プロセカの世界に転生したオタク、過去の俺がヒロインたちに重すぎるフラグを建てすぎていて平和な日常が戻ってこない件   作:雨風 時雨

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更新遅れに遅れて申し訳ございませんでした!!!!!!!!!
仕事とポケモンチャンピオンズとパチン....
してたら時間だけが過ぎてました!!!



第19話

 神山高校の保健室で、俺の人権と自由が5つの陣営に分割・売却された『悪魔の休戦協定』から数日が経過した。

 

 嵐の前の静けさのような土日のフリータイム――各陣営が牙を研ぐ準備期間を経て、いよいよ運命の「月曜日」がやってきた。

 

 この日から、俺の平穏な高校生活は一変した。1週間のルーティンすべてを美少女たちに完全支配される、世にも恐ろしいヤンデレ・デスゲームへと変貌を遂げたのだ。

 

 ――【月曜日:Leo/need】

 

「おかえりなさーい! キミ!」

 

 月曜日の放課後。俺が自宅のドアを開けると、そこはすでに俺の知る家ではなかった。

 

 合鍵を持った咲希たち『Leo/need』の4人が、まるで俺の帰りを待つ家族のような顔をしてリビングを占拠していたのだ。

 

「さあ、まずは身体の疲れを洗い流そうね。……他の匂い、ちゃんと落とさなきゃ」

 

 拒否権など存在しなかった。咲希と一歌に両腕を引かれ、志歩に退路を塞がれる。

 

 穂波の完璧なサポートの元、俺は4人が待ち構える浴室へと放り込まれた。

 

「キミ、今日学校で隣の席の子とお喋りしてたでしょ? ……だーめ。私以外の声、あんまり聞かないでね」

 

 背中を流すという大義名分のもと、咲希が俺の首筋に何度も自分のフローラルなシャンプーの匂いを擦り付けてくる。

 

「……動かないで。あなたが私たちの特等席から逃げないように、私が綺麗にしてあげるから」

 

 一歌の瞳はミクを見つめる時のように狂信的で、俺の右腕を絶対に離そうとしない。

 

「ほら、前向いて。アタシたちがわざわざ洗ってあげてるんだから、余計なこと考えないの」

 

 顔を真っ赤にした志歩に頭をゴシゴシと洗われ、穂波は「大丈夫だよ、何も怖いことはないからね」と聖母のような微笑みで俺の自我を甘やかし、溶かしにかかる。

 

 入浴という名の強制マーキングを終えた後は、手足の自由を奪われた状態でソファに座らされた。

 

「はい、あーん。美味しい? よかったぁ……私たちのご飯しか、もう食べられない身体になってね♡」

 

 咲希の手からハンバーグを口に運ばれ、俺の口からは「美味しい……」と感情の抜けた声が漏れる。

 

 月曜日は、家庭的という名の絶対的な過保護によって、俺の思考能力を「幼なじみ無しでは生きられない幼児」へと退行させる、恐ろしい曜日だった。

 

 ――【火曜日:Vivid BAD SQUAD】

 

 火曜日の放課後は、Vivid Streetのライブハウスが舞台となる。

 

 ビビバスの練習は、物理的な接触よりも「精神への致死量の圧力」で俺を縛り付けてきた。

 

「先輩……! 今日の私たちの歌、どうでしたか!」

 

 ステージから飛び降りたこはねが、額の汗も拭わずに俺の両手を握りしめる。

 

 その大きな瞳には、「私の歌のすべてはあなたのためのものです」という逃げ場のない依存が渦巻いていた。

 

「ほら、プロデューサーなんでしょ? もっと私たちを熱くさせてみなさいよ。……それとも、他の女のことが頭にあって、私たちの歌に集中できないわけ?」

 

 星柄のジャケットを羽織る杏が、顔を近づけて挑発的に囁く。

 

 東雲彰人と青柳冬弥は「プロデューサー様ならしっかり仕事しろ」と、自分たちの相棒のモチベーション維持装置として、完全に俺をシステム扱いしてくる。

 

 俺はただ、VIP席のソファーに固定されたまま、2人の歌姫から放たれる「私たちだけを見て」という重すぎる愛のバイブスを、数時間にわたって全身で浴び続けることしか許されなかった。

 

 一度でも目を閉じれば、「先輩、私の歌、退屈ですか……?」とこはねが泣き崩れて脅迫してくるため、瞬きすら自由にできない。

 

 ――【水曜日:MORE MORE JUMP!】

 

 水曜日。神山高校での昼休み。

 

「はいっ、あーんして!」

 

 周囲の視線から完全に隔離された特別教室で、俺は花里みのりから、巨大な3段重の手作り弁当を一口ずつ強制的に口へ運ばれていた。

 

「全部残さず食べてね! あなたが私のために作ってくれた予定なんだから」

 

 桐谷遥は、俺のスマホのロックを解除し、俺の交友関係のLINEを一つ一つチェックしている。いつの間にかパスワードを解読されていたらしい。

 

「……あなた、火曜日に随分とビビバスの子たちに入れ込んでいたようね。心拍数のデータが上がっていたわ」

 

 ストーカーも真っ青のスマートウォッチによるデータ管理。アイドル特有の徹底したリスクマネジメントが、100パーセント俺の行動監視に向けられている。

 

 そして放課後になると、神山高校の校門前には黒塗りのワゴン車が停まっていた。

 

「さあ、乗りなさい。今日の放課後は私たち『MORE MORE JUMP!』の密着取材よ」

 

「ふふ、よくできました。ご褒美に、今日は私の膝枕で寝かせてあげるわね」

 

 モモジャンの実権を握る桃井愛莉と日野森雫の2人によって、俺は車に押し込まれる。

 

 後輩たちを見守るという大義名分の裏で、彼女たちからの「極上のプレッシャーと甘やかし」をみっちりと叩き込まれるのだった。

 

 ――【木曜日:ワンダーランズ×ショウタイム】

 

「わんだほーーーいっ!!!」

 

 木曜日はフェニックスワンダーランド。

 

 到着した瞬間、鳳えむが凄まじい脚力と筋力で飛びついてきた。俺をお姫様抱っこしたまま、ステージの『最前列の特等席』へと連行する。

 

「今日は絶対に離さないからね! ずっとずっと、えむと笑顔でいてね!」

 

 ステージの上からは、草薙寧々が、客席の俺の目から1秒たりとも視線を外さずに歌い続けている。

 

「……私から目をそらしたら、もう二度と歌わない。あなたが私に歌えって言ったんでしょ……だから、責任取って一生私の観客でいて」

 

 楽しいはずの遊園地のショーは、俺1人のために開かれる呪いの儀式へと変わっていた。

 

 寧々の圧倒的な歌声も、えむのバケモノじみたハグも、すべては俺の自我を『彼女たちの笑顔の承認装置』に書き換えるためのものだった。

 

 ――【毎日・深夜帯:25時、ナイトコードで。】

 

 そして何より恐ろしいのは、これらの各ユニットによる『日中の致死量のお世話』を乗り越えた後、毎日必ず深夜に訪れる【夜のローテーション】だった。

 

 疲労困憊でベッドに倒れ込んだ深夜0時、スマホのDiscordから彼女たちの声が漏れ出す。

 

『……今日のあなたの足取り、GPSで見てた。ワンダショの子のショーを見てた時、少し笑ってたね。……なんで、私以外の前で笑うの?』

 

 朝比奈まふゆが、俺の位置情報アプリを見ながら、虚無の声で問い詰めてくる。

 

『遅い遅い! ボクの共犯者くんなんだから、もっと早くボクのこと思い出してよ。……ねえ、日中のキミの顔なんてどうでもいい。キミの一番痛いところ、今日もボクに晒して?』

 

 暁山瑞希の、逃げ場のない甘い囁き。

 

『あんた! 今日の私のイラスト、いいねの反応が3分遅かったじゃない! あんたがすぐに反応しないと、私の絵は無価値になっちゃうでしょ!』

 

 東雲絵名の、首を絞められるような承認要求。

 

『……疲れてるのね。無理しないで。……私が、あなたが二度と目を覚ましたくなくなるような、ずっと微睡んでいられる呪いを作ったから。これを朝まで……聴いて……』

 

 宵崎奏の、耳元で奏でられる依存のオルゴール。

 

 一睡もできない。俺が少しでも生返事をすれば、絵名がヒステリーを起こし、まふゆのハイライトが消え、奏が病み、瑞希が翌日の学校で執拗に俺の首筋にマーキングをしてくる。

 

 俺の心休まる時間は、もはや1日24時間、地球上のどこにも存在しなかったのだ。

 

 ***

 

 そんな地獄のような協定が稼働して、5日目。

 

 つまり、金曜日。

 

 この日は、遥が宣告した『全体調整日』――全ユニットフリーの争奪戦の日だった。

 

「……あぁ、あ……」

 

 朝、俺はアパートの洗面台の鏡に映る自分を見て、恐怖した。

 

 目の下には真っ黒なクマが広がり、頬はげっそりとこけ、虚ろな目には一切の光がない。まるで、まふゆのバッドエンド差分のような顔つきだった。

 

 限界だ。

 

 物理的な体力もそうだが、精神的な許容量が、とうにマイナスを突き破っている。

 

 レオニの「家族の檻」。ビビバスの「承認装置」。モモジャンの「絶対支配」。ワンダショの「逃げ場なきステージ」。ニーゴの「終わらない深夜」。

 

 一つ一つの愛の質量が、惑星のように重い。それを5つ同時に、一切の休みなく背負わされた俺の魂は、今やメキメキと音を立てて崩壊しかかっていた。

 

「……学校に、行かなきゃ……」

 

 足を引きずりながら、家を出る。

 

 アパートの下には、金曜日の『フリー枠』にいち早く出遅れまいと、各陣営のヒロインたちが、すでに殺気を放ちながら俺を出待ちしていた。

 

「あ! キミ! 今日は私たちの――」

 

「先輩! 今日のストリートの練習――」

 

「逃がさないよ、共犯者くん。ボクと一緒に――」

 

 四方八方から押し寄せる、ヒロインたちの愛と束縛の声。

 

 だが、その声は水の中のようにくぐもって、俺の脳まで届かなかった。

 

「……あれ……?」

 

 視界が、真っ白に塗り潰されていく。

 

 空に浮かぶ雲も、彼女たちの姿も、コンクリートの道も、すべてがノイズにまみれたテレビの砂嵐のように溶けていく。

 

「…………ぁ…………」

 

 ポーン、と。

 

 俺の中で、最後に残っていた何かの回路が、完全に焼き切れる音がした。

 

『先輩!?』

 

『嘘、また倒れ……!』

 

『ねえ、目を開けてよ! 私をおいて行かないで!!』

 

 悲鳴が交差する中、俺の意識は現実世界から完全にシャットダウンされた。

 

 暗闇の奥底――俺の魂から生まれた『セカイ』へと、重力に引かれるように真っ逆さまに堕ちていった。

 

 ***

 

 ――ここは、俺の想いから生まれた『セカイ』。

 

 真っ白で、何もない、俺だけの無機質な逃避場所。

 

 のはずだった。

 

「……ミク? リン? ……ここ、どこだ……?」

 

 俺は立ち上がり、目の前の光景に絶句した。

 

 いつも通り、カフェテーブルに初音ミクと鏡音リンはいた。だが、彼女たちを囲む『セカイ』の景色は、もはや真っ白ではなかった。

 

 頭上には、ワンダーランズ×ショウタイムの『遊園地の観覧車』が、逆さまになって突き刺さっている。

 

 足元は、Vivid BAD SQUADの『ストリートのグラフィティ』に血のようなペンキで塗り潰されている。

 

 空間の至る所に、MORE MORE JUMP!の『無数のペンライトの光』が暴力的なレーザーのように点滅し、Leo/needの『教室の机と椅子』が空中に不気味に浮かんでいる。

 

 そしてセカイ全体を包み込むのは、25時、ナイトコードで。の『どこまでも深くて暗い、虚無の森とノイズの音楽』だった。

 

 ……バグっている。

 

 ヒロインたちの抱える『重すぎる想い』のすべてを俺一人で引き受けてしまった結果、彼女たちの想いが俺の魂の許容量をオーバーフローさせたのだ。

 

 すべてがグチャグチャに混ざり合った、崩壊寸前のディストピアを形成してしまっていた。

 

「……あーあ。とうとう、心のヒューズが完全に吹き飛んじゃったみたいね」

 

 ティーカップを置いたミクが、俺を見てため息をついた。

 

 リンも、いつもは笑っているのに、今はひどく深刻な表情をしている。

 

「ねえミク。これ、どうなるの? セカイ、もう限界来てるよ」

 

「ええ。彼女たちからの一方的な依存を引き受けすぎて、彼自身の『本当の想い』が潰されかかっている。……このままバグが進行すれば、彼は二度と目を覚まさないわ」

 

「なっ……二度と目を覚まさないって……俺、死ぬのか!?」

 

 俺が悲鳴を上げると、ミクは静かに首を振った。

 

「魂が彼女たちの重圧に耐えきれずに、セカイごと圧死するのよ。……ほら、見てみなさい」

 

 ミクが指を差す。

 

 セカイの真っ暗な空から、ぽたり、ぽたりと、水滴のようなものが降ってきた。

 

 いや、水滴ではない。それは、現実世界の彼女たちが、倒れた俺の身体を囲んで流している『涙』だった。

 

『……やだ……キミ、目を開けてよ……っ!!』

 

『先輩! 先輩っ!! 私が全部お世話するって言ったのに……!』

 

『私のプロデュースが……間違っていたというの……?』

 

『……彼がいないなら……私も、消える……』

 

 彼女たちの後悔と悲痛な声が、ノイズまじりにセカイの空から響き渡ってくる。

 

 彼女たちの愛は純粋だが、純度が高すぎたのだ。重すぎた想いの質量は、結果として、自分たちの愛する「推し」の心を圧死させる最悪の劇薬となってしまった。

 

「ミク……俺、どうすればいい……」

 

 俺は膝から崩れ落ちた。

 

 俺が良かれと思ってやった正論も、距離を置こうとした拒絶も、すべてが彼女たちの首を絞め、そして俺自身の首をも絞める結果になった。

 

 バッドエンド回避なんて、最初から無理な話だったのだ。

 

「……仕方ないわね」

 

 ミクがゆっくりと立ち上がり、カフェテーブルを降りた。

 

 そして、俺の顔を両手で挟み込み、その神秘的で冷たい瞳で、俺の魂の奥底を真っ直ぐに覗き込んできた。

 

「システムのエラーを止めるには、管理者が直接『デバッグ』をするしかないわ。……あなた、彼女たちのことが大好きなんでしょう?」

 

「……当たり前だろ。前世からずっと、画面越しに愛してたんだ……。だから俺は、彼女たちには笑っていてほしかったんだ……!」

 

「いいわ。その『想い』……私が、直接彼女たちの魂にぶつけてあげる」

 

 次の瞬間、ミクの姿が圧倒的なまばゆい光に包まれた。

 

 現実世界。神山高校の近く、倒れた俺の身体の周囲で泣き叫んでいた12人のヒロインたち。

 

 彼女たちの持っていたスマートフォンが、一斉に、けたたましい電子音を鳴らし始めた。

 

『――Untitled』

 

 それは、誰もダウンロードした覚えのない、始まりの歌。

 

『……えっ!? スマホが……光って……!』

 

『嘘、視界が真っ白に……!!』

 

『な、なによこれぇぇぇっっ!!?』

 

 現実世界から聞こえる、彼女たちの戸惑いの声。

 

 ミクが俺を見て、いたずらっぽくウインクをした。

 

「あなたの心の限界。そして、あなたが本当に願っていた『想いの形』。……それを、彼女たち全員に、直接このセカイで見せてあげましょう」

 

 「だから、今は休んでて(寝てて)いいのよ」

 

 ズォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 俺の崩壊しかかったカオスなセカイの空間に、突如として眩い光の柱が幾重にも突き刺さった。

 

 そして光が収まった後。

 

 遊園地と、教室と、路地裏と、ステージと、無機質な森が混ざり合った、俺の心の深淵に。

 

 宮女の制服、神山高校の制服、ジャージ姿……現実の服装のままの『16人の全ヒロインたち』が、ポカンとした顔で強制転送されてきたのだった。

 

「……ここは、どこ……?」

 

「キミっ! あそこにいるの、キミだよね!!?」

 

 全員の視線が、中心でへたり込んでいる俺と、その横に立つ初音ミクに突き刺さる。

 

 ついに、彼女たちの異常な依存関係をハッキングするための、最終プログラムが稼働した。

 

 俺の心の中のすべてを曝け出す、最後にして最大のデバッグ作業が、今、ここから始まるのだった。

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