プロセカの世界に転生したオタク、過去の俺がヒロインたちに重すぎるフラグを建てすぎていて平和な日常が戻ってこない件   作:雨風 時雨

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第2話

 真っ白な空間に、無機質な声が反響する。

 初音ミクの冷ややかな視線。その背後で、鏡音リンが面白そうに俺のスマホを弄んでいる。

 

 画面には、見知らぬ通知が次々とポップアップしては消えていく。

 

「……ねえ、ミク。これ、見てよ」

 

 リンが突き出したスマホの画面を見て、俺は息を呑んだ。

 通知の山。それも、ただの連絡ではない。

 

『ねえ、今どこにいるの? 返信くらいしてよ(朝比奈まふゆ)』

『今日、私のお弁当作ってきたんだけど……会えるよね?(花里みのり)』

『……私の曲、聴いてくれた? 一人だと、どうしても不安で。会いに来て(宵崎奏)』

 

 スマホから発せられる通知音が、まるで時限爆弾のカウントダウンのように耳に突き刺さる。

 俺は震える手で頭を抱えた。

 

 この『現世の俺』は、一体どれほどの地雷を踏み抜いてきたんだ?

 

「どうして……どうして、俺がこんな目に」

 

「あなたが悪いんだよ」

 

 ミクが、まるで迷子を諭すように、しかし一切の慈悲を含まない声で言った。

 

「ここはあなたの『想い』から生まれたセカイ。あなたが、彼女たちの孤独を甘い言葉で埋め、自分なしでは1日も過ごせないように教育してきたから、彼女たちはあなたを求めるの。……それが、彼女たちの生存本能になっちゃったんだから」

 

「そんなつもりは……俺はただ、平和に、平凡な高校生活を……!」

 

「嘘をつかないで」

 

 ミクの瞳が、一瞬だけ鋭く光ったような気がした。

 

「あなたは前世で、このゲームのストーリーをすべて知っていたでしょう? 彼女たちがどれほど深く傷つき、どれほど歪んだ愛を求めているかを知りながら、あえてその中心に踏み込んだ。……それを『攻略』と呼ぶなら、あなたは完璧に成功したわよ。今や彼女たちの世界の中心は、間違いなくあなたなんだから」

 

 ぐうの音も出ない。

 前世の記憶と、現世の聖人ムーブが頭の中で融合し、自分の罪が浮き彫りになる。

 

 そうか。俺は、彼女たちのトラウマを『解決』したんじゃない。

 俺の存在を、彼女たちのトラウマの『代用品』にすり替えただけなんだ。

 

 これでは、彼女たちが俺を追い求めるのも無理はない。

 俺という毒がなければ、彼女たちは崩れ落ちてしまうのだから。

 

「……これから、どうなるんだ?」

 

 俺の問いかけに、リンが肩をすくめる。

 

「どうなるって? あなたの『平和な高校生活』は今日で終わり。これからは、あなたを巡って彼女たちがぶつかり合う。……あ、ちなみに、その激重な感情の衝突に耐えきれず、あなたが物理的に崩壊する未来が見えるけど?」

 

「最悪だ……」

 

 俺は地面に膝をついた。

 ゲームのヒロインを攻略したいという夢は、これほど残酷な現実だったのか。

 

 俺が求めていたのは、推しとの甘い会話だったはずだ。

 それなのに、今の俺を待っているのは、逃げ場のない依存と、ドロドロの修羅場、そして理不尽な攻略難易度という名の『刑罰』だ。

 

「……でも、まだチャンスはあるわ」

 

 ミクが少しだけ表情を和らげ、俺を見下ろした。

 それは、慈悲というよりは、実験動物を見るような興味深そうな眼差しだった。

 

「あなたが、自分の『聖人ムーブ』を封印し、彼女たちの依存を解いていくなら……あるいは、元の平穏な日常へ戻れるかもしれない。……ただし、彼女たちがそれに納得すればの話だけどね」

 

「……どうすれば、納得させられる?」

 

「さあね。それはあなたが、彼女たちと向き合って見つけることよ」

 

 ミクが指を鳴らす。

 空間が歪み、視界が再び『神山高校の教室』へと戻っていく。

 

 だが、さっきまでの日常とは、空気が違っていた。

 スマホのバイブレーションが、止まらない。

 

 俺の心臓は、このセカイと繋がったまま、彼女たちの『想い』という名の執着を、全身で受け止めようとしていた。

 

 ――平和を取り戻す。

 攻略なんて、もういらない。ただ、彼女たちの『重すぎる矢印』を、なんとかして俺から逸らさなければならない。

 

 俺は深呼吸をして、震える手でスマホを掴んだ。

 画面には、まふゆからのメッセージが、画面を埋め尽くすように並んでいる。

 

『ねえ。ねえ、どこにいるの? 私、もう……あなた以外、何も信じられないよ』

 

「……クソッ!!」

 

 罵倒と共に、俺の『修羅場返済』の日々が幕を開けた。

 これが、俺というオタクが、自分の欲望の代償を払うための、長くて過酷な道のりの第一歩だった。

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