【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉   作:生徒会副長

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⑨祭りのオワリ

 

 

 

 

 ヤチヨやかぐやちゃん、いろPを讃える大歓声がライブ会場に響いている中。それでも私の言葉、愛のプロポーズは、マシュの耳にはっきり届いたようだ。

 マシュの顔が茹でダコのように見る見る赤く染まっていく。やっぱり可愛いな、うん……。ツクヨミの壮大な夜景すら、今は彼女という唯一の輝きを際立たせるための背景に過ぎないのだ。

 

「えっっ!? け、結婚!? いやっ、あの……先輩!? 急にどうしたんですか!?」

 

 ライブ会場の喧騒は聞こえず、マシュの声だけがはっきり私の耳に入る。まるで宇宙に二人きりでいるかのようだった。

 銀河を遊び場にするように、私はいつものお気軽な感じで思いの内を曝け出す。

 

「いやこんなのね? 落ち着いて時と場所を選んで言うべきっていうのは分かるよ? でもさ! だってだってだってさぁ!! あーーんな凄いライブ観ちゃったら、一人のお姫様としてもう我慢したくないんだもん! それに、マシュっていうお姫様を世界一幸せにしなきゃ気が済まないんだもん! それとも何さ!? 今さら私たち最強コンビの前に、私たちを超える王子様が現れるとでも思うワケ!?」

「そ、そうは思いませんが……」

 

 愛しさ余って半ギレになりつつ、私はマシュに畳み掛けた。

 ライブの途中、ヤチヨが『世界一好きになっちゃってもいいよーーーー!!』と叫んでいたが、あいにく私にとって世界一のお姫様はマシュ・キリエライトだ。そしてマシュにとっての世界一も藤丸立香であって欲しいと願わずにはいられない。もう我慢できない。私のお嫁さんはマシュ以外あり得ないし、私はマシュ以外のお嫁さんになんかならない!

 いや、まぁ? 私とマシュが結婚するなら大きな問題が一つあるのは知ってるけどね……?

 

「せ、先輩? あのですね? 日本の法律上、私たちは結婚が出来ないのですが……」

 

 はい、そうなんだよね。オランダは同性婚ができるとか聞いたことあるけど、日本はまだなんだよね。こればっかりは法律とか政治とか宗教との兼ね合いもあるので十年やそこらではなかなか……。

 なので──。

 

「まー法的な問題は置いといてさ。結婚式をやるのはどう?」

「けけけ……結婚、式……ですか……!?」

 

 狼狽えるマシュの顔や潤んだ瞳は、余りにも恋する乙女だ。いとかわゆし。しかしあいにく私は乙女なマシュだけでは満足しない!

 

「ウェディングドレスを着たマシュを、タキシードを着た私がエスコートするのはマストとして……。その後は、ウェディングドレスを着た私を、タキシードのマシュがエスコートしてね♡ それか和風のほうが良いかなぁ?」

 

 鎧着て盾を構えてるときのマシュって、かっこいいんだよね……。まさに世界で私だけの王子様。無論私の男装は演劇部で慣れているので全く問題ない。何なら大学時代、私と一緒に演劇部に所属していたマシュも男装やったことあるしね。

 

「……タキシード2着とウェディングドレス2着に結婚式場となると、とんでもない予算になりそうです……。藤丸ベーカリー2号店の予算も使えば、足りるかもしれませんが……」

「大丈夫だよ、マシュ」

 

 色々口走りながら、予算という問題も解決する奇策を、私は既に考えていた。

 

「ツクヨミでやればいいんじゃない? 現実でそれを生業にしてる人たちには悪いけど、ドレスの布代とか縫製代とか物流コストがかからないんだから、かなり安くできるでしょ」

 

 私は友人が多く、中には大金持ちの人もいる。ある友人は玉の輿婚を決めた女の子で、彼女は現実(リアル)とツクヨミで2回結婚式をやったのだ。「片方だけ来てくれてもいいし欠席ならそれはそれでいい」とのことで、私はツクヨミの方だけ参列した。現実の式場が若干遠かったし。

 そしてそれは、もう本当に素晴らしい式だった。

 おとぎ話でシンデレラが着替えるシーンのように、花嫁のお色直しは素早く華麗に、なんと3回も行っていた。

 式場はツクヨミが持つ機能をフル活用し、宝石のように輝く魚が泳いで踊り、バベルの塔もかくやと言いたくなるウェディングケーキが飾られていた(ツクヨミでは味覚を再現できないので味のしないケーキだが)。また、新郎新婦を祝う友人は私含め世界中から集まっており、新たな門出を祝う歌はツクヨミの立体音響と光の演出によって現実以上の華やかさを帯びていた。

 あそこまで贅沢に……とは言わないけれど、私とマシュが1回ずつお色直しをして、花嫁役と花婿役を交代する結婚式ぐらいは、リーズナブルな価格でできるだろう、ツクヨミなら。

 

「うちの両親はマシュのこと気に入ってるから、スマコンさえ用意できれば参列してくれるよ。マシュが育ったイギリスの名家──アニムスフィア家……だっけ? そこの人たちも、スマコンさえ用意できれば参列してくれるんじゃない? わざわざ飛行機に乗ってイギリスから来るよりは楽でしょ」

「……アニムスフィア家のことは一旦置いておくとして……」

 

 箱をどかすジェスチャーをして、マシュはアニムスフィア家の話題を避けた。

 

(そういえばアニムスフィア家のこととか、2015年より前のマシュのこと、私あんまり詳しく知らないんだよね……)

 

 割とどうでも良かったし、マシュがあまり詳しく話そうとしないから。

 知っていることといえば、アニムスフィア家が凄いお金持ちで、マシュが日本で生きていくことも『独立』として認めてくれたこと。あと、マシュはアニムスフィア家の人間ではあるけど、その血筋からは外れた存在であることぐらい。歴史上とかファンタジー小説だと『妾の子』とかが近そうだけど、本当にそうだとしたらますます深掘りしづらくて聞けていないのだ。まぁ聞かなくても仲良く出来てるから別にいいんだけど。

 マシュがたどたどしく、口を開いた。

 

「……私も先輩の花嫁姿は見たい、ですし……私の花嫁姿は、先輩に見て、欲しいです……。ヴァージン・ロードを歩くなら、やっぱり……。先輩と手を、握りたい、です……。なので……その……」

 

 もう答えは見えたけれど、マシュの口から、マシュの声で答えを聞きたくて、私は待つ。

 何時間にも思えたごく数秒の愛おしい時間を経て、マシュは言ってくれた。

 

「結婚式っ! やりましょう! ……不束者ですが、よろしくお願いします……」

「ぃやっっっったーーーー!!」

 

 可愛い可愛い、大好きなマシュに、私はつい抱きついてしまう。ツクヨミでも現実でも。ツクヨミは触覚や嗅覚を再現できないが、現実にいるマシュの制汗剤の香り、マシュのサラサラとした髪の感触が、私には知覚できた。

 

「マシュ……」

 

 アメジストのようなマシュの瞳が、祭りが終わって灯りが落ちつつあるライブ会場の闇の中で煌めいている。

 それを独り占めしたくて、私はマシュに顔を近付けていく。

 無論、唇まで奪うつもりで──。

 

「先輩……」

 

 マシュも私を受け入れるつもりで、幸せそうに顔を近付けてくる──。

 

 ────はずだった。

 

「…………うっ!?」

 

 突然、視界が切り替わった。ハッピーエンドの本を読んでいたときに、突然ページを差し替えられたかのような唐突さと強烈な違和感だ。

 私の視界を占めていたのは、不気味で、無機質な満月の画像だった。

 日常の中で見上げる満月は、もっと暖かいものだと思う。地上を見守ってくれている神秘の力や、月で餅つきをする兎の可愛らしさに思いを馳せることができる。

 だけど、いま私の目の前に広がる月は違う。 ただ空虚な機構としてそこに存在しているだけ──そんな風に感じてしまう。

 

(……ってか。なに? これ? スマコンのバグ?)

 

 だいたい私の目の前には可愛い可愛いマシュ・キリエライトがいるのに、なんで私のスマコンは、こんな無機質で不気味な月を映し出すんだ?

 そんなことを思っていると、やっと私の目の前は正常な視界を取り戻した。しかし、マシュの顔は幸せに満ちてなどいない。

 混乱、戸惑い、疑問。そういった感情が、マシュの心と表情を支配していた。そしてきっと、私も同じ顔をしている。

 

「……ごめんっ。マシュ。なんかスマコンがバグったみたいで……」

 

 ぎこちなく私が謝ると、

 

「……いえ。私のスマコンも、突然おかしな数字を視界いっぱいに表示しましたから」

 

 マシュはそう教えてくれる。

 ん? タイミングは全く同じだったみたいなのに、私とマシュで見たものが違う……?

 

「……マシュ? 私のスマコンが映したのは、巨大で不気味な満月の画像だったよ。マシュのスマコンが映した数字って、何か意味がありそうな数字だった?」

 

 マシュは不安そうに数秒考えてから答えた。

 

「……あの数字に意味があるとすれば、日付ではないかと思います。普通に考えれば、ですが」

「日付?」

「2030年9月12日……と考えるのが普通ではないでしょうか。2030/09/12という数字は」

 

 うん? 2030年9月12日?

 今日は2030年8月30日だ。13日後が、何だというのか。

 何かのイベントか。或いは何者かの犯行声明か。

 気づけば違和感と疑問と混乱は、私とマシュだけのものではなくなっていた。

 例えば、私と同じように突然謎の満月を見た人がいる。

 

「今の満月なに?」

「ツクヨミのモニターにも同じものが映し出されたらしいぜ……」

 

 マシュと同じように、2030/09/12という謎の数字を見た人がいる。

 

「9月12日ってなんかイベントあったっけ?」

「確か新作の映画が……」

「それ13日だしツクヨミ関係なくない?」

 

 実害を及ぼす謎も生まれつつある。ある電話の声が私の耳に聞こえた。

 

「もしもし? なんで突然ログアウトしたんだ? はぁ? Wi-Fiが切れたァ? お前それライブ終わった後で良かったな……。はぁ? ログインし直せないって何言ってんだよ?」

 

 次々に生まれる謎は、やがて意思を持ち、(アバター)を得て、ツクヨミの中を闊歩し始めて──。

 

「え? 何アレ!?」

「やっぱこれイベントか!? にしちゃあ悪趣味な……」

 

 そんな誰かの声を聞いた私とマシュは、空を見上げる。すると、提灯の下に真っ白な身体を生やした謎の存在が、空へ浮かびあがり、ライブステージを目指していた。目指すと言っても、熱烈なファンや焔に誘われる虫のような生気はなく、ターゲットを捕捉したドローンのような規則正しさで……。

 やはり私が見た謎の満月と同様、温もりや神秘を感じられない。冷たくて無機質で空っぽ……そんな印象を受ける。

 そんなことよりもだ。

 

「マシュッッ!!」

「はいッッ!!」

 

 頼もしい後輩に声を掛けつつ、私は二本の刀を装着していた。マシュも同じく、いつもKASSENで使っている巨大盾を構えている。お互い、戦いのスイッチが入っていた。

 

「私が跳ぶ! 足場お願い!」

「了解です! マスター!!」

 

 あの“謎”たちの狙いが、もしもかぐやちゃんや彩葉ちゃんだとしたら……止めないと。

 アレが危険なものではなく何かのイベントだとしたら、私がいまやろうとしていることはアドリブの範囲で許されるはずだ。

 盾を頭上に構えてしゃがんだマシュを飛び越す勢いで、私はジャンプする。

 マシュはそんな私の足裏に向けて、低く沈めていた重心を一気に跳ね上げ、盾を振り上げる。腕だけでなく、脚で地面を蹴り、腰の回転も加え──マシュの全身と盾が、対象を弾き飛ばす武器となる。

 盾系の初級スキル『シールドバッシュ』。本来は敵や飛び道具を弾き飛ばす技だけど、味方に対して使うこともできる。

 

(こんな風に……ねっ!!)

 

 盾と私の足裏がぶつかる刹那、その衝突で運動エネルギーが生じる直前、私は盾を足場に軽く膝を曲げ、次の瞬間、自らの跳躍力を解き放つ。

 私の跳躍力とマシュのシールドバッシュが合算され、私は重力に逆らって空を鋭く突き抜ける速さを得た。

 

「止まれっ!!」

 

 私が警告した相手は、空を泳ぐ謎の人型のうちの1体だ。会場内に似た存在が10体以上浮遊しているけれど、私は私に出来ることをするだけだ。

 私が肉薄してもそいつはまるで意に介そうとしなかった。故に──。

 

「止まれって……言ってるでしょ!!」

 

 二本の刀を抜き払うと同時に、私はそいつに斬撃を繰り出した。二刀でそいつの右足を十文字斬りにする。勢いそのまま、返す二刀でそいつの左足をギロチンの如く無慈悲に斬り落とす。

 結果として、そいつは止まった。穴の開いた気球のように落下していき、ライブステージを目指す飛翔は終わりを告げる。だが、無感情な存在に無慈悲な斬撃を繰り出しても、あまり意味はなかったようだ……。

 

「うわっ……。なに、これ……」

 

 私が斬ったそいつの両太腿からは、黒い泥とも油ともつかないものが噴き出した。その様子を、先に重力に吸い寄せられている私は見つめていた。

 

(やっぱりおかしい……)

 

 ツクヨミで消滅するNPCやプレイヤーやオブジェクトの九割九分は、桜の花びらが散るようなエフェクトと共に消え去る。だがこの虚無の闇はなんだ? そもそもコイツはまだ消える気配がない。痛みや苦しみを感じる様子もなく、ただ“足を斬られた”という結果だけを黙々と受け入れ、そこには感情の起伏や前後の過程といった“中身”がまるで感じられない。

 そうこう考えている内に、地面が刻一刻と迫っていた。ツクヨミにおける落下ダメージなんて現実に比べれば無に等しいけど、それでも私の着地点に彼女がいることは嬉しかった。

 

「マスター! 受け止めます!」

「うん! マシュ、着地任せた!」

 

 空から落ちた私は、マシュの腕にしっかり抱え込まれた。いわゆるお姫様だっこだ。甲冑を着たかっこいいマシュにお姫様だっこされるのは、女の子として嬉しい。

 流石は私とマシュ。あの謎の存在にキスを邪魔されても、ただでは転ばない!

 私がマシュに見惚れていると、ヤチヨのメッセージが会場全体、ひいてはツクヨミ全体に響き渡った。

 

「今のはいったい!? 何が起こってしまうんだーー!? 続報を待て!!」

 

 辺りを見渡すと、あの提灯のような姿をした『何か』は、もう一体もいなかった。私が斬撃を繰り出したり自由落下したりしている間に消えてしまったようだ。

 そして、人々の心からも。

 

「え? なに? ヤチヨの演出だったの?」

「ヤチヨって、こーゆーの好きだもんなぁ」

「9月12日になんかやるのかなぁ」

 

 人間とはどうしても、答えや正解や中身が欲しくなってしまう生き物だ。

 先ほどまで会場の空気を支配していた謎は、ヤチヨの言葉で仮にせよ嘘にせよ回答を与えられたことで、その恐ろしさが消えていったようだ。

 

「みんなー! 今日は本当にありがとう〜! さらばーい!」

 

 幕は下ろされ、客席とステージは遮られてしまう。

 

 ──こうして、ヤチヨとかぐやちゃんといろPのコラボライブは、無事に平和に終わりましたとさ。めでたしめでたし……。

 

(……な、訳がない)

 

 理由までは分からないけれど、ヤチヨは嘘をついている。私の直感がそう告げている。あの謎の存在達は、演出だとかNPCだとかじゃない。

 私とマシュは顔を見合わせて頷き合う。

 『ただ同じパン屋さんで苦楽を共にしただけ』という、人生全体からすれば取るに足りない、些細な切っ掛けにすぎなくとも。

 彩葉ちゃんの前にあの謎のような──大きく重い何かが立ちはだかるというのなら、私は私に出来ることをしよう。そっと背中を押すだけか、肩を並べる共犯者や共演者となるか、手を差し伸べることになるかまでは、まだ分からないけれど。

 決意と共に握り締めた拳には、夏の熱い汗の感触が滲んだのだった……。

 

 




【あとがき】

旧プロット(藤丸が記憶取り戻さないルート)では出す予定のなかった「アニムスフィア家」という単語……!

これはいったい!? 何が起こってしまうんだーー!? 続報を待て!!

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