やはり『過負荷』は青春ラブコメなんて出来ない。   作:くさいやつ

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年末は忙しいはずなのに何故か24日と25日だけは暇だったので不思議と溢れてくる涙を拭いながらその2日間でほぼ書き上げました。誤字脱字は多い!…………はず
というか、この話自体書く気が殆ど湧かなかった話なので所々どころか殆ど雑。


葉山隼人の依頼

「『ねぇ、小町ちゃんは覚えてる?』『僕が体験したあの高校入学の時の楽しい楽しい交通事故』」

 

自転車を漕ぎながら荷台にゆったりと座っている妹に向かって八幡は質問する。唐突の問いに一瞬(ほう)ける顔をしたが、すぐにニヤッと意地の悪い顔をして答える。

 

「えぇー、忘れるわけないじゃん。あれは中々に不幸だったよね、クフフ。いやー、今思い出しても笑いを噛み殺せませんな。アレは中々に私的に美味しい出来事だったしね」

「『美味しいってもしかして僕に内緒で食べた見舞い品の事かい?』」

 

八幡は知っていた。勝手にお見舞いのお菓子を1人で食べたことを。というか、八幡が「『これで許してもらえるなんて』『甘すぎだよね』『だから僕は許さないと心に誓ってこれを食べないでおくよ』」なんてカッコつけた事を言って小町にあげたのだが。

 

「もちのろんソレもあったけど、それよりもいつも言ってるでしょ?私がお兄ちゃんを幸せにする。周りが不幸にする。あの事故はそれを見事に体現していたからね!アレは実に美味しかった」

 

ギューっと八幡に抱きつきながら、小町は思い出す。

右足の骨が折れて1人じゃろくに動けなかった八幡を甲斐甲斐しく世話したあの日々。親に内緒で学校もサボって朝から晩まで食事から何やらまで小町がやったのだ。夢のような日々だった。家まで謝りにきた犬の飼い主に感謝の言葉を伝えたぐらいだ。父も母も伝えていたが。両親がお礼をいったのは八幡が暫く家にいないという小町とは違った理由だったが。

 

「で、ソレがどうかしたの?今更、事故の事なんてどうでもいいでしょ?」

「『いやいや』『少し気になっただけだよ』」

 

兄が何もなくこんな事を言わない事を知っている小町は表情には出さずに思考を巡らす。

 

「ふぅん?………でも、今でも思うけどお兄ちゃんがワンちゃんを庇うなんて珍しいよねぇ。あっさり見殺しにしそうなものなのにさぁ」

「『……………』『小町ちゃん』『昔から言ってるだろ?』『僕は弱いものの味方なんだ』『どんな事情でも』『どんな状況でも』『僕は弱いものの味方でありたいと思っているよ』」

 

あの時の状況で八幡にとって犬は弱者だったのだろう。

 

「そっか………………それでこそ小町のお兄ちゃんだなぁ」

 

小町は感動したようにハンカチで目を拭う。ワザとらしさが目に付くが。

 

「あー!そう言えば、お兄ちゃんが助けたワンちゃんの飼い主!確か総武高校だったよ!もしかしたら会ったことがあるんじゃない?」

「『…………』『へぇ?』『それは知らなかった』『名前は覚えてる?』」

「当たり前じゃん!えっと、確か名前は………」

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

2年F組の女王の顔面に青あざを作るという暴挙に出た比企谷八幡は例えその被害者本人である三浦優美子が終わったことにしても教室内での扱いは変わってしまった。

だが、そんなもの一切の感心がわかない比企谷からしてみれば関係が無いのと一緒だった。

 

まるで腫れ物でも触るかのような扱いをされ、誰にも話しかけられないまま放課後を迎える。正確には由比ヶ浜結衣と戸塚彩加だけは話しかけようとしたが、授業中だろうが休み時間だろうが関係なくジャンプを読んでいる彼に話しかけられなかったと言ったほうが正しい。

 

特別棟の廊下。彼の足音が響く。

 

「あら、来たのね。来なくてもいいのに」

 

扉を開け、入ってきた比企谷八幡にいつも通り冷たい視線が迎える。

 

「『来たくて来てると思ったら大間違いだよ?』」

「なら、来なくても良いと言っているのよ。………あら?由比ヶ浜さんと一緒ではないの?」

「『うん?』『別にそんな事は無いけど?』『別に由比ヶ浜ちゃんと仲良しなわけじゃないんだぜ?』」

「仲良しだからではなく、由比ヶ浜さんが貴方を探しに行ったのよ」

「『へぇ?』『由比ヶ浜ちゃんが?』」

 

意外だと言った風に顔を傾げる比企谷。そんな顔のままで、もはや定位置になった椅子に座ろうとしたところでドアが開いて、由比ヶ浜が乗り込んでくる。

 

「あー!いたー!」

「『ああ』『由比ヶ浜ちゃんか』『僕より遅く来るなんて不良にでもなったの?』」

「はぁ!?ヒッキーが遅いから探しに行ってたの!遅いから不良なら不良はヒッキーでしょ!」

 

由比ヶ浜はつかつかと比企谷の前まで迫り、指を突きつける。

 

「『確かに僕は不良品だけど』『そんな真正面から言われると傷ついちゃうぜ』」

「あ、いや、そんなつもりは無くてさ。………その!ヒッキーさ!連絡先交換しない?」

「『おいおい』『またまた急な申し出だな』『別に構わないけど』」

「赤外線大丈夫?」

「『あー』『スマホだからさ』『手打で』」

 

バックからゴソゴソと乱暴に携帯を取り出して放り投げる。

 

「わわっ!ちょ!自分のケータイ普通投げれる!?信じらんない!」

 

危なげはあったが、キャッチした由比ヶ浜は比企谷を驚いたように見つめた後、自分の携帯と比企谷の携帯を交互に見ながら手早くアドレスを打っていく。

 

「はい!返す!」

「『おお!』『まさかまさか』『僕の携帯に小町ちゃん以外の連絡先が入るとは』『世も捨てたものじゃ…………あるな』」

 

比企谷が返された携帯を確認しながら、由比ヶ浜のアドレスを感慨深そうに見ているとガシリと肩を掴まれる。

 

「こ、小町ちゃん?誰それ?」

「『うん?』『ああ、妹だよ』『世界一可愛い僕の妹』」

 

ズイっと顔を寄せてきた由比ヶ浜をジャンプで受け止め、平然と返す。

 

「いも……うと?ああ〜、妹か!うんうんそうだよね。ヒッキーに仲のいい女の子なんて居ないよね!」

「『まぁ』『確かに由比ヶ浜ちゃんとも仲良くないもんね』『犬猿の仲というか』『陰険な仲というか』『でも』『中学の時は女の子の1人くらいとは喋ってたぜ?』」

「1人や2人とは言わないところがらしいわね。本当に独りだったんでしょう。独り谷くん」

「ゆきのんなんか字違うくない!?てか、ヒッキーに女の子と喋る勇気があったんだ!?」

 

ふと、中学を思い出す。

名前は今でも覚えている。

折本かおり。普通の女子中学生らしい娘だった。由比ヶ浜と同じように誰とでも僕とでも喋れる娘だった。

 

「『あるわけないじゃん』『勇気もなけりゃ度胸もない』『僕はそんな人間だぜ』『話しかけたんじゃなく話しかけられたんだ』『あの時は感動で涙を流したものだよ』」

「そ、そうだよね。ヒッキーが積極的に話しかけるなんて想像できないなぁ」

「『それは僕を見くびりすぎだぜ?』『おーけー』『明日は誰か1人女の子とお喋りするよ!』」

「これは犯行予告として通報した方がいいのかしら……」

「ちょ!ゆきのん本気で悩みながら携帯を取り出さないで!?」

 

雪ノ下と隣に座る由比ヶ浜。

不意にピロンと由比ヶ浜の携帯に着信音がする。比企谷と連絡先を交換してからずっと握り締めていた携帯に目を落とし、ポチポチと何回か触った後「うわ……」と嫌な顔をする。それに気づいた雪ノ下が不思議そうな顔をする。

 

「どうかしたのかしら?」

「え!?いや何でもないんだけどその変なメールが来てさ。ちょっと思っただけ」

「そう。………比企谷君あまりそういう卑猥なメールは送らない方が良いわよ。裁判沙汰にされたくなかったらね」

「『卑猥だなんてそんな!!』『今日は帰ったら早速裸エプロン写メ要求メールを送ろうと思ってたのに』」

 

ガタリと力強く立ち上がり、憤慨だと訴えるがその声は届かず2人の冷たい瞳が返事だった。

 

「由比ヶ浜さん。今すぐ着信拒否することをお勧めするわ」

「…………………考えとく」

 

あの優しい由比ヶ浜をして、そう言わせる比企谷の最悪さである。流石の比企谷も反省したのか。それ以上は何も言わなかった

 

丁度3人共が何も言わなくなったそのタイミングで教室の扉が開かれる。

入ってきたのはリア充のオーラを全身から放射してる葉山隼人であった。葉山は軽く教室を見渡してから、ニッコリと微笑む。

 

「奉仕部ってここでいいんだよね?ちょっと相談があってさ」

「『おお!』『葉山隼人くん!』『葉山隼人君じゃないか!』『どうかしたのかい!?』『もうすぐ完全下校時間だっていうのに』」

「………ああ、すまない。部活を抜けられなくてね」

 

葉山は比企谷を見た瞬間笑みが崩れるがすぐに気を取り直すとすまなそうに言う。

 

「いや〜、大会はまだまだなんだけどさ。でも、俺3年から期待されてるみたいで。事前に言ってはあっても抜けさせてもらえなくてさ。まぁ、抜けさせてくれる分優しいと思うん「能書きはいいわ。早くここに来た訳を教えてくれないかしら?葉山隼人君」

 

サッカー部のエースである葉山となれば練習を抜けるのもそれは一苦労だろう。次期部長というのはサッカー部の中では濃厚だし、先輩からの圧力や後輩からの期待などもあるだろう。そんな中抜けるのが大変だというのは理解できる。

だが、そんな事は雪ノ下雪乃には関係が無い。クドクドと能書きを垂れる葉山をばっさりと切り捨て話を進めるように促す。

 

「あ、ああ……これなんだけどさ」

 

葉山は雪ノ下の氷のように冷たい視線に若干臆しながらも、ポケットから携帯を取り出す。

その画面はメール画面だった。

 

由比ヶ浜はすぐに気づいたようで「あっ……」と顔を暗くする。そして自分の携帯も取り出してメール画面を開く。内容は全く変わらない。

 

「変なメール……」

「『見た感じ』『変なメールっていうかチェーンメールだね』」

 

由比ヶ浜の携帯を後ろから覗き込むように見ていた比企谷が直球で言う。メールに書かれていた内容は幼稚なものだった。

 

戸部はヤンキーでゲーセンで暴れてる。大和は三又の屑野郎。大岡はラフプレーで相手選手を潰してる。

 

簡単に言うとこんな感じの内容だ。

雪ノ下もそのチェーンメールを心底不快そうな顔をして読んでいた。

 

「こんなものが回ってたら腹が立つさ。尚更内容が友達だしね。ああ、でも、犯人捜しがしたいわけじゃ無いんだ。丸く収める方法はないかな?」

 

その言葉に顎に手を当てて思案顔になる雪ノ下。徐々に眉間にシワが寄って行く。それには葉山も不安気な顔になる。

 

「『僕はパスで』『この依頼は雪ノ下ちゃんと由比ヶ浜ちゃんに任せるよ!』『ってなわけで帰らせてね!』」

 

だが、雪ノ下の熟考を破ったのは比企谷だった。

比企谷は床に置いていたカバンを持ち上げると、「『じゃ!』」とそれだけ言って去ろうとする。一様に比企谷の突発的な行動に呆然としていたが、比企谷がドアの取手に手をかけたところで雪ノ下が焦ったように声をかける。

 

「比企谷くん。まだ部活は終わっていないわ。葉山くんが持ってきた依頼の具体的な解決案も出ていない。こういう問題は早い方が良いわ。貴方が役に立つとは思えないけれど、それでも部員として部がどのような行動を起こすか知っていた方が良いわ」

 

ピタリと止まる比企谷。

そして、ゆっくりと振り返るとイラついたかのように答える。

 

「『だからさ』『パスだって』『今回の依頼に僕は一切関与しません』『さようなら』」

「………待ちなさい。そんな勝手な行動は許しません」

「ヒッキーどうしたの……?」

「…………ッ!僕からも頼むよ」

「『めんどくさいなぁ』『チッ』『良いよ』『分かった』『雪ノ下ちゃんのワガママに付き合って話だけでも聞いてあげる』」

 

比企谷は椅子に戻るわけでもなく、そのまま扉に背をもたせるように立つ。ワガママを言っているのは思いっきり比企谷の方なのだがまるで自分は悪くないような態度で踏ん反り返っている比企谷。

 

「チェーンメールというのは許されないものだわ。非常に卑怯な行為。批判、避難されるべき行動だわ。直ちに犯人を特定し、注意厳罰を与えるべきだと判断します」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!さっきも言ったけど犯人を暴くんじゃなくて丸く収めたいんだ」

「顔も名前も出さず、傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。そんな人間は根絶やしにすべきだわ。それが私の流儀。それからどうするかは貴方に任せるわ。それでいいわね?」

「……………ああ」

 

少し戸惑った後、渋々と言った様子で頷く。由比ヶ浜も文句は無いようで何も言わなかった。だが、比企谷だけはにこやかに笑って、嘲笑する。

 

「『もう終わった?』『帰ってもいいかな?』」

「……………まだよ。具体案が出ていないでしょう。でも、その前に聞きたいのだけど、何故今回に限ってそんな非協力的なのかしら?」

「……僕が依頼を持ってきたからか?比企谷」

「『はぁ?』『おいおい』『自意識過剰かよ』『そんなんじゃあない』『チェーンメールなんて確かに卑怯で卑屈で愚劣で最低最悪だね』『そんな事をするやつがこの学校に居るってだけで不愉快になる』『匿名で個人を叩くなんて弱者のすることだ』『絶対に許してはいけない』」

 

雪ノ下は両手を広げて堂々と公明正大に正面から批判する比企谷らしくない発言に目を丸くする。だが、その後に『でも』と続ける比企谷。

 

「『僕はそんな事をする弱者の味方だ』『僕はこの犯人を見つけて!』『ぜひ友達になりたいんだ!』」

「「「!!!」」」

 

いつか感じたあの異様な雰囲気。この空気に当たっているだけでダメになってしまうと錯覚してしまうほどの過負荷(マイナス)

雪ノ下雪乃は顔を背け、葉山隼人は拳を握りしめる。だが、由比ヶ浜結衣だけはーーー

 

「ヒッキーさ。また1人で行動するつもり?」

 

真っ直ぐに比企谷を見つめていた。心配そうに、あるいは不安そうに悲しげな顔で呟くように言う由比ヶ浜の言葉に比企谷は驚く。

 

「『!』」

 

比企谷の反応に顔を背けていた雪乃が一気に訝しそうな顔になる。葉山も眉間にシワが寄って怪しそうに見る。比企谷が行動を起こすと聞いて嫌な予感がしたのだ。

 

「由比ヶ浜さん?どういう意味かしら?」

「え!?いや、その、確信は無いんだけどさ……」

「それでもいいから教えてくれないかしら?」

「う〜ん……、ヒッキーってさ。なんか行動を起こす時人を遠ざけそうな感じがするんだよね。彩ちゃんの依頼の時もそんなところあったし」

「『はぁ?』『なんでそんな僕のこと信頼してんの?』『なんだそんなプラス思考で解釈できんの?』『なんで由比ヶ浜ちゃんはそんなに他人を信じられるのか』『僕には全くもってわっかんねーなぁ』」

 

比企谷は由比ヶ浜を眩しそうに見て、自嘲気味に笑う。何故こうも他人を信用できるのか理解ができない。自分で言うのもなんだがあの時の行動は最低最悪だっただろう。嫌われて当たり前のものだ。それなのに彼女はわざわざ仲良くなろうとする。他人は信用も信頼もしない。いや出来ない。だから僕は過負荷(マイナス)なんだろうなぁとは思ってはしまうけれどやめられない。

だが、由比ヶ浜はそんな比企谷の負がグルグルと渦巻いている瞳を見つめたまま、堂々と公明正大に正面から宣言する。

 

「人なら誰でも信じられるわけじゃないよ!ヒッキーだから信じられるの!」

「『!!』」

「だって、ヒッキーは悪役ではあるけど悪人じゃないもん!」

 

 

「!『プッ』『アッハッハハハハ』」

 

比企谷は唐突に笑い出す。お腹を抑えて扉と背中がズズズと滑って行き、すがるような状態になりながら大きな声で笑う。ヒーヒーといいながら目尻に涙がにじむ。

それに由比ヶ浜は頬を膨らませてブーブーと怒る。

 

「私の意外と良いこと言ったと思うんだけど!」

「『うんうん』『実に心に響く事を言ってくれたよ』『思わず』『この依頼を手伝ってあげたくなるくらいにね』」

「え!?じゃ、じゃあ……」

 

パァと華が咲くように明るくなる由比ヶ浜。本当に嬉しいのか声が若干浮いている。

比企谷はゆっくりと立ち上がり、真面目な顔する。由比ヶ浜は殆ど初めてと言ってもいい比企谷の真面目な顔にゴクリと生唾を飲み込む。

 

「『由比ヶ浜ちゃん』『今日君が履いてるパンツの色は?』」

「えええ!?ピンクだけど…………。って、なんてこと聞いてんの!?」

「由比ヶ浜さん、貴方よく答えれるわね。私は貴女になんてこと答えるのって言いたいわ」

「いや、その、唐突だったから。つい……」

「貴女を見ていると本当にハラハラするわね。危うくて心配になるわ。いつか誰かに騙されそうで」

「『僕を睨まないで欲しいな』」

「ごめんなさい。既に騙されていたわ。こんな変態にパンツの色を知られるなんて。咄嗟に助けられなくてごめんなさい」

「『おいおい』『男子高校生なら女子高生のパンツの色くらい誰でも知りたい知りたいものだぜ』『だから僕は悪くない』」

「ゆきのん……心配してくれてるの?ありがと!!」

「ちょっと暑いから抱きつかないで」

「ゆきの〜〜〜ん」

 

葉山は呆然と今の光景を見ていた。

さっきまでの殺伐とした教室の空気は何だったのか。一瞬で四散してしまった。

 

「で、そこの変態ヶ谷くん。結局駄々を捏ねただけで手伝うのかしら?」

「『由比ヶ浜のパンツの色という対価をキッチリと貰ったからね』『働くよ』」

「あれって報酬だったの!?」

「『当たり前じゃないか!』『僕は女子のパンツの色を知るためならどんな事だって出来ちまうぜ!』」

「変態だーー!」

 

由比ヶ浜の心からの叫びが夕暮れの空に響いた。

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「で、職場見学のグループ分けが原因なのはわかったわ。この3人の誰かが犯人なのもね」

 

話し合いの末、犯人が戸部、大山、大和の三名の中に居ることが判明した。原因は職場見学のグループが3人ずつだったためだ。葉山を含めて4人グループな彼らは誰かを蹴落とすためにチェーンメールという卑怯な手段をとったのだろう。

 

「それで、由比ヶ浜さん。彼らがどのような人物か分からないから少し調べてくれないかしら?こういうことを頼むのは心苦しいのだけど」

「うん!大丈夫!私も奉仕部の一員だもん!」

「ふふ、ありがとう」

 

快く返事をしてくれた由比ヶ浜に微笑む雪ノ下。仲がいいみたいで何よりである。そこに、比企谷が声をかける。

 

「『それ』『僕も手伝っていいのかな?』『僕も奉仕部の一員だぜ?』」

「その前に貴方に聞きたいことがあるわ。先ほど貴方は一人で行動しようとしたわ。もしも、由比ヶ浜さんが止めなかったらどうしたのかしら?」

「『今更それを聞いて意味は無いよ』」

「意味はないけれど意義はあるわ」

 

未だによく分からない比企谷八幡という人間を知るために必要なことだ。雪ノ下は由比ヶ浜のように彼をまだ信頼できないから。

 

「『正直な話』『まだ全然考えてなかったさ』」

「嘘ね。貴方は頭の回転だけは良いわ。すぐに計画を立ててそれを実行する行動力も持っている。貴方が思っているより私は戸塚くんの件でそれなりに貴方を評価しているのよ」

 

それは葉山にとって相当な驚きを与える言葉だった。戸塚のテニス部での今の立ち位置を考えると比企谷のあの時行動は全く意味がない事ではなかったとは正直に言えば思っている。だが、それは三浦優美子を傷つけていいという理由にはならない。彼はあの事件で批判されるべき人間であり、許されるべきではない。今の依頼を持ってくるにしても相当な葛藤があった末のものだ。彼は許されるべきではないが、被害者である三浦優美子が許したのだから、と。

今だって、こちらがチェーンメールの解決を依頼している立場だからこそ態度には出してはいないだけだ。

 

「『いやだなぁ』

『僕が君に評価されているというのが嫌だ』『僕がまるで君みたいな人間と一緒にされるのが嫌だ』『僕がまるで戸塚ちゃんのために三浦さんに負けたと思われるのが嫌だ』『そして何より』『そんなことを言われて満更でもなく喜んでいる僕が居ることが一番嫌だ』『まるで悪夢でも見ているようだぜ』」

「あら。それは何よりだわ。で、教えてくれるのよね?」

 

まるで長年の友人かのように笑いあっている彼らを見て、葉山隼人はまるで悪夢でも見ているようだった。まだ、彼が奉仕部に入って一月も経っていない筈だ。それなのに感じるこの信頼関係に良く似た空気は何なんだ、と。

 

「『あまり言いたくは無いんだけど』『3人の人間関係をめちゃくちゃにしてやろうと思ったのさ』」

「………ッ!」

 

咄嗟に殴ろうとした右手を必死に止める葉山。

 

「…………一応、引っ叩くのは説明を聞いてからにしてあげるわ」

「…私も」

 

雪ノ下と由比ヶ浜はジト目で彼を見る。

 

「『あれれ』『殴られるのは確定なんだ』『だから言いたく無かったんだけど』」

「私は平塚先生に貴方の更生を依頼されているわ。どんな理由があろうとそんな事を考えるのは修正対象でしょう」

「『……はぁ』『だからさ』『僕はあの段階でその3人の中に犯人がいることは分かった』『でも誰か特定するのは難しい』『なら』『3人ともに罰を与えたら良いと思ったんだよ』」

「え?何処が?」

 

由比ヶ浜は意味がわからなくて素直に質問する。

 

「『だからさ』『犯人も犯人じゃない2人がめちゃくちゃにされて嬉しいだろ』『その2人も犯人がやられるんだから嬉しい』『葉山隼人も犯人が分からないまま収まって嬉しい』『僕も誰かを叩けて嬉しいってわけだよ』『ほら』『平等だろ?』」

 

全く道理や筋書きにすらなっていないのに、まるで正論かのように言う。それが比企谷(マイナス)だ。どれだけ、信頼されようと評価されようと本質は変わらない。世界一の負け犬だ。

 

「貴方って人は……。由比ヶ浜さんが止めてくれて助かったわね。取り敢えず、明日からは由比ヶ浜さんと同じように彼らの人となりを調べなさい」

「……ヒッキー頑張ろうね!」

 

雪ノ下は頭が痛そうに手で額を抑えつつ、ため息を履く。由比ヶ浜は由比ヶ浜でガッツポーズしながら、気分を高めている。

 

「………嫌いだ。奴とは一生仲良く出来ないんだろうな」

 

ボソリと誰にも聞こえない声量で呟く葉山。それは声にすらなっているか分からないほどだったが、情感だけは溢れんばかりのものであった。だが、いつの間にか隣にいた比企谷は応じる。

 

「『僕も嫌いだ』『君とは一生分かり合えない』」

「!!………それは良かった」

 

2人は睨み合いながら、嫌い合った。

 

……

………

 

翌日。

ザワザワと何時もとは違う賑わい方を見せている2年F組。原因は1人しかいない。比企谷八幡である。

 

「『ねぇねぇ』『あーしちゃん』『お話しよーぜ!』」

「はぁ?嫌だし」

 

比企谷八幡が唐突に三浦優美子に話しかけたのだ。それはそれはもう教室の空気が変わった。あの空気を読んで合わせてしまう由比ヶ浜ですらオロオロと困った様子だった。

 

「『なんだよー!』『僕とあーしちゃんの仲だろ?』」

「はぁ!?あ、あんたよく言えるし!あーしに何したか忘れたん!?」

 

三浦の右頬には今だに痛々しく湿布が貼ってある。折角の美人なのにその湿布のせいで魅力が大きく落ちてしまっている。それだけでクラスの女王たる三浦の人気が無くなるなんてことはないが。

話しは変わるが、三浦優美子は比企谷八幡と先日のテニスコートであった事を許したわけではない。確かに、友達である由比ヶ浜結衣や結果的に迷惑をかけてしまった戸塚彩加の説得を受けて、事を大きくすることはやめたが、許したかと言われればそんな事は全くない。元々、終わったことをクドクドと根に持つ性分ではないが流石にあれは無理だった。もう3年に進級してクラスが変わるまで関わることはないと心に誓ったほどだ。

だからこそ、三浦優美子は今の状況は信じられなかった。なぜ目の前の比企谷八幡(この男)は平然と、全く気にした様子もなく、バツの悪そうな顔もせず、笑顔で話しかけてこれるのか。

 

「………あんたと喋ってたらイライラするからどっかいってくんない?てか、あんたとあーしに仲なんかねーから。あと、【あーしちゃん】ってあーしのこと呼ぶのやめて」

 

不機嫌さを隠さずに敵意を全面にして、威嚇するように睨みつける。

だが、敵意に慣れている比企谷にそんなものは通じない。笑みも全く崩れない。

 

「『僕もあーしちゃんと喋るのは気まずいからしなくないんだけどね』『でもいいでしょ?』『僕とあーしちゃんは一緒にテニスをして競い合った仲じゃないか』『僕もあーしちゃんも必死にさ』『勝ちを狙いあったものだよ』『お互い痛い目を見たみたいだけどそれもまた青春ならではの思い出になるよね!』『ね』『あーしちゃん!!』」

 

あーしちゃんという言葉を強調して、煽るように嘲笑うように喋る比企谷。そして、比企谷が喋れば喋るほど三浦の後ろにいる由比ヶ浜のオロオロ度が加速度的に増加する。

由比ヶ浜は助けて、と仲のいい女子に目でヘルプを頼むが苦笑いで首を振られて涙目になる。戸塚がいればまだなんとかなったかもしれないが運が悪いことにいないようだ。

 

「あーーーっ!ほんっとイラってきたし!なんなの?そんなあーしとケンカしたいわけ?」

「『そんなわけないじゃないか!』『僕は負けるケンカはしないんだ』『大事な話しがあるんだよ』『いや』『頼みがあるんだよ』『三浦優美子さんに』」

 

あーしちゃん呼びからフルネームに変わっていた事で、そこは本当に真面目な所なのだと信じる三浦。

 

「……………他当たって。あーしそんな暇じゃない」

 

だが、それでも三浦は断る。第六感的な何かが面倒ごとだと囁いたのだ。まぁ、わざわざ嫌いなやつの頼みをきく理由なんは無かったっていうのが断った主な理由だが。

 

「『う〜んそっか〜』『それは残念』『実に残念だな〜』『じゃ』『ゴメンねあーしちゃん』『僕なりに頑張ってみるよ』」

「………あ、ああ。勝手にすれば?」

 

断られたことが若干嬉しそうに、あっさりと引き下がった比企谷に違和感を覚えながらもホッとする三浦。

だが、それも比企谷の次の発言で消える。

 

「『戸部、大和、大岡かー』『誰からにしよっかなー』」

 

比企谷がウキウキとしながら、いつも腐られている瞳を鈍く光らせて呟く言葉を三浦は鋭い聴覚でしっかりと聞き取った。

 

「は?」

 

サッと顔を戻して、比企谷の方を向くが比企谷は三浦にもはや何の興味も無いようで1人で考え込んでいるようだった。タラリと三浦背筋から冷や汗が流れるのを感じた。戸部、大和、大岡は葉山グループのメンバーだ。それだけならまだいい。いや良くはないが気にするほどの事じゃないだろう。だが、今は違う。3人を対象にチェーンメールは確かに三浦のところまで回ってきているのだ。だから比企谷が出した言葉を無視することは出来なかった。

 

「ちょっと、あんたこっち来い!」

 

三浦は比企谷の奥襟を引っつかんでズルズルと引きずって廊下まで連れ出す。

その光景に由比ヶ浜はもはや脱力してしまっていた。頑張って、気を使って、比企谷と三浦が陰険にならないようにしていたのに、結局こうなってしまったからだ。ずっと由比ヶ浜の隣で三浦と比企谷のやり取りを見ていた海老名姫菜は由比ヶ浜の慰めに入る。

 

 

 

一方、廊下に連れ出された比企谷はそのまま階段の影まで連れて行かれーー

 

「『なんだよー』『あーしちゃんこんな強引なー』『ま、まさか僕の貞操をー』」

 

棒読みで悲鳴を上げる比企谷を壁ドンで黙らせる。まじあーしさんイケメンと影から覗いていた野次馬達が戦慄する。

 

「何するつもりだし」

「『おいおい』『急にどうしたんだい』『もうあーしちゃんには関係ないのに』『それとも』『心変わりして僕の頼み聞いてくれるようになったの?』」

「そんなことはどうでもいい。何するつもりかだけ教えろ」

「『……………はぁ』『あー』『あーしちゃん僕の頼み聞いてくれないかなー』『聞いてくれないと最初は戸部くんかなー』『なーんか戸部くんあーしちゃんの友達の腐女子ちゃんのこと好きらしいだよなー』『あーー!』『壊し甲斐があるなー』」

 

三浦は腐っている友達に1人だけ思い当たるのがいた。何処からか手に入れた本当の情報なのかそれとも適当な嘘なのか三浦には判断できない。だが、影から見ている野次馬に聞こえないような声量だったのは素直に助かった。

 

「…………わかったし。聞くだけ聞く」

「『本当かい!?』『そんな無理しなくていいんだよ?』」

「ッ!…………無理してないし」

「『それはよかった』『無理は良くないからね』『で』『お願いなんだけど』」

「ーー!!」

 

身構える三浦。こいつがどんなお願いをしてくるのか予想も出来ない。

 

「『戸部くんと大和くんと大岡くんの人柄を教えてほしいんだ!』」

 

手を合わせて、お願い☆ミ的な頼み方をされて気が抜ける三浦。

 

「……………へ?それだけ?」

「『うん』」

「ほ、本当だし?」

「『うん』」

「それだけのためにあーしに話しかけたん?」

「『うん』『………あ、それだけじゃくて昨日知り合いと女の子とお喋りするって約束したから』」

「……………それぐらいなら……」

「『ありがとう!』『あーしちゃん!』」

 

そうして、三浦が思う人物像を教えていく。

 

「『うんうん』『葉山くんから聞いたのと殆ど変わんないなー』」

「は?なんでそこで隼人の名前が出てくんの?」

 

全部話し終えた後、相槌を打っていた比企谷はがっかりした様子で言った言葉に三浦は引っかかる。

比企谷はあちゃーみたいな顔を態とらしくしてヘラヘラと笑う。

 

「『いやいやいや』『クライアントの情報は守らないといけないのについ喋っちゃったぜ』『まぁ』『黙っててくれと頼まなかった葉山くんが悪いのであって』『僕は悪くない』『というわけで』『ペラペラと喋っていくぜ!』『じゃんじゃかじゃーん!』『なんと!』『僕は葉山隼人くんにチェーンメール解決を頼まれた探偵だったのさ!』」

 

なんだってー!という比企谷が期待返事は返って来ない。

三浦は何故?と思う。

それは葉山がチェーンメールの解決を乗り出した事ではない。それは葉山の性格的にありえることだ。解決を乗り出したことを自分に黙っていることでもない。これも葉山の性格的にありえることだ。

一番疑問に思ったのは比企谷(コレ)に頼んだ事だ。三浦は右頬の湿布を軽く触りながら考える。

もしも自分にこんな事をしたこいつじゃなきゃいけないのだとしたら、何故?それなら自分に黙っていたことが意味深な事になる。

だが三浦はすぐにウダウダとした考えを切り捨てる。全部本人に聞いてみたらいいと考えたからだ。それだけで解決する。

 

「じゃあ、隼人があんたに依頼したって認識でいいわけ?」

 

話しを聞いた三浦は脳内で考えをまとめながら、結論を出した。

 

「『うんうん』『そんな感じー』『じゃ!』『ありがとね!』『あーしちゃん!』」

 

壁ドンをされていた比企谷は、スゥーと三浦の横を華麗に抜けて教室に戻っていく。三浦に見えないように嫌らしい笑みを作りながら。

ーー先程葉山の名前を出したのは当然だがワザとだ。それもなんの意味もない。ただの嫌がらせである。嫌いだと言い合った葉山への嫌がらせだ。この程度では葉山はスルリと躱すだろうが。

 

「ヒッキー?大丈夫?」

 

比企谷が教室に戻ると、由比ヶ浜が心配そうにしていた。それは三浦に連れて行かれた事と言うよりも比企谷の様子がおかしさからだろう。

 

「『うん』『なんにもされなかったよ』」

「いや………うん。よかった」

 

何か由比ヶ浜は言おうとしたが、躊躇しているのか少し黙った後アハハと誤魔化すように笑った。

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

放課後、奉仕部の部室には比企谷、由比ヶ浜、雪ノ下、葉山、昨日と同じ4人が集まっていた。

 

「で、由比ヶ浜さんと比企谷くんは何か分かったかしら?」

「『いーや』『全然わかんなかったわー』『三浦さんに聞いたんだけどなー』」

 

ピクリとこめかみが動く葉山。いつもの笑顔も何処かぎこちない。おでこに青筋が立っている。恐らくは三浦に何か言われたのだろう。

 

「私もヒッキーが優美子と喋ってる間に海老名に聞いて見たけど、三角関係とか、葉山くん狙いとか、3人とも一歩下がってるとか、わけわかんない事言われた」

「『へー』『聞いた限りだとあながち間違いでもないんじゃない?』『まぁ』『意味が違うだろうけど』」

 

はぁー、と頭が痛そうにしている雪ノ下。葉山も呆れた様子だった。

 

「『う〜ん』『やっぱり解決は無理かな〜』『コレは』『残念だよね』」

「いいえ、そんな事もあろうかと私からも動いたわ。そして気付いたことを一つ」

「!」

 

葉山が驚いたように雪ノ下を見る。

 

「『それは?』」

「どうやら、彼らは葉山隼人くんの友達であって、各個人の友達では無いということよ」

「「!」」

「『へー』『なるほどね』」

 

由比ヶ浜は雪ノ下の言ったことが理解できたようでうんうんと頷いている。葉山は図星をつかれたというか薄々気づいていたことを言われたからかバツが悪そうな顔をしていた。

比企谷は感心そうに声を出していたが、雪ノ下に「貴方は気付いていたんじゃないの?」と言われ疑わしい目で見られる。

 

「『おいおい』『僕を評価しすぎだぜ?』『わからなかったさ』『本当に』」

「………怪しいわね。まぁ、いいわ。こんな事を気付いても動機の補強にしかならないのだけどね」

 

少し顔を暗くして雪ノ下は言う。由比ヶ浜はそんな雪ノ下を見て焦る。

 

「そんな事ない!ゆきのん凄いよ!」

「ありがとう、由比ヶ浜さん」

「『う〜ん』『そんな事はどうでもいいんだけど』『雪ノ下ちゃんは何を見て彼ら同士が仲良くないって思ったんだい?』」

「……葉山くんがいない彼らは全く話しをしなかったのよ。それを見て、だけど。何か?」

「『いや』『彼らにも彼らを貶める内容のチェーンメールは回っているだろう?』『反応的にあーしちゃんにも届いていたし葉山くんにも届いていたんだからね』『そんな状況でどんなメンタルしてたら仲良く喋れんだよ』『そりゃ』『仲悪くも見えるさ』」

「「「………………」」」

 

なるほど、と思う3人。

チェーンメールが原因で話さないだけだ、チェーンメールが出回る前は仲が良かったかもしれない、と言われても確かめる術はない。葉山も葉山がいない時の3人の様子なんて知らない。

 

「……解決はできないのかな」

「結局、本人達を問い詰めるしか無いのかしら」

「……それは………ッ」

 

重い空気が教室に乗し掛かる。だが、比企谷だけは呑気に軽口を叩く。

 

「『葉山隼人を貶すチェーンメールを流すってのはどうだい?』」

「「「はぁ?」」」

「『だからさー』『職場体験は3人組なんだからさー』『葉山くんが嫌われ者になって葉山が抜ければ丁度彼ら3人でグループが出来るじゃん?』『彼らが仲良しになれば解決ってね』」

「いや、そんなのおかし……あれ?」

「………ヒキタニくんらしい考え方だな」

「…………なるほど、犯人を罰してチェーンメールを解決するのではなくて、犯人と被害者を和解させて解決するって事ね」

 

由比ヶ浜はすぐさま否定しようとするが、何かが引っかかって首を傾げる。

葉山は微妙そうな納得が出来なそうな顔をしつつも否定はしなかった。

雪ノ下はよく思いつくなこいつはとゴミを見るような目をしていた。

 

「でも比企谷くん。チェーンメールを解決するためにチェーンメールを回すのはまずいでしょう。別に葉山くんが彼らと職場体験の班を組まないって言えば良いだけじゃないかしら?」

「『おいおい』『僕だって頑張ったんだから何かご褒美があってもいいと思うぜ?』『僕が一番気持ち良いやり方で解決させてくれない?』」

「貴方、ご褒美なら由比ヶ浜さんのパンツの色聞いたでしょう」

「ああ!ゆきのん!忘れてたのに思い出させないで!」

 

頭を抱えて、わーわーと必死にわすれようとする由比ヶ浜。行動がバカっぽいなぁ、と比企谷は思う。

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「礼は言わないよ。ヒキタニくん」

 

チェーンメールは無事解決した。戸部、大和、大岡の3人は同じ職場に職場体験しに行く事が決まり、今も俺たち友達だぜ的なオーラを出しながら喋っている。

 

「『べっつに良いよ』『それにしても彼ら凄いね』『あの中の誰かが犯人なのに仲良さそうに喋れるなんて』『犯人だって後ろ暗いだろうし』『被害者も疑心暗鬼になるもんじゃないの?』『普通はね』」

「あはは、君が普通を語るなんてね。まぁ解決してしまえばこんなものだよ。もしかしたら彼らは今も疑心暗鬼になって嫌いあってるかもしれない。でも、ああやって例え表面上でも仲良くしてたらいつの間にか本当に仲良くなってるものさ。人間関係なんて、ね」

 

葉山は彼らを見ながら、笑みを作る。

 

「あ!そうだ!忘れてた、ヒキタニくん僕と同じ班になってくれないか?」

「『あれ?』『僕と君は嫌い合ってるだろ?』」

 

その言葉に葉山は更に笑みを深める。

 

「だからこそ、だよ。いつか仲良くなれるかもしれないだろ?彼らみたいにさ」

「『…………』『葉山ちゃんさ』『本当に根っからのいい奴(プラス)だよね』」

「はは、そうかな?」

「『三浦さんに君の名前を出したのは今も僕は悪くないと思ってるよ』『だけど』『………………』『意地が悪かったかな』『まぁ』『それでも』『謝らないぜ』」

「!!……………………うん、君は根っからの悪い奴(マイナス)だな。だから僕も君にお礼は言わない。それでいいんじゃないか?」

「『さぁ?』『どうだろうね』」

 

そうして、お互い黙る。教室は葉山と比企谷が喋っていることで若干騒ついていたが、葉山が笑いながら話していることでそれもおさまっていた。今はクラス中職場体験のグループ分けの話しで握わっている。

とある女子だけは比企谷と葉山のやり取りで鼻血を垂らしているが。

 

「はーちまん!」

「『あ』『戸塚ちゃんじゃないか』『どうしたんだい?』『そんな顔して』」

 

戸塚がプリプリと怒ったような顔でやってくる。

 

「八幡!僕と一緒に行ってくれないの!?」

 

ブハッと教室の何処かで鼻血を吹く音がした。と、同時にあーしちゃんの呆れたような声も聞こえる。

 

「『いいけど?』『けど前に一緒に行く人もう決まってるって言ってなかったっけ?』」

「だから、それ八幡のこと!八幡と一緒に行きたかったの!」

 

またもや、鼻血の吹く音が……。あーしちゃんのポケットティッシュが無くならないか心配になってくる。

 

「『なーんか』『僕らしくなく慣れあってるなぁ』」

 

比企谷はこの後の奉仕部の事を考えながら、まだ不機嫌が続いている戸塚の横顔を見ていた。

 




この話を書くのに飽きてふと片手間で書いた比企谷の中学時代の話「グッドルーザー比企谷」が1万字を超えてて笑った。まぁ、すぐ消しましたけど。
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