【新装版】作者の妄想大戦K   作:kanaumi

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次まで位は早いかもしれませんがそれ以降は不明です


第3話:曇天の空へ

 

 温かく賑やかだったヤマト家での夕食が終わり、俺はバルトフェルドさんに案内されて二階の自室へと入った。

「さて、ここが君がしばらく過ごす部屋だ。必要な家具はあるけれど、細かい物は後で買い足すと良いね。……じゃあ、僕は下に行くよ。おやすみ」

「ありがとうございます。おやすみなさい」

 バルトフェルドさんを見送った俺は、一人ベッドに腰を下ろし、今日一日の出来事に思いを馳せていた。

『ミスト、ぼーっとしているのなら眠る準備をなさい』

 静寂を破ったのは、腕輪から響くレヴィの呆れたような声だった。

「……なんだ、レヴィか。……そうだな、でもその前に少し、夜風に当たってくるよ」

『……部屋を出て左方向よ。バルコニーがあるわ』

「ありがとう」

 レヴィのナビゲートに従い、静まり返った邸宅の廊下を歩く。硝子扉の前で立ち止まると、そこには先客がいた。夜空を見上げる少年――キラ・ヤマトだ。

「他は……」

『戸惑う必要もないでしょう。行きなさい』

レヴィに背中を押される形で、俺はバルコニーへと足を踏み入れた。

「……」

「えーと、星が綺麗ですね」

 不器用な俺の第一声に、キラはゆっくりと振り返った。

「うん、月も綺麗だ。ごめんね、先にいたから困ったみたいで」

「え、気がついていたんですね」

「うん、二人が話していたのが聞こえたから」

「あー、すみません……」

「ううん、ちょうど話したかったから」

 キラは再び、柔らかな眼差しを夜空へと向けた。

「ミストさんの惑星でも、月はあったんですか?」

「月……いや、あれに近い衛星基地はあったけど、月の様な自然の天体はなかったね。だから、ここに来て驚いたよ。……キラさんは、ここで何を考えていたんですか?」

 俺が問いかけると、キラの表情にわずかな翳りが差した。

「……二年前、地球とプラントで戦争がありました。僕もラクスも、その戦争で少しの得た物と、多くの物を失ったんだ」

「戦争……」

『記録にあった、コーディネイターとナチュラルの戦争ですね』

 レヴィの補足に、キラは静かに頷く。

「……そうだね、そう言われている。あの戦争は地獄だったと、今でも思うよ」

「キラさんは、戦争に巻き込まれたんですよね? マリューさんが言っていました」

「そうだね、最初はそうだった。でも、ラクスに託された剣――フリーダムを手にしてからは、自分の意思で関わったと思う」

「後悔……しているんですか?」

「……ううん、たぶんしてない。そうしなければ、救えなかった命があったから」

 その言葉に、俺は自分の胸の奥が熱くなるのを感じた。

「ミストさんはどうだったの?」

「俺は、うん、俺も自分の意思で戦った。参加したことへの後悔もない。……その結果、守れなかった物も多かったけどね」

「そっか。ミストさんは強いね」

「キラさんだって、強いじゃないですか」

「ううん、僕は強くないよ。ギリギリで精一杯だった。アスランやラクス、ムウさんに沢山助けられたんだ」

「……いえ、強いと思います。助けがあったとしても、剣があったとしても、戦えない人はいます。俺だって、二回の防衛戦を経ても、戦うより逃げたいと思う事の方が多いよ」

 俺の吐露した告白に、キラは驚いたように目を丸くし、それから包み込むような優しい苦笑を浮かべた。

「……僕も同じだよ、ミストさん。何度も逃げ出したかった。でも、逃げた先で誰かが泣くのを見たくなくて、必死に踏み止まっていただけなんだ」

 キラの言葉は、飾らない真実だった。他人から最強のコーディネイターと呼ばれようとも、その中身は傷つきやすい一人の人間でしかない。そんな二人を、月は静かに見下ろすばかりだった。

「レヴィさん。……ミストさんのこと、頼みます。彼は、僕たちと同じ匂いがするから」

『…当たり前です。私はそのためにいるのですから。ですが、その忠告は記録しておきます』

「あの、俺もこの場にいるので居ない所で、話す様な話をされると反応に困るのですが」

 ミストの意見は、夜風に緩やかに流されるのだった。

 

 

 ――それから、二週間が経った。

 オーブでの生活にも慣れ始めていた。朝はカリダさんの美味しい朝食で始まり、日中はキラやラクスと共に過ごし、時折バルトフェルドさんの淹れるこだわりのコーヒーを啜る。マリューさんの手伝いを行ったり、マルキオ導師にこの星の歴史を教わったりもした。

 アトリームを失って以来、止まっていたミストの時間が、この穏やかな島国で少しずつ、確実に動き出していた。

 オーブ国防軍にはアスハ代表の働きで入隊させてもらい、今日はレヴリアスについての件で呼び出されていた。

「……うーん、ミスト君。外装はどうにかなるかも知れないけど、武装については難しいわね」

 モルゲンレーテの技術者、エリカ・シモンズさんは困り果てたようにモニターを見つめていた。

「やはりですか。レヴィからも言われていましたが……」

『そうですね。この星の技術力も低い訳ではありませんが、流石にステアードを修理する技術は見つかりません』

「手厳しいことを言うわね。まあ、実際そうなんだけど。……腕の良いジャンク屋に相談しましょうか? アタシよりも武器に関しては知っているはずだし」

「そんな人がいるんですね」

「まあ、進んで頼みたいわけじゃないけどね……」

「なら、大空魔竜のサコン先生も良いんじゃないかね?」

 背後から響いた声に振り返ると、そこにはバルトフェルドさんが立っていた。

「バルトフェルドさん!?」

「やあ、少し彼を借りるよ。カガリが待っている」

『ミスト、私はエリカともう少し話を詰めます。行ってらっしゃい──エリカ、貴方が言うジャンク屋のデータ、私にも共有を。アトリームの技術を『直感』で理解できる人間がこの星にいるのか、興味があります』

 レヴィに後を任せ、バルトフェルドさんに連れられて通された一室では、アスハ代表が待っていた。

「急に呼び出してすまないな、ミスト」

「いえ、アスハ代表にはいつも助けていただいているので」

「そう言って貰えると助かるよ。さて、呼び出した訳なんだが……ミストとバルトフェルドには、日本の『ダンナーベース』に行って貰いたい」

「日本……?」

「ああ。ここより北上した所にある島国で、オーブとも協力関係にある所だ」

 そう言って、カガリはモニターに地図を映し出した。

「日本には『ダンナーベース』という基地があってね。巨神戦争を戦い抜いた英雄もそこにいるんだ」

 バルトフェルドが懐かしむように目を細めて語る。

「まあ、擬態獣が落ち着いていた最近では、そこまで派手な出撃はなかったそうだがな」

「確か、連合やザフトが日本を接収しようとした時くらいかな。……ああ、見事に返り討ちだったそうだぞ」

カガリの言葉に、ミストは驚きを隠せなかった。この世界の二大勢力である連合とザフトを、一基地の戦力で退けたというのか。

「なるほど……。オーブと同じように、中立的な立場だったんですね」

「そうだな。中心人物であるパイロットの猿渡ゴオも、戦争には否定的な考えだったようだからな。返り討ちの際も、相手側の死傷者は驚くほど少なかったという」

「力があるのに、相手を殺さずに退ける……。凄いですね!」

「ああ。その『力』と『意志』があったからこそ、彼らはあの凄惨な巨神戦争を最後まで戦い抜けられたんだろうね」

 バルトフェルドは地図を見ながらこぼした。

「……ところで、どうして俺がそのダンナーベースへ行く必要があるんですか?」

 ミストの素朴な疑問に、カガリは少し居住まいを正した。

「話が逸れていたな。今回行ってほしいのは、ダンナーベースが主導となって行う『作戦』に参加してきてほしいからだ」

「……作戦、ですか」

 ミストの緊張した声に、カガリは深く頷いた。

「ああ。巨神戦争の頃に比べると数は少ないが、擬態獣の特性上、早い内に叩かないと取り返しのつかない事になる。だから、今回の共同作戦だ。参加するのはダンナーベースのゴーダンナーとGガンナー。さらに光子力研究所からマジンガーZとダイアナンA、ボスボロットが参加すると聞いているよ」

 バルトフェルドが補足した名前に、ミストは目を丸くした。マルキオ導師の講義で聞いた、伝説の英雄たちの名前だ。

「モビルスーツでは到底出せない馬力を持つ『スーパーロボット』たちだね」

「スーパーロボット……。凄いな、伝説の機体と一緒に戦うなんて」

「その中に、オーブからはミストのレヴリアスと、バルトフェルドのムラサメが加わることになる」

 カガリの言葉に、ミストはふと疑問を口にした。

「……二人だけ、ですか? 小隊規模での派遣ではないんですか?」

「……すまない。私としてももっと戦力を割きたいのだが、今のオーブも決して一枚岩ではないのだ。正規軍を大々的に動かせば、国内の反対勢力や連合を刺激しかねない。擬態獣は世界中で目撃情報が出ているが、今の地球連合は、擬態獣を『新兵器の実験場』としか見ていない。そこにオーブが深入りすることを嫌っている連中がいるんだ」

 カガリは悔しそうに拳を握った。一国の代表でありながら、自由にならない政治の壁。その苦悩を知るミストは、静かに首を振った。

「いえ……代表。僕とバルトフェルドさんだけで十分です。レヴィもいますし」

「はは、頼もしいねぇ。まあ、今ダンナーベースに停泊している大空魔竜隊も、状況次第では作戦に参加してくれるかもしれないという話だ。案外、賑やかな戦場になるかもしれないよ。頑張ればいいさ」

 バルトフェルドが明るく肩を叩き、部屋の空気は少しだけ和らいだ。

「……分かりました、擬態獣の鎮圧。俺は全力を尽くします」

ミストは拳を強く握る。オーブへの恩返しの為。そして、3度目の故郷となる場所を守る為に、ミストは戦う決意を決めた。

 数時間後、俺はヤマト邸に戻り、少ない荷物をまとめていた。

『ミスト、エリカによってステアードの応急処置が終わっているわ。ただ、スラッシュモードは使用を減らしなさい。ガンモードであれば問題無い』

「ああ、エリカさんに感謝だな」

『それと、カリダより伝言よ。「軽食を作っているから持って行くように」だそうよ』

「本当か?……カリダさん、ハルマさんには頭が上がらないな」

『なら、しっかりと作戦を成功させましょう』

「ああ!」

 俺は迎えに来たバルトフェルドと共に、オーブの輸送機に乗り込む。輸送機のハッチが閉まる直前、ミストはヤマト邸のある岬を振り返った。

そこには、小さく手を振るカリダさんたちの姿があった。

『ミスト。心拍数が不安定です。……またここへ戻ってくればいい。アトリームやベザートとは違う。ここには、待っている人間がいるのですから』

「……分かってるよ。行こう、レヴィ。次は……何も失わせない」

 激しいエンジン音と共に、機体は浮上した。

 蒼い空の向こう、かつての戦火が嘘のような静寂を保つ日本へ。だが、ミストはまだ知らなかった。

 その「平和」が、いかに脆い硝子細工の上に成り立っているかを。

 

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