【超かぐや姫×FGO】パン屋のぐだ子とバイトの彩葉 作:生徒会副長
「彩葉ちゃんに彼氏ができたぁ!?」
「声がデカいですよっ!」
2029年6月下旬の夜。パン屋藤丸ベーカリーの従業員が退勤するまでの、わずかなお喋りタイムにて。
働き始めてわずか2ヶ月半程度で圧倒的なスペックの高さを見せつけてくれた、頼れる女子高生アルバイト──酒寄彩葉ちゃんと、店長の私・藤丸立香は、こんな感じで恋バナが出来るほど仲を深めていた。オーバーリアクションな私に対してちょっと困った顔を見せる彩葉ちゃんだが、これぐらいなら彩葉ちゃんにとって丁度いい“感情のガス抜き”だ。
いや、まぁ? ガードが堅い子でしたよ、彩葉ちゃんは。
彼女は、きっちりメモを取って仕事を覚えて、一を知れば十や百を知る。初歩的な計算ミスや数え間違い・聞き間違えは絶対せず、マルチタスクも軽々とこなす。マルチタスクをやらせるとすぐ固まる私の古いノートパソコンに彩葉ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだ。そして中間テスト期間になっても休まずバイトのシフトに入り続け、むしろ他のアルバイトが空けたシフトの穴を埋めてくれるという救世主っぷり。
そんな感じの完璧美少女彩葉ちゃんを相手に「ミスをフォローして絆を深める」という定石は使えなかった。しかし彼女、スペックの高さに反して意外と褒められ慣れておらず、『自我』というものがやや希薄だった。その辺りの心のスキマ、完璧美少女を演じる仮面の裏側をうまく覗き込んだ結果──今のような大変良好な関係に至るというワケだ。
そしてついでに、藤丸ベーカリー副店長で私の相棒マシュ・キリエライトも、彩葉ちゃんとは良好な関係にある。まぁ私と違って、マシュと彩葉ちゃんは類似性バイアスというか類は友を呼ぶというか……そんな感じに見えるかな。
そんなマシュが、彩葉ちゃんに穏やかな笑顔で尋ねた。
「おめでとうございます、彩葉さん。お相手はどんな方なんですか?」
「そう! まさにそれだよ、マシュ!」
つい私は唸りながら、マシュに同意してしまう。
京風美人の血を引く、くっきりとしたお目々に漆のように艷やかな黒髪。小さめで整ったお人形さんみたいな鼻や口元。アクセントの泣き黒子もとってもチャーミング。
こんなかわいいかわいい彩葉ちゃんを口説き落とした野郎・オブ・クラッシャーは何処の殿方なのか?
彩葉ちゃんが答えてくれた。
「同じクラスにいる、吹奏楽部の男の子です。その子もヤチヨのことが好きで、せっかく高校生になったんだから恋の一つぐらいしたい……って言って」
「なるほど。ロマンがある考え方で良いですね」
「フォーウ! いいねぇ! なんでOKしたの!?」
武蔵川高校といえば、日本屈指の名門高校だ。私の中学の同級生で一番成績が良かった子がここを受験したが、落ちて滑り止めの私立高校で妥協したぐらい。愛の告白など、断ろうと思えば『勉強第一で恋愛なんてしてる暇はない』のひと言で断れたはずだ。しかし、
「真のエリートは遊びも疎かにしないはずです。将来結婚などの人生設計を考えるなら、男性経験も必要かと思いまして」
「おおぅ……。今回はお母さん語録がプラスに働いたか……」
たびたび『慣用句か? それとも四書五経からの引用か?』とツッコミたくなる滑らかさで彩葉ちゃんの口から飛び出す正論の拳。それが『お母さん語録』だ。私が彩葉ちゃんとここまで仲良くなるまでも、コレとの付き合い方には中々苦労させられたものである。
いや、正しくはあるんだけどね? でも正しさを演じるだけじゃ息苦しくなって、たまには楽屋裏で愚痴ぐらい吐きたくなる程度には凡人なのでね? 私は。
果たしてお母さん語録という『正しさ』に従って始まった恋が彩葉ちゃんの幸せに繋がっているかどうか、気になるところだ。
「まーハジマリがどうであれ、楽しそうでいいじゃん! あと1ヶ月ぐらいで夏休みでしょ? 海で泳いだりとかー、カラオケで一緒に踊ったりとかー、花火を見に行ったりとかー、パピコを半分こしたりとか! 一緒に同人誌作るのもいいねぇ!」
私の脳内ではめくるめく夏の青春模様が展開される。その青春の主人公は彩葉ちゃんか、或いは──。
「いや流石に同人誌を作るのはナシ寄りのナシですよ……。藤丸店長はやったことあるんですか?」
「マシュとやったよ? ねー?」
向日葵のような笑顔を向けて、私はマシュに同意を求めた。
「流石にこのお店の開業を本気で目指し始めてからはやってませんよ。高校時代や大学時代の夏休みでの話です。どの夏も楽しい思い出ばかりですよね、先輩」
「ホントホント。夏は私もマシュもつい羽目を外しちゃうんだよね」
2015年の夏、私は東京に観光へ来ていたマシュと出会った。
その後マシュはアニムスフィア家(?)という自分を育ててくれた家と交渉し、私ですら驚くような行動力で東京に移住した。東京に移住して以降のマシュとは、一緒によく学びよく遊んだものである。高校は別だったけれど、好きな人とパン屋さんを開くという同じ夢を見ていたし、2015年の夏が初対面とは思えないほど呼吸が合ったから。
「彩葉ちゃんも、好きな人とそんな素敵な夏を過ごせるといいね!」
私はそんな希望を口にした。しかし、
「さぁ……。どうでしょうね……?」
彩葉ちゃんの笑みはぎこちなく、その言葉には淀みがあった。
そしてその日の晩は、じっとりと湿度が高く、寝苦しい夜であった──。
──※──
果たしてその1ヶ月後。
「彩葉ちゃんと彼氏くん、別れちゃったの!?」
「声が大きいですよ……」
2029年7月下旬の夜。パン屋藤丸ベーカリーの従業員が退勤するまでの、わずかなお喋りタイムにて。
淡々と衝撃の事実を明かす彩葉ちゃんに対して、私とマシュは目を見開き、口をパクパクさせていた。
「えっ……。その……。なんで別れてしまったんですか……?」
「そう! まさにそれだよ、マシュ!」
つい私は唸りながら、マシュに同意してしまう。
これから夏休みなのに!
1ヶ月前、私の脳内で展開されていためくるめく夏の青春模様は何処に消えた!? 焼却にせよ白紙化にせよ誰が犯人なんだ!?
「お互いの同意と言いますか、価値観の相違と言いますか」
「花の高校生カップルが、そんな芸能人の離婚会見みたいな理由で破局するものなんですか……?」
チラリとアイコンタクトで尋ねてくるマシュに対し、私は首を横に振って否定する。私は友達が多いほうだけどそんな高校生カップルは聞いたことないぞ。
後学の為にも、もうちょっと詳しく聞きたいところだ。
「で、デートって行ったの……?」
平然と、彩葉ちゃんが答える。
「あー。初デートでカラオケは行きましたよ。ヤチヨの曲を彼氏が歌ったんですけど、あんまり上手くなかったですね。なので同じ曲を私が歌い返したら彼氏より10点高い点数取れました」
「……へぇ」
カラオケってそういう遊びだったっけ? 私は気の抜けた返事しかできなかった。
つーか彼氏くん、吹奏楽部所属って言ってなかった? じゃあ多分、平均よりは音楽的なセンスは高いよね。
なんで初デートで彼氏のプライドをへし折りに行ってるのこの子。月見ヤチヨっていう彩葉ちゃんの数少ない地雷を踏んだせいか?
「ほ、他に一緒にやったことは……」
おそるおそる、マシュが尋ねた。
「ツクヨミのKASSENで一緒に出陣したんですけど、あんまり上手くなかったですね。友達の芦花や真実、藤丸店長やマシュさんの方がよっぽど上手いですよ。あぁ、もちろんこんなことは本人の前では言ってませんよ」
「……そっか」
「……そうですか」
いや、そうだとしてもね?
さては彩葉ちゃん、彼氏の面目とかプライドとか楽しみとか考えずに、本気で勝ちに行ったな? まぁそうだよね、お母さん語録に『どうせ目指すなら一番でなければならない』ってヤツあったもんね。
彼氏くんかわいそうに。彩葉ちゃんにカッコいいところ見せたり、彩葉ちゃんと一緒にボス倒したりしたかっただろうなぁ。
ちなみに彩葉ちゃんが私とマシュの実力を知っているのは、私とマシュが『ぐだぐだチャンネル』という動画チャンネルをツクヨミで運営しているからである。主なのはお店の宣伝であって、ゲーム配信は稀だが。
「それにしても、夏休みが始まる前にお別れしたんですね」
「そうだよね。夏休みに挽回って可能性もあったかもしれないのにね」
私とマシュがそう言う一方、彩葉ちゃんは首を振る。
「運命共同体として、夏休みの予定と1学期の成績を一緒に確認しようとしたら、みるみる彼氏の顔が青ざめて、予定の折り合いもつかなくて、『もう別れよう』って話になりました」
「……」
パチパチと瞬きしながら、私はマシュと顔を見合わせる。
私とマシュも相当な運命共同体なのだけど……運命共同体同士が夏休みの予定を話し合った結果“顔が青ざめる”ってヤバくない? 私とマシュが夏休みの予定を話し合ったときとか、楽しくてしょうがなかったんだけど?
そういえば1学期の成績がどうとか言ってたな。
「彩葉ちゃん、ちなみに1学期の成績ってどうだった? あぁ、答えづらいなら答えなくていいよ?」
彩葉ちゃんは「うーん」と唸る。
あら、ちょっと悪かったのかな? 本人がやる気満々だからって、バイトのシフト入れすぎたかな……?
しかし……。
「1学期の期末テストで、現代文だけ98点だったんです……。あの2点のミスさえなければ……。いや、たらればの話をするのは甘えですね。同じ過ちを繰り返さないようにしないと」
ウッソでしょ彩葉ちゃん。
いや、そんな、まさか。
「彩葉さん、現代文以外の点数って……」
「100点です」
「すっっ…………」
すっっご過ぎぃーー!! バケモンかこの子ーー!!
私だけでなく、マシュも目を点にしている。
ちなみに私は人より歴史は好きな方だし詳しい方だけど、それでも世界史だの日本史だのの最高点って92点なんだがーー!?
そして彼氏くんの顔が青ざめたのも納得だ。こんな完璧超人と夏休みの予定を組むのが、どれほどのプレッシャーになるか、どれほどの劣等感を味わうことになるか。
よほど揺るぎない、確固たる『自分』というものがなければ、彩葉ちゃん──或いは、彩葉ちゃんお母さんが授けた『正しさ』の前に、押し潰されてしまうことになるだろう。そんなものに耐えられる高校生が、果たして世に何人いるか。どちらかといえば一緒に『正しさ』を演じる高校生を探す方が簡単そうだ。
想像するだけで疲れてしまい、私は「はぁ……」と溜息をつく。
「パピコを半分こする前に、彩葉ちゃんの彼氏くんは溶けて消えちゃったんだね……」
端から話を聞いているだけだったけど、なんとも儚く空虚な恋だった。いやもはや恋とすら呼べるか怪しいな。
すると彩葉ちゃんは、ほんのかすかな笑顔を浮かべて言った。
「パピコの半分こなら、芦花や真美とでも出来ますよ」
「……ウン。ソウダネ。絶対今年の夏は、芦花ちゃんなり真実ちゃんなりとパピコ半分こするんだよ?」
彩葉ちゃんに『正しさ』を超える夏を教えるのは、私やマシュや元・彼氏くんには無理だ。
その役目は、彩葉ちゃんの友達だという芦花ちゃんや真実ちゃんに任せよう。
(……あるいは)
正しさとかお母さん語録とか。運命とかシナリオとか。
そういうのをぶっちぎって、彩葉ちゃんに本当の楽しさや幸せを教えてくれる人。
私の目に映るマシュのように、『正しさ』を超える力や善性を引き出してくれる、放っておけない愛しい人。
マシュの目に映る私のように、確固たる『自分』を持っていて、未来へ連れて行ってくれる人。
(そういう子が、彩葉ちゃんの前に現れてくれたら……いいんだけどね……)
とりあえずその後、彩葉ちゃんが退勤した後、私とマシュは──。
夏の夜風に心地よい暑さを感じながら、二人一緒にコンビニまで散歩して、二人でパピコを半分こして食べたのだった。
【あとがき】
今週忙しくて書き溜めがあまりできなかったんですが、およそ2時間かけて即興で4900字の前日譚(番外編)を書きました。
来週は本編進めますね。
パピコを半分こする いろかぐ、いろろか、いろヤチは私以外の誰かが書いてください……。
感想や評価お待ちしております。