プロセカの世界に転生したオタク、過去の俺がヒロインたちに重すぎるフラグを建てすぎていて平和な日常が戻ってこない件   作:雨風 時雨

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第17話

 神山高校の屋上。

 

 秋の爽やかな風が吹き抜け、見上げればどこまでも高く澄み渡る青空が広がっている。本来であれば、高校生たちが昼休みのひとときを和やかに過ごす、青春の象徴とも言える場所だ。

 

 だが今、この屋上の空気は、深海の底に沈められたかのように重く、そして氷点下まで冷え切っていた。

 

「そっか。……キミは、私を裏切るんだね」

 

 太陽のように明るい金髪にピンクのメッシュを揺らした少女――俺の幼なじみである天馬咲希が、瞳から一切の光(ハイライト)を消し去った漆黒の笑顔で呟いた。

 

 ポトッ、と。

 

 彼女が両手に大切そうに抱えていた『俺のために作ってきてくれたサンドイッチの可愛い包み』が、乾いた音を立ててコンクリートの床に転がった。中から溢れた色鮮やかな具材が、無残にも土埃に汚れていく。

 

 俺の背中にピッタリと張り付き、首筋に指を這わせている暁山瑞希。

 俺の左腕をガシィッと掴み、絶対に逃がさないとばかりに睨みを利かせている白石杏。

 

 俺の右足首を床に縫い付けるようにホールドしている草薙寧々と、俺の胴体にコアラのようにしがみついている鳳えむ。

 

 そして俺の正面で、豪華な3段重の手作り弁当を広げ、俺が唐揚げを口にするのを待っている桐谷遥と花里みのり。

 

 これら全ユニットの激重ヒロインたちが、屋上という密室で、俺を中心に完全な死地(サークル)を形成してしまったのだ。

 

「ま、待て咲希! 違う! これは誤解だ! 裏切るも何も、俺はただ人目を避けて昼飯を食うために屋上に来ただけで――!」

 

 俺の悲痛な叫びは、秋風に虚しくかき消された。

 

 咲希は、ゆっくりと小首を傾げた。その表情は、まるで出来の悪い子供を諭す聖母のようであり、同時に、罪人を断頭台へ送る死神のようでもあった。

 

「誤解? キミ、昨日の夜に私と約束したよね? 『私以外の女の子のものは口にしない』って。……なのに、その子たちのお弁当、食べるつもりだったの?」

 

「そ、それは……!」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 俺が言い淀んだその時、咲希の言葉を冷ややかに遮ったのは、腕を組んで立ち上がった桐谷遥だった。

 

 国民的アイドルにして、モモジャンの完璧なる管理者。彼女は、宮益坂女子学園の同級生である咲希を真っ直ぐに見据える。

 

「天馬咲希さん。あなた、彼のなんだって言うの?」

 

 遥の透き通るような青い瞳には、一切の揺らぎがない。

 

「彼と私たちは、専属ファンとアイドルという、絶対的な信頼関係で結ばれているわ。彼が私たちのお弁当を食べるのは、彼自身が合意した今日の正当なスケジュールよ。……部外者が、彼の食事の時間を邪魔しないでちょうだい」

 

「そうだよ! キミは、私の最初のファンなんだから!」

 

 みのりが、遥の背後からうんうんと力強く頷く。彼女の瞳には、一切の悪意がない。純粋に『私のアイドル活動は、彼を笑顔にするためにある』という逃げ場のない狂信だけが燃えている。

 

「……ファン? スケジュール?」

 

 咲希の口角が、ピクリと不自然に釣り上がった。

 

 フフッ、と。彼女の喉の奥から、冷酷な笑い声が漏れる。

 

「アイドルごっこで、彼を縛り付けたつもり? 笑っちゃうな。……キミたち、彼のこと全然分かってないよ。私たちはね、そんな表面的な関係じゃないの」

 

「何が言いたいの?」

 

「だって、キミは昨日……私たちLeo/needの『共有財産』になったんだから」

 

 ――ッ!!

 

 俺の心臓が、恐怖で文字通りドクンと跳ね上がった。

(言うな! 咲希、頼むからその先は言うな!!)

 

 俺の心の絶叫など知る由もなく、咲希はうっとりとした表情で、両手を胸の前で組んだ。

 

「キミたち、知らないでしょ? 昨日ね、彼に『他の女の子の汚い匂い』がついてたから。……私と一歌ちゃんたちで、彼をお風呂に入れてあげたの。頭の先から足の先まで、隅々までピカピカに『お洗濯』してあげたんだよ。……だから、今の彼には、私たち幼なじみの匂いしか染み付いてないんだから♡」

 

 ピシッ。

 

 屋上の空気に、目に見えない巨大な亀裂が走った音がした。

 

「……は?」

 

 俺の腕を掴んでいた杏の声が、素っ頓狂に裏返った。

 

「お風呂に……入れた……?」

 

 みのりが、持っていたお箸をポロリと落とし、信じられないものを見るように目を丸くした。

 

「あなた、私の特等席の観客なのに……他の女と、そんな汚いことしてたの……?」

 

 俺の足首を掴んでいた寧々の瞳から、人間としての生気が完全に消え去り、怨霊のような黒い淀みが漏れ出した。

 

「おふろ!? ずるーい! えむだって、この人の背中ゴシゴシしてあげたいのに!!」

 

 えむが、純粋な独占欲から俺の胴体をさらに強く締め上げる。肋骨が! 限界だ!

 

「……なるほど。随分と、野蛮なマーキングをするのね」

 

 遥の瞳孔が、氷のように細く収縮した。

 

「わあ……。キミ、幼なじみには随分とサービスがいいんだね。ボクにはそんなこと、1回もさせてくれなかったのに」

 

 俺の背中に張り付いていた瑞希の腕が、ギリギリと音を立てて俺の首を絞め上げる。痛い。首が物理的にもげる。

 

(終わった……!!)

 

 咲希の特大の爆弾発言。

 

 同級生同士の混浴(しかも4対1)という、倫理観の完全に欠如したヤンデレおままごとの事実が、他のヒロインたちの対抗心と嫉妬の炎に、ガソリンどころかニトロを注ぎ込んでしまったのだ。

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

 最初に爆発したのは、狂犬・白石杏だった。

 

 彼女は星柄のジャケットを翻し、咲希に向かってバチバチと火花を散らす牙を剥いた。

 

「こいつはね! 昨日ストリートで、私とこはねの歌を聴いて『最高だ』って言ったのよ! 私たちビビバスのプロデューサーとして、人生懸けて私たちを導いてくれるって誓ったんだから!! 幼なじみだかお風呂だか知らないけど、そんなセクハラまがいの既成事実でこいつを縛り付けられると思わないでよね!」

 

「誓っただなんて、随分と都合のいい解釈ね」

 

 遥が、冷ややかに横槍を入れる。

 

「白石杏さん。あなたの歌がどれほどのものであれ、彼の生活を管理しているのは私よ。……天馬咲希さんもそう。彼をお風呂に入れたくらいで『自分のもの』だなんて、管理体制が甘すぎるわ。私は彼の24時間365日、誰と会い、何を食べるかまでを完全にプロデュース(監視)する計画をすでに立てているのだから」

 

「なっ、ストーカーかよアンタ!!」

 

 杏が激しいツッコミを入れるが、遥は「アイドルのリスクマネジメントよ」と全く悪びれる様子がない。

 

「ねえねえ」

 

 瑞希が、俺の耳元でクスクスと笑いながら、全員に向かって言った。

 

「キミたち、さっきから『歌』だの『お風呂』だの『スケジュール』だのって、外堀ばっかり埋めようとしてるけどさぁ。……そんなの、彼の本当の心には1ミリも届いてないよ?」

 

「……どういう意味よ」

 

 杏が睨みつける。

 

「だって、彼はボクの『一番暗い秘密』を受け入れてくれたんだもん。キミたちみたいにキラキラした青春ごっこじゃなくて、絶対に誰にも言えない痛みを、彼とボクは共有してるの。……ね? そんな浅い関係のキミたちが、ボクの『共犯者』である彼を奪えるわけないじゃん」

 

「あなたの言う一番暗い秘密なんて、舞台の上が怖くて逃げ出していた私に比べればどうってことない」

 

 寧々が、ボソリと底冷えのする声で反論した。

 

「あなたは逃げ込むために彼を『共犯者』にしてるだけでしょ。……私は違う。あなた(俺)の視線がなければ、私は二度と歌えない。だから……あなたは、私の特等席にいなければならない。それだけなの」

 

 マウントの6つ巴。

 

 『レオニの共有財産』。

 『ビビバスのプロデューサー』。

 『モモジャンの専属ファン』。

 『ニーゴの共犯者』。

 『ワンダショの特等席&笑顔の創造主』。

 

 全員がほぼ同い年であるからこそ、遠慮というものが一切ない。

 

 互いの地雷を全力で踏み抜き合い、誰が一番()にとって『特別』なのかを証明するための、血で血を洗う舌戦が繰り広げられている。

 

 俺は、胃がキリキリと痛み、息をするのすらやっとの状態だった。

 

 なんでこんなことになったんだ。

 俺はただ、前世の記憶を持たない頃の『無自覚な俺』が、彼女たちの悩みに純粋に寄り添ってしまっただけなのに。

 

『私以外の女の子のものは口にしないって約束したよね?』

『私たちのプロデューサーとして、人生懸けて導いてくれるんでしょ?』

『私のたった一人の専属ファンだもん!』

『ボクの秘密を受け入れてくれた、ボクだけの共犯者』

『あなたの目は、私を見るためにある』

 

 彼女たちの言葉が、鋭いナイフのように俺の心に突き刺さる。

 

 どれもこれも、過去の俺が「お前を絶対に一人にしない」「俺が味方になってやる」と、無責任な肯定(特大の地雷)をばら撒いてしまった結果だ。

 

 あの時は、彼女たちがこれほどまでに俺に依存するなんて、夢にも思っていなかったのだ。

 

「……ねえ、キミ」

 

 咲希が、ゆっくりと歩み寄り、ハイライトの消えた瞳で、俺の顔を下から覗き込んできた。

 

「キミは、誰が一番好きなの?」

 

 ――ビクッ!

 

 俺の肩が大きく跳ねた。

 

 咲希だけではない。杏、遥、みのり、瑞希、寧々、えむ。

 全員の視線が、一斉に俺に突き刺さる。

 

「私の幼なじみだよね?」

「私たちのプロデューサーでしょ?」

「私の専属ファンよね?」

「ボクの共犯者だよね?」

「私だけの特等席(あなた)なの」

「えむの笑顔の神様だもん!」

 

 究極のデスゲームの、最後の質問。

 

 誰か一人を選べば、残りの人間は間違いなく暴走し、俺の社会的生活あるいは物理的な命は終わる。

 

 かと言って、「全員好きだ」なんて過去の俺みたいなクズ発言をすれば、この火薬庫は一瞬で大爆発を起こすだろう。

 

 どうする。どうすればいい。

 

 俺の脳内で、セカイのミクの言葉がフラッシュバックする。

 

『彼らには、本来の居場所があるはずでしょ』

 

 そうだ。俺が誰かを選ぶこと自体が間違っているんだ。

 

 俺は、こいつらを自立させなきゃいけない。俺という幻想(精神安定剤)から引き剥がし、本来彼女たちが手にするはずだった『仲間との絆や夢』に目を向けさせなければならない。

 

 たとえ、彼女たちに「最低の裏切り者」と罵られ、嫌悪されることになろうとも。

 

 俺は、限界を迎えた身体に鞭打ち、息を深く吸い込み、そして――腹の底から叫んだ。

 

「……お前ら、いい加減にしろ!!」

 

 屋上に、俺の怒鳴り声が雷鳴のように響き渡った。

 

 ヒロインたちが、ビクッと肩を震わせ、一瞬だけ言葉を失う。

 

 俺は瑞希の腕を強引に振り解き、寧々とえむのホールドから脚を抜き、杏の手を払い除けて、少女たちを順番に真っ直ぐ睨みつけた。

 

「俺は、誰のものでもない! 俺は俺だ!!」

 

 俺の言葉に、咲希が傷ついたように顔を歪める。だが、ここで立ち止まってはいけない。

 

「咲希! 俺を共有財産にするとか、お風呂に入れるとか、正気じゃない! お前の本当の居場所は、一歌や志歩たちと鳴らす『バンドの音』の中にあるはずだろ! 俺なんかで幼なじみの絆を代用するな!」

 

「っ……!」

 

 咲希が、息を呑んで後ずさる。

 

「杏! 俺はプロデューサーなんかじゃない! お前とこはねが本気で歌えば、ストリートの連中は全員お前らを認める! お前らの歌は俺に評価されるためのものじゃない、お前ら自身が『伝説(RAD WEEKEND)』を超えるためのものだろ! 俺の評価なんかに縋るな!」

 

「なっ……」

 

 杏が、目を見開いて硬直する。

 

「遥、みのり! アイドルがたった一人のファンに執着してどうするんだ! みのり、お前のその不屈の努力は俺のためじゃない! 遥、お前のプロデュース能力は、モモジャンがトップアイドルになるためのものだ! 俺というちっぽけな世界に引きこもるな、世界に笑顔を届けろ!」

 

「……!」

 

 遥とみのりが、雷に打たれたように立ち尽くす。

 

「寧々、えむ! 俺だけを見て舞台に立つな! 寧々、お前を照らすライトはお前の声を世界中の観客に届けるためのものだ。えむ! お前の『わんだほーい』は、俺一人を笑わせるためのものじゃない、遊園地のお客さん全員を笑顔にするためのものだろ!」

 

「……あ」

 

 寧々とえむの顔に、信じられないほどの驚きが浮かぶ。

 

「瑞希! お前の秘密を受け入れたのは、お前が自分らしく生きるためだ! 俺と共犯者になって逃げるためじゃない! お前には、ニーゴっていう本当の居場所があるだろ! 俺に隠れるんじゃなくて、自分の足で一歩を踏み出せ!」

 

 ――言い切った。

 

 前世の知識を総動員し、彼女たちが本来進むべき『輝かしい未来(原作ルート)』への道標を、俺の全力の拒絶と共に叩きつけたのだ。

 

 静寂。

 

 屋上の風だけが、ゴォォと音を立てて通り抜けていく。

 

 これでいい。

 

 俺に嫌われ、俺という依存先を失った彼女たちは、きっとひどく傷つくだろう。だが、そこから立ち上がり、本来の相棒や仲間たちとの絆を取り戻すはずだ。

 

 俺はもう、お前たちの孤独を埋める便利なクッションじゃない。

 

 さあ、俺を軽蔑して、俺を置いて去ってくれ……!

 

 俺が悲痛な覚悟を決めて目を閉じた、その時だった。

 

「…………ふふっ」

 

 誰かの、小さく、甘い笑い声が聞こえた。

 

 いや、一人じゃない。

 

 目を開けると、俺の目の前で。

 咲希が。杏が。遥が。みのりが。寧々が。えむが。瑞希が。

 

 少女たち全員が、まるで打合せでもしたかのように、頬を真っ赤に染め、極限の恍惚とした表情で俺を見つめていたのだ。

 

「え……?」

 

「キミって……本当に、私のこと、私たちのバンドの音のこと……誰よりも真剣に考えてくれてるんだね」

 

 咲希が、両手で頬を包み込みながら、熱に浮かされたようなトロンとした目で呟いた。

 

「バカ……ッ。そんなに本気で、私とこはねの伝説()を信じてくれてたなんて……。やっぱりあんた、誰よりも私たちの心を導いてくれる、最高のプロデューサーじゃない……っ」

 

 杏が、顔を赤くしてそっぽを向きながら、身をよじる。

 

「私たちの可能性を、世界中に広げようとしてくれているのね……。ええ、分かったわ。あなたがそう望むなら、私は世界一のアイドルになってみせる。……あなたの完璧な管理下でね」

 

 遥が、冷たい瞳の中に熱い炎を宿して、優雅に微笑む。

 

「あなた……。私に、世界の観客の前で歌ってほしいんだね……。……そんなこと言ってくれるの、あなただけ……あなたって本当に、どうしようもない私の『特別』」

 

 寧々が、ポロリと一筋の涙を零しながら、強烈な独占欲の籠った微笑みを向ける。

 

「わんだほーいっ! キミの応援があればえむ、宇宙までだって笑顔にできちゃう!! ずっとえむのお隣で見ててね!!」

 

 えむが、弾けるような笑顔でバンザイをする。

 

「……あーあ。そんなに真っ直ぐぶつかってこられたら、ボク、もっと手放せなくなるじゃん。ボクの背中を押してくれるのは、やっぱりキミしかいないんだね」

 

 瑞希が、愛おしそうに俺の首に再び腕を回してきた。

 

「……………………は?」

 

 俺の喉から、間の抜けた声が漏れた。

(……なんで?)

(なんで俺の『全力の拒絶と正論』が、全員の好感度を限界突破させてんだよォォォォォォ!!?)

 

 ダメだ。

 

 俺は完全に忘れていた。

 彼女たちの心には、過去の俺が作り上げた『この人は私の全てを理解し、受け入れてくれている』という分厚すぎる絶対信頼フィルターがかかっていることを。

 

 俺がどれだけ正論で突き放し、怒鳴りつけたところで、それはすべて「私たちの未来を真剣に考えてくれている彼からの、極上の愛(愛のムチ)」へと自動変換されてしまうのだ。

 

「さあ、キミ。一緒にお弁当食べよ?」

「何言ってんの、こいつは私とビビストに行くのよ」

「いいえ、私たちのアイドル活動のミーティングよ」

「あなたのショーの予定、私のために入れておいて」

「えむと一緒にパン食べるよぉっ!」

「ボクの特等席で、二人っきりでお話ししよっか」

 

 ヤンデレたちが、再び俺を中心にして包囲網を縮めてくる。

 

 しかし、先ほどまでの「殺伐とした空気」は完全に消え去り、代わりに「誰がこの『最高の彼』の隣にふさわしいか」を競い合う、逃げ場のないドロドロの愛情の海へと変わっていた。

 

「や、やめろ……俺に近づくな……!」

 

 俺は後ずさり、背中が給水塔の冷たい壁にぶつかった。

 もう逃げ道はない。

 

「キミ、まずは私のサンドイッチあーんしてあげるね♡」

「ちょっと! こいつの喉を通るのは私と飲むコーヒーが先よ!」

「カロリー計算は私がしているわ。みのり、彼に唐揚げを食べさせてあげて」

「うんっ! キミ、口開けてー!」

「あなたの手、私が握っててあげる」

「キミのお口、えむが拭き拭きしてあげるね!」

「ボクの共犯者くんに勝手に餌付けしないでくれる?」

 

 四方八方から伸びてくる手、言葉、甘すぎる匂い、視線。

 

 俺の心拍数は限界を突破し、胃壁はストレスでギリギリと削り取られ、脳の処理能力はすでに完全なオーバーヒートを起こしていた。

 

「あ……あぁ……」

 

 俺の口から、掠れた声が漏れる。

 

 無理だ。この少女たち全員の異常な感情を同時に処理して、生き残る道など存在しない。

 

 ミク、リン。このバグゲー、俺には難易度が激ムズすぎるよ。

 

 視界が、急速にホワイトアウトしていく。

 騒がしかった彼女たちの声が、水の中に潜ったように遠のいていく。

 

『……あれ? キミ、顔色すごく悪いよ?』

『ちょっと、あんた!? しっかりしなさい!』

『あなた!? どうしたの!?』

『嘘、倒れた……!?』

 

 最後に聞こえたのは、少女たちの焦ったような悲鳴。

 

 そして俺の意識は、屋上の冷たいコンクリートの感触と共に、深い深いブラックアウト(強制シャットダウン)へと落ちていったのだった。

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