大空魔竜に戻った俺達は、メカニック達から「お疲れ様」と労いの言葉をかけられた。受け取った飲み物を片手に、俺は猿渡さんの後を歩いていた。向かう先は、先ほど救援に来てくれたマジンガーZだ。
「猿渡さん、さっき助けてくれたマジンガーZのパイロットって、どんな方なんですか?」
前方を歩く猿渡さんに尋ねる。
「どうって言われてもなぁ。…マジンガーZのパイロット、兜甲児は一言で言うならば元気な奴だな。巨神戦争じゃあ、あいつの元気に励まされた時もあった。あとは……そうだな、最近は光子力の研究にも手を出しているらしいな。いきなりオーブに行くと聞いた時は驚いた」
猿渡さんは顎に手を当て、少し考えてから答えた。そう言えば、モルゲンレーテでそういった話を聞いたような気がしていた。俺の中で兜甲児さんのイメージは、元気な研究者となった。
レヴィは何も言わない。間違ってはいないからだ。それにログでしか知ることのできない現状では、レヴィであっても、訂正するに足る確証はないのだから。
「へへ、嬉しいことを言ってくれるぜ。ただ、オーブ行きの連絡が遅れたのは、ちゃんと謝ったんだから許してくれよ」
「…噂をすれば、か?…別に怒っちゃいないさ。ただ、戦友の後始末が大変だっただけだ」
「え、何か残してたか?ボス達もいただろ」
「…フッ、冗談だ」
「おいおい、勘弁してくれよ猿渡さんよ」
背後からの声に振り向くと、そこには鋭いもみあげをした男性が歩いて来ていた。はつらつとした態度と、猿渡さんとの軽口から、二人の親しい関係がうかがえた。彼が兜甲児さんだろうか?
「っと、そっちをほっといちまってすまねぇな。俺は兜甲児、マジンガーZのパイロットだ」
「お構いなく、俺はミスト・レックスです。レヴリアスに乗っていました。先の戦闘では、海面に沈んでいた所を助けていただきありがとうございました」
『私からも感謝を。貴方の救援がなければ、私達がここへ生還できた可能性は極めて低かったでしょう』
俺に向けて気遣う兜甲児さんに、俺とレヴィは深く頭を下げ、助けてもらったことへの感謝を伝えた。あの時は本当に死を覚悟していた。感謝してもしきれない。
「おう、かまいやしねぇ。それに俺の方もてこずっちまったからな」
「なんだ、ブランクか?」
「おいおい猿渡さん、冗談言わないでくれよ。これでもヤキン・ドゥーエ攻防戦にも参加してたんだぜ?マジンガーZじゃ無かったが、それでも腕はなまっちゃいねぇよ」
「…そうか、兜はあれにも参加していたな」
「急にしんみりしないでくれよ。それに聞いたぜ?ダンナーベースも連合のオーブ襲撃に招集されてたけど、それをズバッと却下したってよ。それだけでずっと楽だったんだぜ?」
2人が話しているのは、第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦とオーブ解放作戦についてだ。オーブにいた時にバルトフェルドさんやマリューさんから話は伺っていた。コーディネーターとナチュラルという違いから、人間同士が争うことになってしまった悲しい戦争だ。どちらも、圧倒的な戦力差の中で行われた戦いだったという。特にオーブ解放作戦ではフリーダムやジャスティスの救援がなければ、オーブは戦後の復興もままならなかったとか。
「そこはな、博士が強く反発してくれたよ。それに他国のベースも応じなかったそうだ」
「まあ、あの時の連合はむちゃくちゃだったからな。そういえば、向こうでバルトフェルドさんに聞いたが。ミストはオーブでキラ達に会ってるんだよな?元気そうだったか?」
「キラさん達ですか?そう、ですね。俺も長い時間接して来た訳ではないですが、こう、苦しいけど頑張って前を向こうとしている感じですかね」
あの時に言葉を交わしたキラさんの身体は、震えていた。けれど、その瞳は、前を向こうとしていた。
「……そうだわな、簡単には割り切れねぇが、前向くしかないよな」
「兜、そう言うお前はどうなんだ?」
「オレか?オレは…オレも思う事はあるぜ?ムウさんの件もあるしなぁ」
「エンディミオンの鷹、か。先の大戦で亡くなったそうだな」
レヴィが調べていた地球の著名人の中に、その名があったはずだ。ムウ・ラ・フラガ――通称、エンディミオンの鷹だったか。
「ああ、アストレイに乗ってたオレも、アークエンジェルもムウさんに救われたんだ」
「救われた?」
「ああ、連合の黒い同型艦からの攻撃をストライクで防いだんだ。あの攻撃はムウさん以外じゃあ無理だった」
そう言って、甲児さんは目を伏せる。俺達は何も言わず、甲児さんの次の言葉を待った。
「…悔しかったし、何度も考えた。あそこにマジンガーZがあれば変わったんじゃないかってな。でも、時間がたつと冷静になった。だから、オレも前を向いて、マジンガーZで此処に参加したんだ」
甲児さんは力強く俺達に答えてくれた。それを見て、猿渡さんは嬉しそうに頷いた。その姿を見て、俺も自然と笑みがこぼれた。
「そうか、お前が落ち込むだけで終わらなくて安心した」
「おいおい、オレだって色々経験してんだぜ?それにキラ達だって頑張ってるんだ。オレだって頑張るだろ」
「凄いです。俺だったら、甲児さんみたいにはいかないですね。俺は、…まだ引きずってますよ」
「急ぐことじゃねぇ、それにオレのは気持ちの持ちようだしな。オレには守りたい者に危険が迫っていたから頑張れたのもある。ミストには、ミストのタイミングがあるだろうよ」
「そうですね…」
「…よし、急ぐ必要はねぇが、第一歩だ!ミスト、オレへのさん付けを辞めてみな!効果があるかじゃない。変えることも重要だろ?まあ、さん付けがこそばゆいってのもあるけどよ」
「甲児さんを、…甲児、くん」
「まあ、そんなもんだろうよ」
「……お前も大人になったんだな」
「うえッ、ちょ、急に何すんだよ猿渡さん!」
「今くらい大人しく撫でられろ」
そう言って、猿渡さんは甲児さんの頭を強く撫でる。痛そうにしながらも、まんざらではなさそうだった。……いや、甲児君か。
それから俺達は通路を歩き、バルトフェルドさんやヤンマさん達と合流した。そこには、先の戦闘で別のブロックを担当していた、ダイアナンAの弓さやかさん、ボスボロットのボスさん、ヌケさん、ムチャさん、そしてGガンナーの光司鉄也さんもいた。
「甲児君ってば、戦闘中にいきなり飛び出して危なかったのよ?」
「ほんとに兜は変わんねぇな!その点、俺様はしっかりと活躍したぜ!」
「危なかったのはボスも同じでは?」
「ボス〜、ボロットではムリですよ〜」
「さやかさん、そう言わないでくれよ。ほら、ミストがいた方にも、救援行って助けたしさ」
「え、はい、助けてもらいました」
『…ミスト、ボーッとしない』
甲児君にプリプリと詰め寄るさやかさん。その横では、ボスさんが俺に向かって自慢げに胸を張っている。さらに、さやかさんへの援護が欲しい甲児君まで、こちらに話を振ってきた。
「鉄也、Gガンナーの調子はどうだった?」
「オッケーっすよ!活躍じゃあ、あんたにも負けなかったすよ!」
「フッ、吠えたな。バルトフェルドさん、ちょっと後でシミュレーションの審判をお願いできませんか?」
「鉄也君は元気だねぇ、そのガッツは嫌いじゃないよ。オーケーだ、付き合うよ」
隣ではGガンナーを見上げつつ、猿渡さんが鉄也さんに尋ねる。それにガッツポーズで応え、逆に挑発する鉄也さん。そんな鉄也さんを、バルトフェルドさんは好ましそうに見ていた。そして、猿渡さんの提案にも快く応じた。
「俺らはどうする?」
「食堂行こうぜ」
「おう、賛成」
すっかり蚊帳の外となったヤンマさん、ハッチョさん、ブビィさんの3人は、食堂へ向かうことにしたようだ。集まったメンバーはそれぞれ交流していた。そんな中、猿渡さん、俺、バルトフェルドさん、甲児君の4人は艦内放送でブリッジに呼ばれていた。
4人がブリッジに入ると、そこにはキャプテン・ガリスをはじめとしたブリッジクルーが揃っていた。
「さて、みんなひとまずご苦労だった。みんなのお陰で擬態獣の進行は、予測よりも大幅に遅れている」
「これを見てほしいのだけれど、大空魔竜がここね。そして、擬態獣の群れがここ。ゴーダンナー組の活躍のお陰で、左翼側の進行速度が40%低下、マジンガーZ組の右翼側は50%低下ね。特に先頭集団へ損害を与えられたのは大きいわね」
キャプテン・ガリスの激励の後、ローサ副長がモニターに映る戦力図を指しながら状況を説明する。大空魔竜を中心として、前方に扇状に展開している擬態獣。ミスト達の活躍によって日本への進軍はかなり遅れていた。レヴィの分析も概ねその通りだった。
『演算結果を報告します。作戦前、日本への到達は1週間後と予測されていましたが、現在は2週間後まで遅延しています』
「いやー頑張った甲斐があったね」
「おお、この調子でどんどん奴らを倒して行くんだな!?」
レヴィの報告を聞き、甲児君はさらにやる気を見せる。バルトフェルドさんも、頑張った甲斐があったと皆を労った。
「いや、一度ダンナーベースの方に戻る事になっている」
しかし、キャプテン・ガリスは首を横に振る。
「…なるほど」
「なんでですか?今のうちに叩いてしまった方が良いでしょうに」
「ああ、俺もミストに賛成だぜ?」
『……。ミスト、どうやらダンナーベース側からの要請のようです』
納得できず声を上げた俺と甲児君だったが、レヴィから伝えられた情報に耳を傾けざるを得なかった。
「ダンナーベース側から?」
「私からも説明しよう。先ほど、ダンナーベースの葵霧子所長から連絡があった。だが、詳細な内容については機密指定されている。私たちにも知らされていない」
「貴方達の言いたい事も分かるわ、でも、ダンナーベース側の意見を無視もできないの。それに、ここを放置する訳ではないわ。後退しながらもしっかりと擬態獣を叩いて貰うわ!」
キャプテン・ガリスの横から、ローサ副長が力強く宣言した。聞いたクルー達が「うぉぉ!!」と声を上げる。
『クルーの戦意45%上昇を検出。理由、不確定』
理由はよく分からなかったが、気付けば俺も一緒になって声を張り上げていた。
高揚した気持ちを次の戦いにぶつけるため、解散後、俺はレヴリアスのコックピットで擬態獣のデータをレヴィと共に整理するのだった。