プロセカの世界に転生したオタク、過去の俺がヒロインたちに重すぎるフラグを建てすぎていて平和な日常が戻ってこない件 作:雨風 時雨
他の作品に浮気をしておりました
今回で最終話となります
ここまでこの作品を追いかけてくださりありがとうございました
神山高校の屋上で行われた、全ユニットのヒロインが集結したあの日から数ヶ月が経過した。
季節は巡り、肌を刺すようだった冬の風は、柔らかな春の気配を帯びるようになっている。
あの日。
俺は心の中の『セカイ』で魂の叫びをぶちまけ、オーバーヒートによって完全に気絶した。丸1日ほど寝込んだ後にようやく目を覚ました。
恐る恐るスマートフォンを確認すると……そこには、かつての彼女たちから送られてきた「なんで返信してくれないの?」「私を見捨てたの?」といった、あの呪いのようなヤンデレメッセージは1つも残っていなかった。
「――今は、休んで。絶対に、世界一の音を聴かせるから」(咲希)
「――私たちの本当の歌が完成するまで、震えて待ってなさいよ、プロデューサー!」(杏)
「――最高のステージを準備するわ。……逃がさないからね」(遥)
「――キミを一番笑顔にしてみせるから! えむの魔法、絶対に見に来てね!!」(えむ)
「――ボクたちの最高の曲……完成したら、一番に教えるから。覚閲しててよね」(瑞希)
それらのメッセージを目にした瞬間、俺は安堵のあまり自室のベッドで号泣した。
……終わったのだ。
依存と執着にまみれた血みどろのデスゲームは、俺の「特等席でファンとして応援する」という宣言によって、見事に本来のポジティブな形へと昇華された。
彼女たちはもう、俺の家に合鍵で上がり込んだり、スケジュールを分単位で拘束したり、深夜に病み通話を強要したりはしない。
なぜなら彼女たちは、己の時間を「俺を監禁するための監視」ではなく、「俺を振り向かせるための圧倒的な練習とパフォーマンスの向上」へと、100%全振りするようになったからだ。
これこそが、俺が前世から夢見ていた最高の「推し活」の形。
ただのモブとして、端っこでペンライトを振りながら彼女たちの輝きを見守る、平穏で幸せな日常がついに手に入ったのだ。
……そう、思っていた時期が、俺にもありました。
本当に
***
ある週末。
俺はチケットを手に、都内の大きなライブハウスの「1番後ろの端っこの席」に身を潜めていた。
今日はストリートのイベントだ。お目当ては当然、今やシブヤのストリート界隈で「若手最強の怪物デュオ」とまで噂されるようになった、白石杏と小豆沢こはねの『Vivid BAD SQUAD』のライブである。
会場の照明が落ち、重厚なビートが鳴り響く。
ステージに現れた2人の歌姫の姿に、観客のボルテージは一気に最高潮へと達した。
圧倒的な歌唱力、一糸乱れぬパフォーマンス。それはかつての「俺に褒められるためだけ」の空っぽな歌ではない。2人がお互いを高め合い、伝説(RAD WEEKEND)を超えるために叩きつける、熱く魂を震わせる本物の歌だった。
「すげえ……!!」
俺は1人のファンとして純粋に感動し、声を張り上げようとした。
……だが、曲がサビに差し掛かった瞬間。
ステージの上の2人の瞳が、数百人の観客越しに――まるでスナイパーライフルのスコープのように、1番後ろの端っこにいる「俺」を正確に捕捉した。
「――っ!」
マイクを握る杏が、挑発的な笑みを浮かべた。そして観客の頭越しに、俺に向かって『バーン』と指でピストルを撃つ仕草を見せる。
会場のファンたちが「キャァァァッ!」と悲鳴を上げるが、俺だけはそれが誰に向けられたものか、はっきりと理解していた。
こはねに至っては、あの内気だった姿はどこへやら。キャップを深く被ったまま鋭く、そして熱を持った極上の笑顔を浮かべる。彼女はマイクスタンドを握りしめながら、俺を真っ直ぐに指差して歌い上げたのだ。
(ヒィィッ……!)
俺は全身の毛穴が開き、思わず後ずさった。
ライブが終わり、逃げるように会場を出ようとした俺のスマホに、即座にメッセージが届く。
『後ろの方に隠れてたって無駄よ。今日の私たちの歌……あなたの心臓、完全に撃ち抜いたでしょ?』(杏)
『先輩。……私から目を離すなんて、許しませんよ。明日のライブも、必ず最前列(特等席)に来てくださいね』(こはね)
俺は白目を剥いた。
依存のバグ(彼がいなきゃ生きられない)は確かに解除された。
しかし……彼女たちの、俺への『クソデカ感情の総量』は一切減っていなかったのだ。
これまでは「見捨てないで」と暗くすがりついてきていた彼女たちが、今では「私たちが世界一輝いて、あんたの目も心もすべて圧倒的なパフォーマンスで独占してやるから覚悟しなさい!!」という、超・ポジティブで極めて攻撃的なヤンデレ(肉食獣)へと、最悪の究極進化を遂げてしまったのである!
***
――そして、他のヒロインたちも例外ではなかった。
「いくよ、みんなっ!!」
休日、屋外の野外ステージ。
『MORE MORE JUMP!』の単独ライブ。アイドルとして完全に自信を取り戻した4人の輝きは、もはやとどまる所を知らなかった。
俺は今度こそ目立たないように、観客席の中段で地味に応援していたのだが。
「今日の最後の曲は……私が一番に笑顔を届けたい、世界でたった1人の『専属ファン』の人に向けて歌います!」
MCの最中、みのりが満面の笑みでそんな爆弾発言を投下しやがった。
会場のファンたちが「ええっ!? 誰それ!?」とどよめく中、ステージ上の4人が完璧にフォーメーションを組みながら、一斉に俺のいる場所へと視線(レーザービーム)をロックオンした。
「あなただけが、私の心を管理できるの。……一生、私の輝きから目をそらさないでね」
曲の最中、遥が俺の目を真っ直ぐに見つめながら、完璧なウインクを飛ばしてくる。被弾した周囲のオタクたちが次々と卒倒していくレベルの威力だ。
「アンタのその情けない顔、特等席で見せてあげるって言ったでしょ! 他の女のライブに行く暇があったら、私たちのことだけを見なさい!」
愛莉が、後輩をダシにすることすらやめ、アイドルとしての絶対的な覇気を放ちながら俺にプレッシャー(笑顔)を向ける。
「ふふ。あなたが何度迷子になっても、私の一番輝く姿のところへ……絶対に道案内してあげるからね」
雫の神々しい笑顔と、その裏にある逃げ場のない「絶対に逃がさない」という強烈な仄暗い独占欲が、オーロラビジョン越しに俺の心臓を抉ってくる。
(やめろお前ら! 公共の電波とステージを使って、俺1人のために特大のファンサービスをするな! 胃が! 俺の胃がァ!)
***
「……わんだほ――いっっ!!!」
フェニックスワンダーランド。
ワンダショのショーは、俺の「世界中を笑顔にしろ」という願いを見事に体現し、もはや遊園地におさまりきらない規模の大盛況を巻き起こしていた。
俺が群衆の中でこっそり拍手を送っていると、ショーのクライマックスで、空中ブランコからえむがものすごい跳躍力で飛び降りてきた。
「見ぃぃつけたぁっ!!!」
ドンッ!! と。
何10人もの観客を器用にすり抜けて、えむは正確に俺の身体にロケットダイブをかましてきた。
「えむの神様っ! 今日のえむ、すっごく笑顔だったでしょ!? キミの心の中、えむの魔法で全――部ハッピーに上書きしてあげるんだからっ!」
「げふぅっ! えむ、肋骨! 腹に食い込んでる!」
「ふふっ。キミの隣は、いつだってえむの指定席だもんね!」
そしてステージの上からは、劇の主役を務めた草薙寧々が、スタンディングオベーションを浴びながら真っ直ぐにこちらへ歩み寄ってくる。
かつての怯えたネネロボの姿はもうない。そこにあるのは、圧倒的な才能を開花させ、世界のすべてを自分の演技で飲み込もうとする、美しき歌姫の姿だった。
「……ねえ。他の観客なんてどうでもいい。私の声……あなたには、どう聞こえた?」
群衆のど真ん中で、寧々が俺の耳元に顔を寄せ、色気すら感じるほどの圧倒的な役者の声で囁いてくる。
彼女のトラウマは消えた。しかし、「私が歌う理由の絶対的な原点は、あなた1人に評価させるため」という極重の感情は、より洗練された形で彼女の核にこびりついている。
「私の声で、あなたを絶対に誰にも渡さないくらい……頭の先からつま先まで、一生虜にしてあげる」
(ひ、ヒィィィィィィ!!!)
***
夜。這々の体で自宅のアパートに逃げ帰った俺を待っているのは、安息ではない。
「おかえりなさーいっ! キミ!」
エプロン姿の幼なじみ――天馬咲希が、当たり前のように俺の家のキッチンでハンバーグを焼いていた。
結局のところ、合鍵の回収は「私たちがバンドとして最強になるための、最低限の栄養サポート」という大義名分によって却下された。Leo/needの4人は、俺の家を『私たちの共有基地』として、週に何日も堂々と上がり込んでくるのだ。
「今日の私たちの新曲、聴いてくれたよね! あのベースのライン、全部あんたの耳から離れないようにアタシが作ったんだから」
志歩がソファでくつろぎながら、当然のように俺のスマホの音源をチェックする。
「大丈夫だよ。無理して他のアイドルの子たちのスケジュールに付き合わなくていいんだから。……私たちが、あなたの一番安らぐ『居場所』を作ってあげるからね?」
穂波の女神のようなオカン属性は、もはや「私たち以外に逃がさない」という極上の真綿の首絞めと化している。
「……さあ、座って。あなたの前でだけは、私は素顔のままでいるって約束したから。……その代わり、私たちの音……絶対に手放させない」
一歌の瞳の奥にある狂信は消えていない。
病室の暗闇を恐れていた咲希も、「自分が強くなったからこそ、自分が彼を幸せ(支配)にする」という強烈な愛情の化身と化し、毎晩のように俺の胃袋を完全にロックオンしている。
そして。
やっとの思いで日付が変わる頃。布団に倒れ込んだ俺のスマホが、ピコンと鳴る。
『……今日の新曲、できた。誰にも聞かせない。あなたが一番に聴いて。……あなたが何度でも、私に逢いに来たくなるように作ったから』(雪)
『ちょっと、あんた! 今日のモモジャンのライブ見てたでしょ! なんで私の絵を一番に見てくれないの! 明日、神山高校の屋上でたっぷり私のアートを見せつけてあげるから覚悟しなさいよ!』(えななん)
『私の、光の曲。……あなたが、もう絶対に私のそばから離れられなくなる……呪いの曲だから。……聴いてね』(K)
『やっほー、共犯者くん。ねえ、昼間みんなの前でいい顔してたみたいだけど。……一番暗くて深い秘密を知ってるのは、ボクだけだってこと……毎晩、教えてあげるからね♪』(Amia)
……深夜0時の、『25時、ナイトコードで。』による、濃密すぎる音楽と才能の暴力。
依存の病み通話ではなくなった代わりに、「私たちの曲で、彼の脳髄まで完全に溶かして支配してやる」という、逃げ場のない『魂の共鳴』の波状攻撃。
もうダメだ。
彼女たちの異常なまでの才能の開花は、すべて「俺を振り向かせるため」という最悪の着火剤を得たことで、限界突破を起こしているのだ。
「……ミク、リン……。お前らがあの時言ってたこと、今ならわかるよ……」
俺は真っ暗な部屋の中で、イヤホンから流れる重低音のノイズと奏の狂気の愛のメロディを聴きながら、セカイのバーチャル・シンガーたちに向かって虚ろな声で呟いた。
「――いってらっしゃい、誰よりも彼女たちを愛した、『大人気』のファン第1号くん」
そう。
あの言葉は、ファンという安全圏でひっそりと推し活を楽しもうとした愚かなオタクに向けた、最高の皮肉と『予言』だったのだ。
ファンが、アイドルや推しを熱狂的に追いかけるのではない。
16人もの覚醒した推したちが、たった1人のファンの視線と心を奪い合うために、束になって殺し合いレベルの逆アプローチを仕掛けてくる世界。
こんなの、ただの男子高校生のソウルキャパシティで受け止めきれるわけがない。
「誰がプロデューサーだ……誰が一番のファンだ……! こいつら、全員俺の命を物理と才能で削りに来てるじゃねえか!!」
明日もまた、神山高校で、屋上で、ストリートで、遊園地で。
俺の全神経と体力をすり減らす、愛と才能のデスゲームが繰り広げられるのだ。
「もう嫌だァァァァァァァ!!! ただの平和なモブキャラの人生を返してくれェェェェ!!!」
深夜のアパートに響き渡る俺の悲鳴は。
16人の極上の才能を持つヤンデレヒロインたちが織りなす、世界一重くて、世界一甘い「特等席の演奏」に、またしても華麗に呑み込まれて消えていくのだった。
―― 完 ――
またどこかの作品で読んでいただけたら嬉しいです
またどこかで!!!!!!!!
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