【新装版】作者の妄想大戦K   作:kanaumi

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次の話までは早い方ですがそれ以降は遅くなります


第4話:バトルロワイヤル・モーメント

 輸送機のエンジンが低く唸りを上げ、機体を一定の周期で震わせている。

 日本・ダンナーベースへ向かう機内、そのキャビンには、戦場へ向かう道中とは思えない芳醇な香りが漂っていた。

「さて、ミスト君。作戦の前に聞いておこうか。擬態獣について、どれほど知っているかな? マルキオ導師の講義は受けたかい?」

 アンドリュー・バルトフェルドは、特注のコーヒーカップを揺らし、琥珀色の液体に満足げな視線を落とした。窓の外には一面の雲海が広がっている。

「そうですね……。五年前の『巨神戦争』で、日本を起点に世界中へと侵攻した。数は無尽蔵。遭遇すれば最後、あらゆるものが喰い尽くされる。……それくらいは、叩き込まれました」

 ミストが記憶を辿って答えると、バルトフェルドは自嘲気味に口角を上げた。

「随分と簡潔だが、要点は突いている。僕も当時は宇宙(プラント)にいてね、実際にその化け物どもと相対したわけじゃない。だが記録映像は今見ても吐き気がするよ。……当時はまだ、モビルスーツなんて便利な代物は戦場に影も形もなかった。人類の主力は戦車や戦闘機だったんだ。そんな鉄の箱で、奴らに立ち向かったのさ」

「……戦車で、あの怪物を?」

 ミストは背筋に冷たいものを感じた。アトリームの洗練された機動兵器を知る彼からすれば、それは戦いではなく一方的な虐殺でしかない。

「ああ、それまではマジンガーZや各ベースのスーパーロボット達だけだった。そして、それら機体は少数しか作られていない。いくら一騎当千であろうと、覆えない箇所は出てくる。そんな所では戦車だって立派な戦力さ」

「……」

「そこから軽量量産機のモビルスーツが開発され、ファットボーイ含めて今に至るね」

『ミスト、バルトフェルドの語る歴史には、技術的整合性が著しく欠落していると見受けられます』

 左腕の端末から、レヴィの冷静な声が脳内に直接響いた。彼女は共有された地球の戦史データを高速で再演算している。

『この世界のMS発達速度は異常です。ザフトのモビルジンから、現在連合が主力とするウィンダムに至るまで、飛行能力や火力の向上にかけられた期間はわずか三年。アトリームが発掘技術を解析し、実用レベルに復元できるまでの時間の十分の一以下です。……まるで、何かに急かされていると思える様な速さです』

 レヴィの指摘に、ミストは思わず言葉を漏らした。

「確かに、ここ数年なんですよね。モビルスーツが、この世界に普及されるようになったのって。あまりに、早すぎませんか」

「はは、確かに年表だけを見れば、魔法でも使ったように見えるな。だがミスト君、それは穏やかな発達の結果じゃない。絶え間ない殺し合いの中で、昨日までの最新鋭機が今日には鉄屑に変わる……そんな狂ったマラソンを続けた結果だ。……少し、話が湿っぽくなったかな」

 バルトフェルドはコーヒーを飲み干すと、空になったカップをテーブルに置いた。その瞳から「砂漠の虎」の鋭さが一瞬だけ覗く。

「……さて、本題に入ろう。代表からも聞いてはいるだろうが、ターゲットは日本近海に浮上した擬態獣の大群。そして、現地で合流する日本のスーパーロボット軍団と『大空魔竜隊』との共同戦線だ」

 バルトフェルドは整った歯を見せるキメ顔を決めた。レヴィはそれを記録はしなかった。

 

 

 

「所で、巨神戦争の時、擬態獣は最終的にどうなったんですか?」

「うん、僕も何せ当事者ではないからね。ただ、巨神戦争の時に出現した大型擬態獣をスーパーロボット、ゴーダンナーが撃破した事で鎮静化して行ったようだね」

「ゴーダンナー……」

 ミストがその名を確認するように呟くと、レヴィが阿吽の呼吸で応えた。

『……検索終了。該当データ、投射します』

 腕輪から空間に青白いホログラムが浮かび上がる。そこに映し出されたのは、原色に近い青い装甲を纏った、あまりに無骨で巨大な質量体——ゴーダンナーの勇姿だった。

『ミスト、この機体の動力は特殊な物のようですね。モビルスーツはバッテリー式の動力だったのに比べ、このシングルプラズマドライブは出力が桁違いです』

 レヴィの淡々とした、しかし困惑の混じった分析を聞きながら、バルトフェルドは皮肉めいた笑みを深めた。

「ああ。当時はそれこそ、その高い出力で擬態獣を単身でも倒していたそうだね。まあ、この機体の真骨頂は熱い夫婦機(めおとき)との合体だと聞いている。……本当に、彼らが大型擬態獣を粉砕しなければ、今頃このコーヒーを味わう余裕もなかったろうな。世界中の海岸線が奴らの死骸で埋め尽くされ、海が腐敗しきってしまう前にね」

「……夫婦で、戦場に?」

「まあ、そこはあまり気にしなくて良いかな」

 ミストは、ホログラムの中の青い巨神を見つめた。

 アトリームにおいて、戦いはどこまでも効率的で、無機質な「作業」だった。だが、この世界で出会う戦士たちは、誰もが何らかの「過剰なまでの想い」を機体に叩き込んでいるように見える。

「そう、ですか……。俺たちの星には、そんな……誰かと想いを重ねて動かすような兵器は、なかったな」

『そうですね、アトリームでは合体機構を搭載する試みはされていませんでしたね。発掘された技術には記載があった筈ですが』

「はは、君達は真面目すぎるよ。……おっと、お喋りはここまでだ。雲を抜けるぞ」

 バルトフェルドが視線を前方へ戻した。

 輸送機が大きくバンクし、雲のカーテンを突き抜ける。

 視界が開けた瞬間、ミストの目に飛び込んできたのは、荒れ狂う波を割って進む「巨大な龍」——大空魔竜の威容だった。

「凄い、ここからでも威圧を感じる」

『あの艦首にある竜の意匠は必要な物なのでしょうか』

「さあ、ただの飾りかもしれないし、重要な物かも知れないね。あの船はダリウス界で作られた様だからね、地球やアトリームとは技術体系がまた違うのかも知れないね」

バルトフェルドが軽快に答える一方で、ミストは吸い寄せられるようにその巨大な「龍」を凝視していた。

 波を蹴立てて進むその姿は、海を往く船というよりは、獲物を狙う猛獣のそれだ。輸送機がゆっくりと下降し、案内に従い大空魔竜の体内に着艦する。

 

 

 

 大空魔竜内に着艦したミストとバルトフェルドは、ブリッジに通され、大空魔竜クルーとダンナーベースからの出向組の歓待を受けた。これまでの人生で出会ったどの軍人とも違う、異様な熱気を持つ者たちが揃っていた。

「ようこそ、大空魔竜へ。バルトフェルド少尉は以前の通信時に話しているが直接会うのは初めてかな?……そして、君がオーブから来た期待の新人、ミスト・レックス君かね?」

 重厚な声の主は、顔を覆うを奇怪な仮面で覆った大男——キャプテン・ガリスだった。

 ミストは反射的に敬礼を返したが、その視線は隠しようもなくガリスの顔面に釘付けになる。

「ええ、直接会うのはこれが初めてですね、キャプテン・ガリス」

「…はい、オーブ連合首長国から出向されましたミスト・レックスです!」

『声のみで失礼します。レヴリアス搭載の支援AIレヴィ・エヴィンです』

「ああ、3人共よろしく頼む」

「では、今回の作戦についてですが─」

 キャプテンの隣からメガネをかけた女性──ローサ・ベルニコフ副長が一歩前に出て、作戦について説明し始めた。事前にバルトフェルドから説明を受けていたミストは再度の確認として聞いていた。その後、出撃までは待機ということでブリッジで一緒に聞いていた大柄の男性──猿渡ゴウに食堂へ案内されていた。

「いやー、食堂があるなんて、大空魔竜ってとっても変わっていますね!」

「…?オーブ艦にもあるだろう、先の大戦で活躍したアークエンジェルには温泉があるっていうのは有名な話だぞ」

「ああ、ミスト君は最近オーブに来たからね。オーブ軍のイージス艦やアークエンジェルには乗った事がないのさ」

「なんか、すみません」

「悪い、責めてるわけじゃないんだがな。アトリームの艦はそういうのはなかったのか?」

『無い訳ではありません。が、食堂というよりは無人販売所でしょうか、搭乗員が楽しみにするような場所ではなかったかと』

「うーん、それは少し寂しいね。戦艦でも心を休める場所は必要と思っているからね」

「そうですね、俺もそう思います」

「…所でなんですが」

「何だ?」

「その、気になったんですが、キャプテンが仮面を付けているのは何か特別な物があるからですか?」

『補足します。ミスト、私のスキャンによればキャプテン・ガリスの仮面からは電子的な発信、およびセンサーログの受信を確認できません。熱源反応も周囲の皮膚組織と同一です。結論として、機能的必然性は皆無。ただの「過剰な装飾」である可能性が87%です』

 レヴィの淡々とした、しかし情け容赦のない「診断」が通路に響き渡る。案内役を務めていたゴオと、横で優雅に歩いていたバルトフェルドが同時に「ぶっ」と吹き出した。

「ははは!『機能的必然性』か! 違いねえか、そりゃあキャプテンに言わせたら、必要な物なんだろうがな……ミスト、お前の相棒(AI)は最高にシビアだな!」

「……俺達、そんな変なこと言いましたか?」

 困惑するミストを余所に、食堂の扉が開く。

 そこから溢れ出したのは、暴力的なまでのカレーのスパイスの香りと、非番のクルーたちの騒がしい笑い声だった。アトリームの艦内にあった、清潔で静謐な「無人販売」とは似ても似つかない、生のエネルギーが渦巻く空間。

「……レヴィ。ここには、俺たちの知っている『効率』が存在しないみたいだ」

『肯定します。……ですがミスト、不思議なことに、クルーの精神安定指数はアトリーム軍の平均値を12%上回っています。理解に苦しみますが、この『無駄』こそが彼らの動力源のようです』

 呆然と佇み、レヴィと故郷との違いに愕然とするミスト。

「うーん、これが文化の違いなのかも知れないね」

「そうですね、まあ、見守っていきましょう」

 それを後ろから見守る大人二人。この空間だけ吹く風が温かった。──しかし、永くは続かなかった。

 

 

 ——唐突に、劈くような緊急警報(スクランブル)が食堂の喧騒を切り裂いた。

 さっきまで温かい目をしていたゴオの眼光が、一瞬で鋭利な刃物へと変わる。バルトフェルドもまた、目を細めて状況を伺う。

「……来たか」

 それは誰の声だったか。食堂内に響くのは、椅子が倒れる音と、駆け出すブーツの地響き。和やかだった空気は霧散し、代わりに焦げ付いた鉄と火薬の予感が空間を支配する。

「ミスト、行くぞ! チンタラしてっと置いていくぞ!」

「は、はい!」

『ミスト、貴方の装備ですがレヴリアス内にしまって有ります。貴方は真っ直ぐレヴリアスに向かいなさい!』

「ジャケットとグローブだからって恥ずかしがるなよ」

『否定します。あれはあれでもアトリームでの技術の結集によって、必要最低限に収まったと言っています』

「わかってるって」

「話は纏まったかな?スーツは必要だから着るんだ。少なくても大丈夫ならそれで良い物だ。さ、次は戦場でまた会おう!」

「はい!」

 ミストは格納庫へと走りながら、自分の心拍数が異常な速度で跳ね上がっているのに気づいた。

「レヴィ、これが地球に来てからの初戦闘なんだな!」

『その通りですが、落ち着きなさい。べザートの時とは違い、貴方の周りに味方がいます。それと近接武器が不足している貴方は支援が主です。前に出過ぎない用にしなさい』

「ああ!」

 そこはメカニックの怒号が響く戦場だった。アトリームでの緊急警報でもここまで大きくはなかったかも知れない。まあ、アトリームでは侵略者が来るまでは暴徒鎮圧が機動部隊の主任務だった。こんなに忙しなくなかったと言うのもあったが。

 ミストはレヴリアスのハンガーに駆け寄る。見上げたレヴリアスはミストに頷き返したとミストは感じた。そう、この喧騒の中、レヴリアスはミストを待ち侘びていたのだ。

 

 

 

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