独自のクロスオーバー設定などを交えつつ、自分なりに納得のいく『スパロボK』の再構成を目指して書いていこうと思います。
漂流者となったミストが、この星でどう生きていくのか。
ゆったりとお付き合いいただければ幸いです。
「──ん、俺は……」
バチッ、という火花が弾ける乾いた音に、俺の意識は強引に引き戻された。
重い瞼を押し上げると、目の前にはノイズの混じったメインモニターが淡く発光している。見慣れた、しかし今は酷く寒々しく感じるレヴリアスのコックピットだ。
思考を動かそうとした瞬間、頭に鋭いズキッとした痛みが走り、俺は思わず顔を歪めて手で押さえた。指先に伝わってきたのは、無機質なヘルメットの感触ではなく、何層にも巻かれた包帯の柔らかな感触だった。
「……包帯?俺が、手当てを……?」
その感触がトリガーとなり、濁流のような記憶が脳裏を駆け抜ける。
「…いや、レムがしてくれたやつか」
鼻腔の奥に、こびりついて離れない焼けた鉄と、ベザートの森が灰になる匂いが蘇る。あの茜色の海も、翠の草原も、今はもうこの宇宙のどこにも存在しない。
黄金に輝いていた故郷、惑星アトリームを焼き尽くした謎の侵略者。必死の思いで逃げ延び、身を寄せる事になった惑星ベザート。だが、そこもまた、あの忌まわしい影に飲み込まれた。
二度の防衛戦。二度の敗北。
今でも目を閉じると浮かんでくる。守りたかった人たちの悲鳴も、炎に包まれる街並みも、俺はただモニター越しに見ていることしかできなかった。その光景が網膜に張り付き、離れない。レヴリアスの高性能センサーを恨んだりしたが、恨みきれず、最後には自己嫌悪で終わるのだ。
外装以外は正常値を示しているレヴリアスの各ステータス。俺はグッと拳を握りしめる。
この半永久的機関を持ってしても、アトリームもベザートも守れなかった。
アトリームの最期、侵略者の主格に肉薄した、あの隊長のレヴリアスの輝き。命を燃やすようなあの光を、俺は出すことができない。そうだ、俺の力不足で、ベザートは滅んだんだ。
無意識に拳に力がこもる。
アンジェリカ、エルリック隊長、シェルディア、レム……。
浮かんでくる仲間の名前を刻むように、血が滲むほど握り込まれた拳。慌てて手を開くと、手のひらには爪の跡がくっきりと赤く残っていた。俺は、その痛みをただ見つめていた。
その時、静まり返ったコックピットに、聞き慣れた、しかしどこか刺のある少女のような声が響いた。
『……ミスト。血圧と心拍数が上昇しています。拳を握りしめて過去に浸る暇があるなら、コンソールの確認を。**自己憐憫は、私の管理下にあるパイロットの推奨される行動ではありません。**手のひらを傷つけるのは、私の管理不足にするつもりですか。……拳を解きなさい。過去を反芻(はんすう)するエネルギーがあるなら、生存確率の計算に回しなさい』
「……レヴィ、生きていたのか」
レヴィ。新人だった俺を案じた隊長が、開発部に打診して搭載してくれた戦闘・精神支援AIだ。
『私を消すには、貴方の未熟な操縦技術でも足りなかったようですね。……ミスト、レヴリアスのセンサーに反応。前方、巨大なエネルギー体を確認。いえ、惑星です』
レヴィによって拡大されたその姿は、眩いばかりの蒼い星だった。
アトリームのような高度な機械文明と、ベザートのような豊かな自然。その中間の文明レベルを持つようにも見える未知の星。周囲に浮かぶ衛星や球状の小惑星からもそれがうかがえた。だが、レヴリアスの示す反応はそれ以上に特殊だった。
「……似ている。ベザートで祀られていた、あの『神の石』の反応に……」
メインモニターに表示される波形は、凪いだ海のように静かでありながら、心臓の奥を直接掴んでくるような、根源的な熱を帯びていた。
『肯定、べザートの『神の石』はアトリームで生成されるクリスタル・ハートよりも強力なエネルギーを有していました。この惑星から感じるエネルギーは、それよりも微弱ですが類似したいます』
微弱ながらも、魂に呼びかけてくるような不思議な波導。
なぜだろうか。俺はあの星に行かなければならない。そんな気がした。
「レヴィ、俺…」
『…決めたようですね。こちらに拒否の意はありません。近辺の衛星にハックをかけます。──分析完了。大気圏突破に向けた算出を終了しました。ミスト、突入準備です。よろしいですね。私は微調整を行います。ユーハブコントロール、貴方は指定の入射角に機体を傾けなさい』
「流石はレヴィ、了解。……アイハブコントロール!!入射角、調整!!」
『確認、突入します。機内温度上昇、規定内。ミスト、入射角5度修正!』
「くっ、了解!」
衝撃波がレヴリアスのフレームを軋ませ、外壁を舐める大気の摩擦熱が、コックピット内の温度を急速に跳ね上げる。
包帯の下で傷口が疼き、手のひらの爪痕が焼けるように熱い。
「(……痛い。ああ、まだ、生きてる、生きたいんだな、俺……!)」
その痛みだけを支えに、俺は操縦桿をねじ伏せた。
温度の上昇に耐えながら、俺はレヴィの指示に従い、必死にレヴリアスを制御する。
手のひらに残った爪の跡が、熱と衝撃でズキズキと疼く。だがその痛みこそが、俺がまだ「生きている」という、たった一つの証だった。
赤に染まったモニターが、やがて蒼に変わる。
レヴリアスは単身で、大気圏突破を成し遂げたのだ。
『報告、大気圏突破による機器の損傷無し。外装のコーティングが一部損傷、運用への障害は軽微。パイロットのバイタルチェック……酸素濃度低下。ミスト、酸素マスクによる吸引を推奨します』
「──スヒッ──スー、──ゴホッ、ゴホッ……ハァハァ、抜けたのか?」
コックピット上部から降りてきたマスクを被り、荒い息を整える。
『ええ、抜けました。バイタル、規定値まで上昇。ミスト、自己によるチェックを推奨します』
「……ああ、大丈夫だ。レヴィ、ここは?」
『突入前、衛星よりこの星のネットワークへのアクセス権を取得済みです。ここはオーブ連合首長国近辺の小島です』
俺は周囲の木々に隠れるように、レヴリアスを深くしゃがませた。
レヴィによる測定データによれば、この星の大気組成はアトリームやベザートに極めて近い。俺は外の状態を直接確かめるべく、コックピットハッチを開放した。
隙間から吹き込んできたのは、驚くほど冷たく、しめやかな潮風だった。
『ミスト、外気との接触を直ちに終了しなさい。この星の組成データは未知数です。……潮風による機体の腐食よりも、貴方の精神がこの星の「毒」に呑まれることを危惧します』
腕輪状の端末からレヴィの声が流れる。
「……毒って、そんな感じも、あーはいはい。わかってるよ。レヴィ、センサーの反応はどうだった?」
『そうですね、計測終了。大気の状態はアトリームやべザートと近しいですね。空気の問題は無いようで何より。──っ熱源反応有り!ミスト、機内に戻りなさい。冗談を言っている暇は無くなりました』
俺は反射的にコックピットへ飛び込み、ハッチを閉鎖した。
「熱源!? 起動させるか!」
『……ステイ。貴方は落ち着くことを覚えなさい。熱源の移動経路は、真っ直ぐこちらに来ているわけではありません。むやみに動かすのはかえって危険です』
「じゃあ、ここで待つしかないのか?」
『様子を伺います。レヴリアスであれば、戦闘モードへの移行に一秒も必要ありませんから』
モニターが、霧の向こうから現れる数機の影を映し出した。
それは、鳥のようなシルエットから人型へと変形を遂げる、鋼鉄の巨人だった。
『……衛星より引っこ抜いたデータ群より解析、解析完了。この星の兵器体系において「モビルスーツ」と呼ばれる機体群の一種。名称「ムラサメ」。先に述べたオーブ連合首長国の主要モビルスーツですね。それと、件のムラサメより広域通信を受信しました』
レヴィが回線を開くと同時に、落ち着いた男の声が響く。
『──こちら、オーブ連合首長国のアンソニー・バルト少尉だ。こちらに敵対する意は無い。……繰り返す。こちらに敵対する意向は無い。我々は、貴様がどこから来た何者なのかと言う問いに対して、対話での解決を望んでいる。……返答を願いたい』
レヴィによって機体全身が写し出される。黄色を主とした機体色の機体は、マウントされているライフルを持たずに少し高い山に立っていた。その後方に数機のムラサメが待機しているのが見えた。
「レヴィ、俺は……これを受けるべきだと思っている」
『……部分的に賛成。本来なら異星出身であることを隠すべきと進言したいところですが、貴方の性格では不可能です。すべて正直に話しなさい。相手パイロットはこの星での足がかりとなってくれると予測します』
「……そこまで言わなくていいだろ。俺だって、そのくらい」
『べザートでの一件からその発言は、否定に値する物はありません。』
何も言えなくなった俺は覚悟を決め、通信スイッチを入れた。
「──こちら、ミスト・レックス。……俺に、戦う意志はない。俺は、遠い星から来た、ただの漂流者だ。機体に損傷があり、救助を必要としている」
しばしの沈黙。やがて、スピーカーの向こうでバルト少尉が短く笑った。
『……漂流者、か。いいだろう、ミスト・レックス。君を歓迎するよ、ようこそ、この蒼い星へ。……各機、警戒を解け。今から客人をご案内するぞ』
後方のムラサメが武器を収め、黄色のムラサメはレヴリアスを先導するようにゆっくりと反転した。
俺はレヴリアスのスロットルを静かに押し出す。
流れ着いたこの星で、俺たちはどう生きていけるだろうか。
先に行ってしまったみんなのために。
俺は、俺たちは、生きる。
それこそが、何一つ守れず、それでも残ってしまった者の責任なのだから。
レヴリアスのクリスタル・ハートが、俺の決意に応えるように、トクンと力強い鼓動を刻んだ。