに違いない。

 

 俺が本気の恐怖に震え上がっていた、その時だった。

 

「……なんで、あなたがそいつにくっついてるの」

 

 冷たく、感情の起伏を氷の底に押し殺したような、静かな声が降ってきた。

 

 ハッとして顔を上げると、俺の机の前に、1人の少女が立っていた。

 

 神山高校の制服。ミントグリーンのショートヘア。

 

 普段は極度の人見知りで、人と目を合わせるのすら苦手なはずの少女――『ワンダーランズ×ショウタイム』の歌姫、草薙寧々。

 

「ね、寧々……!?」

 

「やっほー、草薙さん。おはよう」

 

 瑞希が余裕の笑みで挨拶するが、寧々の瞳は完全に『ハイライト消失』のそれだった。

 

「ボクと彼は、2人だけの特別な『共犯者』なんだよね。だからこうして一緒にいるの。……草薙さんには関係ないんじゃない?」

 

「……関係ない?」

 

 寧々はその細い指で、俺のネクタイをギリッと、首が絞まるほど強く掴んだ。

 

 普段の控えめな彼女からは想像もつかないほどの強い力だった。

 

「あなた……嘘つき。昨日、私たちのショーの練習、見に来るって言ってたのに」

 

「っ!」

 

「ずっと待ってた。あなたが客席のど真ん中にいてくれないと、私、声が出せないのに……あなたが約束破るから……私、歌えなくて、喉から血が出るまで1人で何度も何度も……っ」

 

 寧々の震える言葉に、俺の脳内で『過去の特大のやらかし』がフラッシュバックした。

 

 ――草薙寧々。

 

 かつての初舞台で声が裏返ってしまったトラウマから、極度の舞台恐怖症に陥り、観客の前に立つことができずロボット(ネネロボ)の陰に隠れてしか歌えなかった少女。

 

 前世の知識を持ちながらも、当時はまだ自分の行いの重さに無自覚だった俺は、暗いステージの袖で1人震える彼女を見つけ、あろうことかこんな猛毒を投与してしまったのだ。

 

『――寧々。俺は、作り物みたいな完璧なショーなんて見たいわけじゃない。俺が聴きたいのは、どんなに不器用でも……君の心が震える、君自身の本当の声だ』

 

『もし観客の視線が怖くて歌えないなら、他は全部無視して、俺の目だけを見て歌えばいい。君がこの舞台に立つ限り……俺はいつだって1番前で、君だけの専属の観客になってやるから』

 

(アホかああああああ!!! なにが専属の観客だクソタラシ野郎!!!)

 

 俺は心の中で過去の自分を100万回ぶん殴った。

 

 その結果。

 

 寧々の舞台恐怖症は「不特定多数の観客が怖い」から、「()が見ていないと発作が起きて1文字も歌えない」という、俺の存在そのものを彼女の声帯の起動キーにする最悪の依存状態へのすり替えを起こしてしまっていたのだ。

 

「ご、ごめん、寧々! 違うんだ! 昨日、本当は会いに行こうとしたんだけど……放課後に別の奴らに強引に連行されて、どうしても遊園地に行けなかったんだよ!」

 

「別の奴らって、その子のこと?」

 

 寧々が、瑞希を氷点下の目で見下ろす。

 

 瑞希もまた、不快そうに目を細めた。

 

「彼にとっての用事(ボク)は、草薙さんのショーごときよりずっと重くて深いんだけど。だいたい、観客が1人いないくらいで歌えないなんて、役者失格じゃない?」

 

「……黙れ。あなたの視界は、私の舞台を映すためだけにあるの。……もしあなたが他の子ばかり見て、私の歌を聴かないなら……私、あなたのその『よそ見する目』を、どうにかしちゃうかもしれない」

 

 物騒!! 大人しいキャラがヤンデレ化した時の独占欲が1番怖い!

 

「見つけえええたああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

「えっ!?」

 

 突然、窓ガラスがガタガタと鳴り、外からものすごい勢いで……いや待て、外!? ここ2階の教室だぞ!?

 

 ――ドガァァァァァンッ!!

 

 なんと、バルコニー側の窓を強引に蹴り開けて、ピンク色の弾丸が教室へと突入してきた。

 

「あいたかったよぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 ドンッッッ!!

 

 大型トラックにノーブレーキで轢かれたかと思うほどの強烈な衝撃と共に、俺は椅子ごと床に吹き飛ばされた。

 

「ぐはぁっ……!?」

 

「うわあああん!! 昨日、遊園地に全然来てくれないから、えむ、寂しくて観覧車の柱引っこ抜きそうになっちゃったよぉ!!」

 

 俺の身体の上に馬乗りになり、尋常ではない筋力で俺の肋骨をミシリ、ミシリと粉砕しかけている少女。

 

 『ワンダーランズ×ショウタイム』の破天荒なヒロインにして、他校(宮益坂女子学園)の生徒である鳳えむだ!

 

「え、えむぅ……ッ! 肋骨が! 俺の肋骨がマジで折れる!」

 

「折れないもん! だって、えむとこの人はずっとずっと一緒に『わんだほーい!』する運命だもん!!」

 

 大号泣しながら俺の顔にスリスリと頬ずりをするえむ。

 

 これもまた、俺が前世の知識を使って無自覚に刺してしまった致命的な地雷の結果だった。

 

 おじいちゃんの作った遊園地を守るため、兄たちとの軋轢に悩み、たった1人で孤独に『笑顔』を作っていた彼女。

 

 その無理して作った痛々しい笑顔に、かつての俺は寄り添い、絶対に言ってはいけない言葉を口走ってしまったのだ。

 

『――えむ、無理して笑わなくていい。もし世界中から笑顔が消えても、俺がお前のそのわんだほーいを一生守り抜いてやる。だから……俺の前でだけは、強がらずに1人で泣くな。俺がお前の本当の笑顔を取り戻すから』

 

 鳳えむは、俺の隣でなければ『本当の笑顔』を作れない完全依存体質へと変貌し、少しでも俺と会えない時間が続くと、分離不安で世界(遊園地)を物理的に破壊しかねないバケモノ筋力のヤンデレと化してしまったのだ。

 

「ちょっと、そこのピンク! 彼が息できてないじゃん、どいてよ!」

 

 瑞希が俺の上に乗るえむを引き剥がそうとするが、えむの万力のようなハグはピクリとも動かない。

 

「やだ! この人はえむの!! えむの心は、キミが一緒にいないと真っ暗などよよ~~~~んになっちゃうの!! 一生えむの隣で笑ってて!!」

 

「そうだよ、あなたには私のショーを最前列で見る義務がある。絶対に返さない」

 

 寧々まで参戦し、俺の足首をガッチリとホールドしてくる。

 

 ニーゴ(瑞希)vs ワンダショ(寧々&えむ)

 

 教室はパニックに包まれ、男子生徒たちはもはや恐怖で壁際に張り付いていた。

 

「……おいテメェ。よくも朝っぱらから俺と姉貴の目の前で、ふざけた真似して逃げやがったな」

 

 ――そして、地獄はこれだけでは終わらない。

 

 蹴り破られたドア(※えむとは別の方向)から、オレンジ色のメッシュを入れた男子生徒――東雲彰人が、怒鬼のような顔で突入してきた。

 

 その手には、俺が今朝、アパートの前で絵名やまふゆたちとの壮絶な綱引きから逃亡するために囮として脱ぎ捨てた『神山高校のブレザー』が握りしめられている。

 

 わざわざ逃亡先の教室まで追いかけてきたのだ。

 

 その後ろには、星柄ジャケットを翻し、威嚇するような視線を向ける白石杏の姿。

 

「お前が逃げるために脱ぎ捨てたこれ、わざわざ届けてやりに来たんだぜ?」

 

 彰人が俺の顔面にブレザーを叩きつけるように押し付けた。

 

「ちょっと! 何こいつら!!」

 

 杏が、俺に群がるえむと寧々、瑞希を見て般若の顔になった。

 

「こいつはうちのこはねの才能を限界まで引き出す、ビビバス専属のプロデューサーなの! 遊園地のアクターだかなんだか知らないけど、気安くうちの『所有物』に触んないでよね!!」

 

「ええーっ!? しょゆうぶつぅ!?」

 

 杏の言葉に、えむがバッと顔を上げて叫んだ。

 

「違うもん違うもん! この人はワンダショの大事な大事なお客さまで、えむの神様だもん!! えむの方がいーっぱいお姫様抱っこもできるし、ぜーったいにえむに必要なんだからぁ!!」

 

「……えむ。神様っていうか……私だけの、私にしか歌声を聞かせない特等席だから」

 

 寧々がえむの言葉を冷たく訂正する。

 

 すると、瑞希がふふっと小悪魔のように笑った。

 

「全員、分かってないなぁ。彼の一番深い秘密を知ってるのはボクなんだよ。明るい光の下で歌ったり踊ったりするしか脳がないあなたたちと違って、彼の一番痛い部分に繋がってるのは、ボクだけ。他の女なんて目じゃないの。……ねえ?」

 

「うるせえ! 知るかそんなこと! さっさと立てコラ! こはねが待ってんだ、連行してやる!!」

 

 右腕を瑞希。左足を寧々。胴体をえむ。そしてネクタイを彰人と杏に引っ張られる。

 

 神山高校の教室という安全地帯は、もはや全ユニットのヤンデレと狂信者が入り乱れる大乱闘へと変貌していた。

 

「誰か!! 先生!! 警察呼んでくれぇ!!」

 

 俺の悲鳴は、ヒロインたちの重すぎる愛の怒号にかき消されていく。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 その時、奇跡的にホームルームのチャイムが鳴り、出席簿を持った担任の教師が教室へと入ってきた。

 

 他校の生徒(えむ)や、他のクラスの生徒が入り乱れている異常事態に気づき、教師は目ん玉を飛び出させて叫んだ。

 

「なっ!? お前ら、他校の生徒までなんでここにいる!! 自分の席に戻れ!!」

 

「……チッ。今日のところは引いてあげるわ」

 

 教師の怒声という絶対の校内ルールに、杏が舌打ちして俺のネクタイを離した。

 

「昼休みに必ず連行するからな。覚悟しとけ」

 

「むぅ~! 帰りたくなぁい! ずーーっとへばりついてたいよぉ!」

 

「ほら、えむ。1回引くよ。……あなた、あとで必ず迎えに来るから。逃げたら……今度はどうなるか分かってるよね」

 

 寧々がえむを力業で引きずりながら、俺に執着に満ちた暗い眼差しを残して去っていく。

 

「共犯者くん、後でね♪」

 

 瑞希はウインクし、ようやく俺は身体の自由を取り戻した。

 

「はぁ、はぁ……死ぬかと、思った……」

 

 だが、安堵する余裕など1秒たりともない。

 

 彰人と杏の予告。寧々の脅迫。

 

 昼休み。これはもう、各陣営による俺を巡る壮絶な『争奪戦』が確定したということだ。

 

 しかも。

 

 俺のスマホが、机の中でブルリと震えた。

 

 ディスプレイに表示されたのは、未登録の番号からのLINEメッセージ。

 

 いや、そもそも未登録なのに俺の個人的なアカウントを知っていること自体がおかしいのだが。

 

『――神山高校の1年生。あんたよね?』

 

 背筋がゾワリと粟立つ。

 

 アイコンは、愛らしいウサギのイラストと、美しい青い空のイラスト。

 

『桃井愛莉よ。……あんた、今日のみのりからの「お弁当」、当然受け取る予定よね?』

 

『ふふ。日野森雫です。……私の可愛い可愛い後輩の遥ちゃんが、あなたのために一生懸命お料理をしたみたい。だから……私たちの言うこと、分かっているわよね?』

 

 ヒィッ。

 

 俺の喉から情けない音が漏れた。

 

 MORE MORE JUMP!の2年生組。桃井愛莉と日野森雫。

 

 俺は、この2人がみのりや遥のような『表立って狂気的に暴走するヤンデレ状態』になっているとは確信していない。

 

 彼女たちはあくまでアイドルとしての確固たる誇りを持ち、自立している立派な先輩だ。

 

 だが……。過去にアイドルの夢に挫折しかけ、泥水をすするような思いをしていた彼女たちを前にして、かつての無自覚タラシだった俺は、またしても取り返しのつかない爆弾を投下してしまっていたのだ。

 

 ――バラエティ番組の仕事ばかりで、「自分はアイドルじゃない」と絶望し、事務所を辞めてしまった桃井愛莉。

 

 路地裏で1人泣いていた彼女の前に現れた俺は、彼女の手を握り、真っ直ぐにこう告げたのだ。

 

『バラエティで泥臭く身体を張って笑いを取るお前も、テレビの向こう側の人間に笑顔を届けている、誰より立派なアイドルだよ。綺麗事だけじゃない、お前のその本気の汗が、俺は世界で1番好きだ。……俺が、その不器用な【愛莉】の、一生離れない1番のファンになってやる』

 

 ――そして、完璧な容姿のせいで他のメンバーから嫉妬され、ありのままの自分を否定されユニットを脱退した日野森雫。

 

 方向音痴で迷子になり、雨の中で途方に暮れていた彼女に傘を差し出し、俺は笑って言った。

 

『完璧な人形みたいな雫なんていらない。不器用でも、機械が苦手でも、迷子になっても……本当の笑顔で笑うお前が1番綺麗だ。世界がお前の完璧を求めても、俺の前でだけは、ただの【日野森雫】でいろ。お前が迷子になったら、俺が何度だって全部道案内してやるから』

 

 (アホかああああああ!!! そもそも年上のそれもアイドルの彼女たちに、さも当然のようにキザなセリフ吐くなよぉぉ!!!)

 

 ……その結果が、これである。

 

 彼女たちは、可愛い後輩たち(みのりと遥)の背中を押す良き先輩という顔を崩していない。

 

 ダシにしているのはあくまで後輩の恋路であり、表向きは『後輩の想い人を徹底的に管理し、もし少しでも裏切るような真似をしたら、モモジャンの権力を総動員してコンクリート詰めにすること』を至上命題とするヤクザの幹部のような圧力をかけてくる。

 

 だが。その後ろに、『でも彼の1番のファンでいさせてあげる権利は私にある』『私の前でだけ、完璧じゃない自分を見せて甘やかしてくれる私の道標』という、激重の仄暗い感情(束縛欲)がドロドロに隠れているのを……前世のオタク知識を持つ俺が、察知できないはずがなかった。

 

『もし今日の昼休み、遥とみのりの笑顔を曇らせるような真似をしたら……放課後、私たちモモジャン総出で神山高校にカチコミに行くから。覚悟しなさい(愛莉)』

 

『……そうね。でも、もしちゃんと良い子にお弁当を食べられたら……私と愛莉の2人から、人の来ない所で【特別なご褒美】をしてあげてもいいわよ?(雫)』

 

『ちょっと雫!? 何変なこと言ってんのよ! ……でも、まあ、そういうことだから。しっかり私たちの「可愛い後輩たち」を(そして、その先にある私たちのことも)1番に見なさいよね!(愛莉)』

 

 画面越しから伝わってくる、逃げ場のないヤクザ幹部(愛莉&雫)からの強烈なプレッシャー。

 

 俺の手から、スマホが滑り落ちた。

 

 ――逃げ道はない。

 

 もし愛莉たちの圧力(みのりと遥の手作り弁当)を断りでもすれば、モモジャンの絶対的な掟(と彼女たち自身の秘めたる重い感情)によって、東京湾の底へと俺は沈められるだろう。

 

 だが、堂々と自分の教室でそれを食べれば、俺の行動を虎視眈々と監視している彰人と杏、寧々とえむ、そして瑞希たちに見つかり、5分と持たずに修羅場となる。

 

(ダメだ。どこかへ隠れなきゃ……。俺は、アイツらの目を盗んで、どこか絶対に人の来ない孤立した場所で、ひっそりとあの弁当を平らげるしかないんだ)

 

 俺の頭の中で、神山高校のマップが高速で展開される。

 

 教室はアウト。食堂や図書室は人が多すぎるし、ビビバスやワンダショの連中が巡回してくればすぐにバレる。

 

 となると、残された逃げ場はただ1つ。

 

(普段は鍵がかかっていて、誰も寄り付かない……屋上!)

 

 あそこなら、4方の監視を抜けて弁当を完食し、見事にすべての圧力をやり過ごすことができるはずだ。

 

 これが、俺の必死に稼働する生存本能が導き出した、完璧なバッドエンド回避のための理論だった。

 

 ……だが。

 

 俺は嫌な予感を拭えなかった。

 

(俺の理論は完璧だ。だが、ヤンデレたちの嗅覚と異常な執念を舐めてはいけない。……もし俺が屋上に逃げたことが、彼女たち全員にバレたら……?)

 

 俺はゴクリと唾を飲んだ。

 

 その場合、屋上は「安全な孤立空間」などではない。

 

 逃げ場の扉が1つしかない、全ユニットのヒロインたちが逃げられないように集結する最悪の『処刑場』と化してしまうだろう。

 

「……ミク」

 

 俺は虚ろな目で、朝日に照らされる黒板を見つめた。

 

 今から数時間後に訪れる、昼休みの決断。

 

 俺は自らの足で、あの屋上への階段を登らなければならないのだ。

 

「俺の棺桶、セカイに置いといてくれ……」

 

 そして運命の昼休みに向け、俺の胃壁は容赦なく融解していくのだった。




キャラ多すぎて私自身もこんがらがる!!!
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