『ミスト、固定ジョイント接続確認、お疲れ様です。次の出撃まで休息時間です』
レヴィの声で、俺は1時間ぶりにコックピットから這い出た。ローサ副長の宣言から、大空魔竜は日本に向けて進路を取りつつ、襲い来る擬態獣や進行している擬態獣の群への対処を繰り返していた。とは言っても進行上の少数の群れを叩いているだけだが。主力となるマジンガーZとゴーダンナー、俺のレヴリアスをリーダーとした小隊を編成して、それをローテーションして対応していた。今は、マジンガーZとボスボロット、ダイアナンAが出撃している。
「おーい、ミストー!何やってんだー?早く降りてこいよ!飯に行くぞー!」
「あ、はい!今降りますね、鉄也さん!」
レヴリアスの足元から俺を呼ぶ声が聞こえ、覗くとそこには一緒に出撃していた光司鉄矢さんがこちらに手を振っていた。それを確認した俺は、レヴィにレヴリアスを任せて鉄矢さんの元に駆け寄った。任されたレヴィはため息混じりの了承だったが。
そのまま、大空魔竜の食堂に向かった俺達は、先に来ていた猿渡さんと合流した。
「おお、2人共お疲れ様だ。怪我はなかったか?」
「はは、俺達を舐めないでくださいよ。バッチシでしたよ!」
「ええ、この前に比べるとずっと楽でしたよ」
「そうか、で、今からご飯か?なら、カレーライスが残ってたはずだ。貰ってきたら良い、うまいぞ?」
そう言って、猿渡さんはカレーを一口、口に運ぶ。良い匂いが俺達の鼻腔を刺激する。鉄矢さんと目を合わせる。同時に頷いた俺達はカレーを貰いに向かった。
「それにしてもゴウさんは知ってます?所長の呼び出しの内容」
「…そうだな、俺も詳しくは知らないな」
「猿渡さんでも知らない事情なんですね。…そんなに重要な事なんですね」
「…ああ、なんだろうな。…それよりも、話は変わるがお前達はラクス・クラインを知っているか?」
歯切れの悪そうだった猿渡さんは、話を変えるためか備え付けのテレビを指す。そこには綺麗な衣装を着て踊る女性が映っていた。オーブで食卓を共にしたラクス・クラインさんだ。それにしてもちょっと過激な服を着てるなぁ。オーブであった時はもっとおしとやかな感じだったけど。
「へー、プラントの歌姫っスよね?俺はあんまり知らないですけど」
「…あー、俺もですね、確かレヴィがプラントを調べて、纏めた物に書かれてたのを見たくらいです。猿渡さんは詳しいんですか?」
本人には会っているが、歌姫とかについては本当に知らない。それにオーブにいることは秘密のはずだ。猿渡さん達には申し訳ないけど嘘を言うしかなかった。
「いや、俺も詳しくなかったがバルトフェルドさんに前、力説されたんだよ。布教用だってCD付きでな」
そう言って、猿渡さんは携帯端末の画像をこちらに見せる。そこには、女性が座っているCDジャケットだった。
「へー、猿渡さんもう聴いたんスか?」
「いや、まだだ。大空魔竜にCD聴ける物は持って来てないからな
」
「それはしょうが無いですよね。出向先にプレイヤーを持ってくるのはそう言う趣味の人くらいですよね」
「ハハ、まあな。俺にその趣味はないな。ま、どうせ後少しで日本だ。戻ってから聴くさ」
そう言って、端末をしまった猿渡さんは、再びカレーを食べ始める。それにつられて鉄矢さんと俺もカレーを味わう。
「そういえば、バルトフェルドさんはどうしたんですか?」
「確か、ゴオさんと同じ班だったスよね?」
「ああ、先の戦闘にも一緒に出たぞ。…なんだ、ミストは聞いて無いのか?この作戦は大空魔竜が日本に辿り着いたら終了だろ?」
「はい、一応この作戦はそこで終了と聞いていますね」
作戦の方針変更という事で、カガリ代表にも連絡が行っており、バルトフェルドさん、俺にそれぞれ指令が出ていた。俺はそのまま大空魔竜に同行しろとの事だったが。
「バルトフェルドさんには作戦終了後に帰投命令が出ているそうだ。今はそれに向けての荷造りだな」
「あれ、ミストは何も準備しないのか?」
「いえ、そもそも帰投命令が俺には出てないんですよね」
更に言えば、大空魔竜に同行し、ダンナーベースにお世話になる事になっている。急なことではあったが、甲児君や猿渡さん、鉄也さん達と別れるのが寂しく思っていたので、この命令は少し嬉しくもあった。
「へー、ならしばらくは一緒っスね!」
「…バルトフェルドさんは帰投して、ミストは残る…。まあ、そう言う事もあるだろうな。しかし、ダンナーベースも賑やかになるな」
「そうっスね、良いことっスよ!」
「ハハハ、まあ、よろしくお願いします」
そんな会話をしながら、俺達は食事を進めていた。途中、ヤンマさん達がやって来ていたが、ローサ副長に呼び出されて慌てて出て行った。彼等には何か後で差し入れを持って行こう。
「それにしても、後、どれくらいで日本でしたっけ?」
「擬態獣の対処で、進行自体は結構ゆっくりだからな…」
「確か、予定時刻は明日の12:00でしたよね?」
「ああ、ただ、遅れ気味だとは聞いている。予想よりも擬態獣が多いからな」
そう言って、猿渡さんは部隊共有の定期報告を眺めていた。俺も横で覗いたが、先の作戦からの経過が書かれている。先の作戦で目標とした擬態獣の群についてはあらかた叩く事ができている。しかし、日本に向かうにつれて新たに観測された群が複数出てきていた。現在はその中で進行上に被さる群を叩いていた。
「……」
「ゴオさん、なにか気になることがあるんスか?」
「急に群が増えたことですか?」
「ああ、添付されている地図を見るとわかるんだが、擬態獣が現れる方向に法則性ありそうだなっと思ってな」
それを聞き、俺と鉄也さんは地図を見る。確かにどこからなのか、それは分からないが、進行方向については似た印象を感じる。
「本当ッスね。まったく気が付かなかった」
「無理もない、俺もこれを見るまで気が付かなかった」
俺も鉄也さんと同じく気が付かなかった。流石は猿渡さんだと思うと共に、その法則性の原因や習性に目がいった。
「まあ、仮に法則性があったとして、それが擬態獣全体のとはならないだろう。実際、巨神大戦の時はそういったものは見なかった。だから、それよりも俺が気になっているのは、ここだ」
猿渡さんは俺達の方へ画面を向けながら、ある一点の海域を指さす。そこはハワイ州付近の太平洋沖だった。
「そこになにかあるんスか?」
「……あ、擬態獣の進路を辿った先、ですか?」
「そうだ、概ねここから擬態獣の群は日本に向かっている」
「…でも、なんもないですよね、ここって」
「ああ、そうだ。だから俺も確信はない」
そう言って、再び報告書に目を向ける猿渡さん。俺と鉄也さんは顔を見合わせるも、ひとまず、食事を再開させた。もうすぐ、交代で猿渡さんの班は出撃だった。
──大空魔竜・ブリッジ──
「甲児君達、それは本当か?」
『ああ、間違いねえ!金の天使みたいなのから、擬態獣が慌てて逃げて行きやがった!』
『私も、金色の生命体らしきものが来た瞬間、擬態獣が消滅したのを見てました!!』
『俺様達もだ!』
緊急通信を受けたブリッジは、声を荒げて報告するマジンガーチームの必死な様子に気圧されていた。
「…ローサ副長」
「はい、サコン先生にも通話つないでいます。しかし、そんな生命体、聞いた事がないです」
「ああ、私も葵所長からそのようなものを聞いていない」
『けど、実際に見たぜ!?』
「ああ、甲児君達を疑ってはいない。それよりも君達に異常はないか?」
『私達は大丈夫です!』
「…そうか、その空域は一度放棄しよう。マジンガーチームは気をつけて戻ってきてくれ」
『ああ、了解だぜ!』
通信が切れたブリッジは、重い空気が流れていた。先程の報告はそれだけ衝撃だった。通信と共に送付されてきた映像には、フィクション映画を観るような光景が映っていた。金色の生命体による蹂躙、抉り取るような痕跡が恐怖を駆り立てた。
『キャプテン、今回して貰った映像についてですが…』
「サコン先生、なにかわかるか?」
『いえ、私でもさすがに情報が少ないですね。ただ、あの攻撃のようなものが放たれる直前に、微弱なノイズが発生しているようですね。まあ、それが何なのかは現状わかりません』
「…そうか、ありがとう」
「ひとまず、これはダンナーベースとオーブに送りましょうか?」
「ああ、そうしてくれ」
新たな脅威、ガリスは背もたれに深くすがりながら思う。この地球という星はどこまで脅威が多いのかと。しかし、キャプテンとして、ガリスは大空魔竜の指揮を取る。
「進路を少し調整する。クラブバンカーは出せる状態か?」
「はい、クラブバンカー自体は出せます。説明の為にヤンマ達を呼びましょう」
「よし、ロンゴ、頼む」
「アイアイ、キャプテン!」
空気を変えるようなロンゴの声に、ブリッジは気を引き締める。ブリッジにとってはまだまだ油断ならない状況だった。
──???──
「…ついに現れたか」
「ああ、擬態獣も怯えるアレがな」
「…そういえば、オーブの姫が秘匿回線で送って来ていたアレはどうするんだ?」
「……検討はする」
「…そうか」
画面には金色の生命体が映っていた。
──翌日、大空魔竜──
『ミスト、仮眠時間終了まで、残り10分です。起きてください』
「……ん、…ああ、朝か?」
翌日、あの後、何度かの交代出撃を終え、各班ごとに仮眠休憩を取っていた。報告共有された金色の生命体については、その後進展はなかった。
『ミスト、速く起きなさい』
「…んん、ああ、起きるから、急かさないでくれよ」
仮眠室に備え付けてある洗面台で顔を洗う。鏡に映った顔には少し隈が見えている。急かすレヴィに返事をしながら俺は食堂に向かう。
『ミスト、例の生命体の件ですが、サコン・シロウの考えとクラブバンカーによる周辺探索の結果、現状は緊急性のある事案ではない、とされています。あくまで現状はですが』
「甲児君達が見たって言うヤツだな。あの無機物にも見える不思議なフォルムをしていた…」
『ええ、サコン・シロウが観測したノイズと攻撃時の動きから生命体と判断していました。ただ、判断材料がそれしかなかったともいえます』
「また、でるかな」
『可能性は高いでしょう。それが明日か来月かは分かりません。できることは、対策を考えることです』
「ああ、そうだな」
食堂に着いた俺は、食事を取っていた鉄也さんと甲児君と合流した。
「おー、ミスト、おはようさん」
「おはよーッス、ミストー!寝れたかー!」
「おはよう、2人こそ疲れているんじゃないか?」
「は、これでも結構楽させてもらってるよ」
「俺もそうっスね、出撃時も前衛はミストだしな」
「ハハ、なら良かったよ」
定食を頼み、それを持って2人の近くに座る。
「そういや、もうすぐ、ダンナーベースだぜ」
「あ、そうか、そんな時間か。じゃあ、もうすぐこの作戦も終了か」
「んー、まあ、そうッスね。案外短かったですね」
「そうだな、途中の変更もあったしな」
「ダンナーベースってどうですか?」
「んー、いい所ッスよ。所長や静流さんがいますし、おやっさんとかもいい人っスね」
「そうなんだ、基地なのに結構親しみやすい感じかな?」
「あー、そうだな。一般的な…ジブラルタルとかと比べたらそうだな」
アトリームの基地も親しみある人はいたが、多くは軍人らしい雰囲気が強かった。話を聞く限りはそれよりかは馴染みやすいかもしれない。
──ブリッジ──
「…キャプテン、ダンナーベースが視認できました。このまま入港してよろしいですね?」
「ああ、ルル、ダンナーベースから通信は?」
「…はい、そのままガイドに従って入港してくださいとのことです」
「よし、ロンゴ、操縦を頼む。艦内放送を」
「アイアイ、キャプテン!」
──食堂──
『20分後、ダンナーベースに入港します。艦内の私物をまとめておいてください』
「お、やっとか」
「ん~~、やっと地面につける!」
「ハハ、2人は荷物の整理は済んでます?」
「あ、俺はまだだった。行ってくるわ。じゃあ、ダンナーベースでな」
「俺も行ってくるか」
「じゃあ、ダンナーベースで、ですね」
「おう!」
2人を見送った後、俺も部屋に戻った。短い間だったが、少し広げていた荷物をまとめる。レヴィが口うるさく確認していたので忘れ物はないはず。俺は荷物を持って出入り口ハッチに向かう。
ハッチの前は人でにぎわっていた。甲児君や猿渡さんの姿も見られた。ここにいるみんながダンナーベースで降りるのだ。そう思いながら待っていた俺に、同じくこの場に来ていたバルトフェルドさんに声をかけられた。
「やあ、ミスト君。作戦中はあんまり話せなかったが元気そうかい?」
「バルトフェルドさん!…そうですね、なんだか久しぶりですね」
「ハハ、まあ、そう言う事もあるさ。…さて、君も話は聞いていると思うが、しばらくダンナーベースで過ごしてもらうことになる」
「はい、バルトフェルドさんはオーブに戻るんでしたね?」
「ああ、僕はこのまま大空魔竜でオーブに戻るよ。でだ、君に個人的なミッションを与えようと思ってね」
「…ミッション、ですか?」
「ああ、まあ、ここでの生活の延長のようなものだがね。…君はまだまだ世界を知らないだろ。だから、ミッションは世界を知ることだ。…簡単だろ?」
「…世界を知る、ですか」
「ああ、まあ個人的なものだから強制じゃないよ。でも、それがミスト、君のこれからの戦う理由に影響を与えるはずだ」
「……」
「まあ、記憶の片隅に置いておいてくれたまえ。…じゃあ、次はどこで会うだろうね?オーブか戦場か。その時に君が知ったことを聞きたいものだ」
そう言って、バルトフェルドさんは戻っていった。世界を知る。なんだかとても重たく、大きいものを置いていかれた気がする。後ろからハッチが開く音がする。振り向くと眩しい光がハッチから見えた。人の流れに沿って、俺も外に出る。ダンナーベース、ここで俺は何を知って、何ができるだろうか?それを見つけたい。俺はそう強く思った。